芹澤君のかえりみち   作:三流FLASH職人

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第五話 環と芹澤の戸締まり

「俺の車があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!」

 

 その芹澤の絶叫に呆然としていた草太が、そして鈴芽が我に返る。知り合いの車、そしてここまで乗っけて貰った車がよりによって”後ろ戸”になっていることに呆然としてしまったが、何より優先すべきはこの後ろ戸を閉めて鍵をかける事だ。

 

「鈴芽さんっ!」

「うん!!」

 二人は躊躇いなくミミズが吹き上がる車に駆け寄る。だがそこに閉じるべき”扉”が無い!この車のドアは土手に転落した時に丸ごと外れていたのだ。

「芹澤さんっ、ドアどこ行ったんですかっ!?」

「え・・・・・・あ、確か後部座席に乗っけてたハズだけ、ど」

 その返答を聞くや否や、ミミズが立ち昇る車内に飛び込んでいく二人。見ている芹澤と環は。まるで車両火災のような炎と黒煙の中に生身で突っ込む二人を見て「えええっ!?」と顔を引きつらせる。

 が、数秒の後に二人掛かりでドアを抱えて車外に降りて来たのを見て、改めてこれが単なる炎ではなく、いわゆる心霊現象的なものであると理解した。

 

「ドアをはめるよ、指を挟まないように気を付けて!」

「はいっ!!」

 草太がヒンジ側を、鈴芽がドアノブ側を車に当てがってはめ込みにかかる。ほどなくドアはカチャッと音を立てて元あった場所にキレイに収まった、元々この車から外れていたドアなので当然と言えば当然なのだが。

 が、次の瞬間に二人は困惑する。施錠すべき鍵穴が見えないのだ。本来なら後ろ戸は閉じる事が出来れば、その鍵穴が光り輝いて浮き上がるはずなのだが。

「え、ええっ、どこにさせばいいの?」

「って、上に洩れてる、屋根(ルーフ)も閉じなきゃダメなのか!」

 

 車がオープンカーであるが故に、横のドアを閉じてもミミズは真上に立ち昇るのを止めない。ここを閉じるには上のサンルーフも閉めないと駄目なのか!?

「芹澤、屋根を閉めてくれっ!上を閉じないとここは封印できない!!」

 後ろ目でそう叫ぶ草太に芹澤は自分を指差して、「お、俺が?」と困惑の声を上げる。

 

「何モタモタしとるんや、さっさと行きっ!」

「あーもう、やりゃあいいんだろっ!!」

 環のハッパに応えてヤケクソで車に向かう芹澤。さすがに目の前まで来た時はその圧にビビったが、ミミズが触れても体に影響がないのは先程のふたりが立証済みだ。意を決してボンネットから運転席に飛び込むと、身を縮めてシート下に隠してあったスペアキーを取り出す。

「頼むぜ、かかってくれよ!!」

 キーを差し込んでセルを回し、エンジンを始動させる。スポーツカー独特のコオォォン!と甲高い音が車に息吹を吹き込む。

「よし、あとは!」

 ギアの後ろにあるルーフ操作のボタンを押し込む。周囲は立ち昇るミミズで視界ゼロだが、毎日乗ってる自分の車のスイッチだ、間違えるものか!

 

 ピッ、ウイィィィーーーン

 

 リアハッチは開いてルーフが閉じ始める、よし、このまま閉じてくれれば・・・・・・

 

 ピピッ、ピーッピーッピーッ!

 

 だが期待空しく、ルーフは2/3ほど閉じた所で停止し、車から警告アラームが鳴り響く。

「あーもうこのポンコツ!また閉じないの? 環さん、蹴っ飛ばしてみて」

「せやな、ショック与えたらまた直るっちゃかも!」

 

 ずかずかと車に迫る環に芹澤が「ダメだ!」と声を上げる。

「挟まれ防止の警報音が鳴ってる・・・・・・たぶんこの吹き上がるミミズの風が抵抗になって”障害物アリ”の判定をしてるんだ!」

 自動で閉じるこのルーフには、手や顔を挟み込んでの事故を防止するためにある程度の抵抗がかかると開閉をストップする機能がついている、ミミズの出てくる圧を車のCPUがそう判断してしまったらしい。

「じゃあ、どうすれば!?」

 その鈴芽の質問に、オーナーである芹沢にも答えが出てこない。元々閉まらないならそれで諦めていた彼にとって、このルーフを無理やりにでも閉める方法は知らなかったのだ。

 

「まずい・・・・・・ミミズが、倒れ始めた!」

 草太がドアを押さえながら天を仰いでそうこぼす。鎌首を持ち上げたミミズはゆっくりとその体を傾ける、そしてそれを呼び込むかのように金色の糸が地面から無数に立ち昇る!

「大変、このままじゃ、地震が!!」

 冷や汗を流して叫ぶ鈴芽。その声に応えるかのように環はその身を車の上に踊らせる。ドドンと音を立ててリアハッチの上に登ると、後ろから屋根を押して強引に閉じようとする。

「ええいっ、んん~~~っ!」

 だがさすがに電動のハッチが女性の力で動くはずもなく微動だにしない。その様を見た芹澤も運転席から天井のルーフを掴み、なんとか閉じようと力を込める。

「閉まれえぇぇぇぇっ!!」

 

 ピーッ、ピーッ、ピーッ

 

 だが無情にもハッチは閉まらず、警告音だけが鳴り響く。車のコンピューターが障害物アリの判定をしている以上ルーフはロックされたままなのだ。

「・・・・・・待てよ、ミミズの圧でドアが止まっているなら」

 草太が失念していたことを思い出す。閉じ師に必用な心構え、ミミズを押し返すためにそれを閉じるものが聞くべき『声』の事を!

