走れるから走るだけ   作:鈴木颯手

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何故こうなったし


第五話「出会い」

 URAの職員のスカウトを断ったがだからといって私の生活が何か変わることはない。しいて言うのであれば違法レースに足を向けなくなったくらいだ。あの様子から私が出場していた違法レースは警察にマークされていると考えていい。そんなところに態々出場する真似はしない。これまで貯金してきたために暫くは遊んでいても問題ないくらいの金銭を持っている。潜伏しても問題はないしなんならそれ以外の方法で稼げばいいだけの話だ。

 

「……」

 

 そんなわけで私は今近くのファミレスにきている。ここは平日の昼間はほぼ人がおらず店内はとても静かだ。もくもくと作業するにはこれほどうってつけの場所は中々ない。早めにランチを食べてからはずっとパソコンとにらめっこをしている。私がしているのはIT関連のバイトだ。高いスキルが求められるがその分支払いも高いバイトだ。すでに4件のバイトを完了して5件目を半分完了させようとしている。

 

「あれ? あなたは……」

「……」

 

 ふと、声が聞こえたほうを見ればトレセン学園の制服を着たウマ娘がいた。桃色の髪をした元気という言葉が似あうウマ娘だが生憎私の記憶に彼女の情報はない。少なくとも有名でも実力者というわけでもないだろう。

 

「何か?」

「あ! お仕事中だったのにごめんなさい! とても綺麗な髪だったから」

 

 少なくとも彼女には私は成人しているように見えるのか? 確かに凛々しいという言葉が似あう姿をしていると思っているがさすがに5つ近く上に見られるのはあまりいい気分ではないな。それともこの場合は大人っぽいとポジティブに受け取るべきなのだろうか……。

 

「学校の帰りですか?」

「帰りではないかな。寮に住んでいるけど外でトレーニングしようと思ったけど少しおなかがすいちゃったから」

「ここに寄ったというわけですか」

 

 そのウマ娘は隣の席に座りながら事情を話してくる。流石はトレセン学園のウマ娘。トレーニングに余念はないようですが……。

 

「……失礼ですがレースの戦績は?」

「……あー、実はわたし一度も勝ったことがなくて……」

 

 えへへと笑う彼女の様子に私はそうだろうなと感じている。見る限り彼女は勝てるウマ娘ではない。勝つのに必要な才能が一切存在しないと言ってもいい。恐らくどれだけ頑張っても一回だけ1着を取れれば手放しでほめてあげられる程度の実力者だ。

 

「見る限り貴方に才能はないようですね」

「……」

「トモは丈夫そうですが前に進むための筋力が足りません。努力不足というよりもキャパシティの限界点が低いというべきです」

 

 その点でいうのなら短距離向けの肉体だ。中長距離は無駄に敗北を重ねるだけのものでしかない。私ならパワーとスピードに特化して自分の適性と相談しながら逃げや差し、追込などを決めていくだろう。

 気づけばそんなことを口走っていたがふと隣のウマ娘の顔が下がっていることに気づいた。少し言い過ぎたかとも思ったが次の瞬間、

 

「すごい!」

 

 ウマ娘に抱き着かれるように手を握られていた。突然の事に困惑するが表情を見る限り悲しみや怒りは感じずにきらきらとした目を向けてくる。

 

「ここまでわたしの事を評価してくれた人は初めてです!」

「そ、そうですか……」

「そんな貴方にお願いがあります! どうかわたしにトレーニングをつけてくれませんか!?」

「え?」

「私、まだ未勝利戦に勝ててなくて、専属のトレーナーがいないんです! だからどうしても一人でトレーニングをしないといけないんですけどそれだと限界があって……」

 

 なるほど、確か未勝利戦は一勝もできないウマ娘のみが出走できるレースだ。そこでも勝てないとなると筋金入りといえる。大抵はトレーニングを積めば比較的簡単に勝てるレースなのにだ。何しろ出走者は敗北しか知らないウマ娘なのだから。

 

「だから貴方のような指示は初めてだったんです! お願いです! 少しでいいので! 時間がある時でいいので指導してください!」

「……」

 

