IS:黒鉄の修羅   作:桐谷 アキト

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メリークリスマース‼︎‼︎
皆さん聖夜はどのようにお過ごしでしょうか?
私は例年の如くクリぼっちで、ひたすらモンハンとスプラしてますよ(泣)
せめてものクリスマスなので、モンハンではサンタの重ね着でプレイしてまーす。
ゴシャハギぬいぐるみ背負ったサンタいたら多分ソレ、私です笑笑。

そして、今回はクリスマス回……ではなく、普通に続きです。
安定のシリアス続きなのですが、まあどうか楽しんでお読みください。




5話 不信と拒絶

 

 

 

紫藤迅のIS学園生活が始まり2日目の朝10時。

この時間は既に1限目どころか2限目が始まっており、生徒達が授業に勤しんでいるのだが、一年一組の教室に迅の姿はない。

では、彼はどこにいるかと言うと。

 

「ぐっ………はぁ………あぁあ゛っ………」

 

未だ自室のベッドで横になったままで起床すらしていなかった。

目を覚ましていない彼は表情を歪め苦悶の声を上げて魘されていた。呼吸は荒く胸が激しく上下し、冷や汗が次々と流れていた。

何か悪夢を見ているのだろう。悪夢に魘されている迅はそれからもしばらく悶え続け、やがて、

 

 

「——————ぁぁぁあああっっ‼︎⁉︎⁉︎」

 

 

悲痛な絶叫をあげてその身を勢いよく起こした。

上半身を勢いよく起こした彼は、胸を抑えながら荒い呼吸を繰り返しており、漸く落ち着いた彼は震える両手で頭を抱えた。

 

「…………くそっ………くそったれがぁっ……」

 

最近はずっとこれだ。

ISの適性が発覚した日から悪夢を見ない日はない。ずっと、昔のトラウマが毎日毎日悪夢に出てくる。

それが堪らなく苦痛だったのだ。だが、迅にはソレに耐える以外選択肢はない。

この環境から逃げられない以上、その悪夢と向き合いトラウマを乗り越えなければならないのだが、今の迅にとってソレは非常に困難な話だ。

そして、悪夢に苦しめられ未だ頭を抱えていた迅の耳に扉をノックする音が聞こえてきた。

 

『………紫藤、私だ。起きているか?』

 

次いで扉から聞こえてきたのは千冬の声。

迅は何故こんな朝に彼女が自分の部屋を尋ねてきたのかは皆目見当がつかなかった。彼は体の震えを無理やり抑えると、ベッドから降りて扉の方へと歩き扉を開く。

扉を開けた先には千冬がおり、心配そうに迅を見上げていた。迅は鬱屈した気持ちのまま暗い声音で要件を尋ねる。

 

「……何の、用だ。ブリュンヒルデ」

「……様子を見にきたんだ。既に一限が終わり、二限目が始まっている。それでもお前がまだ来ていなかったから、体調を崩していないか私が確認に来たんだ」

 

千冬の言葉は事実だ。

SHRに来ていなかった時点で、千冬は監視カメラの映像で迅が部屋にいることは確認済み。疲れ切っていたからか、全く起きる様子もなかったが、もう少ししてから起こしに行こうとそっとさせることにした千冬は、少し時間をおいてこうして迅を起こしにきたのだ。

 

「紫藤、顔色が少し悪いようだが、気分が悪いなら今日は休むか?」

 

監視カメラを逐一見ていた彼女は迅が何かに魘されていたのも知っていたため、気分が優れないようであれば今日は休んでもいいと気遣ったのだ。

だが、そんな彼女の気遣いに迅は首を横に振る。

 

「いや、少し待ってろ。シャワーぐらい浴びさせてくれ」

「………分かった。急がなくていいぞ」

「…………ああ」

 

迅は千冬の気遣う言葉に一言短く返すと、扉を閉めるて服を脱ぎながらシャワールームに入った。

それからシャワールームから出て制服に着替え、諸々の準備を終えてから部屋から出たのは二十分以上経過した後だった。

千冬を散々に待たせた迅は当然のように詫びれることもなく、不遜な態度で千冬と接して校舎へと向かった。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

時間は過ぎて、3限目。

三限目から登校した迅は相変わらず不真面目な授業態度である一方で、彼を除く全員が真耶の話を聞いており教科書を見ながらノートにひたすら書き込んでいた。

 

「というわけで、ISは宇宙を想定して作られているので、操縦者の全身を特殊なエネルギーバリアーで包んでいます。また、生体機能も補助する役割があり、ISは常に肉体を安定した状態へと保ちます。これには心拍数、脈拍、呼吸量、発汗量、脳内エンドルフィンなどがあげられ──」

