IS:黒鉄の修羅   作:桐谷 アキト

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12話 忍び寄る脅威

 

 

 

少し前まで高校バスケットボール界隈では二人の選手が『日本最強の矛盾』と呼ばれて注目されていた。

『矛盾』といえば辻褄が合わないことを意味する言葉が一般的だが、彼らの場合は文字通りの『矛』と『盾』であるからこそ『むじゅん』ではなく『ほこたて』と呼ばれていた。

 

二人のポジションはパワーフォワードとセンター。

 

超攻撃型の『矛』と超守備型の『盾』。

 

攻防それぞれに特化した二人のプレイヤー。

 

オフェンス、ディフェンスに役割を完全に分けており、攻めは矛が担い、守りは盾が請け負いお互いの分野にはあまり参加しないというバスケプレイヤーとしては少し珍しい特化型のプレイスタイルの二人。

彼らと試合をした選手らは誰もが口を揃えてこういう。

 

『あいつらこそ、日本最強のコンビだ』と。

 

彼らの最強伝説は高校一年生の時に始まった。

一年生の時点で二人とも恵まれた体格と才能からすでにレギュラー入りしており、中堅程度の実力しかなかったその高校を初めてのウィンターカップ優勝に導いたのだ。

それだけでも十分快挙だったのだが、その快進撃は2年、3年となっても続き、インターハイ、ウィンターカップと高校の三大タイトルのうちの二つを2年連続で優勝という快挙を打ち立てた。

無名の中堅校を、インターハイ連覇、ウィンターカップ3連覇という快挙へと導いた二人の選手は伝説と謳われ、日本最強の高校生コンビとも称されるようになった。

 

その実力から、二人はU18の選手にも抜擢されており国際大会でも世界3位という結果を残していた。

準決勝で最強と謳われていたアメリカ相手に僅差で押し負けてしまったものの、彼らがいたからこそ僅差で負けただけで彼らがいなければ大差で敗北していただろうと言われているほどだ。

日本どころか、世界でも対等に戦える彼らの実力は世界中からも注目され、バスケの最高峰NBAのプロチームからも声がかかっていた。

 

 

高校最強の『矛』ー『最速の得点王』と呼ばれた男は、春沢高校バスケ部主将の小鳥遊冬馬。

彼は現在大学に進学しており、卒業後にはNBAのプロチーム入りが決まっている。

 

 

そして、高校最強の『盾』ー『不抜の守護者』と呼ばれたバスケ部副将だった男こそ、現在IS学園に席を置かされている紫藤迅その人なのだ。

 

 

彼もまた、大学卒業後には冬馬と同じチームに入るという契約を結んでいたのだが………ISを動かしてしまったせいで、その契約はIS委員会の干渉によって強制的に無効化。約束されていた未来を踏み躙られ、彼にとってはこの世で最悪の監獄でしかないIS学園へと押し込まれてしまった。

 

 

故に、彼はIS社会の存在そのものを許さない。

 

 

愛しい家族を奪っただけでなく、自身の将来すら奪い、人権があってないような扱いをしてくるIS社会に関わる全てを憎むようになってしまい、内に抱える憎悪は際限なく高まっていた。

 

 

だからこそ、彼がIS社会を受け入れることは決してない。

 

 

当然だ。誰が己の大切なものを奪った存在を受け入れられる?

 

 

その心に憎悪がある限り、彼がIS社会を受け入れることはあり得ないのだ。

 

 

一度歪んだレールが二度と戻らないように、彼のレールは二度と他者のレールと交わることはない。

 

 

もしも、交わる時があるとすれば、それは———

 

 

▼△▼△▼△

 

 

一夏と鈴音の試合が決まってから数週間が経過し、5月に入った。

あれから一夏と鈴音の仲は一向によくならず、それどころか悪化している。一夏からはまず会いに行かない上、廊下や学食ですれ違っても露骨に無視。全方位に怒っているアピールをしていて面倒極まりない。少なくとも、一夏と行動することがある迅からすれば目障りで不快でしかなかった。

 

「織斑、訓練の調子はどうだ?」

「あ、はい、そうですね。ある程度戦い慣れてきたかなと思いますよ」

「そうか。来週からはクラス対抗戦が始まる。特訓は今日までだから、最後の仕上げってところか?」

「そうですね。また、セシリアと箒に相手してもらいますよ」

 

放課後、空が橙色に染まり始めるのを眺めながら第三アリーナへと向かう道中で迅と一夏はそんな会話を交わす。彼らの少し後ろには箒とセシリアもおり、二人の様子を伺っていた。

