晩夏の死神   作:有機メタル


オリジナル:現代/文芸
タグ:R-15 残酷な描写
怪文書注意。

TRPGで使用したキャラクターの現パロです。
内輪以外は意味がわからないと思うので注意してください。

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晩夏の死神

 

♦︎♢♢♢ 21:00

 

「じゃあパピ姉、行ってくるね」

 

玄関から妹の声が聞こえてきた。リビングからちょっとだけ顔を出し、手をひらひらと振って返事とする。

新調した浴衣を着て特別おめかしした妹は少し寂しそうな顔をしたが、時計を一瞥すると、すぐに草履を履いて出かけて行った。

 

今日やるべきことは他には無かったはずだ。もう1人の妹は家にいるはずだが、顔を見せないあたり、相変わらず引きこもってゲームをしているか寝ているのだろう。

静かになった我が家で一息つき、耳が寂しい気がして何の気なしにテレビのリモコンを手に取る。

 

『本日、市内の〇〇神社で開催されている納涼祭は大盛況のようです!現場の○○アナウンサーと中継が…』

 

納涼祭。最後に行ったのは3年前だったか。

わずかなノスタルジーを覚えながらも心を動かすことがない自分は、きっと骨の髄までつまらない大人になってしまった。

 

テレビの音を聴き流しながら、冷蔵庫からワインと1本と冷やしておいたグラスを2つ取り出す。

近所のコンビニで買った安酒だが、私はこの安っぽさが気に入っている。もとより私は酒に強い体質ではないし、味を楽しむことより酔うことが大切なのだと思う。

とはいえ、これ一つでは風情もない。祭囃子は聞こえないが、今日は少し豪勢に。キッチンへ来たついでに戸棚から秘蔵のチーズを取り出して、何切れか皿に載せリビングへ戻る。

 

ワイングラスにそれぞれ「神の血」を注ぎ、1つは手に持ったまま、もう1つは茶箪笥の上に置く。茶箪笥の上では、2つの写真立てが壁に立てかけられている。その写真立てには、ちょうど私ほどの年齢の人物が写っていた。

 

2年。

時の止まった姉さんと、私。灰色の背中を追いかけていたら、こうして、いつのまにか追いついてしまっている。

これから先、前を走ってくれる背中はもう無い。そんな不安を誤魔化そうとして、茶箪笥に置いたグラスと手に持ったグラスを軽く合わせ、煽る。

安酒特有のきついアルコールの風味を感じ、少しくらりとした。

 

「酒の一つも飲めないようじゃ、お前はまだまだガキだよ」

 

そんな言葉が聞こえた気がして、振り返る。

私の背後には、黒いローブを着込み、フードを目深に被った人物が立っていた。背後の窓はしっかりと施錠されている。一体、どうやって家に侵入してきたのか…薄気味悪いものを感じた。

 

「どなたか存じ上げませんが、あなたの家はここではありませんよ」

「そうだな。だけど、お前に用があったんだ」

 

その人物はゆっくりとフードに手をかけて、その相貌を露わにした。

首辺りまで伸ばされた髪に特徴的な後れ毛。前髪左をかきあげ、ヘアピンで強引に留めた髪型。気怠げな目と挑発的に歪められた口元。そして何より特徴的な、目の下の傷。

信じがたいことに、そこには姉さんがいた。

 

…参ったな。

私はここまで、酒に弱かっただろうか?

 

「…姉さんですか?」

「はーん…驚かないんだな」

「まさか。驚いて言葉も出ないんですよ」

 

彼女は面白そうにくつくつと笑いながら、私の横を通り過ぎて茶箪笥のグラスを手に取った。グラスを気取ったようにふた回しして、煽る。幻にしては、一々所作がそれらしい。

 

「知ってる、お前はそういう奴だよ…飲んじまったけど、もう乾杯は済ませたよな?」

「ええ、まぁ。しかし、幻でもワインは飲めるものなんですね」

「馬鹿か、幻が飲めるわけないだろ。あたしは幻じゃないから飲めるけどな」

「はぁ。幻でなければ、何ですか。お盆はもう終わりましたよ」

 