「先生、それって大丈夫なんですか? なんか、身体の中を弄られてるみたいでちょっと怖いんですけども……」

 

クラスメイトの一人がやや不安な面持ちでそう尋ねる。確かに、ISを動かした際のあの独特の一体感は、人によっては不安を感じるものだろう。

そんな彼女に真耶は優しく答える。

 

「そんなに難しく考えることはありませんよ。そうですね、例えば皆さんはブラジャーをしていますよね。あれはサポートこそすれ、それで人体に悪影響が出ることはないわけです。もちろん、自分のサイズのものを選ばないと、型崩れしてしまいますが──」

 

なんと、男性である一夏と迅がいるというのに女性にしか分からない話をしだした真耶。男子がいるのになんて事を言ってるんだと僅かな驚きの眼差しを一夏が真耶にむけて、ふと目があった際に彼女は自分が何を言っているのか気づいたのか、数秒の後にぼっと顔を赤くさせた。

 

「え、えっと、いや、その、お、織斑君と紫藤君はしていませんよね。わ、分からないですね、この例え。あは、あはは………」

 

真耶の誤魔化し笑いは教室中に微妙な雰囲気を漂わせており、女子達は変に意識し、腕組みをするようなフリで胸を隠そうとしていた。

こちらは何も悪くないのに、なんか悪いみたいになっている気まずい空気に、一夏は勘弁してくれと内心でため息をつく。

 

「んんっ!山田先生、授業の続きを」

「は、はいっ!」

 

浮ついた空気は千冬の咳払いにより見事シャットアウトされ、真耶は千冬に促された事で話を再開させた。

 

「そ、それともう一つ大事なことは、ISにも意識に似たようなものがあり、お互いの対話——つ、つまり、一緒に過ごした時間でわかりあうというか、ええと、操縦時間に比例して、IS側も操縦者の特性を理解しようとします。それによって、相互的に理解し、より性能を引き出せることになるわけです。ISは道具ではなく、あくまでパートナーとして認識してください」

 

真耶の説明に多くの生徒が理解を示し頷く中、一人の生徒がすかさず挙手をした。

 

「先生ー、それって彼氏彼女のような感じですかー?」

「そっ、それは、その……どうでしょう。私には経験がないのでわかりませんが……」

 

経験とはつまり男女交際のことだ。赤面して俯く真耶を尻目に、クラスの女子はきゃいきゃいと男女についての雑談を始めている。

一夏はそんな様子を見て、女子校とはこんな感じなのだろうかと思った。そして、空気が甘くなり自分があっという間に蚊帳の外になったことに、早く終わらないかなと退屈そうに時計を見始める。

迅もまた露骨にうんざりとしており、頬杖をついて窓の外に視線を向けていた。

その時、一夏の願いに応えるかのようにキーンコーンと終業の音が鳴り響いた。

 

「あっ。えっと、次の時間では空中におけるIS基本制動をやりますからね」

 

そう言って真耶達は教室から出ていった。

ここIS学園でら実技と特別科目以外は基本担任が全部の授業を持つことになっている。たかだか休み時間15分の為に、職員室と教室を何度も往復しなければならないのは教師の定めとはいえお疲れ様だ。

 

「ねえねえ、織斑くんさあ!」

「はいはーい、質問しつもーん!」

「今日のお昼ヒマ?放課後ヒマ?夜ヒマ?」

 

そして、教師二人が出ていった後、一夏に女子の半数が速攻詰め寄ってきた。『出遅れるわけにはいかない!』という執念すら感じられた。

だが、それらを前に一夏は立ち上がるとすかさず、

 

「ごめん。話なら後で聞くから」

 

そう言うとさっさと女子たちの輪を抜け出していき迅の元へと向かったのだ。

 

「あの、紫藤さん……」

「ん?どうした。織斑」

 

迅はスマホにイヤホンを繋げて音楽を聴こうとしていたが、一夏が近づいたことに気づきその手を止めて顔を上げる。

 

「いえ、その、朝大丈夫でしたか?一応食堂行く前と校舎行く前に部屋の扉をノックはしたんですけど、返事がなかったので……」

「ああ、それは悪かったな。起きるのが遅くてな。10時ぐらいに起きたんだよ。そんでシャワーを浴びてたから、遅くなっちまった」

「あ、そうだったんですね」

「久々に柔らかいベットで寝れたからな。随分と深く眠ってたみてぇだ」

 

穏やかな笑みを浮かべながらそう答えた迅に一夏は内心では『彼は無理をしているのでは?』と勘繰ってしまっていた。

昨日の教室で起きた事や、寮で別れた時の彼の様子からしてそうそう安らかに眠れるものなのかと思ったものの、一夏はそれを尋ねることはせずに、話題を変えた。

 

