廃人の義姉を名乗る戦闘狂 作:6Vワナイダー
メリークリスマス♡
いかがお過ごしですか?(もろはのずつき)
セルクルジムの時にも少しだけ触れたが、パルデアでジムバッジを獲得するには、ポケモンバトルとは別にジムテストと言うものを消化しなくてはならない。
セルクルではクソデカオリーブの実をコロコロと転がして、サッカーゴールのような網にぶち込むと言う趣旨のものだったが、このボウルタウンのジムテストは街中に点在するキマワリを集めてこいといった内容だ。
このキマワリ、意外と街の隅々まで目を凝らさないと全て集める事はできないし、逃げ出す個体もいてそれなりに骨の折れる作業だった。キマワリのあの笑顔が段々煽りに見えてくる。
ただ、このボウルタウンは街の景観が素晴らしく、他の街と比較しても頭ひとつ抜けている。街に入ってすぐに見える大きな風車、綺麗に敷き詰められた白い石畳、異国を思わせるような木組みで統一された建造物、至る所に整備された色とりどりの花壇と、どれを取っても満場一致の百点満点の景勝だ。
このテストを考えた人はきっと、街の美しさを挑戦者にじっくりと堪能して貰いたかったのだろうと勝手に結論づけ、のんびりと街中をリオルと共に散策しつつキマワリ達を集めて行く。もう俺の事好きになったよね?いい加減ルカリオに進化して♡
リオルが俺になつくより先にキマワリが集まってしまったので、そのまま受付にジムテストの完了を報告。その後すぐにバトルコートへと向かう。しかし、バトルコートにはジムリーダーと思しき人物は見当たらない。うんこでもしているのだろうか?
「挑戦者よ!」
いきなり頭上から声を掛けられ、おったまげた俺は反射的に上を向く。よくよく見てみれば風変わりな格好をしたおっさんが風車の上で超格好つけているではないか。お前さては学生時代に校庭の木の上で本とか読んでたタイプか?あれ意外と簡単に枝折れるからクソ危ないよな。
「とうっ!」
何を血迷ったのかおっさんは風車から飛び降りると、無駄にスタイリッシュな着地を決める。お前の足首どうなってんだよ……本当に人間か?
「ワタシは芸術家のコルサだ。キサマのジムテストは風車の上から見ていたぞ!……随分とのんびり街を練り歩いてたように見受けられたのだが?」
サボってたの普通に見られてて草。いや、ちょっとくらい許してくれよ。海外旅行をした事のない俺からしてみれば、ラ・マンチャのような風車が映える街並みを前にして観光をするなと言うのは無理な相談である。
「街並みがあまりに美しいものでしたので、テストそっちのけで観光しちゃっていました。ごめんなさい」
オラッ!ショタがいじらしく上目遣いで謝ってんだろうが!許すしかないよなぁ!?
「テストを受けている身でありながら、この芸術的とも言える街並みを堪能してしまおうと言う大胆不敵の立ち振る舞い……実にアヴァンギャルド!」
コルサさんが目をかっ開いていきなり叫ぶので、ポケモンバトルを野次馬をしに来た見物人たちがシン……と静まり返る。真顔で叱られたのか許されたのか判断できない微妙なラインを突くのやめてくれよ……この後どう言う態度取って良いのか分からなくなるじゃん。
「この街の美しさを理解できるその審美眼が、これからのバトルに活かされる事を期待しているぞ」
どうやら良い意味でアヴァンギャルドだったらしい。コルサさんはモンスターボールを取り出すと、ポケモンバトルを始める体勢となる。全然関係ないけど、シバかれたらクソ痛そうなそのロープは一体何に使うんだろうか。
さて、こちらもポケモンバトルをしたくてウズウズしていた所だ。セルクルジムで奇襲にも近い仕打ちを受け、今回はパーティを刷新してきている。
今日のパーティの目玉はなんとワナイダー。これまでは悪戯にねばねばネットを撒き散らすだけの害虫でしかなかったが、今回の調整はガチだ。
なんとこのワナイダー、努力値をHA振りにするとキノガッサのつばめがえしを耐えた上で、H4振りキノガッサなら返しのつばめがえしで丁度ぴったし確定一発なのだ。あの厨ポケと名高いキノガッサのキノコのほうしを完全無効化しつつ、お釣り無しで瀕死にする事ができるだなんて、神はワナイダーを見捨ててはいなかったと言う事だ。
