走れるから走るだけ   作:鈴木颯手

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第六話「ハルウララ」

-ハルウララ。悪いがこの調子なら今年度にはトレセン学園を去ってもらうことになるかもしれない。

 

 わたしはその言葉を聞いた時、絶望や驚愕のほかに納得の感情も抱いてしまった。だってこのトレセン学園に、ううん。トレセン学園に通う前からわたしはレースで勝った事がなかった。それでも走るのは楽しいしレースに出られるだけでもわたしは満足だった。

 だけど、トレセン学園はそう判断してくれなかったみたい。わたしは、成績を残さないと辞めさせられることになってしまった。

 

『……』

『ウララさん……』

 

 気づいたらわたしは部屋に戻っていてルームメイトのキングちゃんに抱きしめられて頭を撫でてもらっていた。目からはたくさんの涙が……。うん、すごくつらくて悔しいや。

 わたしだってこのままじゃいけないって事は理解していたつもり。入学してもうすぐ2年。それだけの時間が経ってるのに未勝利戦で勝ててないウマ娘はウララだけ……。みんな勝ったり、その、勝てないと思っちゃった娘はトレセン学園をやめて行っちゃった。いつもその背中を見送っていたけど今度はわたしが見送られる側になるのかな?

 

 ……それは、すごく嫌。もっと走りたい。もっとレースに出たい。みんなで楽しみたい!

 

 だけど、それができる実力がわたしにはない……。

 いっぱいトレーニングしていっぱい勉強したけど駄目だった。だってみんなも同じくらい、もしかしたらそれ以上のトレーニングをしているんだもん。でも未勝利戦を突破できないとトレーナーが着く事やチームに入る事は出来ない。私は、自分の力を引き出せるトレーニングを学ぶ前の段階で躓いちゃってる。これじゃ努力しても無理だよね?

 

-見る限り貴方に才能はないようですね

-トモは丈夫そうですが前に進むための筋力が足りません。努力不足というよりもキャパシティの限界点が低いというべきです

 

 でも、そんなときにであったのがあの人。漆黒の髪のウマ娘。多分私よりも少し年上なあの人は一目でわたしの状態を見抜いた。トレーニングを続けたことで何となく察しつつあったわたしの欠点をあの人は見ただけで当てた。

 だからわたしはあの人に指導してほしいとお願いをした。見る限りトレーナーどころかトレセン学園の人じゃないあの人にこんな事をお願いするなんておかしいかもしれないけどわたしの周りで初めて、わたしの事を理解してくれた人だった。

 迷惑かも、ううん。絶対に迷惑をかけているって事は分かってた。だけどわたしだってもう後がない。結果を出さないとわたしはトレセン学園にいる事は出来ない。わたしは、ウララは、レースをもっと楽しみたい! そのためならわたしは1()()()()()()()()()()()。それが楽しくなくて辛いだけのものだったとしてもそのあとにある楽しいことがあるならわたしは乗り切って見せる!

 

-……わかりました。素人ながらできる範囲で頑張りましょう

 

 そして、わたしはあの人の、シュバルツカイザーさんから指導してもらえることになった。それがとてもうれしくてつい大声をあげちゃった。だけどそれだけうれしくて、暗闇の中に光を見た気分になったの。

 

「(絶対にものにして未勝利戦に勝つ!)」

 

 わたしは確かな覚悟と闘志を胸に感じながらシュバルツカイザーさんの指導を受けるためにもジャージに着替えるべく寮へと走っていった。

 不思議とその時はいつもより早く走れたかもしれない。

 

 

 

 

 

 ひょんなことから弱小ウマ娘ハルウララのトレーナー擬きをすることになったが早速後悔しかけている。

 ハルウララがジャージに着替えて戻ってきた後、私たちはファミレスから場所を移して近くの公園に来ていた。ここはウマ娘がトレーニングできるようにとそれなりの広さに加えてウマ娘専用レーンが存在していた。だからここでハルウララの詳細なスペックを確認していたわけだが……。

 

「ハルウララ。改めて言いますが貴方に才能は有りません」

 

 そう、ハルウララはトレセン学園に入学してきたのが間違いだといいたくなるほどの走る才能がなかった。適正は芝が苦手どころかわざとかといいたくなる醜態っぷりをさらし、ダートに適正があったのが幸いだけどそれ以前にひどすぎるスタミナ。パワーと速度もあれなのに他がひどすぎて優秀に見えるレベルだった。このスペックなら確かに未勝利戦すら勝てないというのも頷ける。多分だが私がハルウララに負ける場合は彼女の適性が高いダートの短距離且つ私が早歩きくらいの速度でないと勝てるほどだ。

 

「そして残念ですが芝を走る事はお勧めしません。恐らくあなたでは勝利どころかブービーにすらなれない悲惨な結果しか残らないでしょう」

「それは……、はい」

 

 彼女も思い当たる点があるのだろう。私の言葉に素直に返事をしている。だけど返事だけではどうしようもない。ここからどのようにするかですがハルウララがジャージに着替えに行っている間にある程度のトレーニングメニューは考えており、結果をもとに修正していつでもできる状態にしてある。

 

「まずは今後のハルウララ、あなたがどのようなウマ娘となるかを話しましょう」

「? どういう事?」

「どのような走り方をするのかってことですよ。貴方はこれ以上頑張ってもスタミナが増えることはないでしょう。あっても微々たるものでないよりはマシ程度でしょう」

「は、はい……」

「なので今後はパワーとスピードを重点的に伸ばしていきます。これら二つは物足りないですがスタミナよりも伸びしろは十分にあるように思えます。その結果を踏まえて貴方はダート専門の短距離型という事になります」

 

 むしろそれ以外の走りをすれば惨敗という結果がたたき出されるだけだ。それだったら得意な分野に絞っていく方が何倍もいい。

 

「逃げや差し、追い込みなど色々ありますが何か希望はありますか?」

「えっと、わたし。その、あまり頭で考えるのは苦手で……」

「ならば逃げか追い込み……、いえ。恐らく逃げが無難でしょうね」

 

 とはいえ逃げは後半にバテて馬群に飲み込まれてそのまま上がってこれないケースがある以上スタミナ配分は必須だ。要は頭を使わずに勝つなんて都合のいい事は出来ないが逃げならスタミナの配分をしなくても何とかなりやすい。ほかだと仕掛けるタイミングを見計らう必要もあって面倒だが逃げなら1着を死守するだけでいい。精神力においては他のウマ娘よりも高いといえるハルウララなら気力で走ることもできるかもしれない。

 

「逃げ……」

「それ以外だと頭を使う必要が出てきます。勘で行けるほどレースは甘くはないですし貴方に才能は有りません。では早速トレーニングを始めましょう。まずはパワーをつけることから始めましょう」

「っ! はい!」

 

 スタートと同時にパワーを全開に馬群を超えて先頭に立つ。ハルウララのパワーならそれができる。あとは彼女の努力と精神力次第だな。次の未勝利戦が何時かは知らないがそう頻繁に行われるものではないはずだ。少なくともひと月程度の余裕はあるだろう。だからそのひと月でレースで勝利できるように()()()()()()。そうである以上ハルウララには本当に血反吐を吐いて頑張ってもらわないといけないからな。精々勝利の糧になるように死ぬ気で努力してくれよ?

 

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