廃人の義姉を名乗る戦闘狂   作:6Vワナイダー

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明けましておめでとうございます♡
おらッ!お年玉だぞ!(16,000字)


かわいそうなのは抜けない

 

 俺自身はストリーマーと言う職業に縁があった訳では無いし、そう言ったコンテンツに殊更強い関心を持っていた訳でもない。だが、沼にハマっていると形容しても差し支えないレベルで執心だった友人が何人か居た。生活費を切り詰めてまで投げ銭やグッズの購入資金を捻出していて、給料日直前になるとタバコすら吸わなくなっていた時は流石にドン引きした。ニコチンの依存性をも凌駕するとは恐ろしいものである。

 

 対岸の火事を眺める姿勢を貫いてきた俺だが、このパルデアにもそう言った文化が存在していた事には驚きを隠せない。それどころか年齢層や性別を問わず浸透している程のビッグコンテンツだ。

 

 このハッコウシティのジムリーダー、ナンジャモちゃんもパルデアに数いるストリーマーの一人だが、彼女はいわゆる大物配信者に分類される上澄み中の上澄みだ。街の至る所に設置されているビルボードには彼女のプロモーションビデオや出演広告が絶え間なく流れている。

 

「あなたの目玉をエレキネット!何者なんじゃ?ナンジャモです!おはこんハロチャオ!」

 

 おはこんハロチャオ!

 ナンジャモちゃん!

 待ってた

 おはこんハロチャオ

 おはこんハロチャオ〜

 今日もカワイイ!

 

 今まさに彼女の動画配信が始まった所であり、俺のスマホロトムにはポップなオープニングと共に奇抜な挨拶をするナンジャモちゃんの姿が映し出されている。満面な笑みと共に光るギザ歯、どう言う原理かは分からないが彼女の表情の変化と同期しているコイルの髪飾り、オーバーサイズのブカブカなパーカーからチラ見えするセンシティブなインナー……トップストリーマーはビジュアル一つを取ってもキャラが立っている。そのパーカーを脱ぎ捨てて配信をしていたら俺もチャンネル登録していた事だろう。

 

「今日もジムリらしくジムテストをやっていくよ〜。今日の挑戦者氏は……この子!」

 

 かわいい

 かわいい

 お、アカデミー生だ

 緊張しててかわいい

 女の子?

 こんなに可愛いんだから男の子に決まってるでしょ

 可愛いのなら女の子では?

 なんだァ?てめェ……

 

 カメラを向けられあわあわとテンパる少年はどこからどう見てもハルトだった。配信開始1分を待たずしてコメント欄で性癖バトルが始まるあたり、流石としか言いようがない。

 

「コラコラ、喧嘩する子にはかみなりが落ちるからネ!というかボクよりもかわいいのコメントが多いんだけど!?妬けるけどバズりの香りがするから超フクザツ!」

 

 世間に見つかってしまったか……俺たちの無形文化財が。

 

「さてさて、超絶多忙エレキトリック★ストリーマーなボクとのコラボ配信を実現する為に、挑戦者氏には盛り上げてってもらうよー。そんじゃも〜企画を始めようか……街角ジェントルさん、いらっしゃーい!」

 

 ハッコウジムでは、生配信しながら執り行われるという今までとは少々毛色の違うジムテストとなっているようだ。……というか街角ジェントルさん、どっかで見た事あると思ったらクラベル校長なんだが。

 

「おや、ハルトさん……奇遇ですね」

 

「えー!なにナニ?もしかして知り合い?」

 

 校長や。

 

「この人オーラバリバリあるから、街歩いてるとこスカウトしたんだけど!」

 

 どんなオーラだよ……1万2660人とポケモンバトルしてそうなオーラですかね?

 

「挑戦者のハルト氏にはこのジェントルさんとかくれんぼをしてもらいます!街頭カメラでジェントルさんを3回見つけたらジムテスト合格!名付けて……『クイズ!わたしはどこでしょう?街角ジェントルさんを探せ!』」

 

 一昔前のバラエティ番組臭がハンパない。企画者絶対おっさんだろ。

 

「んじゃもージェントルさん、スタンバイよろしくね!」

 

「ポケモンリーグにはお世話になってますからね……お手柔らかにお願いしますよ」

 

 あまり乗り気じゃないようなセリフを残して、クラベル校長は無駄に姿勢のいいフォームで走り去る。だがこの校長、どう見てもノリノリである。

 

 その後校長はフードコートの客に紛れ込んだり、ポケセンの受付に紛れ込んだり、クルーザーに腰掛けたりと、あの手この手で風景に溶け込もうとするものの、街中に校長という異物混入感だけはどうする事も出来ず、ハルトに秒で見つかっていた。この企画やるならオーラバリバリな人間捕まえちゃダメだろ……

 

 頑張って見つけようとするの可愛いかった

 バレバレでもちゃんと探すフリするのあざとい

 は?この子は天使だからそんな打算的な事しないよ

 小悪魔な少年の方がわからせ甲斐があるでしょ

 あら、戦争?

 天使派閥はなかまづくりの構えです

 小悪魔派閥はてっていこうせんも辞さない模様

 

「フヒ……ハルト氏のおかげで皆の者も大いに盛り上がってるね〜。これで登録者数もシビルドン登り……じゃなくてジムテストクリアだー!」

 

 絶対これ校長が体張った前座なんかしなくても登録者数増やせただろ。と言うかナンジャモちゃんはコメント欄に過激派が形成されつつある事実から逃げるな。

 

 ジムテストに合格したハルトは、そのままバトルコートへ移動し、ナンジャモちゃんとのポケモンバトルへと移行する。ナンジャモちゃんもスマホロトムによる自撮りを開始し、ポケモンバトルの様子を配信する準備を整える。

 

「皆の者ー!準備はいーいー?」

 

 うおおおおおお

 待ってました!

