トラック・ラバウル・パラオ・ブルネイと名だたる基地の指揮官達と本作戦に投入される各戦力がトラック泊地に集結し、作戦行動に関する最終確認を行っていた。
「本作戦の概要を説明します」
トラックに所属する艦娘大淀が全員を代表して前に出る。
「本作戦の目標はソロモンおよび東部ニューギニアの敵深海棲艦、及び敵航空兵力を撃破しその反攻企図を妨げることにあります」
続けてトラック泊地を指揮する提督が口を開き、追加の情報を各員に伝達する。
「また、同地域の急迫する補給輸送を促進し、戦力の充実を図り人類の南方方面部隊の強化・支援を実現することを最終目的としています」
ここまでの話を聞き、ラバウルにて現地指揮を取る岩元中佐が右手を上げる。
頷くことで了承するトラックの提督、岩元中佐は立ち上がると手元の資料を机の上にそっと置き口を開いた。
「敵戦力は?」
眼力だけで人を殺しかねない視線を作戦の中心たるトラックの提督に向ける。
たっぷり15秒…提督は静かに答えた。
「不明だ」
「…それは敵戦力の予想が建てられないということか?」
「――いや、少なくとも確認されているだけで中規模二個艦隊、直近の攻撃頻度からこれまでの傾向から言って"MI"レベルの敵を含む大規模3個艦隊って所だろう」
――MI――
忌々しくも失敗した大規模作戦の反面教師的な意味で今や使われている言葉だ。
日本国の全戦力、その約8割を投入した乾坤一擲の一大反攻作戦であったそれは、投入した8割のうち約78%の戦力の喪失と残存戦力も大半が再起不能になったと言う悲惨な結末で終了した。
各司令官はその言葉に、怒りや悲しみ、またやるせなさを表情に浮かべた。
それもそのはず、この前線にいるのはとんでもない物好きかMIの責任を取らされて送り込まれた者ばかりだ。
例外的にショートランド泊地の提督はMIとは殆ど無関係だが…それ以外の各司令官は現場指揮や作戦の立案などで海軍の中心に近い場所にいたもの達なのだ…MIの言葉にかける気持ちも人一倍強く、現在の大本営や軍令部よりもその脅威を肌で感じているのだ。
「――つまり、いるんだな…知能個体が」
岩元中佐が血が流れるほどに拳を握り、大本営・軍令部・連合艦隊が秘匿する情報をさしたる迷いもなく言い放つ。
「…岩元中佐、軽率な発言は気をつけるように」
パラオの斎藤中佐が黙り込む各指揮官を代表して口を挟む。
――しかし、それが火に油を注ぐ行為であることは目に見えたことであった。
「何言ってやがるッ!!俺の所の艦娘はヤツらに殺されたんだッ!!!」
「アイツらが死に体になりながら情報を持って帰って来たというのにッ!!なぜ隠し続けなきゃならんのだっ!?」
「大本営のエリートや軍令部の石頭共のために何故、何故ッ゙!!!」
岩元中佐の激情が空間に響き渡る。
激しく怒り、至るとこに唾を飛ばし吠えた岩元だが、やがて周囲の目からか静になる。
「俺はっ…おれ、は…」
「…。」
かつて栄光の呉鎮守府で指揮を取っていた彼の言葉に皆息を飲み、言葉を発しない。
静寂が広がる。
後ろに控える艦娘も、何も言わず、ただただ俯いた。
「…岩元提督」
「…よせ大淀、俺はもう提督じゃない」
前線に送られる人員・兵力は消して多くはない。
それは軍人に限らず艦娘たちにも当てはまる。
現在日本国に存在する艦娘は約200、同じ艦を元にした艦娘は同時に複数存在できないこともあり、広大な太平洋をカバーするにはあまりにも少ない数である。
貴重な戦艦・空母は主要な軍事基地――横須賀・呉・佐世保・大湊・トラックなど――に優先的に配備され、その他重巡以下の艦艇が各鎮守府に配備されている。
しかし、最前線ともなれば、トラック泊地などの主要な拠点以外には良くて軽巡、普通は駆逐と能力の低い呂号潜水艦が精々であり、残りの足りない戦力は基地航空隊で賄っている始末である。
