芹澤君のかえりみち   作:三流FLASH職人

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ようやく主人公の二人登場。ということでここからは複数人視点になります。


第四話 帰ってきたふたり

「おーいっ、たまきさーん!」

 朝日を背にしてそう叫びながら現れたのは岩戸鈴芽(いわとすずめ)だ。あの扉からいなくなる時には着ていなかった白衣を身に纏っている。

「・・・鈴芽!?」

 基礎にもたれて座っていた環がその声に思わず立ち上がってまじまじと姪を見つめる。髪は纏めずに漂わせているし、見慣れない白衣を纏っているから違和感を感じる・・・・・・いや、何より鈴芽の表情が今までにないくらい清々しく、そして隣に頭半分背の高い長髪の男がごく自然に並んで歩いて来るその様が、今までの鈴芽には無かった”絵”だったから。

 

(へぇ、あの人が鈴芽の・・・・・・なんかいいわねぇ。)

 朝日を背負っているせいだろうか、初対面のその男性を見ても、姪をかどわかす不埒な輩というイメージは沸いてこなかった。むしろどこか神々しく、威風堂々とした中にも穏やかさを感じさせる。芹澤君の友人だと言うからもっとチャラい感じの男かと思っていただけに尚更好印象だ。

 

「ん・・・・・・あ、草太、それにすずめちゃん、帰って来たのか」

 芹澤も鈴芽の声に目を覚ます。どうやら無事に出会えた友人と彼女のツーショットに、やれやれと目を細める。

「芹澤?」

 逆に草太は何故かこの場にいる友人に驚きを隠せない。目を丸くする彼の横で事情を知る鈴芽がフフーン、と得意顔を見せる。

 

「よう草太久しぶり、と言いたいところだが、女子高生と朝帰りとはいいご身分だなぁ」

「なっ!ちっ、違う、誤解だ!」

「え、えええっ!?朝帰りってぇー、ちっ、違いますっ!!」

 慌て顔になる草太の隣で鈴芽が真っ赤になって手を顔の前でぶんぶん振る。とはいえ一晩、文字通りの二人っきりの世界にいて、草太が着ていた上着を羽織らせて、清々しい表情で朝日とともに登場したのだから疑うなという方が無理であろう。

 

「相応の弁明を求めます、なーんて、な。」

 芹澤が眼鏡をくいっ、と上げてニヤケ顔でそう詰め寄る。草太も鈴芽もあたふたと弁解に必死だが、彼も環もふたりを責める気は特に無い、何かあったとしてもむしろ微笑ましくて許せる心境だった。

 

 と、草太と鈴芽のお腹が盛大に音を鳴らす。芹澤達は知らないが二人は昨夜からずっと常世を駆けずり回っており、かなりエネルギーを消費している。草太に至ってはイスに変えられる前からもうずっと何も食べていないのだ。思わず恥ずかしそうにお腹を押さえる両名。

 

 それを見て環と芹澤がニッ!とアイコンタクト。芹澤が振り返ってカバンの中からビニール袋を取り出すと、それを二人にかかげて見せる。

「おにぎりだけど、食う?」

 昨日ここに来る前に、野宿を想定してコンビニに寄って調達しておいたのだ。二人が帰ってくることも考えてきっちり四人分用意してある。

 

「せっ、芹澤さん!なんて素敵な・・・・・・最高です、神です!!」

「芹澤!お前って奴は、お前って奴はっ・・・・・・最高の友達だあーっ!」

 左右から感極まった顔でお祈りのポーズを取りつつ、目を潤ませて芹澤に迫る二人。その様に若干引きながらも「お、おう」と袋を渡すと、速攻で封を開けておにぎりをがっつき始める、なんか両名食べながら涙流してるんだが・・・・・・どんだけ飢えてたんだよ。

 

 数個のおにぎりをお腹に納めると、ようやく落ち着いたのかその場に座り込む二人。食後のくつろぎタイムといきたい所だろうが、そうは問屋が卸さない。

「さて、それじゃあ二人で何やってたか、きっちり吐いてもらおうか」

「そや、家出の原因と言い訳きっちり話してもらうで」

 芹澤と環がそう言って、まるで黄門様の印籠のようにスマホを掲げてずいっ!と詰め寄る。その画面にはあの猫ダイジンと走るイス、そしてそれを追っかける鈴芽の後ろ姿がきっちり映し出されていた。次々とスワイプして様々な場所で撮られた写真や動画を二人に突きつける。