 楽しみ

 さて……

 ナンジャモちゃん!

 さて……

 ナンジャモ!

 さて……

 さて……

 

 待ちに待ったポケモンバトルの時間となり、コメント欄は更なる盛り上がりを見せる。やけに訓練されたコメントが見受けられるのが少々不穏だが……

 

「あなたの目玉をエレキネット!何者なんじゃ?ナンジャモです!おはこんハロチャオー!ナンジャモの〜?ドンナモンジャTVの時っ間っだぞー!」

 

 おはこんハロチャオ!

 おはこんハロチャオ!

 おはこんハロチャオ!

 おはこんハロチャオ!

 おはこんハロチャオ!

 

 ナンジャモちゃんのナンジャモ語なる挨拶と共にオープニングが挟まれると、コメント欄はおはこんハロチャオの文字列で埋め尽くされる。画面越しであるのにも関わらず、物凄い熱気が伝わってくる。先ほどまでのしょうもない諍いはどこへやら、ライブ会場のような一体感すら感じられる。

 

「本日の挑戦者氏は〜?飛ぶカイデン落とす勢いのハルト氏だー!イェイイェイ!」

 

 奇妙なステップを踏むナンジャモちゃんに紹介されたハルトは恥じらいの表情でモジモジとする。箸より重い物を持った事なさそうなその子は、カイデンどころかサンダーをも落とせる逸材だぞ。

 

 ナンジャモちゃんは場慣れしていないハルトの様子にフヒ……っと笑みを溢すと、彼の横に並び立つ。おい、あまりセンシティブな格好でハルトに近づくんじゃない。性癖が歪む。

 

「んでんで?ハルト氏〜?今のお気持ちを〜どうっぞ!」

 

 唐突に始まったインタビューにまたしてもテンパるハルトは、がんばります!とだけ答える。マジで頼むぞ……君の頑張り次第で俺がネモネモ終身刑となるのか否かが決まるんだ。これ勝ったらわざマシンでも何でも恵んであげるからマジで。

 

「うんうん、やる気もバッチリじゅうでん出来てるね!ほんじゃそろそろいってみよう!挑戦者氏の実力はどんなもんじゃ〜!?視聴者たちがシビれるバトりをよろしくねー!」

 

 茶番劇もそこそこにと言った様子で、ナンジャモちゃんが萌え袖のままモンスターボールを放り投げると、中からはカイデンが出てきた。一方でハルトはドオーを先発に投げる。ガケガニの一件からちゃんとレベルを上げてウパーを進化させたようだ。やっぱり素直な子は成長も早い……間違いなく職場で可愛がられるタイプである。

 

 カイデンすき

 ドオー……あっ

 ハルトくん頑張って!

 あっ……

 あっ……

 親の顔より見た対面

 あっ……

 もっと親の対面見ろ

 親の対面って何だよ……

 あっ……

 

 コメント欄はこの対面から何かを察しているようだが……一体何だと言うのだろうか。ちょいちょい不穏な空気が漂ってて心配になるんだが?ナンジャモちゃんの髪飾りのコイルも目がバッテンになってるし。

 

「フ、フヒ……いきなりタイプ不利でナンジャモピンチか〜!?でもまだ始まったばっか!カイデン、ついばむ!」

 

 ハルトはドオーにドわすれを指示しており、特防をあげる事はできたものの、カイデンのついばむをそのまま受ける形となる。しかも、ハルトはドオーにきのみを持たせていたようで、ついばむの効果によってカイデンに奪われてしまう。

 

 あらら、回復きのみ持たせてたのね

 カイデンに取られちゃった

 あんまり見えなかったけど多分フィラのみ

 フィラのみ

 

「ちょ、ちょっち待ってよカイデン……今すぐそのきのみペッしよ!ね、お願いだから……食べちゃダメだからー!」

 

 きのみを啄むカイデンを、ナンジャモちゃんは大慌てで止めようとするが、必死の抵抗も虚しくカイデンはきのみを完食してしまう。そして彼女のカイデンは辛い味が苦手なのか、フラフラと千鳥足を踏み始めた。

 

「お願いぢゃーカイデン!キバって動かんかい!ついばむ!」

 

 ナンジャモちゃんの願いは届かず、カイデンはわけもわからず自分を攻撃する。その隙にハルトのドオーは悠々とドわすれを積み、どくづきでカイデンをそのまま倒してしまう。混乱実を啄んでからの混乱自傷は芸術点が高すぎる。配信者としては撮れ高十分と言えよう。ナンジャモちゃん泣きそうな顔になってるけど。

 

 あらら

 混乱しちゃった

 初手ジャモ虐たすかる

 混乱自傷wwwwww

   エレキン

   ¥500

 ナンジャモちゃん頑張れ

 これは質の良いジャモ虐

 

「エレキン氏ありがと〜。ポケモンバトルはまだ終わらんよ〜?出でよ、ハラバリー!」

 

 ナンジャモちゃんが2匹目に投げたのは、でんきがえるポケモンのハラバリーだ。ハラバリーも蛙である以上、じめんタイプの弱点を突けるみず技を覚える事ができる。……だが、じめんタイプとは言っても対面にいるのはドオーだ。

 

 ナンジャモちゃんと言ったらハラバリー!

