IS:黒鉄の修羅   作:桐谷 アキト

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13話 襲撃

 

 

 

鈴音に刃が届きそうになった瞬間、アリーナを襲った衝撃。その衝撃によるものか、ステージ中央からは黒煙が上がっていた。

 

「な、なんだ?何が起こって……」

 

突然のことに訳がわからず混乱する一夏に、鈴音からプライベート・チャンネルが飛んできた。

 

『一夏、試合は中止よ!すぐにピットに戻って!』

 

鈴音の言葉にいきなり何を言い出すんだと言おうとした時、ISのハイパーセンサーが緊急通告を行ってきた。

 

———ステージ中央に熱源。所属不明のISと断定。ロックされています。

「なっ……」

 

その警告が表示されてようやく彼は気づいた。

先程の衝撃。それは、アリーナの遮断シールドを貫通できるほどの破壊力を有している。そして、遮断シールドはISと同じもので作られている。つまり、ISのシールドを貫通できる火力を有する機体が乱入し、こちらをロックしているということ。

 

 

すなわち、命を狙われているということに。

 

 

『一夏、早く!』

「お前はどうするんだよ⁉︎」

 

まだプライベート・チャンネルの開き方がわからない一夏は、普通にオープン・チャンネルで聞き返した。

 

「あたしが時間を稼ぐから、その間に逃げなさいよ!」

「逃げるって………お前を置いてそんなこと出来るか!」

「馬鹿!アンタの方が弱いんだからしょうがないでしょうが!」

 

遠慮のない物言いだが、それは事実だ。

だが、たとえそうだとしても彼女を置いていく選択肢など彼の中には初めからない。

 

「別に、あたしも最後までやり合うつもりはないわよ。こんな異常事態、すぐに学園の先生達がやってきて事態を収拾———」

「あぶねえっ!!」

 

間一髪、一夏は鈴音の体を抱き抱えて攫う。直後、さっきまでいた空間が熱線の砲撃が通過した。

 

「ビーム兵器かよ……。しかも、セシリアのISより出力が上だ」

 

ハイパーセンサーの簡易解析でその熱量を把握した一夏は、競技用のソレをはるかに超えるであろう熱量に背中に冷たいものが伝っていくのを感じた。

 

「ちょっ、ちょっと、馬鹿!離しなさいよ!」

「お、おい、暴れるな。———って、馬鹿!殴るな!!」

「う、うるさいうるさいうるさいっ!!だ、大体、どこ触って———」

「!来るぞ!!」

 

助けたのに騒ぐ鈴音はさておき、煙を晴らすかのようにビームの連射が放たれる。それを鈴音を抱えながらどうにかかわすと、煙の中から射手たるISがふわりと浮かび上がってきた。

 

「な、なんなんだこいつ……」

 

現れたISは異形という他になかった。

カラーリングは深い灰色。手が異常に長く、つま先よりも下まで伸びている。しかも、首というものがなく、肩と頭が一体化していた。

何より特異なのが、『全身装甲(フルスキン)》だったのだ。

通常、ISは部分的にしか装甲を形成しない。それは、全身に装甲を改正する必要がないからだ。防御はほとんどがシールドエネルギーや絶対防御によって行われているため、見た目の装甲というのはあまり意味をなさないため、一ミリも肌を露出しないISというのは聞いたことがなかった。

その巨体も普通のISではないことを物語っている。腕を入れると二メートルを越える巨体は、姿勢を維持するためなのか全身にスラスター口が見て取れる。頭部には剥き出しのセンサーレンズが不規則に並び、腕には先ほどのビーム砲口が左右合計四つもあったのだ。

 

(紫藤さんの『黒鉄』も大概だが、コイツも普通じゃないな)

 

一夏は迅の『黒鉄』の姿を思い出しながらそんなことを思う。

防御特化型であり要塞仕様の『黒鉄』は、見た目はほぼ完全装甲型という数少ない例外であり、頭部と首以外を覆う装甲は衝撃吸収、耐熱才能を兼ね備え、並のISの装甲よりも頑丈かつ高性能だ。たとえシールドエネルギーが減少し、エネルギーでの防御能力が落ちたとしても、物理装甲の防御性能を底上げすることでより長時間の継戦能力を可能にすることを目的として設計されている。5メートルを超える巨体なのも、要塞仕様として設計されたからだ。

