「・・・何やってんだ、あの人」
俺、
東京でヒッチハイクしてきた女子高生とその保護者の女性を乗せてはるばる東北まで来たと思ったら、しゃべる猫に驚いてわき見運転をした挙句に土手下に転落。その女の子、すずめちゃんと保護者の
後に残された俺は仕方ないので
適当に宿を探しても良かったが、やっぱあの二人は気になった。ましてやすずめちゃんは俺の友人の
基礎だけが残された家の数々。
その光景を知っていた。多分俺と同年代以上の日本人なら、誰もがそうであるだろう。
「まさか・・・・・・そうか、闇が深ぇワケだ」
ここがすずめちゃんの故郷だと言っていた。そして保護者の環さんは母親ではなく叔母に当たる存在であると。それが示すのは今から12年前に起きた未曽有の大災害、その爪痕とそれが残した悲劇を雄弁に物語っていた。
「震災孤児、か。どうりですずめちゃん・・・・・・」
彼女の地震に対する過剰反応は印象深かった、草太のアパートで初めて出会った時もスマホの緊急地震速報にまるで弾けるように駆け出して行ったし、車での道中も地震が起きると車から飛び降りて小高い丘に駆け上がると、冷や汗を流しながら周囲をぐるぐる見回していた。
そして一つの疑問がすっ、と氷解した気がした。草太の奴は確か家業で地鎮祭の手伝いのような仕事をしていると聞いたことがあった。アイツの神主姿なんか見たことも無いし、ただのお茶濁しだと思っていたが、そんな知識があるならすずめちゃんの悩み相談の相手にはなれただろう、そんな馴れ初めが二人の縁なのだろうか。
そんな事をしみじみと考えながら歩を進めていたら、なんと環さんが枠だけになったドアに
何かぶつぶつ語りながらドアを開けて、その向こう側に移動してはドアに文句を言う行為をループしていたのだ・・・・・・何やってんだ、あの人?
「この地方の儀式か何かッスか?」
「ぬぎゃんっ!?せ、芹澤君!見とったん?」
いかにも九州人らしい奇声をあげて飛び跳ねる環さん。いやあのこれはと手をパタパタさせてきょろきょろ周囲を見回した挙句に、だはーっ、と大きなため息をつく、本当に何なんだ一体。
「え、すずめちゃんが、この中に入って行ったって?」
環さん曰く、すずめちゃんはこの中に草太がいる事を確信して「好きな人に会いに行くの!」と言い残してドアに飛び込んで・・・・・・消えてしまったそうだ、あのしゃべる猫二匹と一緒に。
「マジっすか、まるでどこ〇もドアじゃないですか。」
「そぎゃんたい。やっからあたしも『すずめの所へ』とか『しゃべる猫の所へ』とか唱えてドア開けたんやっけどいう事聞かへんねん!」
そうごちて軽くドアを小突く環さん。なんともファンタジーな話だが、しゃべる猫というファンタジーゾーンの入り口に関わった身としては完全に否定する事も出来ない。
しばらくそのドアを見て触って吟味してみたが、どう見てもただの古びたドアとその枠だ。ずいぶんボロボロでツタが巻き付いた跡が点々とある所から見ても、あの震災からの津波で設置されていた家と分離したのだろう。
「やっぱ入るには使い魔の猫ちゃんが必要なんですかね」
「あ、あれ使い魔やなくて神様やって」
か、神様って・・・・・・あーもう何でもいいや。ていうか草太の奴、一体どんな過程を経てこのドアの向こうにいるんだよ。
「そういや芹澤君、車はどぎゃんしたと?」
諦めて近くの基礎に腰を下ろして一息ついたあと、そう尋ねてくる環さん。
「J〇F呼んで修理工場に持ってってもらいました。一応自走出来るけどアライメントとか狂ってると危ないッスから。いやぁ入っててよかったJ〇Fメイト!」
「・・・・・・ちなみに呼ぶの何回目?」
ジト目でそう問う環さんに思わず息が詰まる。えーと、確かはち、きゅう、じゅう・・・・・・13回目かな?
「6回目くらい、かなぁ・・・・・・」
目を泳がせて空に向かって返事を返すも環さんは騙せない、腰に手を当てたままずいっ、と詰め寄って「本当は?」とドスの利いた声で問う。
「・・・・・・多分、13回目」
「この不良会員!」
「ですよねー、電話受付のお姉さんにも『またあなたですか』って言われましたよ」
「・・・・・・ぷっ、あはははははは!」
思わず笑う環さん、俺もなんかつられて笑っちゃったけど。
「待つしかなかねー」
「ですね」
立てかけられたドアを見て漏らす。すずめちゃんと草太が本当にあのドアから戻って来るのか、それがいつになるのかは分からないけど、それでもこうやって出待ちするしかやることが無かった。幸い今は季節的に暑くも寒くも無く、一泊夜明かしするくらいなら風邪も引かないだろう。野宿を想定して買い込んでおいたコンビニおにぎりを食べながら二人で話す。
「にしてもタクシーで来たと?よくお金続くね」
「大学卒業したら卒旅する予定だったんですよ、見事に全部すっ飛んじゃいましたけど」
「ずいぶんお高い2万円になったねー」
くすくす笑う環さん。そういえば俺が草太に2万貸しててそれを取り立てに行くっていう建前でここまで来たんだった、実際には逆なんだけど。
「そうそう、タクシーで来る途中スマホいじってたら面白い物見つけましたよ、ほらこれ」
ツブヤイッターの画像を開いて環さんに見せる、そこにはあの目の大きい白猫の写真がいくつもアップされていた。最初に見つけたのは偶然だったがそこから辿ってみると”ダイジン”と名付けられたその猫の画像がいくつも投稿されていたのだ。
「これ・・・・・・あの猫っ!!」
「ですよね。で、さらにケッサクなのがこの動画ですよ。」
そう言って投稿された動画を再生する。そこには一体どういう仕掛けで動かしているのか、あの猫を追っかけているイスの動画だった。いや間違いではないイヌじゃなくてイス、子供用サイズの黄色いイスがその足をパカラッパカラッと動かして猫を必死(たぶん)に追いかけているのだ。
「やっぱあの猫神様が動かしているんですかねぇ、コレ。」
まぁンなワケはないのだが、環さんが和めばいいなと思ってブクマしておいたのだ。その甲斐あって環さんの食い付きは抜群で、両手で俺のスマホを握り込んで食い入るように凝視している。
「これ・・・あの子の、すずめのイスよ!!」
今回は短い物語になるかと思います。