 

「あ、あの・・・・・・環さん、これは、その」

 ごにょる鈴芽の横で草太はふっと笑って、自然に鈴芽の肩をポンと叩く。

「鈴芽さん、正直に話そう。それで信じるかどうかは二人次第だよ」

「え、ええー、いいの?それで」

 怪訝な鈴芽の問いにこくりと頷く草太。いくら普通の人には荒唐無稽に聞こえる話とはいえ、ここまで関わった二人に隠し事をする方が不誠実だろう、と。

 

 

 四人が円座になって話す、ここ4日の間に起こった出来事や草太の家業のこと、遥か昔から続く”閉じ師”と、災厄”ミミズ”の後ろ戸をめぐる攻防。それに鈴芽は巻き込まれ、草太は封印の要石であるダイジンにイスに変えられ、一時はあの世である常世に封印された。それを助けるために鈴芽はこの遠い故郷まで旅をしてきたことを。

 

「そぎゃんこつになっちょったんか・・・・・・あんたが地震に立ち向かっちゃっとか、凄かね」

「家業の地鎮祭みたいな事ってリアルでの方かよ!マジかっけーなお前」

 

「って、あれ?信じるん・・・・・・ですか?」

 鈴芽があまりに意外な反応に思わず目を点にする。てっきり馬鹿げた事言うなと怒られるもんだと思ってたのに。

「こんだけ証拠があったらさすがに、ね」

「すまん芹澤、隠すつもりは無かったんだが」

 頭を下げる草太に、いいよいいよと手を振る芹澤。こんな経験でもしなければどうせ信じなかっただろうし。

 

 草太は次に環に向かって深々と首を垂れ、感謝の言葉を述べる。

「すずめさんに救われなければ俺はこの世には戻れませんでした。本当に感謝してます。そのせいで彼女を長々と連れまわしてしまい、本当にすいませんでした!」

「って、やめてよ草太さん!元はと言えば私が要石を抜いちゃったのが原因なんだし」

 お互いを庇い合うふたりに環は笑顔でまぁまぁ、とジェスチャーする。

 

「そない憑き物の落ちたような顔しとるあんた初めて見たわ、いい出会いがあった事は確かなんやし、責める気はあらへんよ。」

 そう鈴芽を嗜めてから草太に向き直り、お辞儀をして言葉を続ける。

「草太さんでしたね、鈴芽と出会ってくれてありがとう。どうか末永く仲良くしてやって」

「はい、勿論です」

「ちょ、ちょっと環さん!それ嫁入り時のセリフでしょ!?草太さんもごく自然に返さないで言葉の裏取ってー!」

「え、そうなのか・・・・・・?」

 そんな会話に芹澤は、三者三様の反応だなとニヤけ顔だ。環さんは方言押さえてるあたりわりとマジだし、くそ真面目な草太は草太で単に縁のある人になったという以上の意味にとってない。すずめちゃんだけが公開処刑状態である、面白いのでもう少し見守っておこう。

 

「あら?鈴芽って草太君が好きじゃ無かったの?」

「すっ、好きだけどー、飛躍しすぎだってー!!環さんと違ってわたしまだ若いんだしー!」

「あ”?今なんば言うたかね!」

「え?環さんって充分お若いと思いますけど」

「あらーお上手ねぇ、ホント芹澤君のお友達とは思えないわ」

「・・・・・・なんか流れ弾がコッチに飛んで来てる」

 

 そんなこんなで和やかな談笑を経た後、とりあえず芹澤の車を預けている工場まで歩いて行く事になった。結構距離はあるけど会話のネタには事欠かないし、ちょっとした遠足気分で隣町まで向かう一行。

「じゃっけど大変やねぇ、日本中を回ってその後ろ戸?閉めて回るんやろ」

「でもさ、ダイジンとサダイジンが封じてくれてるから、今までみたいに頻繁ってことはないんでしょ?だったら草太さんも少しは楽になるんじゃ・・・・・・」

 二人の言葉に、草太は少し俯いて思考を巡らせる。

(いや、確かに大きなものは無いかもしれないが、その分・・・・・・)