 くるぞ……

 くるぞ……

 でんきにカエル

 ざわ…ざわ…

 だ……駄目だ、まだ笑うな……

 くるぞ……

 

「ハラバリー、みずでっぽう!」

 

 この窮地を覆すべく放たれたハラバリーのみずでっぽう。しかし、そんなナンジャモちゃんが託した一縷の望みをバキバキにへし折るようかのように、ドオーはぬぼーっとした表情でみずでっぽうを受ける。どう見ても『ちょすい』ですねコレは……

 

 やっぱりちょすいドオーじゃん……

 お ま た せ

 知 っ て た

 リスポーン地点

 絶望に染まるナンジャモちゃんたすかる

 安心と信頼のジャモ虐

 ジャモ虐チュートリアル

 親の顔より見た光景

 もっと親のちょすい見ろ

 だから親のちょすいって何だよ……

 

 盛り上がりを見せるコメント欄とは裏腹に、ナンジャモちゃんの顔から笑顔が消え、クリクリの目からハイライトが消える。なるほど……凡そは察したが、どうやらナンジャモちゃんがちょすいドオーを投げられるのは様式美のようだ。推しが不憫な目に遭うのが見たいだなんて、君たち随分と歪んだ愛を持ってるんだね……俺の理解からは遠い世界だよ。

 

 ナンジャモちゃんは魂が抜けたようにハラバリーにスパークやみずでっぽうを指示するが、当然ドオーにダメージは一切入らない。そんな事をしている間に、ハルトはドオーのドわすれを積み切るどころか、ねむるでついばむのダメージを回復する始末である。

 

 眠ってるドオーかわいい

 ちゃっかりドわすれ積み切ってて笑う

 どうするのこれ……

 容赦ない徹底的なジャモ虐、満点です

 わたしもこんな子に良いようにしてやられたい……

 正体表したね

 

 目を覚ましたドオーは用済みとばかりにハラバリーをだいちのちからで屠る。じしんのわざマシンは持っていなかったのかな?君が強くなってくれるならわざマシン如きいくらでも譲るよ♡

 

「ル、ルクシオ……貴殿の力を信じておるぞ〜?がんばれ!がんばれ!」

 

 ナンジャモちゃんが苦し紛れに投げたルクシオは、ドオーに『いかく』を入れるが、だいちのちからは特殊技なのでこの対面を有利にする事はできない。かみつくによる連続怯みに全てがかかっていたが、カイデンの混乱自傷の不運を取り返す事は叶わず、普通に突破されてしまった。

 

 完全に表情筋の死んだナンジャモちゃんは最後の1匹であるムウマージを投げる。誰かこのバトルコートに降参ボタンを実装しろ。

 

「い、出でよひらめき豆電球……ナンジャモの底力……見せちゃるぞ……」

 

 ナンジャモちゃんは茫然自失としながらもテラスタルオーブを取り出す。……大丈夫なのか?そんなフラフラな状態でテラスタルを発動したら反動でぶっ飛びそうで見てられないんだが。

 

 ナンジャモちゃんがムウマージに切ったテラスタルはでんき。ムウマージの魔法帽のような頭部からは電球のような結晶体が生える。

 

「ムウマージ、かくなるうえはあやしいひかり!」

 

 ナンジャモちゃんついに運ゲーに持ち込んでて草。しかしハルトは石橋を叩いても渡らずにその横に鉄橋を掛けるレベルで堅実なトレーナーなので、ドオーを眠らせてルクシオに噛みつかれた傷を癒す。

 

「ね、眠ってるなら『たたりめ』のダメージは二倍なり!隙あり!」

 

 全然効いてない……

 かなしい

 今…何かしたか……?

 特防ガチガチですよ

 ところででんきテラス切った意味は……?

 ジェネリックシビルドンにできる

 ジェネリックシビルドンになって何かできるの?

 できたらナンジャモちゃんあんな顔してないよ

 推しが苦しんでるんだぞ?応援しないと!

 それを元気付けるなんてとんでもない!

 

 いくら『たたりめ』が倍のダメージが入るとは言え、特防に優れたドオーを突破するのは二連急所でも引かない限りは厳しいだろう。

 

 いかくが入って威力の下がったどくづきでムウマージのHPがチクチクと削られていく度に、ナンジャモちゃんの勝ち筋が限りなく細いものになっていく。まあドオーを突破した所で、ハルトの手持ちは十分に残っているので、バトルそのものの勝ち筋は皆無に等しいが……

 

「キミのきらめき……1000万ボルト……」

 

 【悲報】ナンジャモ、まーたちょすいドオーに完封される

 いや全抜きは滅多にないよ……

 この敗北顔を見に来ていると言っても過言ではない

 わからせ完了です……

 この少年のわからせはどこ……ここ……?

 

 結局、要塞化したドオーをどうする事もできずムウマージは倒されてしまう。ナンジャモちゃんがFXで全財産を溶かしたような顔で読解不能な言葉を残すと、彼女の髪飾りは自由意思を持ったかようにナンジャモちゃんの頭上をピヨピヨと飛び回る。マジでどういう仕組みなんだその髪飾り。

 

「勝利したのは挑戦者のハルト氏でしたー!くやしいけどボクの負け!皆の者、応援ありがとだぞー!」

 

 流石はエンターテイナー……見るも無惨なアヘ顔はどこへやら、ニッシッシとギザ歯を光らせると、ハルトの健闘を讃える。

 

 ハルトくんおめでとう!

 ナンジャモちゃんかわいかった!

 おつ!

 さすがわたしが見込んだハルト!

 二人ともおつかれさまー

 楽しかった

 次の配信待ってるよー

 おつ!