とは言え、フラットルールではないので相手の方が高レベルの可能性もあるし、キノガッサが先発で出てくるとは限らない。この虫けらがムシキングへと成り上がる為にも、なんとしてでもワナイダーはキノガッサに投げたい。
と言うわけで、先発はくさ統一にガン有利なファイアローに任せる。キノガッサだけは倒すなよ?あれはワナイダーのおやつだからな。
などと、取らぬ狸の皮算用をしていた俺を嘲笑うかの如く、コルサさんのモンスターボールからはLv16チュリネが出ててきた。
俺はあまりに予想外の展開に目を疑ってしまった。コルサさんも俺のファイアローを見るなり、顎が外れそうな勢いであんぐりと口を開いて固まってしまった。このおっさん、意外と面白い人なのかもしれない。
「お、おい……キサマ、まだバッジは一つしか集めていないと聞いていたのだが!?これはどう言う事だ!」
知らんよ……俺が聞きたいよ……なんだよこの落差。あつぞこブーツウルガモスとか投げられた後に、チュリネ投げられるなんて思わないでしょ普通。いや、マジでどうなってんのこれ?
「その……ポケモンリーグの方から何か言われませんでしたか?ぼくに対しては本気のポケモンを投げろ、みたいな事を」
「そんな事は聞いておらん。むしろ、キサマが来たら普通にテストをしろと言われていた」
ますます訳が分からない。わざわざ『普通にテストをしろ』などとコルサさんに伝えていたという事は、あのカエデさんの初見殺しは『普通ではないテストをしろ』とリーグ側の働きかけがあった事の答え合わせに他ならない。一瞬でも貴女の性癖を疑ってしまった俺を許してください、カエデさん。
肩透かしを食らったような気分になってしまった俺は、壊れた機械のようにフレアドライブを指示する。涙を浮かべてプルプルと震えるチュリネ、ミニーブ、ウソッキーたちを淡々と倒していくのは、廃人の俺ですらクるものがある。もはやサイコパステストだろこれ……
バッジは貰えたが、ワナイダーが不快害虫の汚名を返上する事は叶わなかった。はい、と言う事でこれからまた君にはHBぶっぱ振りに戻ってもらいます。この後ネモにネコブのみを無心しに行かなきゃいけない俺も辛いんだぞ、許せ。
「……流石にこのバトルに対して、キサマのポケモンでは
アヴァンギャルドの汎用性高すぎだろ。
「いや、ぼくもこんなつもりは無かったと言いますか……コルサさんは本気の手持ちとかってありますか?」
「今回のポケモンたちは言うまでもなくジムテスト用の手持ちだ。ワタシの本気と呼べる手持ちは、母なる自然そのものと呼べるポケモン達だが、無論芸術を理解した者にしか見せるつもりはない。まあ、この街の美しさが分かるキサマとなら、共に芸術の扉を開くのも
「本当ですか!?バッジ集めてチャンピオンをボコボコにしてきたらまた再戦しに来ますんで、キノガッサも手持ちに入れて待ってて下さいね!」
「ファイアロー以外の手持ちとは相見えなかったからな。アヴァンギャルドなディテールを期待しつつ、このオルタナティブスペースでその時を待っているぞ!」
残念ながらコルサさんは
死ぬほど後味の悪いバトルになってしまったが、バッジは獲れたし再戦の約束もできた。もう少しボウルタウンでゆっくりしていくかな……と考えていたところ、見知った人物がこちらを凝視している事に気づく。
眼鏡をしていないからすぐに気付けなかったが、あの時の面接官……チリさんだ。こんな所で何してんだ?俺のバトルを見ていたようだが……
「チリ面接官じゃないですか。その節はどうも」
うーん、面接の時と比べて雰囲気が全然違うな……なんかもっと毅然としていたと言うか、こんな挙動不審じゃなかったと思うのだが、どうしたのだろう。
「な、なはは……こないな場所で面接官は恥ずかしいねんな。気安くチリちゃんとでも呼んでや」
コテコテの関西弁でそう語るチリ面接官、改めチリちゃんは困ったような顔で頭を掻く。もっと堅苦しい人かと思っていたが、めちゃくちゃ気の良いお姉さんだったようだ。
「……そうですか。ではお言葉に甘えますね」
チリちゃん呼ばわりも許してくれたし、どうやら面接での出来事は水に流してくれるようだ。だが、仮にそうだとしたら、何故カエデさんにあんな初見殺し要素を付与してきたのかが謎に包まれてしまう。溜飲が下がって「やっぱ許したるわ!」と気が変わったのだろうか……?
