走れるから走るだけ   作:鈴木颯手

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次話は執筆中のマブラヴが完結するか飽きて書けなくなってから書くと思います


第一話「黒い皇帝」

 薄暗い会場内に響き渡る歓声。それらを無視して私はスポットライトで照らされた7つのゲート、その中の右から3番目に入る。隣にはすでに入っていた同族が緊張した様子で前を見ている。

 

 この“ウマ娘”は勝てない。見ればわかる。

 

 いつからだろうか。備わっていたこの力で私は隣のウマ娘のスペックを瞬時に理解した。レースに出れば運が良くて3着。平均でブービーが良いところのレベルだ。

 とはいえ()()()()()()()()()()()を除けばここにいるのはそんな者たちばかりだ。自分の才能では勝てない者たちが最終的にたどりつく数あるレースの中でも最下層のクソのようなレース。それがここの()()()()()()だ。

 妨害さえしなければなんでもあり。違法ドラッグを使おうとサポーターを使おうと問題ない。一部には身体障害者が機械の力を借りてウマ娘とは思えない速度を出すやつもいたらしい。

 そして、そんなレースに出場する私たちを観客たちは酒の肴にしている。中にはこのレースの主催者が行っている賭け事を行う者もいる。というかここの観客のほとんどは行っている。違法レース場で行われているだけありレースの賭け事は違法だ。ウマ娘という人権を保障された種族を賭けの対象とするなど人間として恥ずべき行為である為らしい。だけど私にとって……いえ、このレースに参加するウマ娘すべてがその賭け事を推奨している。当たり前だ。私たちはレースに勝てばその賭け金の一部を褒賞として受け取る事が出来るからだ。比率は主催者側に最終的に残った賭け金の1割。少ないと思うかもしれないがここの観客はみな金持ちばかりだ。レース一つで億近い金額が普通に飛び交うのだ。そんな中の一割だ。一般人では手が届かないような高額となっている。更に一部には海外から視聴している者もいて電子マネーを使って賭けていることもあり、現ナマに加えて膨れ上がる事もある。

 もちろんこの褒章は一着限定だ。だからみんななんとしても勝とうとしているのだがそんなことを私はしない。()()()()()()()()()()()()()

 

パァーン!!

 

 スターターピストルの音が聞こえると同時に私は走り出す。どうやら先頭に躍り出たようで目の前には誰もいないし後方から6人分の気配がする。先頭に立って走ることを逃げというらしいが今の私はその中でも2番手以降を大きく引き離している大逃げに分類されるだろう。そう、私は既に()()()()()()()()2()()()()()()()()()()()()()。後方のウマ娘が驚いているのが感じられるがそれは()()()()()()。とは言え今日は久しぶりに大逃げを披露した。そうである以上私は自分の限界を見極めるためにもこのまま()()()()()()()()()()()()。周囲の景色が一瞬で切り替わっていく。まるで車で高速道路に乗っているかのような風景だ。

 

『一着、シュバルツカイザー』

 

 気づけばゴールを踏んでいたようでそんなアナウンスが聞こえてくる。私は速度を落としつつ後ろを見れば……、ああ。どれだけ突き放したのだろうか。みんな()()()()()()()()()()()()。特に一番後ろのウマ娘なんて目に涙を浮かべて絶望の表情を浮かべている。それでも走るのをやめないあたりさすがはウマ娘というべきか。

 

『2着―――――、3着―――――……』

 

 次々とゴールを果たして順位を読み上げられていくがこのレースにおいて一着以下は必要ない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、それがこのレースで観客が求めているものだ。

 

『次のレースは一時間後に開催します。それまではどうぞご自由にお過ごしください』

 

 アナウンスがそう締めくくり私たちのレースは終了する。普通のレースで行われているようなウイニングライブはここにはない。それが気に入って私はここにいる。高い褒章金を得られるという事もあるがやはり私はあれが嫌いだ。態々他者に媚びる必要などないだろう。

 

『一着の方は中央スタッフルームまでお越しください』

 

 これも聞きなれたアナウンスだ。このアナウンスが流れる時にはすでに移動している。ともにレースを走ったウマ娘との交流? ()()()()()()()。私はさっさと目当ての物を受け取って帰りたいんだ。

 

「入るぞ」

 

 スタッフルームについた私はノックもしないで入る。中には豪華そうなソファーに二人の美女を侍らせた一人の男性が座っている。彼が向いている方向の壁には複数のテレビがつけられており、レース場の様子を様々な方向から見れるようになっていた。

 

「おお! お前さんか。褒賞金の用意は出来ているぞ。ほれ」

 

 男、このレース場の主催者はそう言って私にタブレットを見せてくる。ここのレース場で採用されているネットバンキングによる振り込みの様子だ。確かに高額な褒賞金が振り込まれているようだ。一着をとったものの中には現ナマですべて受け取る者もいるらしいが私は大半をここに振り込むように言っている。