とにかく、『黒鉄』と同様に何らかのコンセプトがあるのだとしても目の前の襲撃者のISも特異な形状なのは確かだった。

 

「お前、何者だよ」

『…………対象『織斑一夏』を確認。任務開始』

 

謎の襲撃者は一夏の問いかけに、無機質な機械音声でそう返した。その言葉に一夏は少し顔を青くする。命を狙われているという不安にかられたのだ。

 

『織斑くん!凰さん!今すぐアリーナから脱出してください!すぐに先生たちがISで制圧に行きます!!』

 

回線に割り込んできたのは真耶だ。

心なしか、いつもより声に威厳があった。生徒の命の危機なのだ。普段は頼りなくても、教師としての役割を全うすべく必死なのだろう。

 

「———いや、先生達が来るまで俺たちで食い止めます」

 

あのISは遮断シールドを突破できてしまっている。

それはつまり、やろうと思えば観客席の人間を殺すことも可能ということであり、ここで足止めをしなければ大勢が死んでしまう。

 

「いいな、鈴」

「だ、誰に言ってんのよ。そ、それより離しなさいってば!動けないじゃない!」

「ああ、悪い」

『織斑くん⁉︎だ、ダメですよ!生徒さんにもしものことがあったら———』

 

鈴音を離した一夏に真耶がなんとか引き留めようとしていたが、言葉は途中までしか聞けなかった。敵ISが体を向けて突進してきたからだ。

集中していたおかげで回避はできたが、敵ISは驚くほど滑らかな動きで反転してこちらへとレンズを向けてきた。

 

「ふん。向こうはやる気満々みたいね」

「みたいだな」

「あたしが衝撃砲で援護するけど無理はしないでよ。あたしらはあくまで時間稼ぎなんだから」

「ああ、わかってるさ。それじゃあ、行くか」

 

横並びになった二人はそれぞれ構えた得物の切先を当てて、即席コンビネーションで飛び出した。

 

 

彼らの勝利条件は教員部隊が救援にくるまで生きていること。敗北条件はどちらかが死ぬことだ。

 

 

二人はそのつもりで戦っている。お互いを死なせないために守り勝とうとしていた。

 

 

 

だが、彼らはまだ知らない。

 

 

 

襲撃者は初めから、織斑一夏の命を狙ってなどいないということを。

 

 

 

敵の真の目的。それは———。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

「もしもし⁉︎織斑くん聞いてます⁉︎凰さんも!聞いてますー⁉︎」

 

プライベートチャンネルはまだつながってはいるが、二人は完全に真耶の言葉を無視して戦闘に入ってしまった為、一向に返事は返ってこなかった。

 

「織斑先生!わたくしに出撃許可を!すぐに出撃できますわ!!」

「そうしたいところだが……これを見ろ」

 

謎の襲撃者と一夏達が戦っている状況に救援に向かうべくセシリアが千冬に出撃許可を求めるが、望んだ答え帰ってこず、千冬はそう返しながらタブレットに表示されている情報を見せた。

表示されている数値はこの第二アリーナのステータスチェックだった。

 

「第二アリーナの遮断シールドがレベル4に設定……?しかも、扉が全てロックされてーーーあのISの仕業ですのっ⁉︎」

「ああ、そのようだ。これでは避難することも救援に向かうこともできないな」

 

一見落ち着いた様子で話す千冬だったが、その声の節々や忙しなく画面を叩く指から彼女も苛ついているのは明白だった。

 

「で、でしたら!緊急事態として政府に助勢を———」

「既にやっている。現在も3年の精鋭がシステムラックを実行中だ。遮断シールドを解除できれば、すぐに部隊を突入させる。…‥そうさせたいが、くそっ」

「織斑先生?」

 

何かを見て思わず悪態をつく千冬にセシリアが首を傾げる。千冬は苦々しい表情でたった今、その3年の精鋭から送られてきた報告を伝えた。

 

「………最悪なことに、外部からの干渉を一切受け付けなくなっている。再起動もできない。これでは、解除どころか何もできないっ。してやられたっ」

「そんなっ⁉︎」

 

ますます募る苛立ちに千冬は等々盛大に顔を顰める。それを見たセシリアは、よほどの緊急事態なのだと受け取り頭を抑えながらベンチに座った。

 