「丁度、チリちゃんに聞きたい事がありまして……なぜ、急にジムの難易度を下げたんですか?」
「そ、それについて説明しに来た所や……実はな?先日、自分がカエデさんの本気と戦う事になってしもうたんはチリちゃんの手違いやった事を伝えにきたんや。ほんまに堪忍な」
え、じゃあカエデさんがガチって来たのは不慮の事故って事なのか?何がどう作用したらあんな状況が出来上がるのか微塵も想像がつかないが……まあこちらとしてはちゃんと勝ってバッジは取れたし、久々に頭を使う戦いができたのでそこまでの不満はない。全く不満が無い訳じゃないよあつぞこブーツ蝶舞ウルガモスくん♡
「謝る必要はないです。カエデさんとのバトルは大変有意義でしたので。貴重な経験をさせていただいた事に感謝したいくらいです」
野焼きと呼んでも差し支えない今回の蹂躙劇と比べたら遥かにマシだ。
「いや……もう今後はこんな事起きんよう気をつけるさかい、今回みたいな普通のジムテストを受けて……」
「チリちゃん、それは困りますね」
見ろよこのファイアローくんのやるせない顔……その力故に全てを破壊してしまう悲しきモンスターのような目をしているじゃないか。自分のポケモンが「ねえ、キミは何秒持つかな?」とか言って相手をいたぶる趣味に目覚める所など俺は見たくないゾ。
「前回のセルクルジムでは心からバトルを楽しむ事ができたんですよ?それを今更取り上げようだなんて……酷いじゃないですか」
オラッ!ショタがいじらしく上目遣いでお願いしてんだろうが!無限回使えるわこの技。
「い、いや……な?他の受験者も不審に思うやろし、何よりチリちゃんにそんな勝手な事やれる権限ないんよ……だから……」
大人の事情と言うものは痛いほど良く分かる。リーグに戻るとチリちゃんは上司に詰められるのかも知れない。でもね……
「チリちゃん、これは……」
ワナイダーのまともな活躍をチラつかせて、それを目の前で奪われちゃ黙ってられないでしょ。
「——貴女が始めた物語でしょう」
——これは止めてはならぬ物語。ワナイダーはキノガッサを葬るその日まで進み続ける……ワナイダーを止める事など何人たりともできないのだ……
——やっぱ今のなし。メンタルハーブが無いと『ちょうはつ』で止まるのだ……
∮∮∮∮∮∮∮∮∮∮∮∮∮∮∮∮∮
ネコブの実を収穫しにネモの家へと向かう道中、コサジの灯台にハルトがいるのを見つけた。そろそろレッスンの続きでもしてやろうじゃないか……と、ハルトきゅん実らせ計画の遂行を試みようとしたが、何やらデッカいバックパックを背負ったアカデミー生と取り込み中のようだ。
「ヌシポケモンと戦うのは危ないからな……しっかり準備してから行くぞ!」
ん……?子どもたちだけで危ない事をしようとしているのか?名も知らぬ少年よ……その子はネモを絶頂気絶させられるだけのポテンシャルを秘めている無形文化財ショタなんだぞ。それを危険な所へ連れ回そうだなんて……ダメじゃないか♡
