走れるから走るだけ   作:鈴木颯手

7 / 7
ランキング見たら30位にこの作品がありました。これも視聴者の皆さんのおかげです。
それと感想欄にもありましたがハルウララの逃げの適性がGだったことを確認しました。なので作中でそれとなく軌道修正してあります


第七話「衝撃」

 意外と何とかなるもんだなと、ハルウララの走りを見ながら感じる。指導を始めて三か月。意外とハルウララは走れるようになっていた。スタミナは全くついていないが瞬発力にスピード、パワーは桁違いに増えている。最高速度もかなり更新し、スピードだけなら十分すぎる状態となった。これなら未勝利戦は圧勝できるだろう。私としてもここまで指導した甲斐があったというものだ。

 

「ふむ、やはり逃げはダメか……」

 

 そして意外なことに、と言っていいのかハルウララは逃げや先行の才能がなかった。それこそスタミナと同じレベルの才能のなさだ。とてもではないが成長の余地はなかったために差しや追い込みをやらせてみたがこれが中々光るものがあるように感じた。本人がいつも後方にいたために見慣れた光景で落ち着くのかそれとももともとの才能ゆえか……。

 

「ハァ……ハァ……。どう? 成長、してる?」

「それはこの結果を見てみればわかりますよ」

 

 そう言って私はストップウォッチを見せる。そこに表示された数字は指導初日に計測したタイムより、数秒早かった。確かな成長を教えてくれるものだった。

 

「っ! やったやったー!!」

「レースでこれだけ出せれば1着も十分可能でしょう」

 

 無邪気に喜ぶハルウララに更なる朗報を伝える。三冠どころかGⅠも厳しいかもしれないが1着を取り、そこそこなウマ娘として歴史に残せる程度には育った……、いや。その土台ができたというべきだろう。ここから伸ばせるかは今後の本人次第だ。

 練習を重ねるうえでハルウララとは約束した。指導する期間を次の未勝利戦が行われる前日までと。そして今日がその日だ。つまりハルウララはぎりぎりで指導をものに出来たというわけだ。それだけ彼女の覚悟が本物で努力を絶やさなかったから得られたものだ。

 気づけばハルウララからは敬語が消えていた。年齢が2歳しか違わないと判明したためだろう。私としてはそれでもかまわないがこちらが敬語を崩すことはなかった。私が素を出して話すのはほとんどいない。せいぜいが違法レースの主催者だが別に親しいからではない。取り繕う意味がないからというだけの話だ。

 

「では私の指導はこれで終わりです。明日に備えて今日はじっくりと休んでください。休息を取らないと疲れが抜けることはありません。それで未勝利戦で負けたとなっては目も当てられませんから」

「うん。そこは理解しているから大丈夫!」

 

 そう言って笑っているハルウララだったが退学の危機というのは思いのほか焦りを生んでいたのか最初の方は寝る間も惜しんでトレーニングを行っていた時もあり、その時は数日間休みを取らせないと脚を壊しかねないほど危険な状態になりかけていた。ハルウララも過酷なトレーニングをしすぎて走れない体になるのは本末転倒であると理解できたのかそれ以降休みをきちんととるようになっていた。

 そんなわけで彼女が休みを取らないで失敗するという事はないだろう。問題は緊張や興奮で眠れないという可能性が若干存在する事だがその時はそうならない心を落ち着かせてほしいものだ。

 

「では私の指導は今日をもって終わりです。少しは役にたてましたか?」

「もちろんだよ! 多分、わたし一人じゃここまで成長は一生できなかったと思うから……」

 

 そう言ってどこか自嘲するような笑みを浮かべるハルウララ。トレーニングを続けるうえでハルウララの雰囲気がどこかおかしくなっているとは思っていたが時々しか見せないうえに体に影響するものではないから放置していた。カウンセリングをするようになれば更なるかかわりを持つことになる。そこまで彼女に時間を尽くす理由がないからな。あくまで私たちの関係は指導をする者とされる者。それ以上でもそれ以下でもないのだ。

