IS:黒鉄の修羅   作:桐谷 アキト

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3話 口舌は禍を呼ぶ

 

 

 

迅と一夏が友好を少しだけ深めた後の二限目。織斑一夏は早速危機に陥っていた。

 

「———であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したISO運用をした場合は、刑法によって罰せられ———」

 

真耶がすらすらと教科書を読んでいく中、一夏は目の前にどっかりと積まれた教科書5冊の1番上をぱらりとめくると内心で唸っていた。

 

(お、俺だけか?俺だけなのか?みんなわかるのか?このアクティブなんちゃらとか広域うんたらとか、どういう意味なんだ?というかこれ、まさか全部覚えないといけないのか……?)

 

そう、彼は授業に全くついていけていないのだ。

尚、女子達は真耶の話に時々頷いてはノートをとっており、無事ついていけていた。

IS学園とはIS操縦者のエリートを育てる機関。入学した生徒達は相当な倍率を勝ち上がってきた優等生でもあり、事前配布された教科書を読み込んで予習していて当然なのだ。

 

(エリートには興味がないが……うーん、このままではいかん。要勉強だ)

 

無論、一夏とてバカではない。元々、IS学園に入学する予定などあるわけもなかったので、IS関連の知識を勉強していないだけだ。千冬がISに触れさせてこなかったのも関係している。

つまり、彼に関しては完全に初見の事ばかりであり、ついていくことすら厳しい状態なのである。

そんな中、彼は先ほど少し仲良くなった彼はどうなのかとふと疑問に思った。

 

(し、紫藤さんは分かってるのか!?この意味不明な単語の羅列に、紫藤さんはついていってるのか?くそぉ、後ろ見れないからわかんねぇ)

 

一夏は同じく急にIS学園に入った迅はどうなのかと思ったが、彼の様子を見ようと振り向けば確実に姉から鉄拳制裁が落ちてくるので後ろを振り向くわけにもいかなかった。

ちなみに、当の本人はというと。

 

「……………………」

 

寝てた。

頬杖をついて目を閉じており、時折船を漕ぐように頭をフラフラとさせていたから、寝たふりではなく本当に寝ていたのだと窺える。

机の上には教科書すら出されていない。一限目と同様、彼はまともに授業を受ける気が無かったのだ。真耶も露骨に寝ていることからやる気皆無なのは分かっていて内心涙目だったが、先の休み時間で千冬から今は好きにさせておけと言われたため、悲しいが彼の方から受けてくれるまで待つしかないと授業を続けていた。

その時、真耶は目の前の席で一夏が隣の席の女子のノートに視線を向けていたのに気づき、自分の出番と彼に声をかける。

 

「織斑くん、何かわからないところがありますか?」

「あ、えっと……」

「わからないところがあったら訊いてくださいね。何せ私は先生ですから」

 

ようやく先生らしいことができると思ったのか、えっへんと胸を張る真耶。但し、全く授業についていけない彼にとって名指しされるのは、針の筵に落とす所業に他ならない。

だが、一夏は一か八かと素直に自分の弱さを吐露することを選んだ。

 

「先生!」

「はい、織斑くん!」

 

元気な声で挙手をし、真耶が歓喜混じりに元気な声で応じた。なので、一夏は思い切って白状した。

 

「ほとんど全部わかりません!」

「え……。ぜ、全部、ですか……?」

 

瞬間、真耶の顔が引き攣った。

彼女の内心では『そうじゃない』とか『自分の教え方が悪いのかな?』とか様々な憶測が飛び交い、思わず他の生徒達にも尋ねた。

 

「え、えっと……織斑くん以外で、今の段階でわからないっていう人はどれくらいいますか?」

 

挙手を促す真耶だったが、帰ってきたのは無言だ。誰も手をあげない。同じく事前予習なんて全くしていない迅は未だ夢の中なので反応なし。最も起きてても、無視したが。

 

「え、えーと、紫藤くんは、大丈夫でしょうか?」

「……………」

 

真耶はもしかしたら起きてるかもしれないと一縷の望みにかけて迅にも尋ねるも、反応はなし。それどころか、相変わらず船を漕いでいた。

 

(……あ………紫藤さん、寝てたのか……)

 

一夏もここにきてようやく振り向くことができ、迅が寝てる状況にやっと気づいた。

 

「え、えぇっとぉ……うぅ……」

 

一夏には全くわからないと言われ、迅は寝てるという状況に真耶がどうすればいいかわからずおろおろとしていると、教室の端で控えていた千冬が尋ねてきた。

 

「………織斑、入学前の参考書は読んだか?」

「古い電話帳と間違えて捨てました」

 

千冬の問いかけに即答した一夏の頭に、目にも止まらぬ早さで出席簿の一撃が炸裂。その際の音で迅は起きたのか、薄らと目を開けて何事かと鬱陶しげにキョロキョロさせていた。

 

「必読と書いてあっただろうが馬鹿者」

「うっ、すいません……」

「あとで再発行してやるから一週間以内に覚えろ。いいな」

「い、いや、一週間であの分厚さはちょっと……」

「やれと言っている」

「……はい。やります」

 

ギロリと睨む千冬に一夏はすぐに屈服し白旗を上げた。だが、教科書を捨てた彼が100%悪いので情状酌量の余地はない。

 

(…‥あいつ、なんかあったのか?)