二人をこっそりと尾行すると、彼らは断崖絶壁が立ち並ぶ南3番エリアで足を止めた。秘密基地作りでもするのか?ルビーサファイアで頑張って作った秘密基地がどこにあるか分からなくなって、何度もトクサネシティまで基地の場所を聞きに行ったものだ。
「この辺にヌシがいたはずなんだが……」
ハルトにペパーくんと呼ばれていたこの少年は、どうやらヌシポケモンを探しているらしい。パルデアにもヌシポケモンがいるのか……サンムーンのぬしラランテスみたいなのがいたら彼らのトラウマとなる事必至だろう。
「居たぞ!あのガケガニだ!……でかすぎんだろ」
テニス選手がダイマックスしてそうな感想を述べるペパーくんの言う通り、彼の指差す先にはデカ過ぎるガケガニが崖にへばりついていた。
ガケガニは微動だにせず、目玉だけをギョロギョロと動かしていたが、ハルト達の姿を捉えるとその巨体を彼らの前にズシンと着地させた。
「ウガアアアアニイィ!」
うわぁ……こいつの鳴き声ちゃんと聴くの初めてだけど不気味すぎだろ。例えるならギックリ腰をやったおっさんの咆哮に近い。俺はギックリ腰になった事がないが、経験者は皆口を揃えて『あれはヤバい』としか言わないのが怖過ぎる。
トラウマ確定な見てくれをしたガケガニにも怯まず、ハルトはマリルリを繰り出す。いや、よく見たらちょっとプルプル震えている。この男子がそんじょそこらの女子よりあざといバグなんとかしろ。
とは言え、タイプ相性を完璧に理解しているハルトからしてみれば、この程度のヌシポケモンを倒す事は造作もない。みず技のアクアテールでガケガニをタコ殴りにする。カニだのタコだの美味そうな単語ばっか出てきやがる……北海道フェアか?
「ウガアアアアニィイ……」
これにはガケガニも堪らずと言った様子で逃げ出す。やっぱ何度聴いてもおっさんの鳴き声にしか聴こえん。おっさんの鳴き声って何だよ……と思ったけどよくよく考えたら何度も聴いてるわ、主に競馬場で。
ペパーとハルトは逃すまいとガケガニを追うが、そこまで遠くには逃げていなかったのかすぐに見つかった。
「おい、あいつ何か食べてないか?……あれは秘伝スパイスだ!」
ペパーくんの言う秘伝スパイスって何ぞやと思いガケガニを観察してみると、ガケガニは何らかの植物をツマツマと口に運んでいる。
スパイスを摂取して禍々しいオーラを纏ったガケガニは、再びハルト達に襲いかかる。ペパーくんはシェルダー、ハルトはマリルリを繰り出し、先程と同様にみず技でガケガニを殴る。
「ウガアアアアニィィイイ!」
ガケガニを一撃で仕留める事は叶わず、ガケガニは身に纏うオーラを更に強める。あれ、もしかしなくてもとくせいの『いかりのこうら』が発動してないか?