 

「うぅ……またしても、無視されてますわ……」

「……どんまい」

 

肩を落とすセシリアを隣を歩く箒が優しく慰める。

あれから迅とセシリアの距離は全く縮まっておらず、これまでセシリアが参加する訓練は全て断られており、彼が一夏の訓練に参加するのはセシリアがいない時だけだ。

彼女はそれでもめげずになんども話しかけてはいるのだが、迅はその悉くを無視。空気のような扱いをし箒と一夏としかまともに言葉を交わさないほどだ。

存在そのものを無視されている事実にセシリアの心は挫けそうだった。

 

「今日はどうするんですか?また一人で自主練ですか?」

「……いんや、今日はお前らの方に参加しようと思ってる」

「「「えっ?」」」

 

予想外の言葉に一夏、箒、セシリアの声がシンクロする。無理もないだろう。セシリアが参加する訓練では必ずと言っていいほど断っていた彼が、あろうことかセシリアも参加する訓練に参加する意志を表明したのだから。

思わず立ち止まりぽかんとする一夏達に迅は足を止めると振り返り小さく笑う。

 

「なんて顔してんだよお前。豆鉄砲でも喰らったか?」

「え、あ、いや、だ、だって、訓練に参加するっていうので……」

「対抗戦最後の訓練だろう?なら、模擬戦ぐらいは付き合ってやるよ。いつまでも同じタイプの奴と戦っても慣れちまうだけだ。他の機体と模擬戦して戦術の幅を増やしとけ」

「あ、ありがとうございます!!」

 

これまで迅は一夏の訓練に参加したことがなかった為、この提案はありがたかった。迅のIS『黒鉄』は防御特化型の重装甲機体。一夏の『白式』とはまさに対極に位置する機体であり、貴重な重量型。破壊力も高く、セシリアがエネルギー兵器なのに対して、実弾兵器がメインであるため、本人の操作技術はまだ拙いが、戦闘経験を積むには申し分のない相手だった。

そんなありがたい話を一夏が断るはずもなく、一気に表情を明るくさせて、元気な声で礼を言った。

 

(こ、これは、もしかしたら今日こそいけるのでは!?)

 

一夏が元気良く礼を言っている時、彼らの後ろでセシリアは思わぬチャンス到来に小さくガッツポーズをする。もしかしたら今日こそ彼と交流ができるかもしれないと。

『黒鉄』の性能を知りたかったのもあるし、何かしらアドバイスができるかもしれない。

そんな一人意気込むセシリアの様子を隣にいる箒はなんとも言えないような様子で見ていた。

 

(…………セシリアは喜んでるが、まぁ、無理だろうな)

 

箒は彼女の願いは叶わないと断言する。

だって、この訓練参加はあくまで一夏の為であり、セシリアに関しては何も触れてないのだ。というか、日々避けられ話すどころか、近づくことすら叶わないのにいきなり訓練で話すことなど無理では?と思ったのだ。もしも近づこうものならISを纏ってるからこそ『黒鉄』で容赦なく迎撃しかねない。

日頃の交流で迅ならばやりかねないと箒は密かに危惧していた。

その時は、自分が全力で彼を宥めようと密かに決意を固めた。なぜ自分が敵認定されていないかはいまだに理解できていないものの、それでもこの学園では彼を説得できる数少ない存在なのだから。

それからしばらく歩き第三アリーナのAピットに到着した一行はドアを開けて中に入る。

 

「待ってたわよ、いち……か……」

 

誰もいないと思っていたが、中には先客がいて腕組みをして不敵な笑みを浮かべる鈴音がいた。

しかし、ドアを開いた瞬間に見えた不敵な笑みを引き攣り、急速に青ざめていく。

それはなぜか。実に単純だ。

 

(な、なんで…‥あの人もいるのよっ!?)