 ……でも、この三か月で確かにハルウララに情を持ったのも事実だ。きっと今後何か理由がない限りレースではハルウララを応援するだろう。それだけ太いつながりを持った彼女に未勝利戦に勝てるように()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……では最後にアドバイスというか未勝利戦に挑むうえでプレッシャーをなくしてあげましょう」

「え? それっていったいどういう……」

 

 私はハルウララの言葉を最後まで聞かずにその場から走り出した。さぁ、ハルウララ。ウマ娘としてすべてにおいて異端であり、神に祝福されたとしか思えない才能を見せてあげよう。しっかりとその目に焼き付けるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 三か月前に指導をしてほしいと頼み込んだ相手、シュバルツカイザーさんは本当にすごかった。だってトレーニングをすればするほどウララの力が高まっていくのが分かった。多分ほかの人に比べれ微々たる程度の成長かもしれないけど全然成長できなかったわたしにとっては初めて感じられる努力したことによる成長。それがとてもうれしかった。

 そしてシュバルツカイザーさんは、指導は素人だと言っていたけどそう思えないほど指導の仕方が上手だった。わたしはそんなに賢くなくて理解力がないって言われているけどわたしにも理解できるわかりやすい内容だった。だから最後まで分かったうえでトレーニングができていた。

 長いようで短い、薄いようで濃密な三か月のトレーニング。それでわたしは未勝利戦に勝てるだけの力を得られたと思う。少なくとも()()()()()未勝利戦なら勝てるだけの力が。もうすぐ今年度が終わるこの時期、未勝利戦に出るウマ娘はどれもレベルが低い。そういわれている。だって強い人はみんな最初の方に未勝利戦を終わらせるんだもん。だから時期によっては未勝利戦が行われないときもあるって聞いたことがある。シニアクラスにいる、シンボリルドルフさんが入学したときがまさにその時期だったらしい。だから今も未勝利戦ができる今年度はそれだけ強いウマ娘が少なかったという事、になるのかな? どっちにしても負けたら終わり。だから頑張らないと。

 

「……では最後にアドバイスというか未勝利戦に挑むうえでプレッシャーをなくしてあげましょう」

「え? それっていったいどういう……」

 

 そして、最後の走り込みを終えて指導が終わったと思ったけど最後にシュバルツカイザーさんはそう言って、走り出した。でも、本当に走り出したのかな? だって気づいたら目の前から消えていたんだもん。そして遠くを見てシュバルツカイザーさんがすごいスピードで走っているのが見えた。

 早い。ただただ早い。まるで車が走っているみたいな速度だった。そして、シュバルツカイザーさんはそのままダートコースから芝コースに速度を落とさずに場所を移した。

 

「……」

 

 ああ、すごいや。あれが()()なんだろうなぁ。そう感じてしまうほどすごかった。ダートと芝。速度を変えずに走ったシュバルツカイザーさんが速度を落としながらこちらに戻ってきた。顔を見てみれば汗一つかいていないで涼しげな表情をしている。その表情が本当ならシュバルツカイザーさんは()()4()0()0()0()m()()()()()()()()()()()ってことなんだろうなぁ。

 

「……どうでしたか?」

「す、すごい……」

 

 私が言えたのはたったそれだけ。それだけしか言えないほどシュバルツカイザーさんの走りは圧倒的だった。多分、どんなウマ娘でもシュバルツカイザーさんに勝つことはできないと思う。そう思ってしまえるほどの強さだった。

 だからこそ、わたしの心はいつの間にか興奮という感情で埋め尽くされていた。嫉妬でも羨望でも感動でもない。まるで神様に出会ったみたいな興奮だった。

 

「……そうですか。見ての通り私の走りを見せました。今のをよく覚えておいてください。そうすれば未勝利戦であなたが敗北することはあり得ませんよ」

「う、うん……」

 