いかりのこうらはHPが半分になると防御、特防が1段階下がる代わりに、攻撃、特攻、素早さを1段階上げるというクソ強とくせいだが、ガケガニという種族値の低いポケモンが持っているので許されている感がある。だが、ヌシポケモンがこれを発動させたとなると話が変わってくる。
これまではマリルリに上からアクアテールを叩き込まれる防戦一方だったガケガニは、素早さをあげる事で形勢逆転に成功する。
「おい、どうするよハルト……ピンチじゃないか?オマエのアチゲータやビビヨンじゃいわ技は受けられないし、このままじゃやられちまうぞ!」
二人の間に緊迫感が漂い出すが、ハルトは諦めずにモンスターボールを投げる。中から出てきたのはパルデアのウパー……どうやら俺の助言を聞き入れてじめんタイプを手持ちに増やしてくれていたようだ。嬉しい反面、怪しい人の言葉を信じちゃダメじゃないかという相反する心情がごちゃ混ぜになり、俺の頭がおかしくなる。元からか。
ただまあ、いくらタイプ相性での耐性があっても、ウパーにはヌシポケモンをどうこうできる実数値が足りてない。旅パはとにかくレベルアップさせる事が最優先だ。
さて……ショタ達の安全確保はパルデア文化財保護法で定められている。二人も落石事故に巻き込まれたとあっては、パルデアのおねどもが暴動を起こしかねない。
俺はワナイダーの仮面をつけると言う完璧な変装をした上で、彼らの前に姿を表す。
「少年少女たちの性癖を守る男、ワナイダーマッ!」
名乗り口上も欠かさない。二人の目にはピンチを嗅ぎつけ颯爽と現れたヒーローにしか見えていない事だろう。
「何だこの怪しすぎる仮面は!?ヤバスギちゃんだぜ!」
仮面にしたポケモンの選定がクソだったようで、ペパーくんの信頼は勝ち取れなかったようだ。責任取れよワナイダー。
「パーモット、マッハパンチで卑劣な悪を打ち砕け!」
正直、パーモットの素早さなら先制技なんて打たなくても上は取れていると思うが、マッハパンチを指示する。何故ならその方がカッコいいから。事実、こだわりハチマキを翻してマッハパンチを叩き込む姿は、まさに正義の一撃。ワナイダーにはとてもできない芸当だ。
「す、すげえ……全く見えなかった!強すぎちゃんだぜワナイダーマン!」
「ふっ……強いのは私ではない。私のポケモン達が強いのだ!」
「か、カッコいい……」
目をキラキラとさせて賛辞を送ってくれるペパーくんだが、言うほどカッコいいか?その身ひとつで銃を持った相手を薙ぎ倒していく元軍人のコックみたいなのが俺の理想像なんだが。
「ふっ……マッハパンチは音速を超え、全てを超える」
……しんそくとかねこだましとかもっと速い技いっぱいあるけど、この純真な少年たちは頭レート民ではないので、そんな野暮な突っ込みは飛んでこない。
「ハルトくん、君のマリルリにも『アクアジェット』と言った技を覚えさせて見てはどうかな?さすれば、私のポケモンたちの強さの秘密を知る事ができるかもしれないぞ。君にも勝ちたい相手がいるのだろう?」
ハルトも尊敬の眼差しでコクリと頷く。その相手がこのふざけた仮面の中身だと嬉しいな♡
ペパーくんの目的はヌシポケモンではなく、先ほどガケガニが食べていた秘伝スパイスにあったようで、ヌシポケモンが身を潜めて居たと思しき洞穴へと入っていく。
「……あった!これが『あまスパイス』だ!」
ペパーくんが覗き込んだ場所には、赤く輝く植物が生えている。スパイスなのに甘いとはこれ如何に。
「うおー!やったぜ!ありがとなハルト、ワナイダーマン!」
感極まった様子でペパーくんは頻りに感謝の言葉を述べるが、そんなに貴重な物なのだろうか?
ペパーくんは徐に分厚い本を取り出すと、あまスパイスの頁を探し始める。
「えーっと……あまスパイスは胃に優しくて、食物の消化を助ける働きがある。腹痛、食欲不振といった症状に効果は絶大……って書いてあるぜ!」
見た目のヤバさに対して効能が体に優し過ぎる。だが、そんなスパイスを探してペパーくんはどうしようと言うのだろうか?