彼女が空になったグラスを差し出すので、ワインを注ぐ。グラスを持ってない方の手が、私の顎下を持ち上げた。視線が合う。

 

「はん、幽霊でもねぇよ…死神さ」

 

バランスを崩され、ボトルが傾く。雫が跳ねて床に零れ落ちた。黄色、光のない瞳には十字架が刻まれていて、暗く昏く吸い込まれるようだった。

 

♦︎♦︎♢♢ 21:30

 

我が家のリビングに、ソファは1つしかない。

昔両親が他界する以前は2つあったが、引きこもりのピクシスは、ほぼリビングに現れることがないので数年前に家具屋に売った。

そしてこの死神は、図々しくも私を差し置いてソファーに座っている。

 

「…それで、死神が何の用ですか」

「そう睨むなよ。良い酒とチーズが不味くなるだろ。というかこの納涼祭まだやってたのか」

 

彼女はリモコンを片手に、テレビニュースを興味深げに眺めている。煮え切らない態度に少し苛立ったので、その手からリモコンを奪い取って電源を落とした。

 

「あっパピスてめぇ」

「納涼祭はずっとやってます。それから、そのワインは近所のコンビニで買った安物です」

「…ハハ。可愛い可愛い妹が注いでくれた酒は、安かろうが何だろうが、美味い酒と決まってるのさ」

「そうやって思ってもないことを言う。死んでも治らない悪癖ですね」

 

死神だと名乗った姉さんは、どうやら本当に死神であるようだった。花瓶から花を一本抜けばたちまち枯れた。それだけなら手品と言えないこともないが、死ぬ直前の姉さんと全く同じ相貌でそこに立っている様子を見ると、超常の存在であることは認識せざるを得なかった。

 

しかし死神でも悪魔でも何であろうとも、この状況は面白くない。ソファは1つしかないが、それでも2人掛けのソファだ。

真ん中を占領する死神の足を軽く足でつつくと、何も言わずにずいっとスペースを開けてくれた。家主が遠慮するのも馬鹿らしいので、その隣に座って足を組む。そうして軽くワインを煽ったのは、無自覚の対抗心だろうか?我ながら子供っぽいな、と酔いのまわった頭で思う。

 

その様子を見て、隣の彼女はワイングラスをテーブルに置いた。

 

「ふーん…お前さぁ、そういうとこ。なんか変わったよな」

「言わないでください…私らしくないとは思っています」

「らしくないってことはねぇよ。昔とは違うなってだけ」

 

ワインの赤は深い赤。光を反射して、私の顔が映り込む。2年前から変わったというのなら、少なくとも外見。より大人びて見えることは確かだろう。

それとも内面?姉さんが死んでから、ただ生きることにがむしゃらだった私には、その変化が分からない。

 

「自覚してないのか?…まぁいいさ。今日来た目的はそれじゃないしな」

「目的、そうでした。死神がわざわざ、何の用ですか?」

 

姉さんの方を見れば、生前と変わらない、人を食ったような笑顔を浮かべている。

 

「そらお前、死神が現れる理由は一つに決まってるだろ。お迎えだよ」

 

死神のお迎え。

 

「…私は、死ぬんですか?」

「…さぁな。それを言うのはあたしの仕事じゃない。というか労働規約で言えないし」

 

死神にも労働規約があるのか。

いや、そうではなく。

 

「だったら信じませんよ。貴方が本当に死神であったとしても、あるいは彼岸に帰り損ねた幽霊でも、私の姉さんはそんなに素直な人じゃありませんでしたから。あなたが本当に姉さんだというのなら、態々お迎えなんて言わないでしょう」

「そうかい。まぁ、信じようと信じまいとあたしの仕事は変わらないけどな…ところでビールはねぇの?ワインはもう飽きたぞ」

「生憎、私はあまり好きではないので」

 

