一夜開けて早朝、暁に照らされながらトラック鎮守府所属の艦娘と護衛の艦娘すずつき・ふゆつきは一路トラックへ向けて抜錨した。
ある程度損傷を回復したとは言え万全とは言えない翔鶴を含む損傷艦を輪形陣の中心に置き、その外周を損傷の少ない各艦で固める陣形を組んだ艦娘たち。
彼女たちの航海は行きとは違い、特別な脅威に晒されることはなく順当に航行を続けていった。
「敵の一つも見えないですねお姉様」
「そうネ、変な感じがするデース」
金剛型の二人がたまらず話す。
はじめは緊迫していた航海も時間が経つにつれ、緊迫感は消え去り緩い空気が流れ始めた。
艦娘たちは各々が近くのものと雑談を交わし、決まってなんとも言えない表情をする。
――ゴォォォォ――
「あれがショートランドの戦闘機…」
「何度見てもすごいわね、瑞鶴」
その理由は単純明快、絶対的な制空権と対潜対艦の徹底的なまでの遂行である。
翔鶴型姉妹が声に出したように、上空には対艦装備のF−4戦闘機に対潜哨戒機が複数飛び回り、艦隊に近づく敵深海棲艦を艦娘が捕捉する前に殲滅しているのだ。
「あ、また撃ったよ」
「マジかぁ〜全然気づかなかったよ」
本日何度目かの対艦ミサイルが高度数千メートルの高さから発射され水平線の彼方に消えていった。
艦娘たちは呆然とミサイルが向かっていった方角の水平線を見るが、目視でも電探にも深海棲艦の姿は確認できず、やはりなんとも言えない…否、言葉にできないいろんな感情が混じり合った表情をするのだった。
「⋯なぜショートランドが戦果を上げるのは都合が悪いのでしょう?」
「あー多分ですけれど噂話程度には聞いたことあるですわ〜」
大淀のつぶやきに重巡洋艦の熊野が反応する。
その言葉に興味を持ったのか大淀は漠然とした姿勢を正し、改めて聞き直した。
「噂話、ですか?」
「はい、短国提督の噂ですわ」
「…それは一体?」
彼女は一つ一つ噛み砕きながら話し始めた。
本名は間違ってなければ短国まくさ、現在の年齢は24歳で深海棲艦の侵攻勃発後に提督の適性を買われ軍に入隊。
訓練学校では上の下程度の成績で元々は本土の大本営に配属される噂すらあった、しかし艦娘を建造できないと言う致命的すぎる欠陥が発覚したため、これまでのあれこれは白紙に戻され最前線に左遷。
建造ができないことから、腫れ物扱いで軍全体で見ても相当な嫌われ者…の、はず。
「前線で戦い続けてきた私達はそこまで詳しくないですけど〜内地では有名らしいですわよ」
「建造ができ、ない?ですが…」
「えぇ、だから違うと思ったのですが…名前や最前線に左遷された点を考えるとどうにも…」
熊野が聞いた噂話と明らかに違う人物像に建造された強力な艦娘たち。
彼女たちも1日関わっただけだが、聞いたような性格の悪さや能力の問題はなかったように思える。
これまで複数の提督の下で戦ってきた大淀から見ても、能力的な不備は確認できずショートランドの艦娘たちからの距離感を考えても一物を抱えた雰囲気をはなかったように思える。
⋯ショートランド鎮守府に提督が着任して約一月程度、その間にあれだけの戦力を整え大規模な作戦を行った事を考えれば驚異的な実力者であることは間違いないが⋯。
「やはり分かりません…」
前印象と実際にあったときの違いに、提督室で見せた意味深な言葉。
――もしや、提督が以前におっしゃっていた内地の大本営が隠す秘密に関わっている?
最前線に左遷されたのは方便で、前線を見張るための政治将校のような立ち位置に?…いえ、それなら戦果を譲ると言った発言の意味が通らない。
ならば左遷は事実であの提督は、内地でこの国の闇と言えるべき秘密を知ってしまった?ならば前線送りも、それに見合わない指揮能力にも説明がつく…戦果を譲ったのもその事実をトラックを経由して伝えるため?
「…もしや、影で糸を引いている者がいるのでしょうか?」
「おおよそ間違っていないな」
「え?」
集中していた背後からショートランド所属のすずつきがそう答える。
「…少し耳をかせ」
「…わ、わかりました」
そう言われ大淀はすっとすずつきに近づき、耳を寄せた。
「――完全に確証が取れた訳では無いが、開戦当初に海上自衛隊と在日米軍の間で不可解な食い違いが起こっている」
「在日米軍?第7艦隊でしたか?」
「あぁ、当時を知る我々からしても明らかにおかしい動きが多々見られた」
「…具体的には?」
すずつきから語られる艦娘たちが現れる以前の話。
海上自衛隊と在日米軍が協力して深海棲艦を迎撃するはずが、米海軍側からは海上自衛隊が敵を眼の前に反転し友軍を見捨てたと言う話に、当時の海上自衛隊の前線部隊では第7艦隊はハワイに撤退したと言う事になっていたことなど、明らかにおかしい意見の相違の数々。
「何か証拠はあるのですか?」
驚愕の内容に動揺しつつも、その話が確実なものなのか改めて確認を取る大淀。
「あぁ、今は証言と当時の資料しかないが、ブルーリッジと護衛艦2隻の裏付けが取れている」
「はぁ…どうしてそんな事に…」
疲労を隠さずため息を吐く。
聞いた話が仮に事実だとすれば、人類に裏切り者がいるか深海棲艦の能力が想定を大幅に上回っているかのどちらかだ。
前者ならばこれまでも幾度となく反艦娘団体が行ってきた妨害行動がより大規模になっただけであり、対処事態は十分に可能だ⋯しかし、後者の場合は前者とはわけが違う、文字通り人類の想定を遥かに上回る脅威が現れたことに他ならない。
当時の何もかもが手探りで警戒も人一倍強かった時期にそんな事が起こっていたならば…最早人類の防諜なんてものは意味をなさず、あらゆる作戦行動は突き抜けだと思ったほうが良くなる。
事実上、トラック含む前線部隊が想定していた諸外国…特に米国等との連携した反抗作戦の想定と目論見は完全に崩壊したと見ていい。
「最早⋯勝ち目などないのでは?」
弱音を吐く大淀。
大きな衝撃を受けた結果、打ちひしがれ絶望したような顔を向ける。
「―――いいや、少なくとも我々はまだ負けてない」
朝日を燦々と浴びながら勝ち気な表情を浮かべるすずつき。
ハッと顔を上げ視線の先を見やると、水平線の先端に見えてくる鎮守府の姿。
「…えぇ、どうやらそのようですね」
ほのかに笑い、艦隊は速度を上げ帰る場所へと駆けていった。
えーはい。
今後の展開一切思いついてないですが頑張っていきます。
感想はニヤニヤしながら見ていますので今後とも宜しくお願いします。
太字や点滅などのフォント関係
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これまで通りで大丈夫
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無くて良い
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更新速度あげるんだよあくしろよ