 

迅もいたからに他ならない。

頭上から睨まれただけで気絶したという醜態を晒した彼女からすれば、現状彼は千冬以上に苦手な存在となっている。

一夏に会うことばかり考えていたのだろう。先日の会話で一夏が迅に懐いているのはわかっていたはずなのに、共にいる可能性を考慮していなかったあたり、やはり彼女は脳筋だった。

迅の登場に怯え明らかに狼狽える鈴音に一夏が尋ねる。

 

「なんで鈴がここにいるんだ?」

 

一夏の問いかけに鈴音はハッとすると再び不敵な笑みを浮かべる。しかし、その表情は固い。迅の存在が彼女を緊張させているのだ。

だが、それでも虚勢を張って彼女は問いかけに答える。

 

「あ、あんたに用があるからよ。………で、一夏。反省した?」

「なにがだ?」

「だ、か、らっ!あたしを怒らせて申し訳なかったなーとか、仲直りしたいなーとか、あるでしょうが!!」

(ふざけてんのか?このチビは)

 

迅は鈴音の身勝手な発言に苛立ちを隠せない。

彼は一夏からの相談を受けて状況は把握しており、なぜこうなったのかもよく理解している。一夏の朴念仁も、まぁ問題はあるかもしれないがそれは瑣末なこと。

この目の前のチビの方がよっぽど身勝手で迷惑極まりない。どこまでも自分が上の立場にいると思い、男を見下す。多少の差異はあれど世間の女尊男卑の女共と同じ似た思考回路に、迅はふつふつと怒りが込み上げてきた。

 

「いや、そう言われても………鈴が避けてたんじゃねぇか」

「アンタねえ……じゃあなに、女の子が放っておいてっていったら放っておくわけ!?」

「おう」

 

無理に構って問題が拗れるぐらいなら一夏は放っておく。だって、拗れると面倒だから。それが女心にかなり疎い朴念仁こと一夏クオリティーだ。

 

「なんか変か?」

「変かって……ああ、もうっ!」

 

本当に理解できないのだろう、鈴音は苛立ちに髪をかきむしると苛立ちのままに声を荒げる。

 

「謝りなさいよ!」

 

理由も言わずに謝罪を要求するという理不尽な態度に一夏も不満を露わにする。

 

「だから、なんでだよ!約束覚えてただろうが!」

「あっきれた。まだそんな寝言言ってんの!?約束の意味が違うのよ、意味が!」

「だからその意味を説明してくれよ。そうしたら謝りようがあるだろ?」

「せ、説明したくないからこうして来てるんでしょうがっ!!」

「説明しなきゃ謝りようがねぇだろ!」

 

まさに売り言葉に買い言葉。二人とも苛立ちから声を荒げてしまっている。しかし、このままでは埒が開かないと判断したのか鈴音が指をビシッと一夏に突きつけながら一つ要求をする。

 

「じゃあこうしましょう!来週のクラス対抗戦、そこで勝った方が負けた方に何でも一つ言うことを聞かせられるってことでいいわね!?」

「おう、いいぜ。俺が勝ったら説明してもらうからな」

 

これまでの堂々巡りとは違ったシンプルな要求に一夏は二つ返事で頷き、己の要求を提示する。

分かりやすい要求だから頷いたというのもあるが、この後の訓練では折角迅と模擬戦ができるので、その時間をこれ以上削りたくない。それに背後から感じる迅の不機嫌オーラにそろそろ切り上げないとまずいと本能的に感じていたのだ。それは、彼の後ろにいる箒達も同様だ。

 

「……………チッ」

「し、紫藤さん……」

「い、今は抑えてください……」

 

小さく舌打ちし、鈴音を睨む迅の様子にセシリアが青ざめながら鈴音と迅を交互に見ており、箒がとにかく宥めようとしていた。

既に迅の中では鈴音の評価はセシリアと同レベルにまで下がっていた。先日の後先考えない馬鹿な行動だけでなく、今目の前で行われているやりとりを踏まえた上で、迅はこのチビは目障りだと判断したのだ。

なお、一夏はともかく、激昂している鈴音は持ち前の勘が鈍っているのか彼の様子に気づかないままだ。

 

「せ、説明はその……」

 

そして、鈴音は一夏が要求した対価に指差したままのポーズで固まり表情を赤くさせる。

 

「なんだ?辞めるなら辞めてもいいぞ?」

 

その反応に一夏はよほど話したくないのかと気遣い親切心を見せるが、それは鈴音にとっては逆効果だったようだ。

 

「誰が辞めるのよ!アンタこそ、あたしに謝る練習しておきなさいよ!」

「なんでだよ、馬鹿」

「馬鹿とは何よバカとは!この朴念仁!間抜け!アホ!馬鹿はあんたよ!!」

 

理不尽な要求をしてくるくせにこちらの要求は聞き入れようとせずに罵倒の嵐に一夏はイラッとし罵倒に罵倒を返そうとした時だ。

 

 

「くだらねぇ」

 

 