 

「芹澤、環さん、この場にいた人たちの『声』を聞いてくれ!!」

「「え?」」

「後ろ戸は人の居なくった寂しい場所に開く!かつてそこにいた人たちの『想い』を感じ取れれば後ろ戸を閉じる事が出来るんだ!!」

「お願いっ、芹澤さん環さん、早く、目を閉じて声を聴いてっ!」

 鈴芽が続いてそう叫ぶ。やはりこの後ろ戸とミミズは何かおかしい、草太も鈴芽も当たり前に聞いていたはずの『声』が、今回に限って聞こえてこないのだ。

 

 それは彼らが閉じ師としての常識に囚われ過ぎていたから、なまじ今までの経験が邪魔をしていたから。

 

「あーもう、とことんオカルトファンタジーに付き合わせてくれるなぁ!」

 芹澤がヤケクソの中のヤケクソで、まぶたが潰れんばかりに目を閉じる。

「地震が止められるんやったら何でも聞いちゃろうよ!」

 環もまた、屋根を押す手に力を込めたまま目をつむる。

 

 

 -すずめを、たすけてあげて-

 

 

「「え?」」

 二人の心に、確かに声が響いた。聞き覚えのあるあの声が。芹澤の背中から、環の真下から。

 

 そう、この車の後部座席から。東京からここまでの旅で、ずっと彼の指定席だった場所から。

 

(あの・・・猫、ダイジン!?)

 

 次の瞬間だった。芹澤と環の頭の中に、まるで雑踏の中にいるかのように人々の声が鳴り響く。

 

 

 

 -どうだい、父ちゃんの新車だぞ、かっこいいだろう-

 

               -こら、ちゃんとシートベルしめなさい-

 

      -あーあ、パンクしちゃったよ-

 

                         -もう、ローンばっかりかかるんだから-

 

         -へへっ、我ながらいい仕上がりだなぁ-

 

 -おかあさーん、トイレいきたーい-

 

               -なんてクルマなんだ、本当に周りの空気が震えている-

 

        -あたたた、車中泊はやっぱきっついわ-

 

 -お前コレ、ハチロクじゃない、ハチゴーだ-

 

                   -もうすっかりコイツとデキちまったよ-

 

 

 

 

 

 ピッピーーーーッ

 

 その電子音に芹澤が目を開ける、ルーフスイッチのランプが緑色に光っている、抵抗が・・・・・・無くなった!

「直った!いけるっ!」

 再度スイッチを押し込む。そして止まっていたルーフがゆっくりと動き出す!

 

「あ・・・なんか光っとる!」

 車の上にいた環の目の前、今動き出した屋根の真ん中に金色に輝く、まるで鍵穴のような光の絵!!

 

「鍵穴はそっちか!」

「環さん、これっ!」

 鈴芽が尻でドアを押さえながら草太の首にかかっていた鍵のネックレスを外し、車の上に環に投げ渡す。

「ドアが完全に閉まったら『お返しします』って唱えて鍵をかけて!」

「え、お返し?どういう・・・・・・」

「ミミズを常世に返すんです、その鍵を閉める時の言葉はそのまま『言霊』になるんです!」

 

 困惑する環に解説を入れると同時に、閉じ師の祝詞を唱え始める草太。

 

 -かけまくしもかしこき日不見(ひみず)の神よ、遠つ御祖(みおや)産土(うぶすな)よ-

 

「だあぁぁぁっ、やばい! もうちょっと・・・・・・頼むっ、間に合えっ!」

 芹澤が閉まる天井と倒れ込むミミズを交互に見ながら、手を握り込んで祈る!

 

 -久しく拝領つかまつったこの山河、かしこみかしこみ、つつしんで-

 

 ズムッ、ピピーッ!

「閉じたあぁぁぁぁっ!」

「環さん、今あぁぁぁっ!!」

 

 

「お返しすっとよーーーーっ!!!」

 

 鍵穴に鍵を差し込んで、言霊を叫び勢いよく鍵を回す環!

 

 

 -ガッキイィィィン!!-

 

 鍵穴を回した瞬間、今まで炎のように赤黒く燃え盛っていたミミズは、瞬時にしてその身を泡立たせ、次には降り注ぐ雨となって地面を、町を濡らしていく。

 

 

 

 そして静寂。

 

 

 

 

「くくくっ、ははははは、あっはっはっはっは!」

「やった、やった、やったっっっ!! すごい環さん!!」

 草太が座り込んだまま笑い出し、鈴芽は上の環を見上げて歓喜の表情。支える者が無くなった車のドアは再びゴトン! と落下して倒れる。

 

「・・・・・・間に合った、のね。」

 車のリアハッチに座り込んだまま、二人を見下ろして安堵の表情を見せる環。

 

 

 

「・・・・・・とりあえず、タオルくれー。」

 

 最後に落ちたドアの奥、運転席に座ったままずぶ濡れになった芹澤が、ジト目でそう嘆いた。

 

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