しかし、そこに待ち受けていたのは、数々の困難と苦労と頭痛と眩暈と吐き気と動悸の連続だった!
どうなる⁉︎正邪の使用人ライフは!
ようやく一日が経とうとしている五日目、ご覧あれ!
「今日から世話になる、キジセイジだ。好きな野菜はトマト、好きな数字は6と9、好きな言葉は下剋上だ」
「よろしく♪私は火焔猫燐。好きなのは人間の死体だけ。趣味は死体集め。どうぞ気軽にお燐って呼んでね」
ユーアークレイジー!
ひょっとして主様を侮辱したらコレクションに加わったりしますか?
「こんなんでいいのか?」
「あら、案外よく似合ってるじゃない♪」
「案外か」
「そう、案外よ案外」
「強調すんな無性に腹立つ!」
さすがにあんな身なりじゃだめだということで、基本服装自由の職場で指定の服を渡されることとなった。そんなに悪かったか?あの服。
「じゃあ早速お願いしたいことがあるんだけれど、はい」
渡されたのは一枚の紙っきれ。
「これを買ってきてくれないかな?」
「えっ買い物!?」
「そう、そこの荷車使っていいから。お願いね♪」
「あっちょっと待て」
行きやがった。どうしたもんか、私ここには土地勘ねえぞ。んで肝心のメモの内容は…
・ビール2バレル
・ダージリン茶200箱
・米6俵
・りんご45個
・キャベツ60玉
・人参50本
ect…
地上に遠征するわけじゃねえんだよな。我らさとり軍、出陣!!なんて。
これを一人でどうしろと…。
荷車ってったって、これ全部でどんくらいの重さだよ!何なら荷車がぶっ壊れちまうわ!
「お散歩の時間?」
「どぅああ!?」
出たなハルトマンの誘拐少女!こいつ確か主の妹だったよな。
「お、脅かすなよ。てかどうやって気配を消しているんだ?」
「乙女の秘密ってものだよ♡」
なんだよ秘密って。
「ところで今からどこへ行くの?」
「いやあ、お燐から買い物頼まれてんだけど、」
「成程、土地勘がない上にとんでもない量を注文したってわけか」
「…よくわかったな」
「うん。だって、びしょぬれで旧都に入ってきてパルスィとなんの躊躇いのなく会話して喧嘩に怖気づいて逃げる人なんて地上の人たちしかいないもん」
「どっから見てやがったんだ!おまえ!」
何なんだよこのガキ。
「で、この荷車。お燐が荷車を使うときは死体を運ぶ時と買い物に行くとき。お手伝いさんに死体を運ばせることはないから、これから買い物に行く。で、荷車を使うほどの買い物はふつーの家庭に生まれた人にとってはそれは驚くものね」
忍者かスパイでもやってたんかこいつ。我が革命軍に加わればかなりいい駒になるはずだが…。
「…で、なんで荷車の上に乗ってるんだ」
「…無意識でつい♪」
「お荷物は置いてくぞ」
「ついていくとはそもそも言ってないけど、ついてってあげる♪」
なにかしらの形で
時間的にはもう夜の筈だが、昼間と変わらぬ喧騒に包まれている旧都。入り組んだ街を酔っぱらいが埋め尽くしている。
「そこを曲がれば青果街だから」
「へえ、店ごとに島分けされてきんのか」
闇市みてえだな。
「そんで、何処で買えば安いんだ?てか、今更だがお燐から金貰ってねえんだけど」
「それなら問題ない。後払いだから。あそこの蔵に注文してある」
小切手が存在すんのか。経済の基盤がしっかりしているとは思えねえし、よほど信用されてんだな、地霊殿とやら。
「ちはー。地霊殿の者だが」
「ほいよ、そこんとこにあるから」
樽…。流石はあれだけの屋敷を構えるだけあって、買い物も規格外だ。青果街とやら、地霊殿の為にできたんじゃねえか?
「んで、日光の当たらんこの地底で野菜なんて育つのか?」
「んにゃ、野菜が育つようになったのはここ十数年の話だ。と言っても、どういう理屈かは俺にもわからん」
見た目は地上の野菜と対して変わらんようだがな。
「料金は後で頂くから、毎度あり」
次は酒屋だが。
「ビールってバレルって数えるもんだっけ?」
「うちだけじゃない?」
数十分後
「重てえな畜生!」
「鬼なのに弱いって、珍しいね」
「私は鬼じゃねえ」
天邪鬼。鬼と付くが、鬼じゃねえ。権力の権化みてえな連中と私たち弱小妖怪を一緒にすんな。
「おりょ!?おお、なんか軽くなったぞ」
「ははは、あんた、さとりんとこの奴だったんだな」
「ぐぇっ!?そ、その声は!?」
いつぞやの怪力鬼女!?なぜここに!?
「そんなに驚くことかしら?私はここに住んでるんだ。ここにいるのは当然だろう?」
「そりゃそうだけどよ…」
何だろう、この緊張は…。
「あんたの主人も人使いが荒いねえ。よく言っといてやるよ」
「あの主と知り合いなのか?」
「ここいらのもんは大体知り合いみてえなもんよ」
あの時の喧嘩でも姐御とか呼ばれてたからなあ。地底じゃ結構有名人なのかもな。
「ところでよお、後どことどこが残ってんだ?」
「あとはお空を呼びに行くだけ」
「お空?
