一五〇〇、提督室には艦娘たちが集まっていた。
普段は全艦娘が集まっても余裕を持って収容できる提督室だが、作戦室と違い指揮を取る部屋ではないためトラック・ショートランドの両艦娘たちが一堂に会してしまい、ごった返すような雰囲気が流れている。
――ガチャッ――
「――すまない、待たせてしまったな」
「「提督!(指揮官!)」」
時間丁度に提督が部屋に入る。
安堵した艦娘の声が聞こえ、提督は少し笑うとしっかりとした足取りで席についた。
「…ではこれからの事を話そう(頼むから平和的に終わりますように)」
なんとも締まらない事を考えながらも、それを一切表に出さずに提督は話を始めた。
…さて、まずは何から話すか。
一応考えては来たがとにかく印象を良くしておかないと、後々トラックとの軋轢になりかねない。
「まず始めに、今回は不測の事態ではあるが両鎮守府の艦娘が友好的に合流し共同して行動したことを嬉しく思う」
「いえ、前線において不測の事態は当然です。救援をいただきこちらも助かりました」
何にしても、まともに前世で見た艦娘たちと話すのって初だなぁ…内地では大規模な鎮守府でまとめて運用されていたから直接見たのは訓練学校の時に艦娘の説明を受けた際に見た一回だけだったから新鮮な感じだ。
「ふむ…(なんか、全体的に硬いな)」
「⋯どうかしましたか?」
「いや、今日あったばかりだから仕方がないかもしれないが、もっと楽な姿勢で大丈夫だぞ」
「そ、それは――いえ、わかりました」
前世のゲーム中での彼女たちを知っている自分は深く考えずにそう言った。
しかし、なんとも歯切れの悪い。
我が鎮守府の艦娘は…なんというか堂々としているが、トラックから来た彼女たちは全体的に暗い雰囲気を纏っている。
「何か問題でもあったのか?」
俺が近くにいたすずつきにそう聞くと彼女は一度じっくりと目を瞑り悩んだような仕草を見せた後にトラックの艦娘たちを見やりため息を吐いた。
「⋯彼女たちが作戦目標を達成できなかったからだと思われる」
「作戦目標?」
「あぁ、そうだろう?」
すずつきがそう聞くと彼女たちは静かに頷いた。
「…本作戦の戦略目標はソロモンおよび東部ニューギニアの敵深海棲艦、及び敵航空兵力を撃破しその反攻企図を妨げることでした」
大淀は静かに語りだした。
「ならば作戦目標は達成されてると思うが…何か問題が?」
俺が疑問を投げかけると全体の空気が重くなった。
原因はトラックの艦娘たちが出す殺気にも等しい雰囲気であった。
―カチャ―
「「…」」
瞬時にキーロフとインディペンデンスがトラックの艦娘を囲むように部屋の左右に移動し、護衛艦の二人が更に俺の近くによってきた。
ブルーリッジは背後の扉を押さえ即座に戦闘態勢を取った。
「――本作戦の本当の目的は別にあったのです」
黙り込んだ大淀に変わって翔鶴が話を引き継いだ。
横から姉妹艦の瑞鶴が止めようとするが、それを手で抑えそのまま話を続けた。
「“い号作戦の最終目標はこの戦争に“楔”を打ち込む事”――提督はそのような事を作戦開始時に言っていました」
「ふむ、なるほど(え…ここってそんな重要地域だったっけ??)」
いや、確かにソロモン方面は重要な地域ではある。
――しかし、それは分断するメリットがある敵勢力がいて初めて重要な地域になるのであって、最早内陸に撤退したオーストラリアや各諸島国家が宛にならない以上、わざわざ攻め込む必要がある場所ではない。
輸送などの面を考えればアメリカなどの海の向こうの大国と直接繋がれるのは明確なメリットではあるが、太平洋艦隊含む多数の海上戦力を失い海上戦略を沿岸防衛に主眼をおいた米軍に対して外洋に打って出て安全権を拡大しなければ生き残れない島国の日本が連携するメリットは現状皆無で、国土を奪われ亡命政府を設立し国土奪還を掲げる勢力に恩を売ったとしてもまともな国力を持たない彼らを味方に引き入れたとしても損害が増すだけで“政治的な”優位以外は取れないと思われる。
と、冷静に考えて見ても現状戦略的に考えたとしても重要な地域はインド洋やフィリピン近海を含む地域のほうが国防上、輸送などの面から見ても重要だとしか思えなかった。
「…もしや政治的な話になるのか?(流石に嘘だよな?)」
「はい」
「――(終わったわ⋯)」
彼女たちから語られる前線と後方で繰り広げる勢力争い。
あくまでも現状の維持と国内の安定を優先する大本営含む内地勢力と太平洋全域での反抗を行い消耗戦を打開したい前線勢力…揺れ動く太平洋戦線で行われる盛大な内輪揉め。
冷静に考えて味方同士で争っていても勝てないとは思うが…これに国際情勢と国内での各種団体とのあれこれが加わっている以上避けて通れない問題でもある。
まぁ…ここでの問題はトラックの艦娘がショートランドで釘付けになっている点だが。