「その、紫藤さん。連絡先交換しませんか?ちょうどスマホ手元にあるみたいですし」

「ああ、いいぞ。LANEでいいか?」

「はい。大丈夫です」

 

そう言ってお互いスマホを取り出して連絡先の交換をした。そうしてしばらく二人は雑談をしていた。

女生徒達が一夏と話せず遠巻きから様子を伺うことしかできないことに肩を落とす中、次の授業開始時間が近づいたからだろう。千冬と真耶が教室に戻ってきた。

 

「休み時間は終わりだ。全員席につけ」

「あ、紫藤さん。また後で」

「ああ」

 

千冬の言葉で生徒達は慌てて席へと着く。一夏も迅に一言言ってから席へと戻った。

全員が席へついたのを確認した千冬は一夏へと視線を向けていきなりあることを言い出した。

 

「ところで織斑、お前のISだが準備まで時間がかかる」

「へ?」

「予備機がない。だから、少し待て。学園で専用機を用意するそうだ」

「???」

 

一夏は千冬が何を言っているのか分からず首を傾げる。だが、周囲は理解したのか途端にざわめき始めた。

 

「せ、専用機!?一年の、しかもこの時期に!?」

「つまりそれって政府からの支援が出てるって事で……」

「ああ〜。いいなぁ……。私も早く専用機欲しいなぁ」

 

それでも周りの言っていることがわからない一夏を千冬は見かねたのか、ため息混じりに呟く。

 

「教科書六ページ。音読しろ」

「え、えーと……『現在、幅広く国家・企業に技術提供が行われているISですが、その中心たるコアを作る技術は一切開示されてません。現在世界中にあるIS467機、その全てのコアは篠ノ之博士が作成したもので、これらは完全なブラックボックスと化しており、未だに博士以外はコアを作れない状況にあります。しかし博士はコアを一定数以上作る事を拒絶しており、各国・企業・組織・機関では、それぞれ割り振られたコアを使用して研究・開発・訓練を行っています。またコアを取引することはアラスカ条約第七項に抵触し、全ての状況下で禁止されています』……」

「つまりそういうことだ。本来なら、IS専用機は国家あるいは企業に所属する人間にしか与えられない。が、お前の場合は状況が状況なので、データ収集を目的として専用機が用意されることになった。理解出来たか?」

「な、なんとなく……」

 

一夏は情報を脳内で整理しつつそう頷くが、一つだけ気分のいいものではない言葉があり少しだけ顔を顰めた。

『データ収集を目的』

確かに、貴重な男性操縦者だからこそそのデータが必要なのはわかる。だが、言って仕舞えばこれはモルモットだ。自分がまさかそのような立場になり、そう扱われるのは良い気分がしない。

そこで一つ疑問が浮上する。データ収集を目的とするのなら、もう一人の男性操縦者の迅も同じく専用機が渡されるのではないかということだ。

しかし、迅の前でそれを聞くのは躊躇われたので、一夏はその疑問をグッと抑えた。だが、他の生徒がつい聞いてしまったのだ。

 

「あ、えと、それじゃあ、もしかして、紫藤さんにも……?」

「……っっ」

 

疑問に思う気持ちはわかる。だが、それはせめて迅がいないところでやってほしかったと一夏はそう思うものの時既に遅く、大半の生徒がその答えを待ってしまっていたのだ。

 

「………それは「ふざけんな。乗るわけがねぇだろ」っ、紫藤…」

 

答えにくそうにしていた千冬の言葉を遮るように低い唸り声のような声音が響く。迅は明確な拒絶と怒りをその声音に乗せると、千冬を鋭い眼光で睨む。

 

「ただでさえモルモット同然な扱いをされ、鉄屑なんざに乗せられなきゃいけねぇ事自体が苦痛なのに、その上専用機だと?ふざけんのも大概にしろよ」

 

迅は憎悪のままに言葉を並べていく。

彼は自分がこのIS学園に入れられた以上、貴重な男性操縦者のデータを取る為ISに強制的に乗せられることは分かりきっていた。

それでも、訓練機ならば定期的にしか触れなくて済むし、時間もそうは取らないだろう。苦痛とはいえその時を耐えればなんとかなる。

だが、専用機はダメだ。専用機を持たされると言うことは、すなわち四六時中心底憎悪するISを持ってなければいけないと言うことだ。そんなのたまったものじゃない。

 

「訓練機に乗せられんのはもう諦めがついている。その時だけ耐えればいい話だ。だが、専用機はずっと持ってなくちゃいけねぇんだろ。あんたらはそんなに俺に狂って欲しいのか?あぁ?」