「ということは…‥わたくしは、何もできないということですか……」

「そう、なるな。救援を送ることすらもできない。あの二人でどうにかするしかなくなってしまった。……だが、仮にどうにかできても救援部隊にはお前は入れないから安心しろ」

「な、どうしてですかっ⁉︎」

「足手纏いになるからだ。一対多で活きるお前のISは、逆に多対一では邪魔になる」

「そんなことはありませんわ!このわたくしが邪魔だなどとー」

「では連携訓練はしたか?その時のお前の役割は?ビットをどういう風に使う?味方の構成は?敵はどのレベルを想定してある?連続稼働時間───」

「わ、わかりました!もう結構です!」

「ふん。分かればいい」

 

完全に反論の道が絶たれセシリアは両手を揺らして降参の意思を示す。放っておけばそれこそ一時間は続くと予感したからだ。

 

「はぁ……。言い返せない自分が悔しいですわ……」

 

どっと疲労が押し寄せてきて、かなり深いため息をつくセシリア。そんな時、それまで黙って傍観していた箒があることを尋ねる。

 

「あ、あの、織斑先生、紫藤さんは大丈夫なのでしょうか?」

 

彼女が気にしているのは迅のことだ。

先ほど飲み物を買いに行ったきり、帰ってきていない。一夏のことも心配だったが戻ってこない彼のことも心配だったのだ。

千冬はタブレットの表示を切り替え、『黒鉄』の位置を確認しながら答える。

 

「…………『黒鉄』の反応を見る限り、アリーナの外、西ゲート前のベンチにいるな。おそらく、アリーナの入り口もロックされているのだろう。敵が一体で織斑達が交戦している今、彼に被害が及ぶことはないはずだ」

「そ、そうですか。それなら良かっ……」

 

箒だけでなくセシリアも彼がとりあえず無事であることを安堵し、箒が『良かった』と言おうとしたその時、その報せは齎された。

 

 

 

「お、織斑先生っ‼︎新たな熱源反応を三体感知しました‼︎」

 

 

 

新たな敵の出現。

それも三体だ。更なる襲来に千冬たちの表情は自然と険しいものへと変わる。

 

「場所はどこだっ⁉︎」

「場所はっ…うそっ、そんなっ⁉︎」

「どうしたっ⁉︎どこに出たっ⁉︎」

 

襲撃者の出現から嫌な予感がし始めていた千冬は焦燥を露わにし真耶に敵の出現場所を問う。

真耶は顔を青ざめさせながら、震える声音でその場所を告げた。

 

 

 

「に、西ゲート前ですっ‼︎」

 

 

 

それを聞いた瞬間、千冬達はあまりの衝撃に言葉を失う。

新たに現れた三つの熱源反応。

 

 

なぜ、一度目の襲撃者と同時ではなく時間差で出現したのか?

 

 

なぜ、西ゲート前になどいるのか?

 

 

なぜ、そちらに三体現れたのか?

 

 

そこには、何か重要なモノはない。

 

 

いるのは、彼ただ一人のはずだ。

 

 

答えなど、考えるまでもなかった。

 

 

 

「「「——————ッッ‼︎」」」

 

 

 

今現在、一夏と鈴音が戦っている襲撃者。

ただ闇雲に襲撃しているのではない。アレには重要な役割があったのだ。

 

その役割とは、すなわち『陽動』。

 

敵の本当の狙いとは『紫藤迅』だったのだ。

 

すぐさまその答えに至り、焦燥を露わにする三人。

そして、千冬が口を開こうとした瞬間、千冬達を嘲笑うかのように、

 

 

「く、『黒鉄』の展開反応ありっ‼︎場所は同じく西ゲート前ですっ‼︎‼︎」

 

 

最悪の報せが真耶により齎された。

瞬間、千冬は叫んだ。

 

「オルコットォォォっ‼︎‼︎今すぐに紫藤の救援に向かえぇっ‼︎‼︎」

「はいッ‼︎‼︎」

 

千冬が指示を出す寸前に駆け出していたセシリアは、その疾走の勢いのまま耳のイヤーカフスを輝かせ機体を展開すると、床を破壊し真下のピットに降りてステージへと向かった。

それを見送りながら、千冬は乱雑に髪をかきむしりながら声を荒げる。

 

「なんてことだっ‼︎よりによって、このタイミングでっ‼︎くそっくそぉっ‼︎」

「お、織斑先生……」

 