 

 コメント欄も二人を労う言葉で溢れていた。ちょくちょく性癖の九龍城みたいな様相を成していたコメント欄だったが、基本的には民度の高いリスナーたちのようだ。基本的には。

 

「……というわけで、このバズりまくりエレキトリック★ストリーマーのナンジャモに勝利したハルト氏には〜?ジムバッジをプレゼントしちゃいまーす!皆の者〜、スクショタイムだぞ!脳内フォルダに焼き付けろ〜!」

 

 ハルトくんが一番ツーショット撮りたそうにしてんだよなぁ……撮影スタッフは後で現像してあげてね。

 

 ハルトはハッコウのジムバッジを獲得すると同時に、ナンジャモちゃんからボルトチェンジのわざマシンを受け取る。ハルトきゅん強化パッチは俺得でしかないのでどんどん当てていけ。

 

 さて……チリちゃんが寛大な心をもって俺の我儘を聞き入れてくれたのであれば、ナンジャモちゃんの本気と戦う事ができると思うのだが……問題は生配信よな。

 

 ハルトのジムバトルの配信内容を鑑みれば言うまでもない事だが、ジムバッジ挑戦者が本気の手持ちと戦うのは異常でしかない。コメント欄も騒然とする事間違いないだろう。俺は悪い意味で名前が売れているので燃料としては優秀だと自負しているが、すでに人気ストリーマーのナンジャモちゃんが炎上したとしてもデバフにしかならない。電子機器は熱に弱いしな!

 

 ようは、本気のナンジャモちゃんと戦う為に俺が必要としているのはモザイクだ。俺と言う存在を、謎のヴェールで包む為のモザイクさえ有れば、全てを解決すると言う事だ。

 

 

 

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「強者との終わりなき戦いを求める者、ワナイダーマッ!」

 

「な、何者なんじゃー!?」

 

 まあそうなるわな。

 

「あ、怪しい者ではないのでジュンサーさんとかは呼ばないで下さいませんか……?」

 

「いやいや、あんな名乗り口上しといてそんな低姿勢で来る!?怪しさマシマシだよー!」

 

「ポケモンリーグの方から来ました」

 

 方角の話をしているので決して嘘は吐いてはない。これこそが数々の国民を契約させてきた悪魔の手法である。

 

「おろろ〜?って事はポケモンリーグからの視察!?そんなの有るなんて聞いてないし、いつもはトップが来てるのに……あ、ボクわかっちゃったかも!トップがいつもやる堅苦しい視察じゃなくて、数字の見込めるエンターテイメント性のあるものにしてくれた感じだ!いやー、ストリーマーに理解のあるオモダカ氏にシビれるアコガれる!あいわかった!おけおけなるへそ物語〜!そろそろ皆の者にボクの本気を見せたろやないかい!ヤラセ疑惑が浮上しちゃ嫌だかんね……簡単に負けないでね?」

 

 ……なんか良い感じに勘違いしてくれたようで、ナンジャモちゃんが本気で戦ってくれるようだ。このままナンジャモちゃんに勝ったとしてバッジを貰えるのかと言う懸念点はあるが……まあ、配信が終わったらちゃんと身分を明かしてバッジを持っていない事を伝えれば良いだろう。

 

「んじゃもー早速本気バトり、やっちまいましょーか!そいじゃバトり場に赴くぞよ〜」

 

 とりあえず後でナンジャモちゃんにはインターホンが鳴っても簡単にドアを開けないように口酸っぱく言っておく必要があるな……

 

 ハルトの時のような前座は無いので、バトルコートに見物人はおらず閑散としていた。しかし、ナンジャモちゃんがゲリラ的に生配信を行う告知をすると、あっという間にバトルコートの周りは人だかりで埋め尽くされてしまう。老若男女問わず集まっている事から、彼女の訴求力の異常さが窺える。インフルエンサーを自称しているだけの事はある。

 

「ドンナモンジャTVをご覧の皆の者!おはこんハロチャオ!ナンジャモです!なななんと、今日は空前絶後の二本立てー!?フヒ、今度は貴重な貴重なナンジャモの本気が見れるかもよー!?」

 

 おはこんハロチャオ!

 え、二本目!?

 二本目嬉しい

 おはこんハロチャオ!

 おはこんハロチャオ!

 本気ナンジャモちゃん楽しみ

 生き甲斐

 

 いきなりの生配信にコメント欄も驚きを隠せないようだ。それにしてもこのナンジャモちゃん、チラ見えするインナーと綺麗な腋が度し難いレベルのセンシティブ案件なんだが……これハルトくんの性癖が無事なのか本気で心配になってきたんだが。

 

「そして、ボクから本気を引き出すゲストは〜、何者なんじゃ!?」

 

「ポケモンリーグの方からの刺客、ワナイダーマッ!」

 

 !?!!!???!???

 誰?

 特撮ヒーロー……?

 誰だお前は!?

 本当に何者だよwwww

 ワナイダーマン???

 何故ワナイダー?

 ポケモンリーグの視察?

 ほんとに貴重なやつじゃん!

 神回の予感

 

 罵詈雑言が飛び交うと思っていたのだが、存外にリスナーの反応は割と優しめだった。パルデアのネットリテラシーの高さには感服する。いや、前世のインターネットが終わってただけか。

 

「んじゃも〜動画の引きはこれくらいにしといて……皆の者もお待ちかね!そろそろバトりいってみよっか!……ジムリーダーナンジャモが!めったに見れない本気出してみた!」

 

 タイトルコールと共にナンジャモちゃんはモンスターボールを取り出すと、やはり萌え袖のままぶん投げる。ボールの中からはカイデンの進化ポケモン、タイカイデンが出てくる。

 

 タイカイデン!