後ろからあまりにも冷たい声音が聞こえてきた。

ビクッと一夏が振り向けば、迅が冷ややかな眼差しで二人を見下ろしていた。

 

「し、紫藤さん……」

 

一夏の表情は一気に冷水を掛けられたかのように急速に青ざめる。迅は心底つまらないものを見せられたかのように露骨に侮蔑と呆れの色を浮かべながら、苛立ちを顕にした。

 

「さっきから随分とくだらねぇ会話しやがって。ほんと典型的なIS女はクズだな。ヘドが出る」

 

まずいものを吐くように舌を出しながら露骨にそう吐き捨てる迅に鈴音は彼への恐れよりも侮辱された怒りが勝り激昂する。

 

「なっ、クズってなによっ!?クズっていう方がクズなのよっ!というか、脇役はすっこんでなさいよ!今は一夏とあたしが話してんでしょうがっ!!」

 

迅に噛み付く鈴音に一夏、箒、セシリアは先程の鈴音よりも急速に顔を青ざめる。特にセシリアはトラウマを思い出してか、カタカタと震え始める。

今の迅はもはや爆発寸前の爆弾のようなもの。下手に刺激して仕舞えば爆発しかねない。そうなる前に鈴音を止めて迅を宥めなければ。

3人の思考がシンクロし、いざ止めに動こうとした瞬間だった。

 

「…………うるせぇな」

 

間に合わなかった。

あまりにも冷徹な一言と共に初日の時と同等の殺気が容赦なく放たれたのだ。

周囲の空間にそれは容赦なく放たれ、一夏達の身体が恐怖に強張ってしまう。何度か経験のある彼らですらそれなのだ。完全に初見である彼女にはさらに効果的だった。

 

 

「……ひっ」

 

 

怒りで赤かった顔は一気に青白くなり、瞳の端からは涙が溢れ、冷や汗が止まらなくなり、体は小刻みに震える。

勘の鋭い彼女には今の迅の背後で牙を剥き出しに超至近距離で吼える黒虎の姿がはっきりと見えてしまい、殺気によるイメージの具現だとしても喰い殺されると本能的に理解させられた。

 

「騒ぐことしかできねぇクソ餓鬼が。馬鹿馬鹿しい茶番に付き合ってる暇はこっちにはねぇんだよ」

「ひっ……ぁっ……ぅっ」

「テメェの声を聞くだけで不快だ。これ以上騒ぐようなら本気で潰すぞ。それが嫌ならとっとと失せろ」

 

左手を持ち上げグローブを彼女に見えるようにしながらいつでも『黒鉄』を展開できるようにしながらそう言い放つ迅。

本気だ。もしも、これでも鈴音が騒ぎ立てるようなら本当に『黒鉄』を展開して殺しにかかる。

それはこの場にいる誰もが理解させられた。

 

「………っっ」

 

鈴音は迅への恐怖よりも、死への恐怖が優ったのだろう。ビクッと体を震わせると、俯き悔しそうに唇を噛みながら逃げるように迅の脇を通り過ぎAピットを後にした。

 

「り、鈴!」

「やめておけ。どうせ追ったところでさっきの繰り返しだ。とっとと訓練に行くぞ。あのバカのせいで無駄な時間を使っちまったからな」

「…………は、はい。わかりました」

 

慌てて鈴音を追いかけようとする一夏を迅が引き止めると、さっさと歩いていってしまう。

一夏は名残惜しそうにAピットの出口に視線を向けていたが、少しの逡巡の後視線を背けて迅の後をついて行った。

 

 

その後、少々遅れて訓練を始めたのだが、一夏と迅の模擬戦は迅の圧勝に終わった。遠距離での実弾兵器連射によって近づくことすら叶わずに完封されたのだ。

そして、もしかしたらと意気込んでいたセシリアも彼と話すどころか近づくことすら許されず箒に慰められながら訓練に励むこととなった。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

試合当日、第二アリーナ第一試合。組み合わせは一夏と鈴音だ。

噂の新入生同士の戦いとあって、アリーナは全席満員。それだころか通路まで立って見ている生徒で埋め尽くされていた。会場入りできなかった生徒や関係者は、リアルタイムモニターで鑑賞するそうだ。

各々、食堂や教室で待機している。

 

(…………と、そんなこと気にしている場合でもないか)

 

一夏の視線の先では、鈴音と赤紫色のIS『甲龍』が試合開始の時を静かに待っている。『ブルー・ティアーズ』同様、非固定浮遊部位が特徴的だ。肩の横に浮いた棘付き装甲の主張がとても激しい。