 

途中からしかやり取りを知らない迅は、なぜ一夏が怒られてるのか分からずに、眉を顰めていたもののすぐにまあいいかと再び眠ろうとする。

だが、

 

「ISはその機動性、攻撃力、制圧力と過去の兵器を遥かに凌ぐ。そう言った『兵器』を深く知らずに扱えば必ず事故が起こる。そうしないための基礎知識と訓練だ。理解ができなくても覚えろ。そして守れ。規則とはそういうものだ」

「———」

 

千冬のその言葉に閉じようとしていた瞳が逆に大きく開く。

千冬の言葉はISに限らず様々な面でも正しい。どんな道具であってもその使用方法を理解していなければ、誤った使い方をした時に怪我をしてしまう。だからこそ、使い方を理解しなければならず、兵器であるISなら尚更それを意識しなければならない。

だが、そんなこと彼とてよく分かってる。

それは、

 

(ISが『兵器』、ねぇ。……そんなの、今に始まったことじゃねぇだろ。()()()からもう既に()()()()()兵器だったろうが)

 

今でこそスポーツという枠に収まっているようだが、そんなもの上辺だけのものだ。

ISに積まれている武装は其のどれもが殺傷性の高い兵器だ。どれだけ言葉で取り繕うとも、ISとは所詮最も大量に、かつ効率的に人を殺せる殺戮兵器に過ぎない。

それを彼は、10年前のあの日から身に染みていた。

 

(…………下らねぇ。もっかい寝るか)

 

千冬の話を聞いていたら益々不快になるだけだと判断した迅は今度こそ眠ろうと目を閉じようとする。

しかし、

 

 

「………貴様、『自分は望んでここにいるわけではない』と思っているな?」

 

 

千冬のその一言は完全に彼の睡魔を消し去ってしまった。その決定的な言葉に、迅はピクリと反応すると、

 

 

「…………ぁ…?」

 

 

小さく、そうドスの利いた声が溢れ出た。

彼は眼光を鋭くさせると、千冬に視線を向ける。その視線は、とてつもない憤怒に満ちていた。

だが、千冬は一夏に視線を向けたままで彼を見下ろしたまま話を続けた。

 

「望む望まざるにも関わらず、人は集団の中で生きなくてはならない。それすら放棄するなら、まず人であることを辞めることだな」

 

人は一人では生きていけない。

その言葉は正しい。どんな人間であろうと、生まれたては非力な赤子であり、親の助けがあって生きて育つ。子供は友人らと助け合い、親だけでなく教師達に教え導いてもらうことでようやく独り立ちできる。そして、今度はその人が子供を助け育てる。

世界とは助け、助けられることで成立しているとも言えるのだ。

昔から超現実主義である千冬はそう言うことで一夏に現実と直面しろと伝えたかったのだ。真耶や他の生徒達にもその意図は伝わるものの、彼には届くことはなかった。

 

 

(………‥ふざけるなっ)

 

 

迅は歯をギリッと嚙み鳴らし、憤怒の炎が瞳の中で揺れ、殺気が彼の全身から溢れる。

 

(望んでここにいるわけがない?当たり前だろっ。こっちは大学の入学を取り消されてこんなところに押し込まれた。人間であることをやめろ?既に人間扱いなんてしてねぇだろうがっ。これまで俺の人権が保障されたことなんざ一度もなかっただろうがっっ‼︎)

 

ISを動かしてから、自分の人権が保障されたことなど一度もない。

自殺、逃亡すらできずホテルに拘束され、大学の入学を取り消しIS学園の入学を強制した。理由はどうであれ、この数週間、迅は人間扱いをしてもらったことがない。

それを千冬とて分かっているはずだ。分かっているはずなのに、あの発言をしたと言うことは、そこらの女共と同じく自分のこともその程度にしか思っていない事に他ならない。

 

しかし、千冬とて迅の事情には胸を痛めている。彼のことに関してはどうにかしたいと本気で考えており、彼に歩み寄ろうと思考を巡らせたりもしていた。今の言葉も、一夏に現実を受け入れろと言う意味で言っただけで、迅に向けて言ったものではない。

 

(………何が騙すつもりはないだ。所詮は無様な男だと内心で嗤ってんだろうが。これだから、ISに関わる女共は碌な奴がいねぇんだよっ)

 

だが、悲しいことに、心が歪み狂っている彼にとってはそんな彼女の思いやりなど届くわけもなく、更に憎悪と憤怒を募らせる結果となったのだ。

 

