「ったく、あのクソ真面目馬鹿が・・・・・・ちょっとはすずめちゃんに付き合ってやりゃいいのに」
某片田舎の無人駅、線路脇に立つ草太と鈴芽ちゃんを上の駐車場から見下ろしながら芹澤はごちる。隣では環が微妙な顔でやはり二人を見下ろしている。
「すまん芹澤、どこかこの近くの駅で降ろしてくれ」
あの後草太はしばらく考え込んだ後、なんとそう告げた。てっきり東京まで一緒に帰ると思っていただけにその発言に驚く一同。
「さっきもそうだったが、今までは出てこなかった小さなミミズが頻出する可能性がある」
草太曰く、あの世である常世とやらであの猫ちゃんズがミミズの本体を封じ込めているそうだが、神様二人の力をもってしても本体を押さえるのが手一杯で、その勢いで本体を離れた端末の飛沫のような小ミミズを抑えきる事が困難らしい。
まぁ震度1~2程度の地震を起こす程度のものらしいが、問題はそれで後ろ戸が開いてしまう事だ。例え地震に間に合わなくても後ろ戸は閉じないと後々より大きな震災を招く恐れがある。なのでいわば
とはいえそれは草太にも、そして何よりすずめちゃんにとって酷な話だ。せっかく過酷な旅や戦いを経て、ようやく人の姿で再会できたというのに、その後の
抗議の声を上げたかったが、その後の草太の言葉に全員は黙らざるを得なかった。
「俺は教師になるのが夢なんだ。今年はもう難しいが来年も諦めずに挑戦したい、その為にも今のミミズの余波をしっかり封じて、その後の勉強に専念したいんだ」
後顧の憂いを無くして人事を尽くす、という決意。思えば草太は二次試験直前にわざわざ九州まで出かけ、そこで今回の一連の騒動に巻き込まれて教師の夢を失ってしまった。ならば今度こそ後腐れのない状態で試験に臨みたいんだと。
あと、その大きなミミズの本体を封じた為、その余波さえ押さえれば今後近年に大きな地震が起こる可能性はほぼなくなるらしい。なのでしばらく閉じ師を休養して受験に専念する、その為の決意だそうだ。
「ダイジン達が頑張っているんだ、俺がサボるわけにはいかないよ、ちゃんとやるべきことはやらないと」
まぁそんなこんなで最寄り駅に到着して、せめて電車が来るまで二人きりにさせてあげたのだが・・・・・・2時間に1本の電車が到着してほどなく来るなよと言いたい、全く気が利かない電車だ。
「そういえば君、お金は返してもろたん?草太君から」
あ、そういう設定だったっけ、すっかり忘れてた。
「いや実は逆なんすよ、俺がアイツに借りてて……なんか忘れてるみたいなんで黙っててもらえます?」
その俺の返しに思いっきり呆れられた、まぁそりゃそうか。
だが環は逆にその言葉に、今まで以上にこの青年を見直していた。借金を取り立てに来ていたとばかり思っていたのが、その実純粋に友達の為に、そして鈴芽の為に世話を焼いて東北まで旅していたのだ。気障な見た目や乗り回す車から軽薄そうな印象だったが、どうしてなかなか人情家のようだ。
(なるほど・・・・・・あの草太君とええコンビかもな)
一言褒めてあげようか、なんと思って彼の方を見るとそこに居なかった。あれ?と見回すと何と彼は駐車場のフェンスに寄りかかってスマホを電車の方に向けている。動画で撮影していたのは今まさに到着した電車の前で抱き合っている鈴芽と草太の絵だった。
「こん男は・・・・・・」
ニヤニヤしながら撮影を続ける芹澤に思わず毒を吐く環。でもまぁカメラの先の二人を見てると分からなくもない、次に会えるのがいつになるかも分からない
「あとでその動画、あたしのスマホにも送ってなー」
「・・・・・・環さんも大概ッスね」
「でもすずめちゃん、本当にこれで良かったの?」
車に戻った後そう聞く芹澤。なんなら草太と一緒に”戸締まり”しながら東京に帰る選択肢だってあったはずだ。まぁ日数がかかるしそんなに学校を休むわけにはいかないだろうが。
「あかんあかん、さすがにそんな何日も一緒に旅してたら、しまいに子供出来てまうわ!」
「ちょ! 環さんっ、なんば言っちょるがぁ!!」
「お、すずめちゃんの九州弁、初めて聞いたな」
鈴芽は全力で否定しているがさもありなん。秘密を共有している想い人同士が、命の危険すらある過酷な戦いを繰り返して旅をする、これで何も無いわけもなく。
「わ、私は別に。草太さんとはまた会う約束もしたし、それに・・・・・・」
鈴芽にしてみれば、自分と出会ってしまったせいで草太は教師の夢を損ない、それどころかあわや人生を終える可能性まであった。それを鈴芽が救ったとはいえ、彼から奪ってしまったもの全てを返せたわけでは無いのだ。
「その、草太さんの為にもっといろいろやって、いい女に成りたいし!」
時間は過去に戻らない、草太から奪ったものを十全には返せない。だったらその代わりにこの旅で出会った私が、草太さんにとってより価値のある存在になりたい、そんな決意をもってそう返す鈴芽。
「お、前向きでいいね、草太も幸せ者だなぁ」
芹澤の言葉にえっへん! と胸を張る鈴芽。それに応えるかのように車のボンネットがバカンと跳ね上がる!
「うわわわわっ!な、何だぁ!?」
慌てて道路わきに寄りハザードを灯けて停車する、スピード出て無くて良かった。
「え、え?私のせい・・・・・・じゃない、よね」
恐る恐る自分を指差してそう話す鈴芽。そんなワケはないのだが、鈴芽の胸を反らすアクションとボンネットが浮き上がるタイミングが見事にシンクロしすぎていた。先程後ろ戸が開いた車という事もあって『また超常現象かな?』と一抹の不安に駆られてしまう。
「うーん、オーバーヒートっすね、多分」
煙の上がるエンジンルームを見てそうこぼす芹澤。元々壊れた2台の車を部品取りで一台に纏めたいわゆる「ニコイチ」の車なせいで、こういった細かいトラブルは日常的だった。
14回目のJ〇Fを待っている間、決意の出鼻をくじかれた鈴芽はやれやれ、という表情で路肩に腰を下ろして、それでも空を仰いで思いを馳せる。
草太さん、頑張ってね。わたしも頑張るから!
次回、クライマックス?