実のところ、大規模な作戦で事前に取り決めてない限り、艦娘は自身の所属する鎮守府以外には基本的によることはない。
弾薬や燃料は事前に十分な量を用意するし、仮に問題が起きた場合は自身の所属する鎮守府へ帰還する。
これは急きょ助けを求めた鎮守府に十分な量の物資を備蓄している保証がなく、立ち往生する可能性があるのと、派閥の違いで拘束されたり所属を変更されたりする可能性があるからだ。
実際に日本の艦娘がある大陸の国家を救援するため派遣した際の話だ、20世紀に入って以降内戦で大戦中ほとんど海軍を持っていなかったある大国は艦娘をほとんど用意することができていなかった、そんなかの国は救援に来た日本の艦娘を戦闘後に補給の名目で拘束し自国の戦力にしようと画策した。
その際は国際社会からのバッシングと艦娘からの反発を招き失敗したが、それ以降事前に取り決めをしていない場所へは基本的に立ち寄ることはなくなった。
さて、改めて状況を整理しよう。
本来ならば帰還する艦隊が帰還せず別の鎮守府で立ち往生。
更にその鎮守府は設置されたばかりで艦娘の数がごくわずか。
どこの派閥にも属しておらず手見上げにするのにお誂え向きの貴著な戦艦・正規空母が多数。
…見事なスリーアウトだ、ここで変な行動を起こせばそれだけで孤立すること間違いなし!…地獄か?
「…提督」
「どうしたふゆつき」
「ここは、手柄を譲ってもいいんじゃ、ない?」
小声でそう聞かれ考えてみる。
手柄を譲ってもこちらにデメリットは特にない、それどころか近辺では最大の鎮守府であるトラックに恩を売れる。
更に艦娘たちに補給と修理をすることで更に恩を売れ好印象を持ってもらえる、また敵対の意思がないことも十分に伝えるだろう。
デメリットは中央の⋯主に軍令部と大本営に目をつけられる点だが、まぁ前線ではそれほど気にする必要もないな、物理的に距離が離れているし。
「トラックの提督に伝言を伝えてもらえるか?」
「は、はい」
静かに…できるだけ威厳と圧力を加えるように話す。
色々聞かれればボロが出るのもあるが自暴自棄になられても困るからな。
「“我が艦隊への救援を感謝する。貴官の艦娘の見事な戦いにより敵艦隊は殲滅され近海の制海権を確保せり”と伝えてもらえるか」
「「え?」」
「今回はトラックの艦娘が敵を殲滅したことで我が艦隊は損傷をほとんど受けうることなく勝つことができた、その感謝を伝えてくれ」
トラックの艦娘の困惑した、ぽかんとした顔がよく見える。
ショートランド鎮守府はトラックの艦娘に助けられ深海棲艦を撃滅することができた。
今回の話はそうゆうことにしてすべてトラックの戦果ということにする、これで少なくとも前線で恩を売れ内地に目をつけられることはなくなる。
「さて、時間もいいことだしトラックへの報告が終わったら食事としよう」
「で、ですがっ「――話は終わりだ」っ!」
反論しようと声を上げた大淀を軽く睨みつけ会話を切り上げる。
そして全体を見渡し本鎮守府に所属する艦娘の方を向く。
「では夕食の用意はインディペンデンスに任せる」
「はい、了解いたしました」
「ブルーリッジとキーロフは調理器具に触れさせないように」
「全力を尽くします」
素早く席を立ち彼女たちの横を通り過ぎドアノブに手を伸ばす。
「oh…ちょっと待つネ」
ピタリと動きを止める。
「戦果を譲るって言うのはhappyデスネ…助かりマース、でも何でデスカ?」
なぜ、何故か…まぁこの鎮守府の戦力を考えればそういう意見が出るのは間違いではないな。
でも言えることは―――
「…俺が戦果を上げるのは両者にとっても都合が悪いからな」
「Whatts?それはどういうことネー?」
「――失礼する」
言えるわけないだろ…
――多分あなた達に嫌われてるからです、なんて情けない事⋯グスンッ泣きたい――
ドアノブを回し俺は敗北感を噛み締めながら部屋を出た。
とりあえず部屋で待機中のバージニアに慰めて貰おう…。
情けない事を考えながら提督は鎮守府を一人歩いていった、背後に大量の妖精さんを引き連れながら。
予想の数倍早く書けたので投稿します。
感想ありがとうございました、なんとかモチベーションが回復しました。
今後とも不定期にはなりますが投稿を頑張っていきます!
太字や点滅などのフォント関係
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これまで通りで大丈夫
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無くて良い
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更新速度あげるんだよあくしろよ