静かな執務室。
俺は日本から持ってきた数少ない私物の一つである筆ペンを書類に走らせながら近くにある時計を見た。
時刻は18時20分、ブルーリッジ達が出発して早8時間ほどが過ぎていた。
「――提督。艦隊が鎮守府に帰還したぞ」
「ん?…あぁ、今行く」
執務室で時計の針を目で追っているとキーロフがドアを開け開口一番に報告してきた。
帰還した艦隊…まぁ、ブルーリッジとインディペンデンスの2人なんだが、彼女たちには鎮守府の将来のために重要な任務を与えていた為、俺は思わず頬を緩ませながらキーロフの後を追った。
「「提督!!」」
「あぁ…良く帰ってきたな2人とも」
こちらに小走りで近づいてくる2人に安堵を覚え声をかける。
2人の背後には大量の物資と思しき物が鎮座しており、こちらの要請が通じた事に2度目の安堵を覚えた。
「──とりあえず、報告は後でいい。今はゆっくり休んでくれ」
「はいっ!了解しました」
「了解しました」
2人に休息を取るよう言い渡すと俺はキーロフを連れて駆け足気味に去っていく2人に気が抜けるような感覚を覚えた…いや、それはそうとして、今気にするべきはこの大量の物資の事だな。
「──妖精さん、いるか〜」
「いるよー」
「まったー?」
「かいはつ…かいはつ」
「こんどは きょうしゅうようりくかん をつくりましょう!」
元気な妖精さんの声が聞こえてきた──背中の方から。
いや、いやいやいや…なんで背中に引っ付いてるんだ?うん、深く考えないでおこう。
妖精さんはそう言う存在だ。
「あ、あぁ…これは何処に運べばいいんだ?」
何とも釈然としないが、俺は妖精さんにこの物資の置き場所を聞いた。
「うーん…やっとくよ〜」
「こうしょう?」
「そうこに持っていくよー」
「おー!」
すると妖精さん達はトコトコと俺の背から飛び降りると明らかに釣り合ってない大量の物資を抱えて走り出した。
「─え?」
「またねー」
「けんぞーけんぞー」
「「は〜しれ〜」」
俺の驚愕する様子を気にすることなく走り去っていく妖精さん…うん、もう何が起こっても俺は驚かないことにしよう。
密かに決意した俺は今日はもう休もうと自室に向かった。
「…今日は早めに寝よう」
自室に入る手前、俺は寝る前に今日の分の書類を終わらせるべきかと考えたが、重要な書類は既に終わらせていた事を思い出し改めて眠ることにした。
今日は物資の問題が解決されたことや妖精さんのデタラメさなどで緊張の糸が切れてしまった事もあり、俺はベットの中に潜り込んで直ぐに深い眠りについた。
【翌日】
──パッパラッパパッパラ──
「ふぁぁぁ…」
翌朝、まだ日が昇ったばかりの早朝、俺は起床ラッパの音で目を覚ました。
目覚めた俺はまず最初に身なりを整え、しっかりと軍服をまとい一日のする事を頭の中で思い浮かべる。
最後に枕元に置いてあった短刀と懐中時計を懐に入れて部屋を後にする。
「おはようございます、提督」
「…うむ、おはよう。インディペンデンス」
提督室から歩いて直ぐの執務室の扉を意気揚々と開けるとそこに居たのは我が鎮守府初の正規空母・インディペンデンスだった。
少し驚きながらも朝の挨拶を済ませ、ブルーリッジはいないのかとキョロキョロと執務室の中を見渡す俺にインディペンデンスは"あぁ"と言った様子で答えた。
「ブルーリッジならば、今ごろ朝食の準備を行っていますよ」
「ふむ?…そうなのか」
彼女は流し目でこちらを見つめながらそう答えた。
俺は『え?』と言う心の声を押し殺し何とか威厳を保とうとしたが彼女は『分かってます』と言った優雅な微笑みを浮かべて書類をまとめた。
「──昨日の書類は終わらせておきました。本日の分も後は提督の確認だけです」
「そうか…?」
「はい。提督はごゆっくり食事をお楽しみください」
いや、全くゆっくりできないんだが。
昨日の分の書類を終わらせた上で今日の分の書類も後は確認だけ?…もう俺の仕事、無いんじゃないか?サラッと確認しただけでも完璧と言う言葉以外出てこない程のものだ。
明らかに俺がやるよりも良い。
──これでも訓練生時代は誰よりも努力したつもりだったんだけどな──
俺はかなりのショックを感じながらインディペンデンスと共に食堂に向かった。
「…そういえば、なんでインディペンデンスが執務室にいたんだ?」
「はい、実はブルーリッジ達と話し合って交代交代で秘書艦を勤めていこうと言う話になったのですが…ご不満ならば直ぐに辞めますが…」
「い、いや、大丈夫だ。逆に助かる」
俺が彼女の言葉に慌てて答えれば、彼女は目に見えて安心したように息を吐くとかすかに笑った。
…はっ、一瞬持っていかれそうになった。
美しすぎると正気を失うと言うが…何となく今なら言葉の意味がハッキリ分かる気がするな、少なくとも俺はその言葉を笑うことは一生できそうにない。
「?…提督?如何しましたか?」
「──いや、大丈夫だ問題ない」
俺の理性が先かショートランドの滅亡が先か…そのレベルの争いになるな。
いや、よく考えたらショートランドが落ちることなんて彼女たちがいる限りありえないから俺の理性が間違いなく負けるな…馬鹿なこと考えてないで物資の利用についてでも考えるか。
食堂に着いた俺はゆったりとしたテーブル席に座りブルーリッジとキーロフの2人が来るのを待った。
「「提督」」
出てくる料理について思いを馳せていると、丁度いいタイミングで2人が到着した。
「あぁ、どうした2人と、も…」
俺が2人の立つ背後を向いて声をかけたが…その言葉は全て出ることはなく固まった。
ポカンと口を広げた俺がその時見たものはブクブクと煮え立った黒い重油のような物…それを食器の上に乗せて持ってきたブルーリッジとキーロフの姿だった。
元々は白かったであろうエプロンも禍々しい混沌のごとき姿に変わり果てている。
美しい顔にもべチャリとこびりついており、アニメや漫画ならば微笑ましい場面で黒い物体ではなくチョコレートなどなのだろうが…俺の理性が叫ぶ『今すぐここから逃げろと』しかし、現実は残酷だ。
2人は鬼や悪魔でも恐縮してしまうような形相をうかべこちらに1歩1歩前進してくる。
「…提督、ご武運をお祈りいたします」
「う、あ…待て…待つんだ、インディペンデンス」
恐怖におののく俺を尻目にインディペンデンスは目にも留まらぬ速さで去っていく。
よく見れば彼女の袖には妖精さんたちも必死につかまっていた。
「「提督、どっちの料理の方が美味しいですか♡」」
「う、うむ。楽しみだ」
達観した表情で彼女たちから向けられる極上の料理に食らいつく。
俺の意識があったのはそこまでだった。
はい、モチベが消えてました。
リハビリもかねてぼちぼち書いていきますので次回はお待ちくださいm(_ _)m
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