姉さんは小さく舌打ちすると、懐から煙草の箱を取り出した。オレンジの模様がプリントされた、姉さんが生前好んで吸っていた銘柄だ。

蓋を開けてこちらに向けられたそれを軽く辞すると、彼女はつまらなさそうに一本取り出し先端を咥えた。すると、反対の先端に火がひとりでに付き、煙を燻らせ始める。

 

「こういうとこは、死んでから便利になったな。健康を気にする必要も無くなった」

 

室内で喫煙するのはやめて欲しいのが正直なところだが、今更何を言っても聞かないのは分かっている。

 

「灰皿は、捨てましたよ」

「嘘だな。お前があたしの遺品を捨てられるわけがない。昔っから姉さん姉さんってシスコン拗らせといてたもんなァ」

「…敵わないですね、まったく。部屋に置いてあるの、取ってくるので。あと、ビールは冷蔵庫にあるので勝手にどうぞ」

「Huh♪ お前のそういうとこ、嫌いじゃないぜ」

 

正直、この人…死神から目を離すのは不安だ。しかし逆に、私の視界から外したいという気持ちもあった。その一挙一動を見るたびに、自分の中で区切りをつけた気持ちが渦巻いて、平常心が乱されてしまうから。

廊下は、エアコンの効いたリビングとは打って変わって蒸し暑かった。酔った頭にはよく効く暑さだ。踏み外さないよう、意識してゆっくり階段を登りながら…思う。

私は本当に変わったのだろうか?

 

♦︎♦︎♦︎♢ ??:⁇

 

私にとって、姉さんは憧れだった。

 

高校時代までは学校の誰よりも喧嘩が強くて、頭も良かった。それなのに、大学に進学もせずに働いて、2人…私を入れて3人の妹を養っていた。

それから、煙草を吸ったり、酒を飲んだり、賭博もしてた。散財癖があったのに家計が回っていたのは、きっと悪事に手を染めていたからだ思う。ウリをやってるということはそれとなく聞いたことがある。春だけじゃなく、非合法な物品とか、薬とかも。

そしてそんな生き方を、姉さんはきっと心の底から楽しんでいた。悪事をして、他人を傷つけてでも、刹那的な快楽に生きることを楽しんでいた。

 

天国か地獄かで言えば、まず間違いなく地獄に落ちるような人間だった。それでも、姉さんは姉さんなりに私たちを愛してくれた。

殆ど家にはいなかったけど、たまに時間を作ってドライブに連れて行ってくれたし、競馬で勝った時は回らない寿司にも連れて行ってくれた。逆に、どんなに辛いことがあっても決して私たちにそれを見せることはしなかった。

 

悪い人。でも、憎めない人。

私はそんな姉さんが、心の底から好きだった。人間としては最低でも、その不器用な生き方を尊敬していた。

 

だから、私は姉さんの家族になりたかった。

 

母と父が死んでからは親代わりのように振舞ってくれた姉さんを、隣で支えられるようになりたかった。辛いことがあった時に、相談できるような存在になりたかった。

そう考えて、私は独立して生きていく力を持とうとしなかった。きっとそんな生き方は望まれていなかったけど、私が姉さんを必要としていないと消えてしまいそうな気がしたから。

ずっと、敢えて、姉さんの強さに依存していた。姉さんは困ったような顔をして、それでもそんな生き方を尊重してくれるはずだった。

 

姉さんは、あっけなく死んだ。

死因は交通事故だった。

 

姉さんの被害者が殺害を狙ったわけでもなく、ただ信号無視をしたトラックに轢き殺されてバラバラになった。

呼び出されて病院で見た姉さんは、足が一本足りなかった。奇跡的に顔は綺麗なままで、四肢が弾け飛んでいるのに穏やかな死に顔だった。

姉さんは足の一本がない程度でどうにかなる人じゃない。だから、今すぐ起き上がるんじゃないかと思って、でも、起き上がることはなくて。皆そんな様子だったから、誰も泣くことはなかった。

 