「え、えっと、織斑くん。分からないところは授業が終わってから放課後教えてあげますから、がんばって?ね?ねっ?」

「はい。それじゃあ、また放課後によろしくお願いします」

 

彼がそう怒りを募らせる中、真耶と一夏はそう話す。千冬も言いたいことを言い終えたのか、教室の端へと戻っていった。

 

「ほ、放課後……放課後に二人きりの教師と生徒……。あっ!だ、ダメですよ、織斑くん。先生、強引にされると弱いんですから……それに私、男の人は初めてで……」

 

話を終えた真耶は急に頬を赤らめてそんなことを言い出す。IS操縦者は大体が男に免疫がないらしいが、なんにせよその反応は一夏としてはやめてほしかった。

だって、視線が痛いから。

 

「で、でも、織斑先生の弟さんだったら……」

「あー、んんっ!山田先生、授業の続きを」

「は、はいっ!」

 

一向に妄想から帰ってこない真耶を、千冬の咳払いが現実に呼び戻した。そして、慌てて教壇に戻ろうとして、こけた。

 

「うー、いたたた……」

(………大丈夫か?この先生………)

 

真耶の様子に、果てしなく前途多難な気がして仕方ない一夏だった。

 

 

 

余談だが、千冬のあの言葉以降迅は完全に目が覚めてしまい、しかも不機嫌になってしまったせいで殺気を垂れ流しになり、周囲の女子達は訳もわからず重くなった空気に内心で泣いていたりする。

 

 

 

▼△▼△▼△

 

 

2時間目が終わり、休み時間。

一夏は周囲の視線から逃げるように人の元へと向かった。だが、向かった先で一夏は気づく。

 

(紫藤さん……?なんか、機嫌悪そうだな……)

 

腕を組んで窓の外に視線を向けている迅が明らかに機嫌が悪そうにしていたことに。

先程の休み時間で見た少し砕けた感じとは違う。そう、それこそまるで今朝教室に初めて入ってきた時のような殺気を放つ獣のような感じだった。

 

「〜〜〜ッツ!」

 

その威圧感を浴びたせいからか、一夏の体は強張り足が前に出なくなったのだ。

彼が垂れ流す殺気に呑まれたのだ。だが、一夏はそこから逃げるのではなくどうにか堪えて話しかける。

 

「あ、あの、紫藤さん……!」

「………?……ん?あぁ、何だ織斑か。どうした?」

 

一夏に呼ばれた迅は少しの沈黙の後、視線を一夏に向けるとすぐに身に纏う殺気を霧散させた。その様子に少し安堵しつつも、恐る恐ると尋ねた。

 

「あ、あの、大丈夫ですか?」

「……ん?なんで心配されてんのか分からんが、俺は別になんともねぇぞ」

「そ、そうですか……」

「それはそうと、お前なんでさっき頭叩かれてたんだ?」

 

再びあの砕けた感じになった迅は先程のことを一夏に尋ねる。尋ねられた一夏はバツが悪そうに笑うと、苦笑いしながら答える。

 

「あ、それはそのぉ、教科書を電話帳と間違えて捨てちゃって、それを話したら……」

「はぁ?くくっ、なんだよそれ。そりゃ流石に怒られるわ」

 

流石の迅も一夏がやらかしたことには思わずといった感じで吹き出してくつくつと笑う。

一夏はその様子に少し驚いていた。

 

(紫藤さん………笑うと、こんな感じなのか……)

 

出会ってまだ1日目だ。彼のことなんて碌に知らないし、どんな思いを抱いているのかも知らない。だが、たとえそうだとしても、一夏は迅の笑った姿を見ることができて少し安心したのだ。

迅は一頻り笑うと鞄の中を弄り中から、5冊の教科書を取り出し彼に渡す。

 

「なら、これ使うか?俺のやるよ」

「え?でも、これって紫藤さんのじゃ……」

「気にするな。どうせまともに授業受ける気もねぇしな。お前が使ったほうがまだマシだ」

 

迅は教科書を持っていない一夏に自分のものを渡すことにしたのだ。どうせ、自分は使う気もないものなのだ。それならば、彼に使ってもらったほうがまだマシだ。

その意図を理解した一夏は、断っても押し切られるだけだと思うと素直にそれを受け取った。

 

「ありがとうございます。それじゃ、再発行して届くまで借りますね」

「届いたんなら処分してくれて構わねぇよ」

 

そう手を振って気遣い無用だという迅に一夏は再びお礼を言おうとした時だ。

 

「ちょっと、よろしくて?」

 

二人に声をかけてきた者が現れた。

 

「へ?」

「…………」

 