怒り、焦燥、苛立ちを露わにするというかつて見たことない千冬の姿に、真耶だけでなく箒も驚きを隠せない。だが、そんな周囲の反応などどうでもいいほどに、千冬はひどく狼狽していた。

 

「こんなことならっ、私がついていけばっ」

 

千冬は己の判断を呪った。

なぜついていかなかったのだと。なぜ一人にしたのだと。その結果、彼がたった一人で戦わざるを得ない状況になってしまっている。

しかも、仮に新たな三体の強さが現在一夏達と戦っている襲撃者と同等であるならば、間違いなく勝てない。

しかし、助けに行こうにもISもない自分では無理だ。

 

「頼むっ、間に合ってくれっ‼︎」

 

だからこそ、祈るしかなかった。

迅がセシリア達の救援が到着するまで無事でいてくれることを。

同時に、彼を守ると誓ったはずなのに、他人頼みなこの状況に千冬は自分の無力さを激しく呪った。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

時は少し遡り、アリーナ外のベンチ。

耳に響く爆発音と外にいてもわかるほどの振動に、迅はバッと顔を上げる。

 

「なんだっ?」

 

何事かと見上げればアリーナのゲート前からでもアリーナの内部から黒煙が上がってるのが見えていた。

 

「黒煙?………敵襲?」

 

先程の爆発音と衝撃から、すぐさま試合中の事故ではなく、何らかの襲撃だと迅は判断すると、すぐさま動いた。

 

「……織斑っ!」

 

彼は未知の襲撃に対して、真っ先に一夏の身を案じたのだ。

敵の数、規模、戦力、それらを彼は何一つとして把握していない。だが、そんなこと彼にはどうでもいい。重要なのは、織斑一夏が襲われている可能性があるということだけ。それだけで、彼が駆けつける理由には十分過ぎた。

 

「精々役に立てっ‼︎『黒鉄』ェッ‼︎‼︎」

 

怒号じみた雄叫びと共に左手のグローブが暗く輝き、漆黒の機体を展開し纏う。そして、スラスターを噴かせてアリーナ上空へと向かおうと飛び立った。

 

「っっ⁉︎」

 

しかし、地面を蹴った瞬間、迅は背筋を冷たい感覚が駆け抜けるのを感じた。

 

余談だが、迅は野生的な直感がかなりすぐれている。それこそ、感覚派な人間である鈴音よりもだ。ともすれば、猛獣のソレと同等だと言われるぐらいに。そして、その獣に匹敵する野生的直感があったからこそ、予測よりも更に早い反応を可能としていた。

そんな彼だからこそ、分かった。

たった今、飛び立とうとしている自分の周囲にナニカがいるということを。更に言えば、そのナニカが自分に迫っているということを。彼は類い稀な直感でそれを感じ取っていた。

だから彼は、反射的に叫んでいた。

 

「———《鬼灯》ィっ‼︎‼︎」

 

そう叫んだ彼の両手に現れたのは、両肩部に浮かぶ浮遊シールドよりも大きい、円盤と三角形の手裏剣を重ね合わせたような形状の巨大な盾。

 

———大型物理シールド《鬼灯》。

 

機体のカラーと同色の漆黒の大盾をコンマ数秒で展開した彼は、腕を捻り前後を守るように盾を構えた。盾を構えた瞬間、二つの盾と右肩部の浮遊シールドからはガギィィンと何か金属の塊を叩きつけたかのような音が響き、『黒鉄』の巨体は横に殴り飛ばされる。

 

「ぐっ」

 

砂埃を立てながら地面を転がるもすぐさま立ち上がった迅は襲撃者の正体を確かめようと顔を上げ、眉を顰める。

 

「……なんだ、テメェらは」

 

思わず疑惑と小さな動揺の声が彼の口から溢れる。

それもそうだろう。何せ、迅の眼前では何もないはずの空間が陽炎のように揺らいでいたのだから。

揺らぎの数は三つ。『黒鉄』の巨体よりは少し小さいものの、並のISよりは大きいであろう何かが確かにそこにはいた。

背後の空間に溶け込むかのようなソレらは次第に色を取り戻していく。透明だったソレらは、カメレオンが姿を表すように徐々に灰色へと変わり、やがて完全に姿を現す。

 

———所属不明IS三体の熱源を感知。『黒鉄』はロックされています。

「…………っっ、ISっ」

 