次の日、市役所に行って調べたら、姉さんの戸籍はちゃんとあった。姉妹で顔を突き合わせて手続きを調べて、火葬までは漕ぎつけた。

肉を焼き落として骨になった姉さんは、私が思っていたよりもずっと小さくて、拾骨した箱は軽かった。その箱を持って、やっと、姉さんが死んだことを理解した。

 

葬式はできなかった。

母と父が死んだ時、姉さんは高校生だった。それでも葬式は行った。高校生が喪主を務めて、焼香に来た人はほとんど居なかったけど、それでも姉さんは全部1人でやっていた。遺族で一番年上の私は、家族を支える方法は知っていても、社会で生きていく方法を知らなかった。

 

それから遺品を整理していたら、遺書を発見した。職業柄、いつ刺されてもおかしくないと思っていたらしい。

そこには遺言や葬式の希望なんかは全く書いてなくて、税金の払い方だとか、口座番号だとか、保険の契約内容だとか、そんなものが只管にまとめられていた。

私が困ることを見越して、私たちが生きていくために必要な最低限の全てが書いてあった。

 

それから、妹たちは逞しくなった。

ヴィーラのもともと幼かった精神は成長して、社交性を大事にするようになった。ヴィーラは姉さんの強さや刹那主義に憧れていたのに、真逆の道へと進んでいった。でも、きっとそれは、姉さんが私たちに一番望んでいた生き方だ。

ピクシスは引きこもりがちになったが、電子通貨の取引で誰よりも家計に貢献するようになった。どこで勉強したのかは分からないが、それでも3人が生きていくのに不自由しない額を1人で稼いでいる。

 

皆、姉さんを失って、代わりに何かを得た。

 

私は?

私はただ、生きることに必死だった。

学歴もないまま就職もできず、アルバイトを増やして、家事をこなして、ヴィーラの弁当を作ってピクシスの部屋を掃除して。姉さんがいた頃よりも大人になったはずなのに、やっていることは変わらない。

ただ、私だけが停滞している。その現実を認識して、真綿で首を絞められているかのような感覚になることがあった。

 

私は姉さんにはなれない。

そんなことはずっと前から分かっている。

でも、姉さんがいない私は何者でもない。

 

階段を上がりきると、窓から夜景が見える。いつもは暗い山の方も、今日は納涼祭の提灯の灯りに照らされて賑わっていた。

 

こんな時、ヴィーラならどうするのだろう?

ヴィーラはこの2年間で間違いなく変わった。姉さんとは真逆の道を、真っ当に生きる道を歩み始めている。

ピクシスなら、どうするだろう?

末っ子で、なんだかんだ姉さんも一番目をかけていた。そんな彼女だからこそ、姉さんが死んでから、自分の世界に没頭するようになった。

今の妹たちが死神と会ったら、何を思うのか。

ずっと姉さんを見ていた…姉さんだけを見ていた私には、血の繋がった妹のことさえ分からない。そう思うと、また息が詰まった。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎ 22:00

 

部屋から灰皿を取ってリビングに戻ると、姉さんはすっかりくつろいだ様子でビールの缶を開け、テレビを付けて眺めていた。

 

「吸いながら飲むなんて、随分器用ですね」

「酒も煙草もあたしの愛人なんでな。2人程度なら同時に愛してやる程度の器量はあるぜ」

「へぇ、では賭博さんとは別れたんですね?」

「…こりゃ一本取られたな」

 

カタリ、と灰皿をテーブルに置く。姉さんが地中海に仕事に行った時に買ってきたもので、オレンジのタイルアートが特徴的な、灰皿というには可愛らしいものだ。

テーブルに置かれたワイングラスは、既に空になっていた。飽きたと言いつつ、しっかり飲むのも姉さんらしい。私は空になったグラスにワインを注いで、自分の手元に寄せる。ビールが苦手だっていうのは嘘じゃない。

テレビニュースでは、相も変わらず納涼祭の様子を中継していた。ずっと映していて視聴者は飽きないものなのだろうか?