「よし、こいつを料理するぞ……ハルト、飯だ!」
意気揚々と調理器具を取り出そうとするペパーくんだったが、ハルトはその腕を掴みフルフルと首を横に振る。
「何……?傾斜があるからダメ?じゃあこことかは……」
なかなか首を縦に振らないハルトだったが、全く傾斜のない場所を見つけるとようやくレジャーシートを広げた。どうやらパルデアの民は非常にお淑やかなようで、けったいな場所でピクニックをする事を許容しないらしい。ところ構わずカレーを作るガラル民族は見習え。
「うおおぉおお!ずりゃあ!おりゃー!」
とても調理中に発する声とは思えないが、ペパーくん料理の腕はかなりの物であり、見るからに美味そうなサンドウィッチが完成していた。
「オレ特製きまぐれスパイスたっぷりサンドだ!ハルト、サンドウィッチはこうやって作るんだぜ?間違っても積み木みたいに具材を上からポトポトと落とすんじゃないぞ!前みたいに崩壊してグチャグチャになっちゃうからな!」
ハルトくんどんなサンドウィッチの作り方してんねん。素で笑いそうになったわ。
それはそれとして当然のようにサンドウィッチと共にペパーとツーショットを撮るハルトくんはインスタグラムでもやっているのだろうか?間違ってもハッシュタグにワナイダーマンとかつけるなよ。事案にしかならない。
ペパーくんは俺の分のサンドウィッチも作ってくれたようだが、仮面は外したくないので後で食べるとしよう。やんちゃそうな言動とは裏腹にとても心優しい少年のようだ。きっと素晴らしいご両親の元で育ったんだろうなぁ……
サンドウィッチに舌鼓を打っていた二人だったが、不意にハルトの手持ちからポケモンが飛び出してきた。
「アギャス!」
うぉ!?モトトカゲ……ではないな。その体躯はかなり大きいし、色もモトトカゲと違って菫色だ。それに全体的になんだかメカメカしい造形をしている。見た事もないポケモンだ。
「げっ、ミライドン……なんだこいつ、勝手に自分で出てきたのか?」
モトトカゲに良く似たポケモンはミライドンと言う名前らしい。ミライドンはハルトの持っているサンドウィッチをスンスンと嗅いでいる。かわいい。
「……んだよ。オマエの分はないぞ」
先ほどまでとは打って変わって冷たい態度を見せるペパーくんだが、このミライドンとは何か因縁があるのだろうか?
作って貰った手前で食べずに持って帰るのもアレだなと思っていたので、先ほどペパーくんから受け取ったサンドウィッチをミライドンに与える。
「アギャア!」
死ぬほど威嚇された。何で?と思ったけどワナイダーの仮面してたわ。自己解決。
とはいえ、食欲には勝てなかったようで、ミライドンは俺が差し出したサンドウィッチを貪る。間違っても俺の腕ごと食うんじゃないぞ。
「アギャアアス!」
ミライドンは完食するなり、菫色のオーラを迸らせる。
「んん〜?なんかコイツ、パワーアップしてねぇ?」
「アギャス!」
「うぉーマジか!スパイスの力ってすげー!」
おい、ペパーくん。それは本当に人間が口にして良かった物なのか……?やっぱり脱法スパイスでしたとかやめてくれよ。シャブ漬けショタとか絶対にポケモンの世界に存在しちゃいけないものだぞ。
「こんな凄い効果があるなら、スパイス集めも立派な宝探しだよな?な?だからこれからもスパイス集め手伝ってくれよ、ハルト!」
麻薬王に、俺はなる!
「片付けはオレがやっておくから、ハルトとワナイダーマンは先に帰っててくれよ。ほら疲れただろ?オレに任せろって!今日はありがとな!」
ハルトがサンドウィッチを完食するなり、ペパーくんは俺たちを洞穴の外へ追い出す。お家に帰るまでがピクニックなので、俺はこっそりとペパーくんを監視する。お前を見ているぞ。
「……もう出てきていいぞ、マフィティフ」
俺たちを見送った時の屈託無い笑みを引っ込め、表情を曇らせたペパーくんはモンスターボールからおやぶんポケモンのマフィティフを繰り出す。だが、マフィティフの様子は何やら只事ではなく、ぐったりとした様子で地面に伏せたままだ。
「秘伝スパイスの力なら……元気になってくれるよな。もう一回元気に走り回ってくれよ。もう一回元気な鳴き声を聴かせてくれよ。オレは……オレはそれだけで良いからさ。立ち上がってくれよ、マフィティフ」
おい……動物系はやめろ!反則だろこんなの!
少年とマフィティフとの絆に涙する男、ワナイダーマッ!!
お気に入り、評価、感想、誤字報告、ここすき、いつもありがとう♡
細かいバトル描写需要ある?
-
いる
-
いらない
-
そんな事よりおねを供給しろ
-
もっとネモネモしろ