「ち、違っ、私は……」

「保護だのなんだの言っておきながら、結局これかよ。やっぱあんたらIS大好きな連中にとっちゃ俺らはもの珍しいモルモットにすぎねぇんだな。本当反吐が出る」

 

忌々しそうに呟いた迅は千冬を含め教室にいる者達全員に視線を巡らせて睥睨すると最後に言い放った。

 

「最後に言っておくが、俺に専用機を持たせることはよく考えたほうがいい。専用機を持った瞬間に、あんた含めてこの学園の女共を皆殺しにするかもしれねぇぞ?」

「っっ⁉︎そ、それはっ……」

「言っとくが脅しじゃねぇからな。データと命。どっちが大事か選ぶように上のクソ共に伝えておけ」

 

そう吐き捨てると、話すことはもうないと言わんばかりにイヤホンをつけると窓の外へ視線を向けた。

迅によって気まずい空気になってしまった中、クラスメイトの一人がどうにか空気を変えようと話題を変える為におずおずと手をあげる。

 

「あ、あの、織斑先生。篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか……?」

 

『篠ノ之束』。

ISをたった一人で作成、完成させた稀代の天才。千冬の同級生であり、箒の実姉でもある。一夏も何度か会ったことがあり、まさしく天才と言える人物だった。

そんな彼女は現在超国家法に基づき絶賛指名手配中だ。別に何か犯罪を犯したわけではないのだが、IS技術の全てを掌握しているとなればどの政府も心中穏やかではないからだ。

そんな事情があったとしても、一夏は呑気に本人は気にしないんだろうなと思っている。

彼女の人を食ったような表情は『狡猾な羊』と例えることができる。ちなみに千冬は『真面目な狼』である。

 

「………そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ」

 

千冬が箒は篠ノ之束の妹だとあっさり認めたことで、教室中が一気に騒がしくなる。

 

「えええーっ!す、すごい!このクラス有名人の身内が二人もいる!」

「ねえねえっ、篠ノ之博士ってどんな人⁉︎やっぱり天才なの⁉︎」

「篠ノ之さんも天才だったりする⁉︎今度ISの操縦教えてよっ」

 

授業が始まっているというのに、箒の元にわらわらと女子が集まっていく。一夏からすれば自分ははたから見ればなかなか面白いなと思ってしまっていた。だが、有名人の身内だからと詰め寄られたのは自分も同じだったので、箒もたまったものじゃないだろう。

そして、女子達が箒の内心を知らずに好き放題に質問をしていくが、

 

「あの人は関係ない!」

 

突然の大声。女子達だけでなく一夏までも何が起こったのかわからずぽかんとしていた。

 

「……大声を出して済まない。だが、私はあの人じゃない。教えられるようなことは何もない」

 

そう言って箒は迅と同じように窓の外へと顔を向けてしまった。女子達は盛り上がったところに冷水を浴びせられた気分のようで、それぞれ困惑や不快を顔にして席に戻った。

 

(箒って束さんのこと、嫌いだったっけ……?)

 

箒の様子を見て一夏は首を傾げる。

記憶を探るが、どうきても二人が一緒にいた光景が浮かばないし、束の話を振ってもそこで話がいつも終わっていたのだ。

 

「さて、授業を始めるぞ。山田先生、号令」

「は、はいっ!」

 

真耶も箒が気になる様子でしたが、授業を再開させた。

 

「………………」

 

生徒達も授業を受けるために教科書を開いていく中、迅は箒へと視線を向けていた。

 

 

その瞳には危険な光が宿っていた。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」

 

授業が終わった瞬間、セシリアが一夏の元に近づきそう言い放った。一夏は迅の元へと行き食堂に誘おうとしたのを邪魔されてしまい、少しうんざりとするが、セシリアは話を続ける。

 

「まあ?一応勝負は見えていますけど?さすがにフェアではありませんものね」

「?なんで?」

「あら、ご存知ないのね。いいですわ、庶民のあなたに教えて差し上げましょうこのわたくし、セシリア・オルコットはイギリスの代表候補生……つまり、現時点で専用機を持っていますの」

「へー」

「……馬鹿にしていますの?」

 

馬鹿にしているというわけではなく、今の一夏は迅との食事が最優先事項であるため、彼女の話は心底どうでも良かったのだ。

 

「いや、すげーなと思っただけだけど。どうすげーのかはわからないが」

「それを一般的に馬鹿にしていると言うでしょう⁉︎」

 

ババンっ‼︎と彼女が机を叩き、今の衝撃でノートが床に落ちる。

 