『黒鉄』からの緊急通告に迅は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

自分を襲ってきた襲撃者の正体はISだったのだ。その姿は彼が知る由もないが、現在進行形で一夏達が戦っているISと同型の全身装甲型の異形ISだった。

異形のISー例えるならば『黒い巨人』が三体、迅の前方に佇んでいたのだ。

 

「………テメェらはどこの差し金だ?」

『………………初撃失敗。引き続き任務継続。対象『紫藤迅』』

「っっ」

 

迅の問いかけに真ん中に立っていた襲撃者が無機質な機械音声でそう返す。返したというよりかは、何かに報告しているように見えたが。しかし、その言葉に合わせ謎の襲撃者達はそれぞれ腕を持ち上げて戦闘態勢を取った。それが何よりの答えだった。

 

「……あーー、そうかそうか。つまりテメェらは敵ってことだな」

 

迅は一人納得したように呟く。相手の正体が何者かなど、一応聞いただけで正直どうでもよかった。自分が世界的に希少な価値を持っていることはよく分かってる。世界に二つしか存在しない男性操縦者。それを欲しがる者など世界中に存在しているだろうから。

だが、相手の目的など初めからどうでもよかった。敵がどんな目的であれ、自分を害そうとした。それならば、コイツらはもう敵だ。

 

 

「敵なら殺すだけだ」

 

 

敵は殺す。それ以上でもそれ以下でもない。

 

「《砕城》‼︎《覇嵐》‼︎」

 

迅は両手に展開していた《鬼灯》を収納し、近接武装を新たに展開する。

彼の呼びかけに応じて出現したのは、大型メイス《砕城》と、もう一つ巨大な刃を備えた黒い大斧だ。その刃は象なら真っ二つに両断できるほどの厚みを持っており、ISでも直撃すればひとたまりもないと思わせるほどの物々しい武装だ。

 

———近接特化型大型アックス《覇嵐》。

 

両手に金棒と大斧を展開した迅は殺意に瞳をギラつかせながら、口唇を裂いて狂気の宿る笑みを浮かべ嗤う。

 

「いくぞ鉄屑共っ‼︎スクラップにしてやらぁ‼︎‼︎」

『『『……っっ‼︎‼︎』』』

 

今彼の心に宿るのは純粋なる殺意。

何があろうとも敵を破壊し尽くしてやるという悍ましい狂気だけだ。

迅は滾る殺意のまま叫ぶと両手の武装を構え、地面を蹴り自ら襲撃者達へと襲いかかる。三体の襲撃者達もほぼ同時に飛び出し迅を迎え撃った。

まず、真ん中の敵ISがその巨体からは想像できないほどの速度で迅に急接近し、左右の二体がそれに追従する。その速度は瞬時加速と同等であり、並の操縦者なら反応に遅れることだろう。

だが、

 

「おらぁっ‼︎‼︎」

 

彼はその速度に反応した。

突き出してきた右拳に《砕城》をぶつけたのだ。重い金属音が鳴り響き、一瞬の拮抗ののちにお互いを後方へと弾く。

敵ISはスラスターを後方に噴射させ仰け反らなかったが、迅はそうはいかずにたたらを踏みよろめいてしまう。そこを左右から敵ISが殴りかかってくる。

 

「シッ‼︎」

 

それに迅は身軽な動きで対応する。右足を軸にし独楽のように体を捻り回し蹴りで左側から迫る拳を側面を蹴ることで逸らす。

同時に、右側から迫る敵ISの拳を間一髪で避けながらガラ空きの胴体目掛け《覇嵐》を叩きつけようとしたのだ。しかし、《覇嵐》が胴体に当たる瞬間、すんでのところで回避された。

 

(速ェッ‼︎スラスターの出力おかしいだろうがっ‼︎‼︎)

 

その回避速度に迅は内心で悪態をつく。

全身につけたスラスターの出力が尋常ではない。そして、その出力は他二体も共通しているのだろう。正面にいたISが既に自分の目の前にいて、拳を突き出していたのだ。

 

「がっ」

 

迅は防御が間に合わず、それをもろ受けてしまい大きく殴り飛ばされてしまう。

またしても地面を転がる迅だったが、次はただ転がるわけではなかった。

 

「くそったれがっ‼︎《絶壊》っ‼︎‼︎」

 