その航空戦力も良くて零戦の32型、悪ければ21型や陸の隼である。
紫電改や彗星に流星なんて新型機は本土に優先配備されて前線でお目にかかることなどないし、戦艦も旧式の金剛型や扶桑型くらいしか見ることはない。
見てわかる通り、最前線は本土に近づく敵を迎撃して撃ち漏らした敵を本土の艦娘が叩くという目的のためにあり、あくまでも時間稼ぎの為の捨て石に過ぎないのは現場では周知の事実だ。
――しかし、悪い事ばかりではない――
本土から捨て石同然に送り込まれたこともあり、中央の連中からあれこれ細かい命令が下されることもなく、ある程度の作戦ならば現場の判断で行うことが可能である。
「――だからこそ本作戦を実行出来る」
トラックの提督がこの場の空気を変えるため声を発する。
い号作戦の最終目標はこの戦争に”楔”を打ち込む事だ。
ソロモンから溢れ出す敵を撃滅し、前大戦で多くの船が沈み憎しみの連なるアイアンボトム・サウンドを攻略することで初めてMI以降続く軍内部の空気を一新出来る可能性が見える様になる。
今後の作戦を確実に成功させるための布石になるのが本作戦だ。
「本作戦が成功すれば、向こう三ヶ月の間は敵の大規模侵攻を気にせずに作戦準備を行える」
これまでの戦いの教訓から敵が一定の戦力を溜め込むまで大規模侵攻は発生しないことはある程度わかってきた。
本作戦が成功すれば大規模侵攻は早くとも三ヶ月は後、その間に軍令部に残る僅かな同志達を介してソロモン方面での作戦を発令させる。
本国に蓄えられた各戦力も何が何でも引っ張り出してソロモン諸島――アイアンボトム・サウンド――を突破し戦局を打開し失われた豪州・南米・北米との連絡路と補給ルートを再構築し太平洋戦線の戦局を覆す。
「それ以外に道はない」
そう言い切ったトラック提督の発言に静まり返る室内。
「…致し方ないか」
誰かがつぶやいた。
そして各指揮官は静かに頷きあった。
…勿論、この計画も成功するかは賭けでしかない。
米国がその後の補給を約束してくれる保証はどこにもない、軍令部が前線の望む戦力を捻出してくれる保証もない、そもそも現在進行系の”い号作戦”すら成功の保証はない。
参加兵力も大半は各鎮守府の基地航空隊であり、艦隊はトラックを中心に正規空母2隻・戦艦2隻に補助艦艇を含めても全体で30隻程度である。
成功の算段は消して高くない…だが、これ以上の作戦の遅れは消して許されないし、時期を考えても本作戦を成功させなければ皆後がない。
…それは提督も艦娘も同じことであった。
「…現時刻をもって作戦の開始を宣言する」
トラック提督の号令が下された。
「――了解しました。各員敬礼ッ!」
大淀がその命令を復唱する。
出撃準備を終えた艦娘たちが一列に並び姿勢を正し各指揮官に敬礼を行う。
各指揮官が敬礼を返し、大淀が艦娘を代表して答えた。
「艦隊出撃します!」
――い号作戦発令――
艦娘達が出撃し、各基地航空隊がその持てる戦力の全てを吐き出す地獄の消耗戦の火蓋が切って落とされた。
――なお、深海棲艦の大部分は対艦ミサイルに引き裂かれ壊滅している事を彼らは知らない――
なんとか書けたので更新しました…続きは…ノーコメントです。
あとこの場を借りて、活動報告でのご意見ありがとうございます、色々なインスピレーションが湧いてきましたので、次の更新は…可能な限り善処して早くしていきたいと思います。
感想に関しても楽しみにしていますので今後ともよろしくお願いします。
次、建造する艦艇
-
アーレイ・バーク(イージス艦)
-
タイコンデロガ(巡洋艦)
-
ワスプ(強襲揚陸艦)
-
ジャン・バール(戦艦)
-
アドミラル・ゴルシコフ(フリゲート)
-
バージニア(原子力潜水艦)