 おおおおおおお

 タイカイデンだ

 ナンジャモちゃんの全力だあぁぁぁ

   エレキン

   ¥500

 ナンジャモちゃんの本気、楽しみ!

 

 俺も地面に片手を付け、それっぽいポーズと共にモンスターボールを投げる。

 

「地獄からの使者、ワナイダー!」

 

 ワナイダーか

 蜘蛛嫌い私、絶句

 初手にワナイダーを投げるワナイダーマンの鏡

   メイプル

   ¥500

 ワナイダーちゃん!うふふ、がんばって〜

 むしタイプとな

 タイカイデンが相手じゃ厳しくない?

 ワナイダーって何の進化?

 タマンチュラの進化

 嘘でしょ……

   アネモネ

   ¥10,000

 おとうとくん♡

 

「エレキン氏、メイプル氏ありがとね〜。アネモネさんも……その、赤スパありがとうございます。頑張ります」

 

 おい、唐突に変な赤スパが来るもんだからナンジャモちゃんからナンジャモ語がログアウトしてるじゃねぇか。俺も震えが止まらない。下手な怪文書より怖ぇよ。

 

 さて、こちらの先発はワナイダー。あちらの先発はタイカイデン。どうにもならないレベルの不利対面だ。しかしながら今回はワナイダーに貴重なきあいのタスキを持たせているので、最低でも一回は何か出来る。厄介なのは、相手のタイカイデンも(たすき)をかけているという点だ。

 

「タイカイデン、『ぼうふう』やったれい!」

 

「ワナイダー、ねばねばネット!」

 

 タイカイデンのぼうふう!

 すごい威力

 ワナイダーは流石に瀕死かな?

 ねばねばネットなんて珍しい技だな

 ひこうタイプが相手じゃ流石にキツイか

 ぼうふう耐えた!

 ワナイダーもタスキあるね

 きあいのタスキ持ってたから耐える

 タスキで耐えてねばねばネット……いぶし銀だなぁ

 

 タイカイデンの暴風はHD特化していても耐えられるのか怪しいレベルだが、ワナイダーは先述の通り(たすき)を持っているので……っておい待て!混乱してんじゃねぇか!くそ、暴風混乱だなんて剣盾環境のサンダーみたいな事してきやがる……動けワナイダー!ここで動けなかったら完全にただの虫けらだぞ!

 

 ワナイダー混乱してない?

 混乱してる

 ぼうふうの追加効果だね

 あ、ワナイダー自分を攻撃してる

 混乱自傷

 一日の間に混乱自傷して混乱自傷させる女

 ワナイダー倒れちゃった

 何しに出てきたんだw

 実質タスキ貫通

 ナンジャモ最強!ナンジャモ最強!

 

 ……何となくそうなる気はしていたが、ワナイダーは混乱自傷により瀕死となってしまった。一所懸命考えたけど掛ける言葉が見つからない。多分罵倒にしかならないから見つけない方が良い。戻れワナイダー。

 

 俺は何も出来ず瀕死になったワナイダーを引っ込め、リキキリンを繰り出す。リキキリンは、キリンリキにツインビームと言う専用技を覚えさせてレベルアップさせると進化するノーマル/エスパーのくびながポケモンだ。とくせい『せいしんりょく』の個体を進化させると『はんすう』と言う、きのみを食べる際にきのみの効果を二回受けられるとくせいになる。

 

 エスパータイプの例に漏れず、リキキリンは多彩な技を覚える器用なポケモンだが、今回はバトン要員として育成してきた。努力値はHD、技構成は『ドわすれ』『みがわり』『こうそくいどう』『バトンタッチ』とノーウェポン型だ。防御を上げる『ズアのみ』『アッキのみ』あたりを持たせたかったのだが、入手方法が未だに分かっていないので『オボンのみ』を持たせている。

 

「なんと、リキキリンとな!?でもまーボクのタイカイデンはガチポケだからねー!やる事は変わらんぞい!タイカイデン、おいかぜ!」

 

「リキキリン、ドわすれ」

 

 おいかぜか……元々リキキリンはタイカイデンに抜かれていたので、バトン先の負担にならないように適当においかぜターンを枯らせば良い。問題はタイカイデンがとくせい『ふうりょくでんき』だったのか、じゅうでん状態になっている事だ。

 

 じゅうでん状態では次に使うでんき技の威力が二倍になるので、流石にぼうふうを撃ってくるとは考え難い。ナンジャモちゃんは間違いなくでんき技で負担をかけて来るのだが、それが『かみなり』『10まんボルト』『ほうでん』『ボルトチェンジ』の中からどれを採用しているかで、こちらの動きやすさは変わってくる。

 

 一番ダルいのはボルトチェンジ、いかくレントラー投げ、かみくだくのコンボだ。リキキリンは倒されるわ、おいかぜターンをフルに活かされるわでメチャクチャだ。そんなのが飛んできたらそれはもう素直にナンジャモちゃんの本気がガチだったと認める他ない。ポケ廃の心をエレキネットである。

 

「タイカイデン、『ほうでん』じゃい!」

 

「リキキリン、ドわすれ」

 

 ほうでんか……30%まひが嫌すぎるが、かみなりをアホみたいに当ててくるより全然マシだ。

 

「おりゃっ!まひれ!まひれ!」

 

 ナンジャモちゃん運ゲーの味占めてて草。だが、リキキリンはちゃんと麻痺らずドわすれを積んでくれる。こっちは既に暴風混乱自傷を引いてるし、続け様に放電麻痺は流石にやりすぎよな……(収束論者)

 

 威力の低いほうでんだったおかげで、HPの半分もダメージが入っていない。即ちみがわりが残せると言う事だ。

 