急に声をかけられた一夏は素っ頓狂な声をあげ、迅はスッと目を細める。

二人に話しかけてきた相手は、地毛の金髪が鮮やかな女子だった。白人特有の透き通ったブルーの瞳がやや釣り上がった状態で二人を見ている。わずかにロールがかった髪はいかにも高貴なオーラを出していた。

そして、彼女が醸し出す雰囲気に迅はすぐに理解する。

 

こいつは迅にとっての明確な『敵』だと。

 

今時の女子、女尊男卑の風潮に浸りきった女特有の気配にざわりと殺気を滲み出してしまう。

 

「訊いてます?お返事は?」

「あ、ああ。訊いてるけど……どう言う用件だ?」

 

一夏が代表して答えれば、目の前の女子はかなりわざとらしく声を上げた。

 

「まあ!なんですの、そのお返事。私に話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

「……………」

(チッ、不快だな。いるだろうとは思ってたが、とっとと消えてくれよ)

 

一夏は彼女の見下すような態度に不快感を覚え、迅はとっとと消えてくれと心の中で吐き捨てる。

ここはIS学園だ。それならば、多かれ少なれ女尊男卑の思想に染まりきった女共がいたっておかしくはない。迅としては関わる気など皆無だが、そばで騒がれるのも面倒だ。適当に追い払おうかとしようとした時、一夏が先に答える。

 

「悪いな。俺、君が誰か知らないし」

 

一夏は正直にそう答えたが、その返答は少女にとってはかなり気に入らないものだったらしくて、吊り目を細めて、いかにも男を見下した口調で続ける。

 

「わたくしを知らない?このセシリア・オルコットを?イギリスの代表候補生にして、入試主席のこの私を⁉︎」

 

名前だけでなく、ギャンギャンと喚いてどうでもいいことまで話し始める彼女ーセシリア・オルコットに迅はますます不快感を募らせる。

 

「あ、質問いいか?」

「ふん。下々のものの要求に応えるのも貴族の勤めですわ。よろしくてよ」

「代表候補生って、何?」

 

一夏の衝撃的な質問内容に周囲で聞き耳を立てていたクラスの女子数名がずっこける。迅もポカンと口を開けて目を丸くしている。

 

「あ、あ、あ、……」

「『あ』?」

「あなた、本気でおっしゃってますの⁉︎」

 

ものすごい剣幕で詰め寄る彼女に一夏は自信満々に答える。

 

「おう、知らん」

「えっ?はっ?お前、マジで言ってんのかよ……」

 

こればかりは流石の迅も怒りが一瞬で引っ込み露骨に困惑する。IS知識がないことは自分も同じなので強く言わないが、読んで字の通りのソレの意味すら知らないのは流石にどうだろうかと思ったのだ。

 

「………………」

 

セシリアは怒りが一周して逆に冷静になったのか、頭が痛そうにこめかみを人差し指で押さえながらぶつぶつ言い出す。

 

「信じられない。信じられませんわ。極東の島国というのは、こうまで未開の地なのかしら。常識ですわよ、常識。テレビがないのかしら……」

 

あまりにも失礼な物言いだが、流石にこればかりは言いたいこともわかるので迅もなんともいえない表情になる。そんな中、このカオスを引き起こした一夏は迅にこっそりと尋ねた。

 

「あ、あの、紫藤さん代表候補生ってなんですか?」

「………読んで字の如くだろう。各国の国家代表IS操縦者の候補生だ。単語から簡単に連想できるだろうが……」

「あ、そう言われればそうですね……」

「少しは考えて発言しろ。無知だって思われると誰にでもナメられるぞ」

「うっ、肝に銘じておきます」

 

迅の警告に一夏は肩を落として反省する。

少し考えればわかることだったのに、何も考えずに聞き返してしまった。その無知さが取り返しのつかないことになると言われて、彼は反省する。

そこで復活したセシリアがびしっと一夏に指を向ける。

 

「わたくしはエリートなのです!本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡……幸運なのよ。その現実をもう少し理解していただける?」

「そうか。それはラッキーだ」

「……馬鹿にしていますの?」

 

セシリアはそういうが、一夏は微塵も馬鹿にはしていない。彼女自身が幸福だっていうから、そう返しただけのことなのだ。

だが、その返答は彼女の癪に触ったのだろう。不機嫌そうに鼻を鳴らした彼女は、話を続ける。

 

「大体、あなたISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。男でISを操縦できると聞いていましたから、少しくらい知的さを感じさせる方思っていましたけど、期待はずれですわね。

そちらの貴方も授業はまともに受けず寝るか本を読むかのどちらか。期待どころか、知性の欠片も感じられませんわね」

「俺に何かを期待されても困るんだが。というか、紫藤さんまで悪く言うなよ。この人の事情は千冬姉だって言ってただろ」

「ふん。まあでも?わたくしは優秀ですから、あなた方のような人間にも優しく教えてあげますわよ」

 

