走れるから走るだけ   作:鈴木颯手

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ランキング見たら30位にこの作品がありました。これも視聴者の皆さんのおかげです。
それと感想欄にもありましたがハルウララの逃げの適性がGだったことを確認しました。なので作中でそれとなく軌道修正してあります


第七話「衝撃」

 意外と何とかなるもんだなと、ハルウララの走りを見ながら感じる。指導を始めて三か月。意外とハルウララは走れるようになっていた。スタミナは全くついていないが瞬発力にスピード、パワーは桁違いに増えている。最高速度もかなり更新し、スピードだけなら十分すぎる状態となった。これなら未勝利戦は圧勝できるだろう。私としてもここまで指導した甲斐があったというものだ。

 

「ふむ、やはり逃げはダメか……」

 

 そして意外なことに、と言っていいのかハルウララは逃げや先行の才能がなかった。それこそスタミナと同じレベルの才能のなさだ。とてもではないが成長の余地はなかったために差しや追い込みをやらせてみたがこれが中々光るものがあるように感じた。本人がいつも後方にいたために見慣れた光景で落ち着くのかそれとももともとの才能ゆえか……。

 

「ハァ……ハァ……。どう? 成長、してる?」

「それはこの結果を見てみればわかりますよ」

 

 そう言って私はストップウォッチを見せる。そこに表示された数字は指導初日に計測したタイムより、数秒早かった。確かな成長を教えてくれるものだった。

 

「っ! やったやったー!!」

「レースでこれだけ出せれば1着も十分可能でしょう」

 

 無邪気に喜ぶハルウララに更なる朗報を伝える。三冠どころかGⅠも厳しいかもしれないが1着を取り、そこそこなウマ娘として歴史に残せる程度には育った……、いや。その土台ができたというべきだろう。ここから伸ばせるかは今後の本人次第だ。

 練習を重ねるうえでハルウララとは約束した。指導する期間を次の未勝利戦が行われる前日までと。そして今日がその日だ。つまりハルウララはぎりぎりで指導をものに出来たというわけだ。それだけ彼女の覚悟が本物で努力を絶やさなかったから得られたものだ。

 気づけばハルウララからは敬語が消えていた。年齢が2歳しか違わないと判明したためだろう。私としてはそれでもかまわないがこちらが敬語を崩すことはなかった。私が素を出して話すのはほとんどいない。せいぜいが違法レースの主催者だが別に親しいからではない。取り繕う意味がないからというだけの話だ。

 

「では私の指導はこれで終わりです。明日に備えて今日はじっくりと休んでください。休息を取らないと疲れが抜けることはありません。それで未勝利戦で負けたとなっては目も当てられませんから」

「うん。そこは理解しているから大丈夫!」

 

 そう言って笑っているハルウララだったが退学の危機というのは思いのほか焦りを生んでいたのか最初の方は寝る間も惜しんでトレーニングを行っていた時もあり、その時は数日間休みを取らせないと脚を壊しかねないほど危険な状態になりかけていた。ハルウララも過酷なトレーニングをしすぎて走れない体になるのは本末転倒であると理解できたのかそれ以降休みをきちんととるようになっていた。

 そんなわけで彼女が休みを取らないで失敗するという事はないだろう。問題は緊張や興奮で眠れないという可能性が若干存在する事だがその時はそうならない心を落ち着かせてほしいものだ。

 

「では私の指導は今日をもって終わりです。少しは役にたてましたか?」

「もちろんだよ! 多分、わたし一人じゃここまで成長は一生できなかったと思うから……」

 

 そう言ってどこか自嘲するような笑みを浮かべるハルウララ。トレーニングを続けるうえでハルウララの雰囲気がどこかおかしくなっているとは思っていたが時々しか見せないうえに体に影響するものではないから放置していた。カウンセリングをするようになれば更なるかかわりを持つことになる。そこまで彼女に時間を尽くす理由がないからな。あくまで私たちの関係は指導をする者とされる者。それ以上でもそれ以下でもないのだ。

 ……でも、この三か月で確かにハルウララに情を持ったのも事実だ。きっと今後何か理由がない限りレースではハルウララを応援するだろう。それだけ太いつながりを持った彼女に未勝利戦に勝てるように()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……では最後にアドバイスというか未勝利戦に挑むうえでプレッシャーをなくしてあげましょう」