「……こほん。さっき授業でもいっていたでしょう。世界でISは467機。つまり、その中でも専用機を持つものは全人類60億超の中でもエリート中のエリートなのですわ」

「そ、そうなのか……」

「そうですわ」

「人類って今60億超えてたのか……」

「そこは重要ではないでしょう⁉︎」

 

再びババンっ‼︎今度は教科書が床に落ちた。

 

「あなた!本当に馬鹿にしていますの⁉︎」

「いやそんなことはない」

「だったらなぜ棒読みなのかしら……?」

「なんでだろうな」

 

解。内心で馬鹿にしているから。

というより、こう何度も机を叩き騒がれると流石に迷惑だ。遠くでも話が聞こえていた迅は露骨に不快感に顔を顰めていた。

 

「……そ、そういえばあなた、篠ノ之博士の妹なんですって」

 

一夏は自分を馬鹿にしており、このままでは時間の無駄だと思ったのだろう。一夏から箒へと矛先を変える。

 

「妹というだけだ」

「う……」

 

ある意味挑発も込められていたのかもしれないが、鋭い視線を返した箒の威圧にセシリアは怯んでしまっていた。

昨日迅に喧嘩を売って痛い目にあったのに、それでもまだ懲りないセシリアに一夏は、内心で優秀だがポンコツだと確信した。

 

「ま、まあ、どちらにしてもこのクラスで代表に相応しいのはわたくし、セシリア・オルコットであるということをお忘れなく」

 

一夏にポンコツ認定されたとは知らずに、セシリアはぱさっと髪を手で払って綺麗に回れ右してそのまま立ち去っていった。その動きはモデルのようであったが、彼女のポンコツさがソレを台無しにしていたような感じもする。

漸くセシリアがどっか行ってくれて安堵した一夏は早速迅の元へと向かう。

 

「紫藤さん、一緒に飯でもどうですか?」

 

やっと迅と一緒に食事をすることができると確信し、うきうきしながら声をかけた一夏だったが、一夏の予想に反し迅は彼の食事の誘いを断った。

 

「………いや、お前には悪いが、食堂は遠慮しておく」

「え…そ、そんな」

 

迅に断られ露骨にがっかりとする一夏。シュンと年頃の少年らしく肩を落とす一夏に、迅はくすりと笑うと席から立ち上がり彼の頭に優しく手を置く。

 

「……悪いな。また別の機会に誘ってくれ。今は幼馴染のフォローにでも行ってやれ」

 

迅はそう言うと顎をしゃくり箒を指し示した。

 

「え…?箒の、ですか?」

「ああ。さっきの件で妙に浮いてるみてぇだからな。幼馴染のお前ぐらいしか話は出来ねぇだろ」

 

箒が篠ノ之束だと知れた上に、先程あんな空気になってしまったのだ。他の生徒達は彼女に近づきもしないだろう。

そんな幼馴染を孤立させないために唯一の幼馴染である一夏にフォローをしろと迅は言ったのだ。

 

「は、はい。ソレはわかりました」

「それでいい。幼馴染は大事にしろよ」

「その、紫藤さんは……?」

「……俺はちょっと散歩にな。なに、適当な時間に戻る」

 

そう言うと、迅は一夏の頭から手を離してさっさと教室を出て行った。

 

「………今日も、無理だったな」

 

一夏は彼の背中を見送った後残念そうに呟く。

昨日もそうだったが、多少親しくはなれたものの迅とは未だ壁があるようにも感じてしまった。

 

「……いや、まだまだ時間はある。根気よく誘って行こう」

 

まだ2日目だ。何度でも迅を誘っていつか応じてもらえたらいい。そう思った一夏は早速箒のフォローに回った。

教室の扉の方へと視線を向けている彼女に近づくと声をかける。

 

「……箒、大丈夫か?」

「……特に問題ない。それよりなんだ?」

「いや、飯食いに行こうぜ?」

「……あ、ああ」

 

一夏の誘いに素直に応じた箒は席を立ち一夏の後をついていきそのまま教室を後にする。

教室を出る瞬間、教室後方ー正確には、先ほどまでいた迅の席に一度だけ困惑の眼差しを向けていたのだが、それに気付いたものは誰一人としていなかった。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

一夏からの食事の誘いを断り廊下に出た迅は、廊下を歩きながら1人呟く。

 

「さて、昼飯どうすっかなぁ……」

 

考えるのは昼食のことだ。朝から何も食べていない迅は四限目の初めから腹が鳴って仕方がなかったのだ。ここ数日まともに食事できていなかったことから、空腹がいよいよ限界だった。

しかし、空腹とはいえまともな食事を食べることはできないだろう。

 

(つっても、まともに食べれねぇんだろうけど………)

 