ここまで好き放題男を貶し続けたくせに、自分のことを優しいと言ってISのことを教えてあげるなど言う彼女の頭はきっとお花畑なのだろう。

迅はこれまでの彼女の態度に心底うんざりしており、機嫌は悪化する一方だった。だが、そんなことわかるはずもない彼女はまだ続ける。

 

「ISのことで分からないことがあれば、まあ……泣いて頼まれたら教えてさしあげてもよくってよ。何せわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」

 

唯一を物凄く強調して威張るセシリア。

迅はこの時点でセシリアをどうしようもない馬鹿女だと断定する。

これまでの発言。現実を理解していないのは彼女の方だ。彼女は自分を選ばれた人間と言った。だが、希少価値の高さでいうのならば、世界に二人しかいない迅と一夏の方が遥かに高い。彼女は所詮は代表候補生。替えなどいくらでもきくだろうスペアでしかない。

そして、入試で唯一教官を倒したと言っていたが、大多数がISの操縦が未経験の中で、代表候補生として操縦経験がある彼女が他よりも動けて教官を倒せたとしても不思議ではないのだ。

それらの点を踏まえれば、彼女こそ現実を理解していないことになる。

 

「入試って、あれか?ISを動かして戦うってやつ?」

「それ以外に入試などありませんわ」

「あれ?俺も倒したぞ、教官」

「は……?」

「なに?」

 

更なる一夏の衝撃発言にセシリアは目を驚愕に見開き、迅は眉を顰めた。

 

(倒した?2ヶ月前に発覚したばかりのやつが?)

 

あり得ない。ISを動かしたばかりの人間が、使い慣れている教官に勝つなど普通に考えてあり得るはずがない。どうやって、彼は倒したんだ?

そう考える中、セシリアは震える声で尋ねる。

 

「わ、わたくしだけと聞きましたが?」

「女子ではってオチじゃないのか?」

「つ、つまり、私だけではないと……?」

「いや、知らないけど」

「あなた!あなたも教官を倒したっていうの⁉︎」

「うん、まあ、多分」

「たぶん⁉︎多分ってどういう意味かしら?⁉︎」

「えーと、落ち着けよ。な?」

「こ、これが落ち着いていられ——」

 

キーンコーンカーンコーン

 

際限なくヒートアップしていたセシリアだったが、三限目開始のチャイムが鳴ると、悔しそうにしながらも話を切り上げる。

 

「っ……!また後で来ますわ‼︎逃げないことね!よくって⁉︎」

 

一夏の返事も聞かずに言いたいことだけを言った彼女はすぐさま自分の席に戻った。

よくない。二度と来るなと二人は思った。

そして、目障りな女も消えたので迅は一夏に尋ねる。

 

「おい、お前どうやって倒したんだ?」

「え?いや、別に俺は何もしてませんよ?ただいきなり突っ込んできたからかわしたら、そのまま壁に激突して動かなくなったんですよ……」

「ただの自爆かよ。それ倒したって言えるのか?」

「多分、言えないですよねぇ」

 

はははと苦笑いを浮かべる一夏はふと何かを思い出すと、今度は自分から迅に尋ねた。

 

「そういえば、紫藤さんって入試受けたんですか?」

「なわけあるかよ。あんなものに触れたくもねぇ」

「そ、そうですよねー」

 

ISをを露骨に毛嫌いしている彼のことだ。ISに乗ろうともしないだろう。さらに状況的にも入試を受けてないのは明白だった。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

「それではこの時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する」

 

三限目は、一、二限の時とは違い千冬が教壇に立っている。よほど大事な話をするのだろうか、真耶までもノートを手に取っていた。

そして、いざ各種装備の特性とやらを説明する前に、思い出したように話題を変えた。

 

「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

 

そう言うとそちらの説明を始める。

 

「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出席……まあ、クラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を図るものだ。今の時点では大した差はないが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更はないからそのつもりで」

 

ざわざわと教室が色めき立つが、迅は面倒だと早速無視を決め込んだ。クラス代表者とはつまるところ、一般的な学校の学級委員長に該当するものだろう。そこに、IS関連のことも絡まることで代表戦も行わなくてはならないらしい。

迅は絶対にやるものかと我関せずを貫く中、一人の女子生徒が挙手をする。

 

「はいっ。織斑くんを推薦します!」

「私もそれがいいと思いますー」

「では候補者は織斑一夏……他にはいないか?自薦他薦は問わないぞ」

「お、俺⁉︎」

 

自分には関係ないだろうなと呑気に思っていた一夏は、次々に生徒からの推薦を受けて他人事ではなくなり、つい立ち上がってしまう。

彼女らとしては物珍しさからのものだろう。現に彼女らが彼に向ける視線は『彼ならきっとなんとかしてくれる』という無責任かつ勝手な期待を込めた眼差しだった。

 