毒づきながら、迅は地面に手をつき、身軽に跳ねて空中で体制を立て直すと、両肩部に黒い光を収束させながら武装を展開する。現れたのは漆黒の細長い筒のようなものだ。

ガゴンと重厚な音を鳴らしながら肩部へと装着し、穴の空いた先端部を距離を詰めてくる敵ISへと向けると叫ぶ。

 

「発射ァァっ‼︎‼︎」

 

刹那、ドゴォンと重厚な発射音を響かせながら、筒の先端ー砲口が火を噴く。発射された砲弾が地面に着弾した瞬間、大爆発を引き起こし黒煙が巻き上がる。

 

———大型榴弾砲(グレネードキャノン)《絶壊》

 

『黒鉄』が有する遠距離系の武装の中でとりわけ爆発力に秀でた榴弾砲だ。その破壊力は、既存の兵器の榴弾砲を凌ぐほどであり、口径は300mmと既存の兵器のサイズを上回る。爆発範囲は二十数メートルにも及び、着弾した周囲を木っ端微塵にできる。

ここ数日、彼は肩部や腰部に武器を装着し攻撃する練習を繰り返してきた。そのおかげか、咄嗟の判断でも肩部に武装を展開し両手武器と合わせて使用することができるようになったのだ。

 

迅は立ちこめる黒煙をじっと睨む。

今の『絶壊』の一撃なら、回避できていなければそれなりのダメージは与えられるはずだ。並のISでは直撃は避けるべきだし、他と比べ異質なあの敵ISもひとたまりないはずだ。

そのはずなのだが、

 

『———ッッ』

 

黒煙を突き破り敵ISが突撃してくる。

装甲は軽く煤汚れている程度であり、傷らしい傷はない。おそらくは、スラスターで咄嗟に距離を取ったのだろう。他の敵ISも同様の損傷具合だった。本当にふざけた回避能力だ。

 

「チィッ‼︎」

 

『絶壊』は榴弾砲が故に装填に数秒かかる為、距離を詰められると弱い。距離を取り装填を行うのがセオリーだ。

しかし、迅は装填を行いながら、近接武器を構えあえて前方に飛び出す。敵ISそのセオリーに反する動きに驚く様子は見せずに長い両腕を振り回し、独楽のように高速回転しながら迫ってきた。

しかも、運の悪いことにもう一体のISも同じように回転しながら横方向から迫ってきているのだ。

 

「やべっ」

 

流石にこれはまずいと判断した彼は、足で急ブレーキをかけながら《砕城》と《覇嵐》を収納すると武装を切り替える。

 

「《鬼灯》っ‼︎」

 

展開するのは先程奇襲を防いだ大盾《鬼灯》。

浮遊シールドと合わせて四方からの攻撃を防ぐ、完全防御態勢をとる。身を屈めた直後に、振り回された腕が何度も盾にぶつかり、盾越しに重い衝撃が伝わってきた。

 

(おっもてぇっ⁉︎)

 

伝わる衝撃に目を見開きながらも、なんとか耐えている迅だったが、ハイパーセンサーで全方位を注視していた時に真後ろから最後の一体が拳を構えながら迫っているのを見た。

 

「ぐぉっ⁉︎」

 

気づいた時には、背中に重い衝撃が伝わった。

背後から殴られたと理解した瞬間に、体勢を崩したことで防御が緩んでしまい盾を押しのけながら二つの拳が腹と肩に叩きつけられた。

 

「ぐぁぁぁっ⁉︎」

 

よほど強い力を込めて殴ったのだろう。『黒鉄』の巨体が浮かび上がり、少しの浮遊の後に砂埃を立てて地面に墜落する。殴られた際に彼の手から離れた《鬼灯》が宙を舞い迅の墜落に遅れ地面に突き刺さった。

シールドエネルギーですら相殺しきれなかったのか、肩と腹部から伝わる鈍い痛みに彼は表情を歪める。

 

「ぐっ、あぁ……げほっ、ごほっ」

 

蹲り何度も咳き込む迅に敵ISは急接近する。

追撃をかけるべく肉薄してくる敵ISに対し、迅は痛みに顔を歪めながらもすかさずと立ち上がり、《砕城》と《覇嵐》を再度展開し構え飛び出す。

 

「このっ、クソ野郎共がっ‼︎」

 

加速しながら迎え撃つべく、右肩の《絶壊》から砲弾を放つ。しかし、豪速で放たれたそれを、敵ISはあろうことか真横にスラスターを噴射させることで容易く躱してしまった。