「お空か。暫く会ってないから、顔見せに行くか」
それは地下空間の天井を突き抜け、地面に突き刺さった、巨大なパイプのような妙に機械的な人工施設だった。施設のいたるところにパイプが走っており、いたるところから蒸気が噴出している。
「誰がこんなへんちくりんな建物を建てたんだ?」
入り口らしきゲートはあるにはあるのだが、そこには規制線が張られており、危険☢WARNING☢と書かれている。
「なんか知らねえけど、これ引き返した方がよくねえか?ってうぉぉぉぉぉぉぉい!?なに勝手に入ってんだ!?」
「最後のお使いを済ませないと」
わ、私は御免だぞ!こんな得体の知れねえところに入るなんて…。
な、なに?いつもの天邪鬼精神はどうしたって?そりゃ今更だろ!入るなと言われたら入りたくなるってのは、多分他の鬼人正邪がやってくれてるから、ここでやらんでも大丈夫だよ!
(こいし様を危険な目に遭わせたら、貴方をコレクションにするわよ)
っく、幻聴が…!
ったく、いつからこの私が保護者になったんだよ。神出鬼没で目ぇ離すとすぐどっか行っちまう奴の面倒なんて、目がいくつあっても見きれんわ。
「ところでここは何なんだ?見たところ入り口なんて無さそうだぞ?」
「ちゃんとあるよ、見てて」
こいしは岩壁の前に無意味に立っている石造りの鳥居の前に来て、一礼した。そして、
「守矢の神は世界一ィィィィィィィィィィィィ!」
ま た 守 矢 か !
こいしが叫んだ途端、何の変哲もない岩肌が裂け始め、通路が現れる。
「どういった仕組みか知らんが、まさかこんなところまで関連施設が存在したとは、守矢、恐るべし」
洞窟の中に入ると、何やら機械だらけの部屋に来た。赤、青、黄土色の光がちかちか点滅していて、なんかすんげえ光ってる場所を写した動く写真が、ドーンと貼ってある。
「ほんと河童の技術ってのはわかんねえよな」
こいしが何やら機械い向かって話しかける。
「お空ぅ~!ご飯だよぉ!」
その刹那、この部屋のありとあらゆる機械が、心臓を抜かれたかのように動かなくなった。
「さ、戻ろ」
「あ、ああ。私としてもあまり長居はしたくねえかんな」
「ところで、飯っていったい何なんだ?」
「お燐特製、オムライスでーす!」
「やったー!おりんのおむらいすだー!」
「へえ、そいつは酒の肴になるのか?」
「もう、勇儀姐さんはお酒の事しか頭にないんだから」
「「「ははははは」」」
「ははは…、一ついいか?」
「何?キジ姉ちゃん」
「お前私の事初めてそう呼んだな。まあいいや。いつの間にか私の前に現れてナチュラルに会話に参加しているこいつは誰なんだ?」
「うにゅ?」
指させられた本人は、なぜ呼ばれたのか分からないとでも言いたげな表情でこちらに振り返っ、いたっ!翼が目に!
ってか荷車牽いてる私の前に立つな。翼で前が見えねえんだよ。
「あれ?会うのは初めてだっけ?」
「おめえ会った奴の顔とか覚えてねえのかよ!」
なんか鳥みてえな奴だとは思っていたけど、頭ん中までとは思わなかったぞ。
「私はキジン…キジセイジだ!地霊殿の主人に新しく雇われた。おめえがお空って奴か?」
「ああ、我こそが霊烏路空、究極の核融合でお前の身も心もどろどろにしてやんよ!」
…何言ってんだこいつ。頭ん中でメルトダウンでも起きてんのか?何言ってんだ私。
「お空はね、あの核融合炉の管理を守矢神社から任されてんの」
マジか終わってんな幻想郷の危機管理体制。核融合炉が何だか知らんがそんな気がする。
「つかぬ事聞くが、お前らは守矢神社とは何も関係ないんだよな?」
「うん、地霊殿主の代わりに申し上げます。当家は守矢神社とは一切関わりをもっていせん。全て部下がやっている事です」
「一々胡散臭えんだよ!」
革命家レジスタンスたる者如何なる尻尾も掴まれてはいかんからな。特に新興宗教関係とか。
「それに私は命連寺の修行僧だし」
「お前さっき守矢神社は世界一とか叫んでなかったっけ⁉︎」
「遅いから心配したわよ?」
「荷車持ちながら言うな洒落にならん」
邸に着くと、何故か残念そうな顔でお燐が迎える。
「あら、こいし様もご一緒だったのですね」
「ようお燐、久しぶりだな」
胸に抱きつくこいしを丁寧に剥がしながら、お燐は声の主の方を見る。
「あら勇儀、どうしたの?」
お燐と顔見知りというのは嘘では無いらしい。彼女が鬼である時点で嘘でない事は保証されているようなものだが。
「こいつ、地底のもんじゃなけりゃ鬼でもない。あまり無茶な仕事はさせんなよ?」
「?、わかったうえでたのんだのだけど」
最初から荷車の荷物にする予定だったっつうわけか。辞めようかな、この仕事。
地霊殿で働き始めた正邪さんでしたけど、地霊殿の主、古明地さとりには、正邪さんにとって致命的な秘密が隠されていた?
次回、六日目 心を覗くサードアイ
ところで今守矢神社に入信しますと、特典としてもれなくすぺしゃるミシャグジ人形と、守矢特製、奇跡の壺とそれからそれから…