これまでの軟禁生活で迅はゼリー飲料や携帯食料ばかりでまともに食事をとっていなかったのだが、それは死にたいと願い頑なに食事を拒否していたからだけではない。

ISを動かした日の翌日、軟禁されたばかりの迅は出された食事を一口食べた時、とてつもない吐き気を催したのだ。その時は吐きこそしなかったが、二口目で堪えきれずに吐いてしまった。

それから、何度かそれが繰り返され、迅は否が応でも気付かされた。

 

自分は、『壊れかけている』のだと。

 

精神的不安定が原因の摂食障害を発症してしまっているのだと()()()()()()()()()()()()()()()()自分で分かってしまったのだ。

それきり、迅はまともな食事を取らなくなった。幸いにも飲み物や、携帯食料、ゼリー飲料ならば問題なく受け付けているので、そればかりを食べている。

迅が一夏との食事を断ったのはそう言った理由もあったのだ。目の前で吐かれるなど気分のいいものではないから。

 

「…………とりあえず、購買部行くか。保存食ぐらいあるだろ」

 

迅は食堂に行かない以上、それ以外で食事が買える場所は購買部にしかないと考えて千冬から渡されていた学園の地図を見つつ購買部へと向かった。

 

「……へぇ、これは金をかけてんな。そこらのコンビニ並じゃねぇか」

 

しばらく歩き購買部についた迅は思わず感心の声を上げた。

IS学園の購買部。それは一般的な高校の物とは品揃えが桁違いであり、弁当の他にも雑貨や日用品、飲み物などコンビニと遜色ない程だった。

これならば、きっと迅が探している保存食も見つかることだろう。それに物珍しく見てくる目障りな女子達も今のところ見当たらない。来る前にとっとと買ってしまおう。そう思った迅はそのまま購買部の中へと入っていく。

 

「おや、アンタは二人目の……確か、紫藤君だったかな。いらっしゃい」

 

購買に入った迅を出迎えたのは一人の若い女性だ。

紺色のエプロンに手袋をつけ、黒髪を後ろで纏めている二十代半ばほどの若い女性。

彼女はここの購買の担当なのだろう。彼女は他の女性達とは違い迅の様子に怯えた様子もなく、朗らかな笑みで迅に声をかけたのだ。

 

「………………」

 

だが、それを迅は無視。冷ややかな眼差しを一瞬向けると、直ぐに歩き出し携帯食が並んでいる棚へと向かった。

女性は無視されてても不快な様子にはならずに、仕方ないかと肩を竦めるとカウンターに移動して 迅のことを待つ。

迅は水を数本と携帯食とゼリー飲料をあるだけ取り、カゴに入れると女性が待つカウンターに置いて漸く口を開いた。

 

「……これの他に、在庫分とカンパンとかもいくつか貰いたい。あるか?」

「……あるにはあるけど、本当にそれでいいの?」

「……あるなら持ってきてくれ。全部買う」

「……分かったよ。ちょっと待ってて」

 

そっけなく返された女性はそう言って一度裏へと引っ込む。それからしばらくして、女性が戻ってきた。彼女の両手にはカゴがあり、中にはいっぱいに携帯食やカンパンなどが詰め込まれていた。

 

「はいよ、これでいい?」

「……ああ。いくらだ?」

「ちょっと待ってて。今会計するから」

 

そう言うとカゴから品物を出して行き次々とレジを通していく。迅が早く終われと言わんばかりに彼女に鋭い眼差しを送っている。

そうして会計が終わり袋に詰まった食料を持ち帰ろうとした時、女性が声をかけた。

 

「アンタのことは織斑先生から聞いてるよ。食堂に行かずにここに来たのもある程度理解できてるつもりだよ」

「……それがなんだ?あんたには関係ねぇだろ」

 

他ならぬ女性から話しかけられたことに不快感に顔を顰めると、露骨に敵意を剥き出しにして唸るように言い放つ。

しかし、他の女子達とは違い迅の敵意に全くビビらずに平然としており、首を横に振った。

 

「確かに関係はないよ。でもね、あんたまだ若い上にガタイいいんだから、そんなのばっかり食べてると体がもたないでしょ」

「…‥だから、なんだよ」

「お代いいから、いくつか惣菜持って行きな。後で見繕ってあげるから」

 

きっと彼女は純粋な善意でそう言っているのだろう。だが、その善意すらも迅に伝わることはない。

 

「いらねぇよ」

「そんなこと言わずに持って行きなって」

「だから、いらねぇって言ってんだろっ‼︎」

 

怒声が購買部に響き、次いでにガァンッと何かを殴るような音も響く。音の発生源はカウンター。迅がカウンターに拳を強く叩きつけたのだ。

拳を叩きつけた迅は激情に表情を歪めると怒りのままに怒鳴る。

 