続けて、追随するもう二体にも左肩の《絶壊》から砲弾を放つも、それすらも容易く回避されてしまう。二発とも敵ISの背後で虚しく爆発するだけだった。

 

(くそっ、当たらねぇっ‼︎‼︎)

 

迅は歯噛みする。

敵ISは反応速度すら早かった。零距離からの離脱に1秒もかからないスラスターの出力に加え、砲弾を放たれた後からでも反応できる反応速度によって、さっきから全ての攻撃が弾かれるか回避されてしまっている。敵ISの性能に苛立ちすら覚えるほどだ。

 

「なんなんだよっ‼︎ふざけた性能しやがってっ‼︎‼︎」

 

一方的にやられている現状に苛立ちながら、彼は襲いかかる敵ISを迎え撃つべく《砕城》と《覇嵐》を振るう。

しかし、結果は虚しくいくら振おうとも直撃どころか擦りすらせず、こちらの技術の拙さを嘲笑うかのように弾かれるか回避されるかしてしまっていた。逆に、こちらは損害が蓄積される一方だ。『黒鉄』はまだ致命的な損傷はないものの、装甲の各所に亀裂が入っており少なくないダメージを負っていることがわかる。

無理もない。彼は多少喧嘩の経験があるだけで、ISの実戦戦闘はおろか、格闘術などの対人戦闘なんてものを経験していないのだ。恵まれた体格や世界レベルのスポーツセンスのおかげで、ISでの動きはいいが、こと戦闘経験は無い為武装を使いこなせていない。更に、その経験の浅さが戦闘にもあらわれてしまい、明らかに熟練者の動きをする敵ISに一方的に追い詰められていた。

そして、十数度の攻防の後、遂に迅の両手から《砕城》と《覇嵐》が弾かれてしまう。

 

「っ、しまっ…」

 

自身の両手から離れる武装を見ながら、動揺の声を上げる迅に敵ISの一体が拳を組み合わせてハンマーのようにして振るってきた。

『ダブルスレッジハンマー』と呼ばれるプロレス技に迅は防御が間に合わずに横っ腹に喰らってしまう。

 

「がっ、はっ……⁉︎」

 

シールドエネルギーを貫通して響いた衝撃に肺の中の空気を吐き出しながら、迅はくの字に体を曲げられ砲弾のように殴り飛ばされてしまう。

地面を何度もバウンドし転がり三十メートルほど転がったところでようやく止まったが、ダメージが大きく迅は立つことができなかった。

 

「ぐぅっ……ぅっ……ぐっ……そぉっ……」

 

横っ腹を抑えながら四つん這いで蹲る迅。

シールドエネルギーを貫通したとは言え、絶対防御のおかげで内臓破裂や骨折はないないが、それでも確実に痣はできているだろう。

機体の損傷具合も酷く、大破に近い中破状態。シールドエネルギーも三割を切っている。浮遊シールドも右側は完全に全壊しており、左側も半壊している。

対する敵ISは装甲が薄汚れている程度で損傷らしい損傷がない。誰が見てもこの状況は覆らない。なぶり殺しにされるだけだった。

 

『『っっ‼︎‼︎』』

 

これ以上戦いを続けるのは無意味だと判断したか、とどめを刺すべく二体の敵ISが同時に急接近し、拳を蹲っている迅めがけて振り下ろす。

 

「っっ⁉︎」

 

ダメージにより蹲っている迅は回避などできるわけもなく、それを無防備な状況で喰らってしまい地面に叩きつけられる。

一際大きい轟音が響き、立ちこめる砂埃の中に砕けた『黒鉄』の装甲の破片が宙を舞った。

 

『『…………………』』

 

敵IS達は砂埃で直接見えずとも完全に沈黙したことから、トドメを刺したと判断し腕を引こうとし……何かに引っ張られた。

 

『『っっ?』』

 

何事かとそれぞれ、引っ張られた部位ー己の腕を見下ろすと、漆黒の腕が掴んでいるのを視認した。

直後、砂埃の中から声が聞こえてくる。

 

「つか、まえたぞ……」

 

聞こえてきたのは、気絶したと思っていた男の声。

彼は二体の打撃の直撃を耐え切っており、拳を掴んだのだ。迅は敵ISの決して離すまいと腕が軋むほどの力で掴みながら獰猛な笑みを浮かべる。

 