 

「見ろよ、納涼祭。盛り上がってるなァ…懐かしい。お前らを連れて行って屋台を巡った。覚えてるか?」

「それは…まぁ、覚えてます。チョコバナナの屋台のじゃんけんでヴィーラが30連勝して、出禁になったことも」

「ハハ、そんな事もあったっけな!…あァ、それも、懐かしい。本当に…」

 

当時は両親が死んだ直後で姉さんも若くて、貧乏だった。チョコバナナはあまり美味しくなかったけれど、皆生きることに必死だった。

次の年からは毎年、姉さんが連れて行ってくれた。ずっと生活に余裕は無かったけれど、祭りの時だけは何でも欲しいものを買ってくれた。

 

そんな生活も、姉さんが死んでからは無くなった。去年の納涼祭は誰も行かなかった。今年は2ヶ月も前にヴィーラが誘ってくれたが、私は、どうしても行く気にはなれなかった。

ワインを口に含んで、少し考える。

きっと行きたくなかった理由は、屋台に姉さんの影を見てしまうからだ。そうして姉さんがいない現実を再認識して、苦しくなってしまうからだ。だから、今こうして姉さんの影と話していても、それ自体は嫌だとは思わない。

 

…姉さんが死んだ時、ずっと考えていた。もし何かの奇跡が起きて、姉さんが生き返ったら、その時私は何を言えば良いのか。

ありがとうとか、ごめんなさいとか、思いつく言葉はたくさんあった。それでも、自分を客観視すれば答えは明白で、その答えを出した自分を心底嫌悪した。

 

出かけた言葉と一緒に、ワインを飲みくだす。

助けて、とは言えない。言いたくない。それを言ってしまうことは、自分への諦めだ。姉さんはきっとそれを望んでない。

 

「…まどろっこしいことは、やめませんか?」

「何がだよ」

「死神の仕事に来たんでしょう?早く、私を連れて行ってくださいよ」

 

姉さんが私の見ている幻ではなく、もしも、本当に死神であるのならば、私は心の底から嬉しいと思うだろう。

姉さんが居ないこの世界では、私にとって旅立つことは幸せだ。姉さんがそれを許してくれるのなら、すぐにでも首を吊りたかった。

 

それができなかったのは、妹たちが居たから。妹たちを残して逃げるのは姉さんへの最大の不義理だと思ったから。そして、ここで妹たちを案じるのではなく、姉さんへの義理立てを考える時点で、私は狂っているのだろう。

姉さんは私をじっと見つめると、ビール缶をぐいっと傾けて空にした。

 

「やだね」

 

プルタブを引いて新しい缶を開ける。

 

「…なら、何をしに来たんですか?仕事って何なんですか?お迎えだっていうなら、飲んでばかりいないで、私を連れて行ってください」

 

私を、助けてくださいよ。

 

「死神の仕事は、死ぬべき人が穏やかに死ねるように、助けてやること。飲んでるのはあたしの趣味。OK?」

「穏やかに…?」

 

姉さんは心底つまらなさそうに話す。

 

「お前、部屋に行ったんだろ?」

「はい」

 

姉さんの灰皿を取りに。

 

「誰の部屋に行った?お前の部屋か?」

「…はい」

 

私の部屋へ行って。

 

「なら、見たはずだ」

「……」

 

 

 

そこには、何も無かった。

 

 

 

「正直、お前が何事もなく降りてきた時はビビったけど。その焦り様なら、流石に気付いてんだろ?」

 

 

2年。

時の止まった姉さんと、私。灰色の背中を追いかけていたら、こうして、いつのまにか追いついてしまっている。

 

テレビから、窓から。

花火が咲いて、散る音が聞こえた。

 

「49日もありゃ、遺品整理には十分だ」

 

♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎ 22:30

 

49日では、気持ちの整理は追いつかない。

大切な人が死んだら悲しいし、その悲しみは一生引きずっていくことになる。

 