「織斑。席に着け、邪魔だ。さて、他にはいないのか?いないなら無投票当選だぞ」

「ちょっ、ちょっと待った!俺はそんなのやらなー」

「自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものに拒否権などない。選ばれた以上は覚悟をしろ」

「い、いやでも、だ、だったら俺は———」

 

あまりの横暴に一夏は苦し紛れに後ろを振り向き自分もとある手段を使おうとしたが、それはすんでのところで止まる。

 

 

「………いえ、なんでもありません」

 

 

言いかけた言葉を止めて、彼は後ろに向けていた視線を前に向けた。

彼が視線を向けた先にいたのは、外の景色を眺めている迅だ。

一夏は苦し紛れに迅を推薦しようとしたのだが、すんでのところでやめたのだ。今ここで彼を推薦して仕舞えば、自分と彼の仲は決定的に破綻すると思ったのだ。

ただでさえ苦しい状況なのに、彼を更に苦しめるなど自分にはとてもじゃないができなかった。

クラス代表にはなりたくない。だが、迅を巻き込むことはできない。それならば、もう自分が引き受けるしかないだろう。だが、そんな時だ。

 

「待ってください‼︎納得がいきませんわ‼︎」

 

突然甲高い声が響く。

声の主は先程迅達に絡んできたセシリア・オルコットだ。彼女はバンッと机を叩いて立ち上がると、キッと一夏を睨む。

 

「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんていい恥晒しですわ!わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を1年間味わえとおっしゃるのですか⁉︎」

 

彼女は爆発した怒りに任せて暴言を並べていく。

 

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからと言う理由で極東の猿にされては困ります!わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをするには毛頭ございませんわ!」

 

怒りのままに言ってるからか、彼女は外に出れば間違いなく国際問題にもなりかねないような発言を次々と並べていく。

既に怒りで暴走している彼女にとっては、自分が何を言っているのかわかっていないのだろう。

 

「いいですか⁉︎クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!大体文化として後進的な国で暮らさなくては行けないこと自体、私にとっては耐え難い苦痛で「イギリスだって大したお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」なっ⁉︎」

 

マシンガンの如く放たれる罵倒に、遂に我慢の限界が来たのか一夏がそう言ってしまった。

彼としても本意ではなかったのかもしれない。その場の勢いで言った後にやってしまったと恐る恐ると彼が後ろを振り向けば、怒髪天をつくと言わんばかりにセシリアが顔を真っ赤にしていた。

 

「あっ、あっ、あなたねえ!わたくしの祖国を侮辱しますの⁉︎」

「そっちが先に言ってきたんだろっ!」

 

売り言葉に買い言葉とはまさにこのことだろう。

どちらにしても誉められたやり取りではない。セシリアは自分も日本のことを馬鹿にしてたくせに、自身の国が馬鹿にされるや否や、机をバンっと叩き完全に一夏を敵と認定するとはっきりと告げる。

 

「決闘ですわ!」

「おう。いいぜ、四の五のいうよりわかりやすい」

(………何やってんだ。あの馬鹿どもは)

 

お互い感情がエスカレートし引くに引けない状況で決まった決闘に、迅は内心で呆れるしかなかった。

 

「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使いーーいえ、奴隷にしますわよ」

「侮るなよ。真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」

「そう?何にせよちょうどいいですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわ」

 

とんとん拍子に話が進んでいく中、迅は不快感に眉を顰める。完全な外野からすれば、この決闘自体馬鹿馬鹿しいし、そもそもフェアじゃない。

 

(代表候補生が素人に決闘を挑む、ね。どうみてもフェアじゃねぇだろうに。初心者を嬲る気か?)

 

セシリア・オルコットは代表候補生としてISの操縦経験はそれなりにあるはずだ。だが、そんな彼女が大した操作時間もないであろう一夏に感情の勢いとは言え決闘を挑むのはどうだろうか。

怒りで周りが見えていないのは明らか。ただただ自分がエリートであることを示すためだけのショーに成り下がっていた。

そんな彼の考えをよそに一夏は話を進める。

 

「ハンデはどのくらいつける?」

「あら、早速お願いかしら?」

「いや、俺がどのくらいハンデをつけたらいいのかなーと」

 

その瞬間、クラスからドッと爆笑が巻き起こった。

対して、迅は困ったような呆れたようなそんな表情を浮かべ露骨にため息をついていた。

 

「お、織斑くん。それ本気で言ってるの?」

「男が女より強かったのって、大昔の話だよ?」

「織斑くんは、それは確かにISを使えるかもしれないけど、それは言い過ぎよ」

 

殆どの生徒達が本気で笑っており、一夏はまたやらかしたと悟った。

さっき迅に少しは考えてから言葉を選べと警告を受けたばかりなのに、また感情に任せてやらかしてしまったと、一夏は自責にかられる。

 

「………じゃあ、ハンデはいい」

「ええ、そうでしょうそうでしょう。むしろ、わたくしがハンデをつけなくていいのか迷うくらいですわ。ふふっ、男が女より強いだなんて、日本の男子はジョークセンスがあるのね」

