TS転生女神だけど、臣民達がもっと搾取して欲しいって目で見てくる   作:銀幕の臣民

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開戦の狼煙

 【グローリア】は大前提として大国である。

 数多な国をブルドーザーの如く轢き潰し、自身の配下にしてきた。

 それはつまり、【クイント】が扱う権能は『黄金の天秤』だけにとどまらない事を意味する。

 ……神は死ぬ時に、否、殺された時に殺した相手に恵みをもたらす。

 それが神の場合、それは権能の形をしている。

 もちろん、本来の形より幾分かダウングレードされているだろうけど、しかし相手はかの貿神【クイント】である。

 下手するとそっくりそのまま奪っている可能性がある。

 ……唯一の救いは、【グローリア】は未だジャイアントキリングを成し遂げた事は一度もないという事。

 全て当たり前のように自国より弱い相手に戦争を仕掛け、そして勝利してきた。

 だから、奪取した権能は間違いなく『黄金の天秤』より弱い。

 ダウングレードする前から、そして今はもっと弱体化しているだろう。

 

 とはいえ、結局【グローリア】が大国であることには変わりない。

 人的資源含めて資源が豊富。

 そこから物量で攻められるのは単純に厄介だ。

 そもそも我らが【銀幕】は防衛しか出来ない。

 無論、防衛という名目で敵地を攻撃は出来るが、そうすると若干のデバフがかかる。

 権能ーー『守鶴』。

 防衛特化の権能であるこれにはある特性がある。

 それは、自国が弱まれば弱まるほど、権能によって生み出された武器の威力、能力にバフが掛かる。

 端的に言うと、侵略行為にさらされ続ければするほど、我らが国は強く堅牢になっていく。

 だから、味方がおらずこれというパイプラインもない国だけど、実は相手が息切れするまで待ち続ける戦いはむしろ得意なのだ。

 

 ……そして恐らくだが。

 それは【グローリア】の【クイント】も理解している。

 権能の全ては把握しきれていないだろうが、それでも今まで【銀幕】が経験してきた戦争の記録は読み込んでいるだろうし、そこから我らが国が持久戦に強い事を推測している筈。

 

 戦いが長引くほど疲弊していく国と、強くなっていく国。

 それを理解しているなら、取るべき戦法は一つだけだ。

 即ちーー先制必殺。

 初手で本命を投入してくるに違いない。

 

 しかし、どんな攻撃か。

 我らが国は島国。

 地続きの隣国を攻め落としてきた時に使った戦法は使えない。

 この世界にはドラゴンがいるのは判明しているし、それに乗って攻めてくるのか。

 それとも船で来るのか。

 ……どれも決定打に欠ける、と思う。

 相手は神だ。

 常識外の化け物。

 それがしてくる必殺の一撃とは?

 

「敵国【グローリア】より熱源反応あり! 超高速で【銀幕】に向かっています」

 

 果たしてーー

 やはり、と思った。

 魔法。

 あるいは神の審判。

 私にとっては天敵、乗り越えなくてはならない一撃だ。

 防衛システム『かまいたち』は告げる。

 後1分で首都『鶴舞』に落ちる、と。

 迷う猶予はない。

 ……確実に迎撃する。

 

『神風』、空間把握の手は止めないように。

 

「りょうか〜い」

 

『養老』、撃墜したときに発生するであろうすべての余波に備えて。

 

「ん!」

 

 そしてーー私は二人の『かまいたち』と感覚をリンクさせ、飛来するそれ、火球を睨みつける。

 手に握られているのはこの国で唯一の、神様パワーの兵器としか説明のしようがない武装。

『草薙』と名付けられた刀を、抜刀。

 

 ーー刹那、上空から降ってくる脅威を『草薙』が切り裂いた。

 

 

  ◆

 

 

「なるほど、興味深いですわ。

 ……『沈む太陽』が不発に終わりましたか。

 まあ、初手で堕ちてくれるほど生半可な国ではありません、ね。

 これに関しては素直に【銀幕】の【トラム】様を褒めるべきでしょう。

 銀溢れる豊穣の国。

 そしてそれを守護するのは豊神【トラム】。

 是非とも我が国とこれからも交流させていただきたいですね。

 そのためにも、美しき白鶴は翼を折らなくては。

 ーー『昇る月』部隊を出撃させましょう」

 

 


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