「え? それっていったいどういう……」

 

 私はハルウララの言葉を最後まで聞かずにその場から走り出した。さぁ、ハルウララ。ウマ娘としてすべてにおいて異端であり、神に祝福されたとしか思えない才能を見せてあげよう。しっかりとその目に焼き付けるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 三か月前に指導をしてほしいと頼み込んだ相手、シュバルツカイザーさんは本当にすごかった。だってトレーニングをすればするほどウララの力が高まっていくのが分かった。多分ほかの人に比べれ微々たる程度の成長かもしれないけど全然成長できなかったわたしにとっては初めて感じられる努力したことによる成長。それがとてもうれしかった。

 そしてシュバルツカイザーさんは、指導は素人だと言っていたけどそう思えないほど指導の仕方が上手だった。わたしはそんなに賢くなくて理解力がないって言われているけどわたしにも理解できるわかりやすい内容だった。だから最後まで分かったうえでトレーニングができていた。

 長いようで短い、薄いようで濃密な三か月のトレーニング。それでわたしは未勝利戦に勝てるだけの力を得られたと思う。少なくとも()()()()()未勝利戦なら勝てるだけの力が。もうすぐ今年度が終わるこの時期、未勝利戦に出るウマ娘はどれもレベルが低い。そういわれている。だって強い人はみんな最初の方に未勝利戦を終わらせるんだもん。だから時期によっては未勝利戦が行われないときもあるって聞いたことがある。シニアクラスにいる、シンボリルドルフさんが入学したときがまさにその時期だったらしい。だから今も未勝利戦ができる今年度はそれだけ強いウマ娘が少なかったという事、になるのかな? どっちにしても負けたら終わり。だから頑張らないと。

 

「……では最後にアドバイスというか未勝利戦に挑むうえでプレッシャーをなくしてあげましょう」

「え? それっていったいどういう……」

 

 そして、最後の走り込みを終えて指導が終わったと思ったけど最後にシュバルツカイザーさんはそう言って、走り出した。でも、本当に走り出したのかな? だって気づいたら目の前から消えていたんだもん。そして遠くを見てシュバルツカイザーさんがすごいスピードで走っているのが見えた。

 早い。ただただ早い。まるで車が走っているみたいな速度だった。そして、シュバルツカイザーさんはそのままダートコースから芝コースに速度を落とさずに場所を移した。

 

「……」

 

 ああ、すごいや。あれが()()なんだろうなぁ。そう感じてしまうほどすごかった。ダートと芝。速度を変えずに走ったシュバルツカイザーさんが速度を落としながらこちらに戻ってきた。顔を見てみれば汗一つかいていないで涼しげな表情をしている。その表情が本当ならシュバルツカイザーさんは()()4()0()0()0()m()()()()()()()()()()()ってことなんだろうなぁ。

 

「……どうでしたか?」

「す、すごい……」

 

 私が言えたのはたったそれだけ。それだけしか言えないほどシュバルツカイザーさんの走りは圧倒的だった。多分、どんなウマ娘でもシュバルツカイザーさんに勝つことはできないと思う。そう思ってしまえるほどの強さだった。

 だからこそ、わたしの心はいつの間にか興奮という感情で埋め尽くされていた。嫉妬でも羨望でも感動でもない。まるで神様に出会ったみたいな興奮だった。

 

「……そうですか。見ての通り私の走りを見せました。今のをよく覚えておいてください。そうすれば未勝利戦であなたが敗北することはあり得ませんよ」

「う、うん……」

 

 シュバルツカイザーさんの言葉がどこか遠くから聞こえてくるし、とっても心地よい音色に聞こえる。

 

「ハルウララ。私はあなたの勝利を願っていますよ」

「は、はい……」

 

 そこからの記憶はわたしにはない。気づいたら暗くなった寮の部屋のベッドで横になっていた。あれ? って思ったけど時計を見れば良い時間だったからそのまま眠ることにしたけど、わたしに一体何が起こったんだろう……。

 でも、明日は大事な未勝利戦だしここまで指導してくれたシュバルツカイザーさんのためにも絶対に勝たないと。そしてもっとここでいっぱい、走って……、楽しむんだ……。

 




ハルウララの無邪気な感じの口調難しい……。
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