あれが何かしらの特殊武装なのは間違い無いが、一夏はあれで殴られると痛そうだなと、とりあえず思った。

 

(しかし、名前の読みがとあるものを連想してしまうな。漢字違うけど。……よし、俺の中であの機体は「こうりゅう」だ。漢字だし、それでいいだろ)

 

一夏的に『甲龍』の正式名称は某漫画の願いを叶えてくれる存在を連想してしまうので、彼の脳内限定で改名した。思ったよりもリラックスできていそうだった。

 

『それでは両者、規定の位置まで移動してください』

 

アナウンスに促されて、一夏と鈴音は五メートルの距離を開けて空中で向かいあうと開放回線で言葉を交わす。

 

『一夏、今謝るなら少しくらい痛めつけるレベルを下げてあげるわよ』

『雀の涙くらいだろ。そんなのいらねえよ。全力で来い』

 

一夏は真剣勝負で手を抜くのも抜かれるのも嫌う。

全力でやって、初めてそこに意味が生まれるからこそ、彼は手を抜かない。

 

『一応言っておくけど、ISの絶対防御も完璧じゃないのよ。シールドエネルギーを突破する攻撃力があれば、本体にダメージを貫通させられる』

『……………』

 

彼女の言葉は事実だ。

その証拠に、IS操縦者に直接ダメージを与えるためだけの装備も存在する。『黒鉄』の武装にもいくつか存在している。

無論、それは競技規定違反だし、何より人命に危険が及ぶ。しかし、そうでなくてもISの武装ならばー

 

 

 

『殺さない程度にいたぶることは可能である』

 

 

 

鈴音を始めとした代表候補生クラスはそれがおそらく可能だ。あの時セシリアを追い詰めることができたのが奇跡だったのだ。

そして、奇跡とはそう連続で起こるものではない。

 

『それでは両者、試合を開始してください』

『行くぞっ!!』

 

ビーっと鳴り響くブザー。それが切れる瞬間に二人は動き、瞬間一夏の《雪片弐型》が物理的な衝撃で弾き返された。

 

「っっ!?」

 

辛うじて直感で反応して弾くことはできた。しかし、その衝撃が何かが見えなかったのが彼の心に小さな動揺を生む。

その動揺をどうにか堪えた一夏は三次元躍動旋回を行い、鈴音を正面に捉えたが、その時にはすでに眼前に迫っていた。

 

「ふぅん。初撃を防ぐなんてやるじゃない。けど、いつまで続くかしらねっ!」

「うおっ⁉︎」

 

彼女が手にする両端に刃のついた異形の青龍刀ー大型ブレード『双天牙月』をバトンでも扱うかのように軽々と回しながら切り掛かってくる。

縦横斜めと鈴音の手によって自在に角度を変えながら襲いかかる斬撃に、一夏は刃をぶつけて捌くので精一杯だった。

 

(つ、強ぇっ!この動きを一年ってマジかよっ!?)

 

彼女が中国代表候補生になるまでにかかった期間は一年ほどと聞いていたから知っている。

それまで彼女はISに乗ったことなどなかったはずなのに、セシリアにも劣らない高い練度に一夏は冷や汗が止まらない。

先手を打つどころじゃない。防戦一方だ。

彼女のIS『甲龍』は近・中距離両用型だが、機体のスペックを見れば近接寄りのパワータイプだ。彼女の気質も相まって接近戦が最も光るのかもしれない。一年もたたずに代表候補生を手にした者の実力の一端を一夏は思い知った。

 

「随分と耐えてるじゃない。だったら、これならーー」

 

そう言うと鈴音は『双天牙月』を真ん中で折る。いや、違う。分離したのだ。それが意味するところはーー

 

(に、二刀流っ!?)