「タイカイデン、ほうでんおかわり!」

 

「リキキリン、みがわり!」

 

 麻痺らないでくれという想いを乗せてちょっと気合いを入れて指示する。プレイングでどうこう出来ない運要素は気合いと根性で乗り越えるしかない。ポケモンを信じる気持ちがあれば、麻痺らないし急所にも当たらないし混乱自傷だなんて情けない死に方はしないのだ。

 

 リキキリンは俺の熱い想いを受け取ったのか、ちゃんと麻痺らずみがわりを置いてくれた。さらに、みがわりを張った事でHPが半分を切り、リキキリンはオボンのみを食べて最大HPの1/4を回復。そして、とくせいの『はんすう』によりもう一度最大HPの1/4を回復。

 

 これにより、リキキリンはほぼ満タンのHPを維持しながら、特防ランク+4で無傷のみがわりを残すと言う大変素晴らしい有利状況を作ってくれた。そのおかげでこうそくいどうを積む余裕すらできている。

 

「リキキリンの特防ランクがヤバめでどうにもならん!タイカイデンは一旦ここでお疲れ様だぞー!レントラー、後はよろしく〜」

 

「リキキリン、こうそくいどう」

 

 流石に本気を出したナンジャモちゃんはどうしようもなくなったらポケモンを引っ込めるようで、タイカイデンを手持ちに戻してレントラーを繰り出す。みがわりのお陰でいかくが入らないのが大変嬉しい。

 

 こうそくいどうも積めたのでここらでバトンタッチを決めたい。リキキリンの素早さランクが二段階上がっている関係上、無振りでも70族のレントラーの上からバトンタッチをしてしまうが、今回はこれが有利に作用する。

 

「リキキリン、バトンタッチだ!そして行ってこいガケガニ!」

 

「レントラー、小賢しいみがわりをかみくだけぇ〜……って、あれ〜?みがわり壊れないじゃん!」

 

 リキキリンが相手だと『こうかはばつぐんだ!』となり、みがわりを壊せるレントラーの『かみくだく』も、防御種族値の高いガケガニなら高乱数でみがわりを維持する事ができる。

 

 みがわりで見えないけど出てきたのガケガニ?

 ガケガニって言ってたし、一瞬ボールから出るの見えた

 ワナイダーマンの一連の行動が分からない……

 バトンタッチは能力上昇を違うポケモンに引き継げる

 特防ランク+4と素早さランク+2をガケガニが引き継いだ

 みがわりも引き継いでるね

 ナンジャモちゃんのポケモンは一切ダメージ負ってないから優勢だと思って観てたけど……もしかしてヤバい?

 

 さて、こう見えてガケガニは素早さ種族値75とそこまで遅くなく、この個体は最速*1にしているのでレントラーの上を取れている。ナンジャモちゃんの場に吹いていたおいかぜもピッタリ枯らせたしな。今のガケガニに足りていないのは火力だけだ。

 

「ガケガニ、つるぎのまい」

 

「レントラー、かみくだく!早くあのみがわりを壊してー!」

 

 ナンジャモちゃんは命中安定技でみがわりを壊しに来たが、その隙にガケガニは安全につるぎのまいを積む。こうしてA+2、D+4、S+2と言う、この前のヌシガケガニとは比較にならないレベルでヤバい蟹が完成してしまった。更に、とくせい『シェルアーマー』によりクソ急所を考慮する必要もない。とくせい『てんねん』を投げるなり、ふきとばし等で強制退場させない事には、この蟹を止める事はできない。

 

「ガケガニ、10まんばりき」

 

「レントラー、こおりのキバ!頑張ってガケガニより早く動いて怯ませんかい!なんなら凍らせんかい!」

 

 最早なりふり構わなくなってきたナンジャモちゃんがなんだか可愛く見えてきた。これがジャモ虐の始まりなのだろうか……?

 

 先程の対面でタイカイデンにきあいのタスキを持たせているのが見えたので、レントラーに襷が無い事は既に分かっている。レントラーより先に剣舞10まんばりきを叩き込み、見事一撃で撃破する。

 

「流れを変えてくれー、タイカイデン!」

 

 ナンジャモちゃんは瀕死のレントラーを引っ込めてタイカイデンを繰り出す。まあ襷を盾に何かしようと言う魂胆だろう。もう一回おいかぜを吹かせる、暴風混乱とか言う糞ゲーに持ち込む、放電麻痺に期待する……ナンジャモちゃんがどの選択をしようとも……

 

「ガケガニ、ロックブラスト」

 

「タイカイデン、ほうでん……って、連続技はキツいぜよー!」

 

 連続技を撃たれてしまえば、きあいのタスキも形無しだ。しかも、俺のガケガニはこうかくレンズをつけているので『10まんばりき』や『ロックブラスト』のクソ外しも最大限ケアしている。

 

 ナンジャモちゃんのタイカイデンがここから助かるには、1%の確率をモノにしてロックブラストを避けるしかないのだが、なかなかそう都合良く細い勝ち筋を拾わせて貰えないのがポケモンバトル……ナンジャモちゃんのタイカイデンはロックブラストを避けられずに瀕死となる。

 

「ううぅ……マルマイン、氏の素早さならきっと……」

 

 くどいようだがガケガニはこの見た目で75族だ。素早さが二段階上昇していれば最速150族は抜けている。マルマインがこだわりスカーフでも巻いていれば一矢報いることは出来たかもしれないが、この世界ではポケモンが動かしにくくなるこだわり系アイテムを持たせる者が極端に少ない。なんなら皆無と言っても良い。ポケモンを交代させる事が少ないというのも、採用率を大きく下げている要因と言えるだろう。

 

「ハラバリー、ふいうち……おねがい……」

 

 さっきも言ったがガケガニはシェルアーマーだ。急所に当たらない。なんなら急所に当たってもハラバリーの不一致ふいうちなど余裕で耐える。

 

「………ムウマージ………あやしいひかり………」

 

 完全にハイライトが消失したナンジャモちゃんは、ついにテラスタルすら切らずにあやピカを指示する始末。なんだろう……綺麗にバトンを繋いで全抜き出来たのに、ただひたすらに胸が痛む。やっぱりこのバトルコートに降参ボタン設置した方が良いよ絶対……

 

「た、対戦ありがとうございました……」

 

「ポケモンリーグの刺客………すごすぎ………」

 

 ガケガニで全抜き!?