 正直に言って断りたい。メリットはないうえにデメリットしか思いつかない案件だ。相手が学生である以上金銭による取引も難しい。ただただ時間を浪費するだけになる。

 だが、受ける場合このウマ娘の実力は格段に伸びる。何しろ頭の中ではすでにトレーニングメニューが思い浮かんでいるのだから。このウマ娘をよく知らない状態で出てくるメニューをきちんとこなした場合、G1程度にはなれるかもしれない。まぁ、レースに出る気はなかったからその辺の知識がないから具体的に答えるのは不可能だがな。少なくとも全戦全敗から勝率3割程度にはできるだろう。あとは本人の才能を見ないことには何もいえないな。

 

「……そのお願いを受けた場合の私のメリットはなんでしょうか?」

「え?」

「まさか私に利益がないのに受けるとでも思っているのですか? 私はそんな善人ではありませんよ?」

「……」

 

 このウマ娘には悪い、かもしれないが私は善人ではない。態々めんどくさいこれを受けようなんて思えない。だからこそ、私を納得させられる理由を……。

 

「勝ちます!」

「……?」

「わたし、今まで負けても常に笑っていました。レースに出られればそれでうれしいって。だけど、教えてくれるのならわたしは()()()()()()()! 絶対に教えてくれた事を糧にしてそれを十分に発揮してレースに勝ちます!」

「……」

 

 私はメリットを提示しろといった。だが、これはなんだ? 普通なら断るのが当然の言葉だが()()()()()()。彼女の瞳に燃える、闘志と呼べるそれから……。

 

「……わかりました。素人ながらできる範囲で頑張りましょう」

「っ! 本当ですか!? やったー!!!!」

 

 ウマ娘はここが店内という事も忘れて大きな声を上げている。だけど私はそんな彼女を無視して無意識に了承していたことに驚いてしまっている。受ける気はなかったのに何でだ? 彼女に何かを感じたからか? いや、どう見ても彼女に感じるものはない。では私の内面の問題か? 彼女が好みの見た目だった? いやそういうわけでもない。じっくりと見ても可愛い容姿をしている程度にしか思えない。ならばなんだ? 何故なんだ? こんな一勝もできないのにヘラヘラ笑っているウマ娘を……。

 

 ……ああ、そうか。

 

 まぶしいのか。羨ましいのか。私は。ただ走るだけで楽しいと感じられる彼女が。勝てなくても笑顔でいられる彼女が羨ましいんだ。

 私は意識的に手を抜かない限り負ける事がない。だから一度も走ることに情熱を持てず、楽しいと感じたことはない。どれだけ走っても気づけば私の前を走るものはおらず、興奮も熱狂もない。

 そんな私だからこそ彼女の在り方がまぶしく見えたのだろう。その笑顔の理由を勝利したからにしたいのだろう。彼女を、勝たせてみたいと思ってしまったのだろう。

 

「……では早速始めましょう。ジャージはありますか?」

「えっと、寮にあります……」

「ならばとってきてください。今日は時間も時間なので簡単な確認と練習を行いましょう」

「は、はい! ありがとうございます! あ、わたしハルウララって言います! これからよろしくお願いします!」

 

 そう言って彼女、ハルウララは店を飛び出していった。寮にジャージを取りに行ったのだろうが行動が素早い娘だ。騒々しいがそれがどこか心地よくもあるな。

 ……さて、やると決めた以上徹底的に彼女を鍛えてあげないとな。私の脳内は既にトレーニングや今後の行動計画を練り上げ始めている。恐らく彼女が戻ってくるまでには完成し、ハルウララが泣きべそをかいてしまうようなハードなトレーニングが出来上がっているころだろう。だけどそれくらいはクリアしてもらわないと。私に教えを乞うたのだから耐えてレースに勝てるウマ娘になってくれよ?

 私は気づかぬうちに笑みを浮かべながらハルウララの到着を待つべく会計を終わらせるべくレジの方へと歩いていくのだった。

 




本当はライスシャワーにしようかと思ったけどそれだと似た作品あるからハルウララにしました。そこまでウマ娘と元ネタの競走馬を知っているわけではないので他に思いつかなかった……
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