「どうかしらねっ!!」

 

一夏がそれに気づいたと同時に、両手にそれぞれ青龍刀を手にした鈴音が襲いかかる。

先程のバトンを振り回すような動きとは違い、踊るような動きで双剣を巧みに操り切り掛かる。速度は一本の時よりも早いのに、『雪片弐型』から伝わる重さは少し軽くなった程度だ。高速回転を織り交ぜた猛攻を前に一夏はますます攻撃に当たることができていなかった。

 

(まずいっ。このままだとジリ貧だっ。一度距離をとってーーー)

「甘いっ!!」

 

一時後退を選択し鈴音からどうにか距離を取ろうとした一夏にそれは襲いかかる。

鈴音の肩アーマーがスライドして開き、中心の球体が光った瞬間、一夏は目に見えない衝撃に殴り飛ばされていた。

 

「がぁっ!?」

 

未曾有の衝撃に一瞬飛びかけた意識を慌てて取り直すが、当然鈴音が待つはずもない。

 

「今のはジャブだからね」

 

にやりと不敵な笑みを浮かべた直後、再び一夏は目に見えない衝撃に殴り飛ばされる。

 

「ぐぁっ!」

 

一夏は大きく吹き飛び、地表に叩きつけられる。

突き刺すような痛みがシールドバリアーを貫通して届き、痛みに悶える。シールドエネルギーも76減っていた。

 

 

(見えない攻撃。肩のアーマーが光った直後だ……てことは、あれが特殊武装かっ)

 

 

痛みに悶えながらも状況を分析し、一夏は一つの解に至る。

今の攻撃、それこそが鈴音のー第三世代型IS『甲龍』の特殊武装なのだと。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

「なんだあれは……?」

 

四つのピットの一つ、Aピットからリアルタイムモニターを見ていた箒が呟いた。それに答えたのは同じくモニターを見つめるセシリアだった。

 

「『衝撃砲』ですわね。空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾化して撃ち出す第三世代型兵器ですわ」

 

ちなみに、他の生徒達と違い何故彼女達が千冬や真耶達とピットにいるのかというと、シンプルに彼女らが直前まで一夏に試合の打ち合わせなどを行なっていたからだ。

飛び立つ直前まで作戦会議をしていた為に、今からでは観客席に座ることはおろか、通路も埋まっているため満足に試合を見られないのは明白なため、特別措置として許したのだ。なお、迅も箒達と同じピットにいて、箒達から離れ横の壁に背を預け腕を組みながら試合の成り行きを静かに見守っていた。

彼も万が一を想定して、というよりは女子生徒と同じ空間で試合を見させると何が起こるかわからないため、ピットへの入室許可が降りていた。

 

(一夏———)

 

一夏がダメージを受けるたびに、箒の胸はずきりと痛む。セシリアの時よりも激しい戦闘を目の当たりにして、箒は勝利よりもただただ無事を願っていた。

そんな時、箒は視界の端で大きな影が動いたのに気づき、そちらへと振り向く。その視線の先には迅の姿がありモニターに背を向けて出入り口に歩いていただ。

 

「紫藤さん?一体、どちらへ?」

「喉が渇いたから、なんか適当に飲み物を買ってくるだけだ。すぐに戻る」

 

簡潔に目的を問うた箒に迅は歩きながらそう答えると出入り口のドアへと歩いて、そのまま出て行った。

セシリアはほどなくして閉まったドアの方を見ながら千冬へと尋ねる。

 

「あの、織斑先生、紫藤さんをお一人にして大丈夫なのですか?」

「………まあ、問題はないだろう。好きにさせておけばいい」

「そう、ですか」

 

セシリアや箒は知る由もないが、迅の黒鉄には居場所を把握するためのGPSが付けられている。彼は一夏や箒が近くにいないときは、基本的に教員を寄せ付けず単独行動をとっている為、有事の際にすぐに駆けつけられるように取り付けているのだ。

千冬がタブレットを見れば、彼はAピットを出た後通路を通っているところだった。その先にはアリーナの出入り口の扉がある。恐らくは、外に設置されている自動販売機に向かっているのだろう。アリーナ内部にも自動販売機はあるのだが、ここからは少し離れている上に、女子生徒が屯している通路ではおちおちのんびりと飲むこともできない。故に外に出ようとしているのだろう。

 

(…………これは、戻るのに時間がかかりそうだな)

 

外から戻り、再び通路を通りこちらに戻ってくるだけでも少々時間を要してしまう為、もしかしたら、試合の決着に間に合うかどうかわからない。

その為、千冬は密かに彼に見せるように試合記録を学園として保管しておくのとは別で録画しておこうと決めた。

 

 

 

———この時、千冬は判断を間違えた。

 

 

 

———彼を1人で行かせるのではなく、護衛も兼ねて共に行くべきだったのだ。

 

 

 

———たとえ、嫌そうな顔をされても、どんな反応をされようとも、それでも、ここは真耶に任せて彼に付き添うべきだった。

 

 

 

———そうであれば、あんな事にはならなかったというのに。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

「…………ふぅ」

 