「あぁテメェらは速ぇよ。俺程度の腕じゃ攻撃なんざ全く当たりやしねぇ」

 

損傷によって一部装甲が歪み軋む音を響かせながら、彼は上体を起こし敵ISを睨む。

彼は屈してなどいない。むしろその逆。一層殺意を滾らせた彼は、この状況に追い込まれてもなお諦めていなかったのだ。

 

「でもなぁ、あたんねぇならぁっ‼︎」

『『っっ‼︎』』

 

《黒鉄》の肩と腰に黒光の粒子が収束し二種類の武装を形成する。腰部の左右には肩に展開されていたはずの《絶壊》が。そして、《絶壊》が装着されていた肩部には《絶壊》の代わりに、《絶壊》の半分ほどの長さの筒を三つ縦に連ねたよう武装が出現する。

 

———三連式榴弾砲(トリプルグレネードキャノン)《砕撃》

 

それは、《絶壊》と同系統の榴弾砲だった。

威力は《絶壊》と比較して落ちはするが、その代わりに連装式にすることで連射性能を付加し威力の低減を補った武装だ。その大小四つの榴弾砲が、駆動音を立てながら二体の敵ISに狙いを定めていた。

あえてダメージを喰らい、腕を掴み逃げられないようにした状況。

そこから導き出される、彼の苦肉の策とはーーー

 

 

「当てる状況を作りゃぁいい話だよなぁっ‼︎‼︎‼︎」

 

 

自滅覚悟のゼロ距離爆撃だ。

 

 

「砕けろぉっ‼︎‼︎‼︎」

 

 

雄叫びに応え、八つの砲口から火を噴き轟音を連続で鳴らしながら砲弾を撃ち出した。

二体の敵ISは腕を掴まれているために回避できず、四発ずつ榴弾砲が直撃し、爆炎に呑まれる。

ゼロ距離で打った為、当然迅も爆発に巻き込まれ装甲の破片を撒き散らしながら後方へと大きく吹き飛ぶ。

 

———シールドエネルギー残量250。ダメージレベルC、機体維持警告域に到達。

「ぐっ…つっでぇ……」

 

叩きつけられた衝撃によりいよいよ『黒鉄』が機体維持警告域に到達し警告メッセージを送ってくる中、迅は衝撃に悶えながらも前方で立ち込める黒煙に視線を向ける。

 

『……ギ……ギガ』

『……ガ……』

 

煙が晴れた先にいたのは直撃を受けたであろう敵IS二体。その証拠に、装甲が一部砕けており所々紫電を散らしていた。確かなダメージが入った証拠だった。

片方の敵ISに至っては、あの長い片腕がもげかけている。

 

「っははっ……ざまぁみやがれ」

 

確かな戦果に迅は笑みを浮かべ嗤う。

これまで散々してやられたのだ。不利な状況であってもようやく反撃ができて喜びが込み上げてきたのだ。

 

(つっても、ここまでやってようやくかよ……こんなの、何度もできねぇぞ)

 

ここまでダメージを受けてようやく明確な傷を与えることができたが、片腕がもげてる一体は戦闘力が落ちたとしても、戦闘に支障ないのが二体いる。片方に至っては、まだ無傷だ。

状況は変わらず不利だ。ここからどうやって戦い抜くか思考を巡らせていた時、無傷の一体が二体の間を通り抜け前に進み出た。

 

『………状況悪化。制限時間内の目標達成困難と判断。作戦を変更する』

 

そんな機械音声を発すると、右腕をゆっくりと持ち上げた。

これまでにない動きに迅が警戒する中、敵ISの右腕上部に備わっている砲口に白い光を収束させた。それを見て、迅は動揺に目を見開く。

 

(まさかっ———)

 

その光に迅は見覚えがあった。

自身が忌み嫌う女ーセシリアがメインで扱う武装。その遠距離射撃武装から放たれるソレと酷似していたのだ。

それはつまり、あの長すぎる腕はただ太く長いだけでなくとある武装を内包していたということだ。

その武装とは———

 

 

 

(———ビーム兵器っ⁉︎)

 

 

 

その武装の正体を理解した瞬間、迅の視界は白い光に塗りつぶされた。

 

 

 





ようやく『黒鉄』の戦闘シーンを出せました。
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