 シュバルツカイザーさんの言葉がどこか遠くから聞こえてくるし、とっても心地よい音色に聞こえる。

 

「ハルウララ。私はあなたの勝利を願っていますよ」

「は、はい……」

 

 そこからの記憶はわたしにはない。気づいたら暗くなった寮の部屋のベッドで横になっていた。あれ? って思ったけど時計を見れば良い時間だったからそのまま眠ることにしたけど、わたしに一体何が起こったんだろう……。

 でも、明日は大事な未勝利戦だしここまで指導してくれたシュバルツカイザーさんのためにも絶対に勝たないと。そしてもっとここでいっぱい、走って……、楽しむんだ……。

 




ハルウララの無邪気な感じの口調難しい……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

原石とよく言われますが興味はありません(作者:鈴木颯手)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

よくある神様転生をした主人公はウマ娘となった。その肉体はハイスペックであり、その気になれば歴史に名を残すことが出来るだろうと言われる程であった。▼しかし、主人公はその肉体を鍛えたりなどしない。周りがどれだけ力説しても彼、彼女はこういうのだ。▼「私、インドア派なので」▼これは神様から最高の能力をもらいながらそれを一切用いずに普通に生活する転生者のお話である。▼


総合評価:1964/評価:7.32/連載:6話/更新日時:2025年12月18日(木) 07:00 小説情報

名バ列伝『グレートエスケープ』【完結】(作者:伊良部ビガロ)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

XX93年4月1日、とあるサラブレッドがこの世に生を受けた。▼後に競争馬として名付けられるその馬の名は「グレートエスケープ」▼この物語は、そんな1頭のサラブレッドによって紡がれる物語……と!▼思っていたが……どうやら賢さにバグがあるようです。アプリを再インストールしてみましょう。▼そんな競走馬に憑依し、さらに気づいたら可愛いウマ娘に!?▼夢か現か、人かウマか…


総合評価:23433/評価:9.07/完結:46話/更新日時:2024年01月14日(日) 11:34 小説情報

飛行機雲に焦がれて(作者:カニ漁船)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

他のなによりも、アイツとの決着をつけたかった──。どれだけ勝っても、心は空虚なままだった。▼2020(コントレイル)世代にとある架空馬をぶち込んだお話。史実と異なるレース結果になる可能性アリ。変わらない可能性もアリ。ウマ娘編始まりました。


総合評価:4869/評価:8.17/完結:170話/更新日時:2024年08月13日(火) 23:00 小説情報

走り抜けても『英雄』がいない(作者:天高くウマ娘肥ゆる秋)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

 お前を追いかけて、ターフを最速で駆け抜ける。お前以外に誰も前にはいないけど、何故かお前もそこにはいない。▼ なあ、『英雄』。教えてくれよ。奇跡に一番近い馬がお前なら、お前に一番近い馬だった俺は、一体何なんだ?▼ ──ディープインパクトに成り代わってしまい、ディープインパクトの幻影に負け続けるウマ娘の話。▼※2021/9/2 総合日間1位達成▼※2021/1…


総合評価:22396/評価:8.74/連載:21話/更新日時:2022年04月21日(木) 18:00 小説情報

メジロアルダン? あんなのハズレだよハズレ!【完結】(作者:宇宮 祐樹)(原作:ウマ娘プリティーダービー)

トレーナー:メジロアルダンのことをハズレのウマ娘だと思っている▼メジロアルダン:トレーナーにメジロ家のウマ娘であることを"理解(わか)らせる"つもりでいる▼お婆さま:この状況を誰よりも楽しんでいる▼この前うp主が誕生日だったのでフォロワーにおねだりしたら設定画をくれました マジアザスアザス▼【挿絵表示】▼


総合評価:17423/評価:8.78/完結:34話/更新日時:2024年06月03日(月) 00:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>