千冬の予想通り、迅はアリーナ外の自動販売機で飲み物を買っており、近くにあったベンチに腰掛けて一息ついていた。

背もたれに深々と凭れる彼は、アリーナの方へと視線を向けて見上げると小さく呟いた。

 

「…………やっぱ、見てて気分が悪くなるな。ISの試合ってのは」

 

彼が外に出たのは何も喉が渇いたからだけではない。

IS同士が戦う試合をみていて気分が悪くなったからだ。正確には、胸糞が悪くなったと言うべきか。

彼にとってISとは殺戮兵器だ。世間一般的にはスポーツ興業として人気があり、IS学園はそのアマチュアの試合だと言われていたとしても、彼からすれば殺戮兵器の性能を競い合いどちらが優れているかを見せているだけにしか見えていなかった。

自分の家族を殺したISが、一つのスポーツ競技として世界に周知されている。その事実に迅は酷い嫌悪感を感じていた。

たとえ親しい一夏が出ていたとしても、ISに乗って戦っている以上、楽しく観戦などできなかったのだ。

前からそうだった。ISの試合動画を動画越しでもみただけで気分が悪くなっていた。酷い時には吐いてしまうほどに。だからこそ、こうなるのは必然だった。

おそらく、彼の試合時間内に戻るのは無理だろう。気分を落ち着かせるのに、見積もっても十分はかかるだろう。

 

「………あいつには悪いことしたな」

 

いくら気分が悪いとはいえ、迅は一夏に申し訳ない気持ちもあった。あれだけ熱心に訓練に打ち込んでいたのに、肝心の試合を途中で抜けてしまったのだから。

とはいえ、彼の性格上、迅を責めることはしないだろう。その優しさが余計に彼に罪悪感を抱かせた。

 

「………ちゃんと謝っておくか」

 

そう小さく呟くと、試合の喧騒を遠くで聴きながら、目を閉じた。

 

 

 

『……………………』

 

 

 

———そんな彼の姿を、決して遠くない距離で見ている者がいるのに彼は気づかなかった。

 

 

 

▼△▼△▼△

 

 

「よく躱すじゃない。衝撃砲《龍砲》は砲身も砲弾も目に見えないのが特徴なのに」

 

試合が始まり数分、鈴音は余裕に満ちた様子を見せる。対する一夏は、明らかな疲労を顕にし、険しい表情を浮かべていた。

彼女の特殊武装《龍砲》が相当厄介な代物だったのだ。砲弾が目に見えないだけでなく、砲身すら目に見えない。しかも、砲身射角がほぼ制限なしであり、真上真下、真後ろまで対応可能なのだ。射線こそ直線だが、操縦者の鈴音の技量が高いがために、無制限軌道と全方位への軸反転、基礎の全てを高いレベルで習得し、無理のないレベルで融合しているのだ。

素人目から見てもかなりの強敵だということは確かだった。

 

(ハイパーセンサーに空間の歪み値と大気の流れを探らせているが、これじゃ遅い。撃たれてからわかっているようなものだ。どこかで先手を打たなくては……)

 

一夏は鈴音の周囲を旋回し狙いを定めさせないようにしながら砲撃を回避していく。もっとも、狙いの精度がかなり高いため、一発一発に全神経を注がなければ回避できず、相当な集中力を要している。

そんな中、一夏は《雪片弐型》を握りしめながら、先日の訓練を思い出す。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

『あれだな。お前は自分の得意を極めた方がいいタイプだな』

 

 

初めて一夏の訓練に迅が参加したときの日だ。

一夏と箒、セシリアとの模擬戦を見終わった迅の第一声がそれだった。

 

『えっと、それはどういうことですか?』

 

二度の模擬戦を終えて休憩をしていた一夏はそんな発言に首を傾げてしまう。箒や、少し離れたところにあるセシリアも首を傾げる中、迅は己の結論を改めて口にする。

 

『お前の機体『白式』の単一使用能力……あー、なんだったか『零落白夜です』あぁ、それだ。その能力を考えたら、お前は下手に策を弄したり、複数の武装を使いこなすよりも、剣を振ることを極めた方がいいと思ったんだよ。多分、お前の性格的にもそっちの方があってる』

『……えーっと、そう、ですかね?』

『ああ。良くも悪くも真っ直ぐなやつだ、お前は。そういう奴はあれこれ使うよりも、一つのことを極めた方が性に合ってる。お前の場合は刀だな』

『で、でも、俺も銃とかを使いながら戦ってみたいなって気持ちはあるんすけど……』

『機体特性的に無理だから諦めろ。お前の機体がその剣以外武装を搭載できない以上は、あるものを使いこなすしかねぇ。だとしたら、必然と相手に迫っての剣での近接戦だ』

『うぅ……それは、そうっすけど……』

 