だから私はネットに逃げた。

ゲームの世界は変わらない。新規勢に引退勢。入れ替わりはあっても、絶えることはない。

 

唐突に、暗い部屋が赤く照らされた。フレンドに一言入れてボイチャを切る。窓を見ると、花火が打ち上げられていた。折角なので、ヘッドホンを外して打ち上げの音に耳を傾けてみる。

 

人間関係は花火のようだ。カライナ姉さんはずっと昔にそう例えた。本当に輝くのは一瞬だけで、それよりずっと前から、花火職人の努力がある。そのくせ一歩間違えれば簡単に壊れるし、一度壊れると修正できないので作り直すしかない。

 

家族関係は、どうなんだろう?

ふつうよりも強固な関係はずの私たちは、カライナ姉さんが居なくなって崩壊した。パピス姉さんやヴィーラ姉さんほどではないにしろ、私も、カライナ姉さんのことは信頼していたし頼っていた。

 

それからパピス姉さんも、ヴィーラ姉さんも変わった。パピス姉さんは自分を追い詰めるようになったし、ヴィーラ姉さんも自分を殺して優等生を演じている。私は、急に変わってしまった2人が怖くて、きっとこのまま花火のように弾けてしまうと思った。

 

パピス姉さんまでもが死んでから、ヴィーラ姉さんはもっと無理をするようになった。でも、止められなかった。次はヴィーラ姉さんが弾けるのだろうか?それとも私?

私は、死ぬことは怖くない。だって、人類史上でいま生きている人より、これまで死んできた人の方が遥かに多いから。死んでも大多数に迎合するだけ。でも、好きな人たちが死ぬことは怖い。少数派に取り残されるから。

 

花火を眺めながら、机の引き出しを漁る。錠剤の入った瓶を掴んで、適当な量を振り出し噛み砕く。苦い。不味い。粉っぽい。

それから、スマホを操作してヴィーラ姉さんへメッセージを送った。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎ 23:00

 

打ち上がる花火を見ていた。近くの河原で打ち上がるらしく、みんなそっちへ流れていく。逆に、納涼祭をやっている神社の上の広場はそれなりの穴場になっている。

 

こうして花火を見ていると、ずっと昔のあの日を思い出す。チョコバナナの屋台で30連勝して、電気代を節約するためにこの広場でみんなで花火を眺めて食べたチョコバナナ。

あの時は、食べ物もお金も無かったけれど、今よりずっと楽しかったなぁ…。

 

「ヴィーラさん…どうしたの?」

「…ん。ごめんね、何でもないよ」

「そっか。ベンチもあるし、少し休もう?俺は飲み物買ってくるから、待っててね」

 

ぼんやりしていると、隣の彼氏から心配されてしまった。手を握り返して笑顔を作る。

それでも心配してくれるあたり、彼は、本当に優しい人なのだろう。

背中を見送って、呟く。

 

「…私ね、優しい人は嫌いだよ」

 

そういう人は、大抵、勝手に責任を背負って勝手に死ぬから。人間って、こんなにも簡単に死ぬんだと知ったのが2年前。殺しても死ななさそうなカラ姉が死んで、それから、少しだけ頑張ってみようと思った。

そしたら、中学生の頃は筋金入りの不良って有名だった評判も、今では高校きっての優等生。高嶺の花なんて言われることもあって、人間って簡単に意見を変えるんだなと思った。

 

正直、ちやほやされるのは嫌いじゃない。でも、ちやほやされる私は本当の私じゃない。なんだか、もやもや。

 

スマホで花火の写真を撮る。

写真は好きだ。どれだけ経っても変わらないから。そこに居たという証拠を、これ以上なく残してくれる。満開の瞬間。綺麗な写真が撮れて満足したところで、通知が来る。

 

ピクシスからのメッセージ。

あの子が何かを伝えてくることは珍しいなと思いつつ、バナーをタップして画面を開く。

 

《お土産はチョコバナナでお願いします》

 

「…もう買ったよ、馬鹿」

 

夜空に花火が散った。

 