「どいつもこいつも何様のつもりだよ。一丁前に人のことを心配してんのか?施しでも与えたつもりかっ⁉︎その手が通じると思ってんのか⁉︎お前ら女はそうやって俺らを騙してきたんだろうがっ‼︎‼︎お前らはどれだけ俺をイラつかせれば気が済むんだっ‼︎‼︎」

「……っっ‼︎」

 

女性は迅の怒声に目を見開くと、申し訳なさそうな表情を浮かべて謝罪する。

 

「……ごめんね。気を悪くさせちゃったみたいだ。とにかく、また必要になればおいで。いつでも待ってるから」

「………」

 

怒鳴られてもなお優しい姿勢を変えない彼女だったが、迅は袋を持つと一言も言わずにその場からさっさと立ち去っていった。

立ち去る彼の姿を見えなくなるまで見送っていた彼女は、沈痛な表情を浮かべると悲しげに呟く。

 

「あの子にとっては周りの全てが敵か。……まだ若いのにね……」

 

話には聞いていた。

IS社会そのものを激しく憎悪した彼は頑なに学園に行くことを拒絶し、そんな彼を政府や委員会の人間は無理やり入れさせた。

その結果があれだ。きっと彼のあの態度は自分を守る為のせめてもの抵抗でもあるのだろう。この環境から逃げられないと諦めがついてしまい、それでも自分の心がこれ以上傷つかない為にとあんな態度をとっているように彼女には見えた。

 

「…………子供の未来を簡単に踏み躙るほど、お偉いさん方にとっては、ISは大事なのかね。…‥全く、理解ができないよ」

 

彼女は心底理解できないと嫌悪をその表情に浮かべると、彼の人生を歪めた元凶達に忌々しげに呟いた。

 

 

▼△▼△▼△

 

 

購買部から立ち去った迅は昨日もいた外周沿いのベンチにいた。傍にはまとめ買いした保存食が詰まった袋が二つ置かれている。

 

「チッ、どいつもこいつも鬱陶しい」

 

迅は苛立ちのままに舌打ちしそう呟くと、早速携帯食を食べ始める。

ビスケットよりも幾分か柔らかいソレらをサクサクと食べ、数回噛んで飲み込むのを繰り返してから水かゼリー飲料を飲むの繰り返しだ。

別に彼は時間に追われ激務に明け暮れる社会人ではいし、今は時間的に余裕がある。携帯食料でもゆっくりと味わいのんびりと食事をしてもいいものなのだ。

だが、今の彼にとって日々の健康を保ち安らぎを与えるはずの食事は、ただ栄養を補給するだけの作業になってしまっていた。作業だからこそ味わうつもりなどなかった。

不味くもなければ美味しくもない。そんな味気ない携帯食料を水で流し込みながら食事を続ける中、迅はふと食事の手を止める。

 

「………………あの人、一度もビビってなかったな」

 

小さな呟きが溢れる。

彼の脳裏に浮かぶのは先ほどの購買の女性だ。彼女は迅が露骨に敵意を剥き出しにしても他の女子達のように怯えるどころか、親切にしてくれた。

しかも、怒鳴っても尚その姿勢を崩すことはなかった。

 

もしかしたら、彼女は時雨と同様女尊男卑の思想に毒されていない者なのかもしれない。だとしたら———

 

「…………ハッ、なわけねぇだろ。なにを信じかけたんだ、クソが。あれが女の手口だろうが。そもそも、IS学園(ここ)にいる時点で同じなんだよ」

 

そこまで考えて迅は首を横に振るとありえないと吐き捨てた。彼女がどう思っていようと、このIS学園で働いている時点で迅にとっては敵だ。

何を馬鹿馬鹿しいことを考えようとしていたのだと、己を責める迅は食事を再開させた。

その時だ。彼に声をかけるものがいた。

 

「……ここにいたのか。紫藤」

「……チッ、何の用だ。ブリュンヒルデ」

 

声をかけてきたのは千冬だった。

迅は誰もいない憩いの場で会いたくない人物と会ったことに露骨に顔を顰めると大袈裟に舌打ちしてそう尋ねた。

 

「………散歩に来ただけだ。お前に何か用があるとかではない」

「………そうかよ。なら、とっとと消えてくれ。目障りだ」

「…………」

 