『白式』に射撃武装はないため、使いたいと思っても使えないという事実に一夏は肩を落とす。

そんな彼に迅は更に続ける。

 

『お前の性格的に戦闘中のマルチタスクをやると、多分パンクして半端になるな』

『そ、それは、言い過ぎでは…?』

『じゃあできんのか?射撃戦闘』

『………できません』

『だろうな。てか、そもそもIS戦闘は素人だろ。出来なくて当然だ。それなら、昔経験のある剣道をベースにした近接戦闘を主軸にした方がイメージしやすいんじゃねぇのか?』

『た、たしかに……』

 

迅の説明に一夏は成程と頷く。

よく見てるなと一夏は感心すらしていた。しかも、今回が初参加で、二度模擬戦を見ただけでその結論に至るとは思っていなかったのだ。

観察眼が優れてるのもあるだろうし、以前バスケ部の副主将をやっていたということから、作戦を組み立てたりもしていたのだろう。

観察眼、着眼点が見事だった。

 

『と、いうわけでだ』

 

そう言うと迅は徐に『黒鉄』を展開すると、両手に重火器系の遠距離武装を展開した。

そして、捕食者を思わせるような獰猛な笑みを浮かべると容赦なく言い放った。

 

 

『俺との模擬戦はひたすら回避の練習だ。俺の射撃練習も兼ねて撃ちまくるから、どうにか回避して俺との距離を詰めろ』

 

 

▼△▼△▼△

 

 

そこからは文字通りの滅多撃ちだった。

ひたすら爆弾、散弾、ガトリングなどなど、ひたすら遠距離武装で狙われ続け、結果から言えば彼の元に辿り着けなかった。

だが、その訓練のおかげで急加速急停止といった基礎移動技能の訓練を行えたし、箒との近接戦闘では『刀』の間合い特性を再度把握することができた。

 

(あとはまぁ……気持ちで負けないってことだな)

 

冷静に考えれば実力差は歴然としている。

つい数日必死に訓練したところでその差は縮まらない。では、何で埋めるか?

『心』だ。気持ちでは、相手に負けない。強い意志を持ち相手に挑むことで絶望的な状況であっても勝機を見出すのだ。

 

「鈴」

「なによ」

「本気で行くからな」

 

真剣な眼差しを向ける一夏。その瞳には、何がなんでもお前の懐に辿り着くというような強い意志が感じられ、鈴音は曖昧な表情を浮かべる。

 

「な、なによ……そんなこと、当たり前じゃない……。とっ、とにかくっ、格の違いってのを見せてあげるわよ!」

 

鈴音も本気になったか、あるいは虚勢をはっているのか。真意はわからないが、鈴音は表情を一転させてバトンのように両刃青竜刀を一回転させて構え直す。

一夏は衝撃砲がその砲火を噴く前に距離を詰めようと加速姿勢に入り、この一週間で身につけた技能を使う。

 

『瞬時加速』

 

ISの後部スラスター翼からエネルギーを放出、その内部に一度取り込み、圧縮して放出する。その際に得られる慣性エネルギーをして爆発的に加速することで、相手に一気に接近する技能だ。

出しどころさえ間違わなければ代表候補生クラスとも渡り合えるものだ。意識がブラックアウトしかねないほどの急激なGの負荷が操縦者にかかるものの、ISの操縦者保護機能が防いでくれる。

 

「うおおおおおおっ!!!!」

 

使えるのは一度きり。

それは一夏がISの素人だから使えないという彼女の慢心の隙をついた戦法だからこそ、二度目はない。

故に、一夏は《零落白夜》を発動し、一度きりのチャンスで確実に勝ちに行く。

 

「っ!?」

 

その作戦は功を奏したのか、鈴音は不意をつかれたのか硬直してしまい、一瞬反応が遅れてしまっていた。今から動いても遅い。衝撃砲も間に合わないだろう。

そうして彼の思惑通り、鈴音にエネルギーの刃が届こうとした、次の瞬間だった。

 

 

 

 

 

ズドォォォォォォォォンンンン!!!!

 

 

 

 

 

突然、大きな衝撃がアリーナ全体に走り、ステージ中央の地面が爆発した。

 

 

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