 完璧な敗北顔……1000万回保存しました

 強すぎる

 微に入り細を穿つ素晴らしいジャモ虐

 途中までナンジャモちゃんのペースだったのに

 過去最高品質のジャモ虐

 結局ワナイダーマンは誰なんだ

 ポケモンリーグの四天王のうちの誰かでしょ

 ナンジャモちゃんの本気に勝つとは……流石リーグ

   おにぎリーマン

   ¥500

 はぁ……今後は四天王にもこのレベルの力量を求められるのですね……ですが得られる物はたくさんありました。リキキリンの立ち回り、参考にさせていただきます。

 100年に一度のジャモ虐、良いジャモ虐

 最高のジャモ虐をありがとう、ワナイダーマン

   エレキン

   ¥500

 ナンジャモちゃんの本気ポケモンが見れて楽しかったです!二人ともお疲れ様でした!

 っぱジャモ虐よ

   こいる

   ¥10,000

 ナンジャモいつもありがとう!最近ナンジャモへ感謝するのが日課になりつつあります!単刀直入に我慢してたこと書いちゃう!ナンジャモ愛してるぞおおおお(ps.厄介皆の者だと思われてそうですが長文赤スパ失礼!ちなみに読まれてる頃にはあまりの恥ずかしさにこうそくスピン大回転フラフラダンス(◝(‘ω’)◟ ))(( ◝(‘ω’)◜ ))しながらベットの上で暴れてると思うので率直な一言もらってもいいですか?w最後に一言!配信をはじめ本当にいつもありがとう!皆の者達を大切に思ってくれてる姿勢冗談抜きで本当に好きです。応援するしがいがあります!

 二人とも面白いバトルをありがとう!

 楽しかった

 ナンジャモちゃんかわいい!

 おつかれさま!

 

 ポケモンバトルが終わると、コメント欄が物凄い勢いで流れていく。バトルに集中していて配信画面を見れていなかったが、知らない間に同接数がとんでもない事になっていた。

 

「ナンジャこれー!?ドンナモンジャTVの視聴者数がとんでもない事になっとるぅー!?あ、おにぎリーマン氏、エレキン氏、こいる氏ありがとありがと〜」

 

 インフルエンサーのナンジャモちゃんですらたまげる数字だったのか、レ◯プ目で茫然自失としていた彼女は一転して目を白黒とさせる。

 

「そんじゃもー、バトルの内容は散々だったけどワナイダーマン氏があまりにも強すぎたと言う事で……トップにはいいカンジに報告しといて〜」

 

 ポケモンバトルを生配信しといてこの開き直りっぷりは、大物と言わざるを得ない。世の社畜共も、この図々しさをもっと見習うべきである。顛末書なんてシュレッダーにかけろ!

 

「みんなの目玉をエレキネット!何者なんじゃ?ナンジャモでした〜!」

 

 お決まりのセリフで配信を締めくくると、ナンジャモちゃんはスマホロトムの配信停止ボタンをタップする。人が多すぎて話などできたものでは無いので、ジムにあるナンジャモちゃんの楽屋的な部屋に招いてもらう。

 

「……配信って、切れてますか?」

 

「ばっちし!ボクは切り忘れなんてしないよ〜、ニッシッシ!」

 

 ナンジャモちゃんが自信満々にギザ歯を輝かせてサムズアップするので、俺は被っていたワナイダーの仮面を脱ぎ捨てる。

 

「そのご尊顔……もしかしてネモ氏の義弟氏!?チリ氏から『あの方が来たら全力を出すんやで……チリちゃんみたいになりたくなかったらな……』と、ちょっとアブナいメッセージが届いてたんだけど、まさかワナイダーマン氏だったとはっ!と言う事は〜、リーグの視察じゃなくてバッジを取りに来たカンジー!?」

 

 ネモの義弟として浸透している事は諦めるとしても、あの方って何だよ……

 

「なんか騙すような形になっちゃってごめんなさい。ポケモンリーグから何か言われたらぼくに教えてください。一応ポケモンリーグには貸しがあるんで、どうとでもなると思います」

 

「まだ学生なのに凄い事言うね〜義弟氏……バトルもまるで歯が立たなかったしさ」

 

 敗北顔をしている時以外は天真爛漫としていたナンジャモちゃんだったが、その表情に翳りを見せる。

 

「ボクとしてはさ、もっと視聴者さん達にカッコイイとこ見せたいんだ。さっきのキミみたいに、ボクのポケモンたちで相手のパーティを一網打尽!ってカンジにさ。でも、ジムバッジを獲りに来た子たちにするポケモンバトルにはちゃんとガイドラインがあるんだ。ポケモンに道具は持たせない、途中交代はしない、テラスタルは最後のポケモンでする、ボクの場合は必ずレベル23前後……ってなカンジでね。ジムリのやりたいようにやっちゃうと難易度が変わっちゃうから」

 

