視界いっぱいに広がる灼熱の世界。シュレイド城を焦土に変える程の蒼い爆風。
飛翔したミラボレアスの吐き出す爆炎は、筆舌に尽くし難い威力を持っていた。
「くそっ!」
全力で退避しながら、私――――――ビスカ・メルホアールは思わず悪態を吐く。
だって、文句を言わずにはいられない。リオレウスの火炎放射やバゼルギウスの絨毯爆撃とは次元が違う。狩場全てを覆い尽くす焔なんて、リオレウス希少種やテオ・テスカトルだって無理だっての!
ともかく、早く物陰に身を隠して、炎を遣り過ごさなければ……!
「くそぉっ!」
「なっ……!?」
あ、間に合わないと見たエイデンが、ノアを押し退けて炎の海に消えちゃった。泣かせるじゃないの。
いや、他人に構ってる場合か。このままだと私たちまで同じ運命を辿っちゃうから!
……こうなったら、
「「「えい」」」
「ゑ!?」
私とアリス(ヴリア)、アルメリアは、誰よりも先を行くベッキーを捕まえると、迫り来る炎に向かって構えた。私が傘と盾を広げ、アリスとアルメリアがベッキーを横に持つ形だ。これぞ文字通りの肉壁である。
「あぶりがぼだびにぶへぶきぬみすごらりあもえぬりあかんもうだめちまんそこそこでいやん……へもはぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!」
殆ど無防備の状態で炎の渦に晒されたベッキーは、思ったよりも耐えた後、汚い花火になって消滅した。
「「「よし、乗り切ったな!」」」
「おい、仲間じゃないのかよっ!?」
「「「全然」」」
ノアが心底驚いてるけど、そんなの知らんなぁ。そもそも、こんな奴は仲間でも何でもないし。元々殺す予定の犯罪者なんだから、私たちの役に立てて感謝するべきでしょ。
「それよりほら、エイデンまだくたばってないよ?」
「言い方! ああ、もう良いよ!」
追及されるのも面倒なので、何か瀕死で生き延びたエイデンにノアの注意を向かわせる。大切にしてやれよ、仲間だろ?
「大丈夫ですか!?」
「エイデン!」
おっと、キャンプからウケツケジョーとリアが翼竜に捕まって飛んで来たぞ?
「……えっと、他に何かあったの?」
「いや、それより報告があるんじゃないのか?」
リアが訝し気に私たちとノアを交互に見ているが、ノアに促されて止めた。そうだよ、裏方がわざわざ狩場に出て来たんだから、よっぽど大事な報告なんでしょうね?
「連絡2点!
1つ! 移動式連射バリスタ、防護壁、撃龍槍、使用可能! 時が来たら、上手く利用して下さい!
1つ! 討伐本隊到着! 援護に入ります!」
「ははは……っ!」
ウケツケジョーの齎した吉報に、皆思わず笑みが零れる。
「この人は任せて……!」
「今、ここに居る存在は現実です! 現実である以上、必ず討伐出来ます!」
それから、ウケツケジョーとリアはエイデンを抱え、翼竜で撤退して行った。
「王国騎士団、援護に入る!」
「うふふふっ、これは良い狩場ね!」
「初陣がこれはキツいでしょ!?」
「頑張るっスよ~!」
「………………」
「!」
「ドハハハハ! 久し振りに暴れるかぁ!」
「バハハハハ! 殺ったろうぜぇ兄弟ぃ!」
さらに、ヒンメルン山脈の向こうにある王国の騎士団や、ドンドルマに雇われた凄腕のハンターたちが、次々と援護に駆け付ける。まさに、ここからが本番って感じだ。
『ギャヴォォオオオオオオオオッ!』
まぁ、それはミラボレアスも同じようだが。折角、邪魔者を排除したと思ったのに、増援が湧いて出て来たんだからね。すっかりと逆鱗に触れてしまい、ミラボレアスの身体が紅に染まる。灼熱の溶岩が全身に血走っているかのようである。
あれが、ミラボレアスの怒りの姿か。
◆『分類及び種族名称:究極完全生命体=ミラバルカン』
◆『弱点:不明』
だが、私たちに「撤退」の二文字は無い。
さぁ、一狩り行こうぜ!
◆ミラバルカン
ミラボレアスの怒れる姿。断片的な資料によれば、獄炎の大地に降り立ち、世界に終末の時を齎す存在として語られ、その怒りは大地を震わせ、天をも焦がし、世の空を緋色に染め上げると言われている。
しかし、たった一例だけ、それすらも上回る存在が居るという伝説が残っているらしい……。