頭をトンカチで殴打されたような痛みにも近い衝撃が、全身を駆け巡る。
何が起こっているのか理解が追いつかず、情報処理が緊急停止する。
明らかにおかしい。起動したタブレットを両手で握りしめても、僕の思考は錯綜するばかり。
なぜこうなっているのか。頭はもうパンク寸前まで来ていた。
そうなった元凶である画面を凝視するしかなかった。起床して早々、こんな意味不明な事象が起きているなんて。
二〇一二年、十月。その月に開催される世界最高峰のレースの一角、凱旋門賞(パリロンシャン競馬場・芝二四〇〇m)。
それに関係することで、僕からして世界の認識が明らかにおかしかった。
――三冠馬オルフェーヴル、あと一歩及ばず。世界の頂未だ遠し。
なぜだ。なぜこうなっているんだ。
僕がおかしいのか、あるいはタイムパラドックスのような事象でも起きているのか。
今年の凱旋門賞も日本馬が制したというのに。
ただただ、脳が理解を拒んでいた。
しばらくし、ようやく落ち着きを取り戻した僕は、まずはネットで歴代の凱旋門賞馬を調べてみることに。
明らかに何かがおかしい。
新聞の見出しなんて、まさかと笑い飛ばしたかった。けれど、そうもいかなかった。
その不安は、やはり的中した。
一九八一年勝ち馬がゴールドリヴァーという当時の四歳牝馬。僕が知っている勝ち馬は日本調教馬として英愛ダービー、キングジョージを連勝したシャーガーだったはず。
そのシャーガーもここでは誘拐され消息を絶っているという。彼は日本で余生を送っていたのだが……。
自身の好きな馬がこんな末路を辿っているなんて知りたくなかったし、受け入れたくなかった。だけど、事実のようだ。
その他にも様々な相違点がある。
一九七六年にはまだジャパンカップが創設されていなかったりとか、そもそもグレード制が未導入であったとか。
色々と違いすぎて、目が回りそうだ。
気休めに競馬関連の書籍でも本棚から漁ってくるとしよう。
まあ、これは現実逃避ともいうのだが。
自宅の隅にある本棚から一冊の本を取り出し、開いてみる。
その本の内容を簡潔に言うのなら、顕彰馬一覧とだけ。
これを開いて、もし僕が知っている内容とまったく異なるというのなら、もはや受け入れるしかないのだろう。
気休めなど忘れ、半ば祈るようにページを手に取る。
ひと目見て、ホッと安堵する。
僕の頭にある顕彰馬の歴史に、変わりなかったから。
胸を撫で下ろす。まさか定期的に読んでいる顕彰馬一覧の書籍で、こんなにも安堵するとは。
日常に何も変わりない。それがなんという尊さか改めて知れたような気がする。
感情もだいぶ落ち着いたことだし、今度は競馬新聞でも目を通すとする。
競馬新聞には、新馬戦の出走馬表が記載されていた。
そこには、僕がよく見知っている騎手を鞍上に据えた、トレヴという馬名があった。
いったい何ポ馬主なんだ……?