千冬は露骨に拒絶をする迅に悲しげな表情を浮かべる。偶然散歩と言ったが、ソレは嘘だ。実際は迅がどこにいるのかを探しにきたのだ。

昼休み、昼食をとっているだろうと思ってまずは食堂に赴いた。しかし、彼の姿はどこにもなかった。

とはいえ、女性嫌いである彼が女生徒が集う食堂に近づかないことなど想定済み。だから、次に人気のないところを探した。屋上、校舎裏や、小さな林なども探した。部屋には監視カメラでいないことを確認しているため、最後に外周部に向かった時にようやく迅を見つけることができたのだ。

 

彼を探していたのは、彼を知るためだ。

担任として少しでも彼のことを知り、彼にこれから降りかかるであろう悪意から少しでも守れるようにしておきたかったのだ。

だからこそ、拒絶されるとはわかってても会話の機会が欲しかったというわけなのだ。

まだ2日目でもあるし、態度は相変わらずだがここで引き下がるわけにはいかず、彼女はどうにか話題を作ろうとして、彼が手に持っている携帯食に目を向けた。

 

「……紫藤、ソレがお前の昼食なのか?」

「俺が何を食おうが、アンタには関係ねぇだろ」

「だが、そればかり食べていたら、体を壊す可能性もある。しっかりとした食事をとらなければー「どうでもいいだろ。そんなことは」……」

 

冷たい言葉に千冬は思わず口を閉ざす。

迅はその瞳に深い闇を宿しており、露骨に苛立ちを露わにしていた。迅は水を一気に飲み口の中のものを流し込むとグシャとペットボトルを握りつぶしながら呟く。

 

「どうせまともに生きることなんざできねぇんだ。そんな生活の中で、まともに飯を食ってどうすんだよ。楽しくもねぇ生活でわざわざ手間かけて飯食う気にはならねぇよ」

 

迅が言った理由は大半が建前ではあるが、少なからず本音も込められていた。摂食障害によりまともに食事を受け付けられない迅だったが、ソレを他ならぬ彼女に知られるのは面倒だ。

だから、それらしい理由を並べ、本音も少し混ぜて誤魔化したのだ。その誤魔化しの言葉を信じた千冬は、悲痛な表情を浮かべると小さく呟く。

 

「………そうか」

 

目の前の彼は日々の癒しである食事ですら楽しむことすら出来なくなっていた。その事実に、千冬はひどく胸が締め付けられた。

 

「……紫藤、すまなかった」

「あぁ?なんの真似だ?」

 

突然、頭を下げて謝罪した千冬に迅は片眉を吊り上げると当然の疑問を呟く。そんな彼に、千冬は頭を下げたまま答える。

 

「私達大人の身勝手がお前から在るべき未来を奪い、こんな生活に追い込んでしまった。私含めお前の一件に関わった全員に非がある。お前が誰も信用しないのも仕方のないことだと分かっているつもりだ」

「………何が言いたい?」

「謝罪しても許されないのは分かっている。だから、私にチャンスをくれないか?」

「……チャンス、だと?」

 

迅は訳がわからないと言うふうに呟く。

彼女が言ったチャンス。それが何を示しているのかを全く理解できなかったのだ。

そこで千冬は顔を上げると真剣な表情を浮かべた。

 

「……私がお前の敵ではなく、味方であるということをこれからの行動で示させてほしい」

「……ソレを聞いて、俺があんたを信用するとでも?」

「いいや、そうは思っていない。だからだ、これからの行動で私を見定めてくれ」

「……………」

 

迅は目を細めると千冬をしばし観察するように無言で見る。彼女の表情はあまりにも真剣そのものであり、嘘を言っているようには見えない。

迅がこれまで培ってきた経験則からも彼女がこちらを騙すつもりではなく、本心からそう言っているのだと、分かってしまった。

だから、彼は込み上げる苛立ちにギッと歯を噛み締める無言で立ち上がり、ぶっきらぼうに言い放つ。

 

「………勝手にしろ。どうせ無駄な努力なんだからな」

「……ああ、そうさせてもらう」

「……チッ」

 

皮肉もあっさりと受け流されたことに迅はあからさまに舌打ちをして、ベンチから立ち上がると紙袋を持って何も言わないまま千冬の隣を歩き去って行った。

 

「…………」

 

千冬は何も言わずに立ち去る彼の背中を見つめていた。

そして、彼女に背を向けて歩く迅は苛立ちに顔を歪めると小さく呟く。

 

 

「…………そんなに簡単に変われたら、俺だってここまで憎んじゃいねぇよ」

 

 

その呟きは誰の耳にも入ることなく、静かに空気に溶けて消えた。

 

 





年内での投稿はおそらくこれで最後です。
来年も引き続き拙作四つを楽しんでお読みいただければ嬉しい限りです。

今年も色々ありましたが、みなさん、良いお年を!!

また来年お会い致しましょう‼︎‼︎
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