 乾いた笑みを浮かべるナンジャモちゃんは、アーカイブに残ったハルトとの生配信をスマホロトムで再生する。

 

「ボクは生配信とかしちゃってるからさ、攻略方法みたいなのが挑戦者達に広まってるんだよね。ドオーを投げて来ない子の方が少ないよ」

 

 まあウパーは割とその辺で簡単に捕まえられるので、これからナンジャモちゃんに挑もうとしているアカデミー生があの配信を見たら、間違いなく意気揚々とドオーを育てるだろう。

 

「リスナーさんあってのストリーマーだから、ボクがジムバトルでお約束みたいにボコボコにされて、視聴者さん達が『ジャモ虐』だとか『わからせ』だって喜んでくれるのは配信者冥利に尽きる事なのかも知れないよ?でもさ……ボクは他のジムリーダーの人たちみたいな、ポケモンリーグの人たちみたいな、キミみたいな強くてカッコよくてシビれるようなジムリーダーになりたくて。そんなボクを見て欲しくて配信を始めたんだよね」

 

 ナンジャモ語を脱ぎ捨てたナンジャモちゃんは今にも瓦解してしまいそうなほど、脆く、弱く、俺の目には映って見えた。

 

「今となってはたくさんの人がボクの配信を楽しみにしてくれてるけど、これで良いのかなって。このままで良いのかなって。これってボクが本当にしたかった事なのかなって……ふと考え出すと心の中がぐちゃぐちゃになって、まひしちゃったみたいに何も考えられなくなって、そんなボクがちょっとだけ嫌いになる……そんな日が増えてきたなって思うんだよね」

 

 決して世間のスポットライトの当たらない日陰で生きてきた俺が、インフルエンサーとしての彼女の悩みを理解してあげられる日はきっと来ないだろう。それでも、精神をすり潰されそうになりながらも何かを頑張る人は全力で応援したいのが俺だ。

 

 俺みたいな何の才能も無く、才能が無いからと言って努力もして来なかった奴が勝手にどこかでくたばるのは笑い話でしかないが、彼女のように才能に恵まれ、それに驕らず自分を磨き続けようとしている人が潰れてしまうのは社会にとって大きな損失なのだ。

 

「……ストリーマーと言うものに造詣が深いわけではないので差し出がましいかもしれませんが、ナンジャモちゃんは今のままで良いと思います。ボロボロに負けたナンジャモちゃんも、本当はもっと強いのにって負けず嫌いなナンジャモちゃんも、配信を盛り上げる事に余念がないナンジャモちゃんも、ちゃんとコメントに目を通してくれてるナンジャモちゃんも、ポケモンバトルに対してどこまでも真摯なナンジャモちゃんも、全部ひっくるめてナンジャモちゃんの事が好きなのが皆の者(リスナー)でしょう?」

 

「でも、みんながみんなボクの事が好きな訳じゃないよ?真面目にやれだとか、ジムバッジ配布botだとか、酷い事言ってくるリスナーさんも居るよ?」

 

「アンチはスルー、って言葉があります。文字通り、ナンジャモちゃんを応援しない人の事なんて相手にしなくて良いんですよ。ナンジャモちゃんはナンジャモちゃんの事が好きで、ナンジャモちゃんの事を応援していて、ナンジャモちゃんの配信を楽しみにしている人たちの為に頑張れば良いんですよ。ナンジャモちゃんを応援してくれてる人はナンジャモアンチなんかより遥かに多いです……エレキトリック★ストリーマーがそんな連中に時間を割いてる暇なんて有るんですか?」

 

「そっか……そうだよね」

 

 影を落としていた表情は何処へやら、ナンジャモちゃんは大輪の花のような笑みを見せると、彼女のトレードマークであるギザ歯をニッと光らせる。だが、彼女の宝石のようなつぶらな瞳だけが、僅かに濁っていた。

 

「……キミはボクの事、応援してくれる?失敗をしても、醜態を晒しても、酷い事言っちゃっても、炎上しても……みんながボクの事を嫌いになっても」

 

「当たり前じゃないですか。ナンジャモちゃんが諦めない限り……いや、諦めても頑張る事をやめても何もかもを投げ出しても、ぼくは応援し続けますよ。ナンジャモちゃんが独りで無理する所なんて見たくないので」

 

 効果があるのかどうかも怪しいエナドリと共に、無限に立ちはだかる困難(タスク)に立ち向かう戦士(社畜)達など二度と見たくないぞ。

 

 その濁った眼を怪しく光らせたナンジャモちゃんは、不意に俺の手を取ると、ぎゅうぅぅっと物凄い力で握り締める。

 

「キミだけはボクの理解者でいてくれるんだよね?キミだけは……ボクの事を好きでいてくれるんだよね?♡」

 

 

 クソ、いきなり♡が出て来やがった!しかも闇属性だッ!!

 

 

「フヒ……♡キミがボクを応援してくれる限り、ボクは頑張れるから♡キミがボクの理解者でいてくれる限り、ボクはボクでいられるから♡キミがボクの事を好きでいてくれる限り……ボクはボクの事が好きでいられるから♡だからさ……他の配信者の動画に出ないでね?♡」

 

 

 さあ、皆の者が俺を刺すのが早いか、ナンジャモちゃんが俺を刺すのが早いか……俺の命は一つしかないから早い者勝ちだぞ♡

 

 

*1
『ようき』や『おくびょう』などの素早さ上昇の性格補正をかけて、素早さに努力値を252振る調整の事。性格補正をかけない場合は準速と言う。





ナンジャモ語が難解すぎて難産でした(全ギレ)
特殊タグ使ってるから見にくかったらごめんね
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