 

今のでよっぽど気をよくしたのだろう。さっきの激昂は消え失せて、明らかな嘲笑をその顔に浮かべていた。そして、気を良くした彼女は普通ならしないであろう選択をとった。

 

 

「それで?さっきからそこで黙ってるあなた。好き放題言われても何も言わないのね。わたくしに恐れをなして何も言えないのかしら?」

 

 

あえて迅を挑発するという愚行を取ったのだ。

今ならば、先ほど挨拶の時に恐れた彼よりも上の立場にいると優越感に浸ることができ、その上機嫌のまま彼を煽ったのだ。

 

『『『ッッツ‼︎⁉︎』』』

 

これには、一夏、千冬、真耶が目を見開いて驚愕する。いくら気分が良いからって、彼女は明らかにやってはいけないことをやってしまったのだから。

なんてことをしてくれたのだとセシリアを咎める前に、迅はどう出るんだと戦々恐々といった様子で揃って迅の方へと振り向いた。

 

「…………………………」

 

迅は何も反応を示していなかった。ただ腕を組んで冷ややかな視線をセシリアに向けているだけだ。

その視線には侮蔑や哀れみが宿っていた。

その態度にカチンときたのか彼女は不機嫌になる。

 

「ッッ、あなたねぇっ何か言ったらどうなんですのっ⁉︎」

 

セシリアが怒りのままに声を荒げる。それでようやく迅は反応を見せた。腕組みを解き露骨にため息をついて静かに口を開いた。

 

 

「………さっきからガタガタウルセェんだよ」

 

 

その瞬間、濃密な殺気と怒気が放たれて何人かがヒュッと小さく息を詰まらせる。

 

(こ、これは、朝のっ…⁉︎)

 

朝方千冬が壁に叩きつけられた時と同種のソレが教室に広がり、全員を恐怖で呑み込んだ。セシリアもその恐怖に呑まれガタガタと体を震わせる中、迅は席からゆっくりと立ち上がった。

 

「「「ひっ…」」」

 

この場の誰よりも背の高い彼はただ立っているだけでも十分に威圧感があり、近くに座る女子達は小さい悲鳴をあげていた。彼は、周囲を睥睨すると話を続ける。

 

「黙って聞いてりゃあ随分と好き放題言ってくれるじゃねぇか、アバズレ共が。女が男より強いなんざ結局ISありきの話だろうが。ISがなきゃお前らは何にもできねぇだろ。現に今俺にビビって何もできてねぇじゃねぇか」

 

生徒達は何も言葉を返せない。彼から発せられる威圧感に顔を俯かせてガタガタと震えることしかできなかった。次いで、迅は一夏に視線を向ける。

 

「おい、織斑。俺はさっき言ったはずだぞ。少しは考えて発言しろと。売り言葉に買い言葉でくだらねぇ喧嘩してんじゃねぇよ。あんな馬鹿に付き合うだけ時間の無駄だ。どうでもいい苦労まで背負いこむ気か、お前は」

「は、はいっ、すいません……」

「わかりゃあいい。次からは気をつけろ。んで、おい、そこのイギリス女」

「ッッツ‼︎」

 

一夏から矛先が自分に変わったセシリアはビクッと体を震わせる。

 

「さっきの休み時間といい随分と面白いことを言ってくれたな。『自分は選ばれた人間』とか、俺のことを『知的さどころか、知性の欠片もない』とか。更には『極東の猿』『サーカス』『文化として後進的な国』……よくもまぁ、ここまで並べられるものだな。流石エリート様。ま、こんなもんガキの戯言にしかならねぇけどな」

「ぁ……ぅ………」

 

セシリアは完全に迅の威圧に呑まれており、反論すらできない。本能は今すぐにでもここから逃げ出したいと訴えているのに、萎縮し切った体が言うことを聞いてくれないが為に迅の殺意を真っ向から浴び続けていた。

 

「はぁ、くだらねぇ。本当にくだらねぇなぁ。お前みたいなのが蔓延ってるから、今の世界はクソッタレなんだよ」

 

そう悪態をつきつつ迅はセシリアの方へとズカズカと真っ直ぐ歩くと、恐怖に動けない彼女の首を掴みそのまま立ち上げた。彼女の体は軽々と持ち上がり足が力無くぶら下がる。

 

「ひっ……‼︎」

 

小さい悲鳴がセシリアの口から溢れる。体の震えはますます強くなり、目尻からは涙が溢れ始めた。それでも死の危険を感じ取ったからか、腕はどうにか動き迅の手を剥がそうとするもののびくともしなかった。

 

「さっき恐れをなしてるって言ってたよな?俺が?お前に?ハッ、ありえねぇよ。お前みたいな小娘をどうして恐れなくちゃいけねぇんだ?あぁ?」

「かっ……ひっ、うぅっ……」

 