 

「なぁ、草太」

 深刻顔になって考え込む彼に芹澤が問う。ん?という顔で彼の方を見る三人。

 

「例のミミズって、赤黒い炎のようだ、って言ってたな・・・・・・あんな感じか?」

 

 そう言って虚空を指差す芹澤。その先にあるものを見て、鈴芽と草太は・・・・・・愕然とする。

 

「あ、あああっ、そんな、なんで?」

 

 四人が見たのは、街中に立ち昇る一本の。まるで炎のような円筒だった。

 

 

 

「ミミズっ!鈴芽さんっ!!」

「う、うん!」

 短いコンタクトの後、弾けるように駆け出す二人。環と芹澤もそれに続いて追いかける。

 

 町の中心付近、一本の赤黒い炎のような線が立ち昇っている。それはまさについ先ほど草太から聞いた”ミミズ”という災厄の形、倒れ込んで地震を起こす恐るべき大河のうねりそのものだ。

「あ、あれが・・・・・・ミミズ!」

「鈴芽ーーー待ちやいーっ!私もいくけんーー!」

 

 駆けながら、鈴芽と草太はそれぞれの違和感を抱えていた。あれは確かにミミズだ、だけど今までとは明らかに違う!

「ねぇ草太さん!あのミミズって、なんか小さくない?」

 その言葉に後ろから続く芹澤と環が驚く。ミミズはすでに電送鉄塔の高さまで持ち上がっているのに・・・・・・小さい?

「ああ、今までに比べて小規模だ、アレが倒れてもせいぜい震度1程度だろう・・・・・・だが、問題はそこじゃない!」

「うん!後ろ戸を閉めなきゃ、もっと大きいミミズが出てくるかも!!」

「って、アレで小さいのかよ!!」

 芹澤の指摘に鈴芽が振り返って返す。

「今までは山の高さくらいあった!東京じゃ本当に山ぐらいの大きさにまでなったの!!」

 

「あれは多分、常世で封じたミミズの余波が流れ出て来てるんだ!」

「なに?余震ってワケー?」

 草太の解説に環が適切な表現を返す。そう、規模の大きなミミズが発生すると、それを封じるのに成功しても失敗しても、その大きさ故に余波が多く長く、そして小さく発生するものだ。ちょうど大地震の後の余震が長引くかのように。

 

 全力ダッシュでミミズの根元、後ろ戸があるであろう場所に向かう四人。だがそんな中、草太だけはどうしても納得できない疑問と不安を抱えたままだった。

(何故、後ろ戸が街中に?あれは人から忘れ去られた場所にしか出来ないハズ・・・・・・もしその法則が破られたら、今後閉じ師は何を指針に行動すればいい!!)

 

「あの工場の裏!」

 先頭を走る鈴芽が最後の曲がり角を駆け抜け、後ろ戸の目の前に立つ。そして彼女は・・・固まる。

「え、えええええっ、ウソでしょおーーーっ!?」

 

「どうした鈴芽さん、早く鍵、を・・・・・・」

 続いて到着した草太が、なぜか立ち尽くしている鈴芽に発破を・・・・・・かけられなかった。彼もまたその光景を見て呆然と立ち尽くす。

「あ、アレは、まさか・・・・・・」

 

「うっわ、これがミミズ・・・あ、あら?あらまぁ」

 環は到着と同時にまずミミズの異様さに驚き、次にその”後ろ戸”を見て呆けた声を出す。

 

 

 そこは町中の自動車工場の裏手にある広い駐車場。そのほぼ中央にぽっかり空いたスペースに”後ろ戸”は存在した。

 

 猛烈な炎のようにミミズが立ち昇る、ここの後ろ戸。

 

 

 それは右側のドアの外れた、赤いオープンのスポーツカー(・・・・・・・・・・・・・)

 

 

「俺の車があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!」

 

 芹澤の絶叫が、早朝の町中に響き渡った。

 




サヤちん(名取早耶香)「巻き込まれ体質の人っておるよねぇ・・・」
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