晩夏の死神:解説

タイトルは「晩夏の死神、または旅立ち損ねた愚者のはなし」

推敲は一切していない。(ガチ)
四姉妹で夏祭りに行って遊ぶだけの現パロを書こうと思ったら、開幕1000文字でなぜかカライナが死んだことになってた。俺は首を傾げた。
でも、曇るパピスも書きたかったので続けて書いて行ったら、なぜかパピスも死んだ。俺は首を傾げた。でも最終的にヴィーラとピクシスが曇ってくれたので俺は幸せになった。俺は何を書きたかったんだっけ?まぁいいや。

ぶつ切りエンドになった理由はここから分岐が発生するため。パピスが穏やかに死ぬことができたのかどうかは、正直語りたくなかったので書かなかったのが半分。書くのが疲れたのが半分…嘘ですごめんなさい7割くらいはある。
というかこの小説9000文字手前くらいあるけど、最初に15000文字書いてから解釈違いが発生したのでやめた。書き直す余力はなかったから、いい感じのところまで遡って終わりにした。

解説らしいことやる(宣言)。
現パロ四姉妹は本編とは違ってかなり仲が良い。特にパピスのカライナへの愛は単なる依存であって、狂気を発症していないので100割増しで健全。なのでカライナとパピスの仲は良い。あとピクシスの精神性は神じゃなくて人間になりました。でもヴィーラは変わらずサイコパスです。お前がサイコパスじゃない世界線は認めない。
生前のカライナが悪事をしていたのは妹たちを食わせるためだけじゃなくて、単にカライナの気質もある。開拓隊のやつなら分かるよな、あの人そんなに優しくないから。でもなんだかんだ面倒見がいいのはカライナさんが本編において四姉妹中もっともまともと言われる所以。肉体は神なのに生き方が人っぽいのでとりあえず四肢吹っ飛ばして舞台装置になってもらいました。強キャラがあっけなく死ぬのって良いよね(恍惚)。
パピスはマイルドになったとはいえ依存体質。このSSで間違いなく一番被害を受けている人。なんだかんだ真面目なので、カライナが死んでからも現実から逃げることができなかった。死因は多分交通事故とかそんなん。自殺ではない(断言)。パピスに自殺は絶対許さない。徹底的に弱らせあとに衝撃の真実を突きつけて精神崩壊させたいけどコイツ本編では元から精神崩壊してたわ無敵か?ということで現パロで精神崩壊させてみた。既に死んでるのでどれだけ傷つけてもノーダメージだからKENZEN。筆者は天才かもしれない。
ヴィーラはこの世界線においては凄く良い子。お前この前消したSSで弟くんカニバってたよな…?本質は変わっていないので、サイコパス精神が抑圧されまくってメンタルに強大な闇を抱えている。可哀想にねぇ!でも可哀想は可愛いの精神で病んでもらった。まぁ元から進んで人を殺すような精神してるし、ヴィーラには多少曇ってもらったほうがみんな幸せになれるって!な!開拓隊の曇らせおじさんたちもそう思うだろ?
ピクシスは可愛い。精神が神じゃないピクシスは単なる弱い人間なので曇らせ甲斐があって大好き。とりあえず末っ子なので精神病んでもらった。というか生き残り組には病んでもらった。もっとODしてもろて。(薬物を)いっぱい食べる君が好き。デイトレーダー設定はいつだかTwitterに書いたやつを使ってる。現実で未成年って多分そういうのできないと思うから、ハッキング技術もそれなりにあるんじゃないかな知らんけど。

あと完全に余談だけど、このSSにおける死神という概念は都合の塊でしかない。とはいえ死神=カライナという都合のいい等式ではないので注意。パピスが話していた死神はカライナの残響のようなもので、カライナの魂が〜とかそういうことではない。死んだ人と話せるわけがないだろ!(なお両方死人)
最初にも言った通り、最初は四姉妹が夏祭りでどったんばったん大騒ぎする予定だったので世界観ガバガバだけど許して。

解説終わり

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