首を絞める力は段々と強くなり呼吸が苦しくなりつつあるセシリアはまともに言葉を返すことができない。

 

「偉そうにしてんじゃねぇぞ、クソビッチが。何が選ばれた人間だ。女のIS操縦者なんて腐るほどいるだろ。所詮お前は替えの効くスペアにしかならねぇよ。代用品如きが粋がってんじゃねぇぞ。そんなに日本が嫌いならとっととお国に帰れ。別にここじゃなくてもISの勉強はできんだろ。俺の為にもここから消えてくれよ。それとも今ここで俺が、首を捻り潰して殺してやろうか?」

「ひぃっ……い、いやっ」

 

迅の言葉が冗談ではなく本気だと放たれる殺気で分かったのだろう。セシリアの瞳からは涙がとめどなく溢れていやいやと首が横に振るわれる。

周囲では既に迅の殺気に当てられて何人かは気絶し、何人かは吐き気を堪えるかのように口を押さえていた。

 

「ハッ、どうした?随分怖がってんじゃねぇか。さっきまでの威勢はどこ行ったんだ。反撃くらいしてみろよ。なぁ?」

「や、やめて……いやっ……」

「チッ……所詮はこんなもんかよ。もういい、死ね」

 

さっきまでの攻撃的な姿勢はすっかりと鳴りを潜め、死を前に子犬のように怯えることしかできない無様さに迅は拍子抜けと言わんばかりに舌打ちすると首を絞める力を強めていよいよセシリアの首の骨をへし折ろうとした時だ。

 

 

「そこまでだっ」

 

 

彼を止める声が響く。同時に下から腕が伸びて迅の腕を掴んだのだ。

迅はゆっくりとそちらへと視線を向ける。迅の腕を掴み止めたのは、予想通り千冬だった。

 

「やりすぎだっ。ソレは流石に見過ごすことはできないっ」

 

千冬は冷や汗を流しつつそう言う。

彼女はつい先程まで他の生徒達同様動けなかった。朝方に受けた凄まじい殺気を思い出し、体が思うように動かなかったのだ。

だが、セシリアが殺されようとしていたところで、千冬は何とか震える身体に鞭打って止めに入ったのだ。現に、千冬の体は僅かにだが未だ震えており、頬には冷や汗が流れて、表情は必死そのものだった。

ソレを見て何を思ったのか、迅は冷徹な視線を千冬に向けるとそのままパッとセシリアを離した。

 

「けほっ……けほっ……わ、わたくし、生きて……ひぃっ⁉︎」

 

セシリアは床に崩れ落ちて首を抑えて何度も咳き込む。そうして自分が生きていると安堵するものの、ソレは一瞬で迅の姿を視界に収めた瞬間情けない悲鳴をあげて頭を抱えて蹲ってしまう。完全に彼に恐怖してしまったのだろう。

そんな彼女には既に興味が失せたのか、迅は既にセシリアからは視線を外し千冬へと視線を向けると、腕を振り払い唸るような声音で尋ねる。

 

「何の真似だ?ブリュンヒルデ。俺はクソビッチに現実を教えようとしてただけが?」

「どこがだっ。お前は殺そうとしていただろっ‼︎」

「あぁそうだな。で、ソレが何か問題でもあんのか?」

「なっ……」

 

千冬は彼の物言いに絶句してしまう。

迅はセシリアを殺すことに何の躊躇もしていなかったのだ。あの時、止めなければあのまま首をへし折っていたことだろう。

平然と答えた迅は怒りの表情を浮かべる。

 

「お前ら女がよくやってることだろ?男に罪を被せて人生を終わらせる。気紛れで俺ら男を殺すことだってある。それがこのクソッタレな世界の現状だ。だからこそ、俺のようにIS社会に憎悪を抱く奴だっている。それを教えただけだ」

「だがっ、だからと言ってっ…」

「あんたの言い分なんか知るかよ。それに言ったよな?ISに関わる奴らは全員殺したいほど憎んでるって。俺にとっちゃあんたも敵だ」

 

そう言い捨てると迅は千冬を押し退けて教室前方へと歩くと一夏の横を通り過ぎる。

 

「し、紫藤さん………」

「………………」

 

震える声で自分のことを呼んだ一夏に迅は一瞥すると何も答えないまま教室前方の扉に手をかける。

そして、扉を開き廊下に出ようとしたところで、振り返り殺気と怒気が籠る視線で全員を見渡すとはっきりと告げた。

 

「頭がお花畑なお前らにいいことを教えてやるよ。世の中にはな、IS社会のせいで女を殺したいほど憎んでる奴らが山程いる。今まで甘い蜜を吸ってきたツケを払うようなことにならなきゃいいな」

 

そう吐き捨てると、ガァァンッと乱雑に扉を閉めて外に出て行った。

 

 

 

 

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