 

「それとこれがいつも通りのこんにゃくだ」

 

 こんにゃく、つまり100万円が入った封筒を投げてくる。最初こそこれに怒りを覚えたが今となっては気にもしなくなった。私も慌てることなく難なく受け止める。封筒の中身は確認しない。こんなレースをしているこいつだが金銭面では誠実だ。ピンハネなんてしないできっちり渡す金を渡してくる。逆にどれだけ媚を売ろうとも受け取った賭け金の一割を超える事もないがな。

 

「相変わらず化け物みたいにはえーな。しかも今日は久しぶりの大逃げとあって観客たちも喜んでいたぜ」

「そう」

「ふ、観客に興味がないのも相変わらずだな。少しは笑顔を見せてやったらどうだ? きれいな顔が台無しだぞ?」

「男に媚を売って得があるか?」

 

 そりゃねぇな! と主催者は豪快に笑う。さすがにここの主催者とだけあって私の性格を理解している。おそらく両親や友人よりもな。

 

「なら私は帰る。出場しても良いレースが来たら教えてくれ」

「おう。そんときはまた頼むぞ!」

 

 主催者のその言葉を聞きながら私はスタッフルームを後にする。今日はこれ以降の予定もない。久しぶりの大金でもあるしファミレスで豪遊するのもいいかもしれないな。

 

 

 

 

 

 

「……ほんとうに、相変わらずだよ」

 

 主催者はウマ娘、シュバルツカイザーが出ていった扉を目を細めてみながらそう言った。先ほどまでとは違い刀の如き鋭い雰囲気を見せ、主催者と呼ぶにふさわしい風格を醸し出していた。

 

「ねぇ? あの娘、たまに来るみたいだけどトレセンには通っていないの?」

「ん? ああ、それどころか()()()()()()()()()()

「あら。それなら昼間は何をしているのかしら」

「このレースで稼いだ金を使って何かしているらしいぞ。詳しくは聞いていないから知らないがな」

 

 両脇に侍らせた美女の質問に主催者は気前よく答える。久しぶりにシュバルツカイザーが参加するだけあって今回は大きく金が動いていた。ちなみに、シュバルツカイザーはこのレース場で()()()()という無敗の記録を持っているがゆえにその存在はウマ娘のゲートイン時まで伏せられている。というより出れば必ず勝利する彼女を賭ける事は出来ない。

 

「あいつは最低でも一月に一度、最高で一年に一度出すだけでこっちが大儲け出来る最高のカードだ。あいつのおかげで俺は金持ちどもから大金を巻き上げられるしあいつも一着の褒賞金を受け取れる。たぶん普通に出ていたんじゃもらえない高額な金をな」

「winwinの関係ってわけね?」

「そうだ。あいつが何をしようとしていても構わねぇ。俺には関係ないからな。あいつは俺が金を巻き上げる時のジョーカーとして機能してくれればそれでいいのよ」

 

 逆に言えば主催者はシュバルツカイザーの不利になるような事はしない。彼女がこのレース場に通っているのは単純に家から近いからだ。自分に不利だと感じれば別の違法レース場に通う事になるだろう。

 

「違法レース場の関係において金がどれだけあるかはステータスだ。あいつを他の所にとられるわけにはいかねぇからな」

「でもいつかはトレセンに通ってしまうんじゃないかしら?」

「そんな心配はねぇさ! あいつは()()()なんだよ。自分が好き。他人が嫌い。他人より自分を取る。自分が嫌な事は絶対にしないが自分の為になるなら他人に嫌なことを平然と行える。そして恐ろしいのはそれを行っても生活できる才能を持っていることだ。だからあいつはその気になれば同姓すら魅了できる顔を肉体を使った素晴らしいダンスも出来るが他人のためにそんな事はしたくないのさ。トレセンに通わねぇのがそれが一番の原因さ」

「ああ、確かにやるものね。ウイニングライブ」

「そう考えればそういう風に取れるわね」

 

 ウイニングライブとはレース後にウマ娘がファンのために行うサービスのようなものだがシュバルツカイザーはそれを媚を売っていると感じて忌避している。あれこそ他人のために自分が嫌なことをするという彼女にとって最悪なものの一種だからだ。

 

「だから俺がきちんと金を払い、あいつの住処の近くにいて、ウイニングライブを開かねぇ限りここを離れる事はないって事さ。……あ?」

 

 そう言い切った主催者のタブレットに通知音が聞こえてくる。それは()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

「っち! ここも嗅ぎつけられたか。仕方ねぇ。いつものように上下両方にレンガや座布団の力を見せてやるか」

 

 主催者はそういうって笑う。裏の違法レース場界で輝く男は今後もその力で我が世の春を謳歌していくのだった。

 

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