――大本営からの指令――
この鎮守府からすれば厄介事でしかないが、避けようのない命令である。
「内地への帰還かぁ…」
書類の処理を終えた俺は自室で考える。
まず、ここに内地への帰還命令が下ることなどまずありえない…そもそも直接呼び出されるのは通常、本土や戦略的に重要な要所に鎮守府を持つ、いわゆるエリートや大規模な作戦で重要な役割を担った者――そして軍規を破り、敵に内通した者など国家に反逆するような重大事件の時である。
「わからない…なんで呼び出されるんだ?」
最前線に左遷された人間に大事件を引き起こすような影響力は勿論、大規模な作戦を遂行した記憶もない。
「――強いて言うならトラックの艦娘だが…」
――別に呼び出されるような事じゃないからな――
我が鎮守府の艦娘が深海棲艦の物資集積地点から資源を強奪して、帰還途中に友軍を救助しただけで…いや、まぁ十分に非現実的かもしれないが”大規模な作戦”とは言えないだろうし…。
他に考えられる要素は⋯
「やっぱりうちの艦娘についてだよな⋯」
通常の艦娘を凌駕する戦闘能力にレーダーや各種装備による圧倒的な技術的アドバンテージ。
他の鎮守府の艦娘が艦砲や魚雷で戦う中、長距離からの精密ミサイル攻撃に音速を優に超す速度で飛び回る戦闘機の群れ、専門の知識を持たない俺でも明らかに異常だと理解できるものだ。
「…間違いなく大戦期の艦娘じゃない。最低でも冷戦の頃の艦娘じゃなきゃ説明がつかないよなぁ」
資料室をひっくり返して分かった事は主に3点。
1つ、大戦期の海軍に同名の艦種は存在するものの、ありとあらゆる特徴が違う。
インディペンデンスと言う艦艇自体は存在するが、明らかに艤装や各種武装が本来の軽空母のインディペンデンスと違う。我が鎮守府のキーロフは三連装砲を搭載していないし、あきづきは超十センチ連装砲を搭載せずに単装砲しか載せていない。
バージニアに関しては戦艦から潜水艦へと変貌を遂げてしまっている。
2つ、搭載している武装の性能が桁違いに高い。
魚雷は敵艦を追尾するし、ミサイルは水平線の彼方から敵艦を仕留める性能を持っている。戦闘機は機銃ではなく空対空ミサイルを主兵装にしているし、速度はマッハの数字をたたき出している。
3つ、そもそも搭載されている各種兵装の採用年代が大戦終結よりも遥かに後である事。
ミサイルは言わずもがな、戦闘機にレーダー、対空砲に至るまでありとあらゆる兵装の採用年が艦娘の出現時期と食い違っている。45年前後の艦娘しか発見されていない中、80年代後半の兵装を搭載した艦娘が現れているのは異常という他ない。
以上の3つから得られた知識を元に仮説を立ててみた。
1つ、うちの艦娘は一般的な艦娘とは出自からして違う。
2つ、出自というか性能が桁違いに高い。
3つ、そもそも戦後の艦娘である。
「…これ、バレたらどうなるんだ??」
大分記憶から消えていたが、一応は現代の軍艦の知識も最低限は学んだことがある。
精密なミサイルに神の盾とうたわれるイージスシステム、中小国の軍事力に匹敵する空母打撃群などは、知識としてはたしかに存在していた。
しかし…。
「─全部過去の話なんだよな」
全ては深海棲艦の出現により変わってしまった事だ。
イージスシステムでは迫り来る無数の深海棲艦艦載機の群れを仕留めきれず、ミサイル迎撃は想定よりも小さい目標に無力であり、空母打撃群は水面を高速で移動する深海棲艦の水雷戦隊に引き裂かれた。
高性能なレーダーも下手すれば波よりも低い背丈の深海棲艦を補足する事は困難であり、仮に補足できたとて相当接近されているか、戦艦級や空母級を含む大戦力であり、もはや意味をなしていなかった。
確して、現代の高性能な艦艇は想定される深海棲艦との戦闘に適応できず戦場からは淘汰された。
少なくとも、現在それらの艦船を使用しているのは沿岸警備を主体とする一部の部隊や、艦娘をまとまった数用意できない一部の国のみである。
「でも、そんな艦艇も艦娘になって深海棲艦と同じ土俵に立てば話は別だ」
高性能なレーダーは深海棲艦に対応可能になり、ミサイルはより小型の目標にも命中可能に、速度は深海棲艦を優越し、ステルス性は際限なく高い。
文字通り”時代が違う”という他ない。
巨大な艦砲?──いりません、対艦ミサイルで事足ります。
分厚い装甲?──いりません、攻撃の届かない場所から攻撃します。
高い機動力?──いりません、接敵前に敵を殲滅すればいい。
既存の対深海棲艦用の戦術を根底から覆す、戦場そのものを別物に変える力である。
深海棲艦に奪われた海域を奪還し、シーレーンを狙う敵を被害を出すことなく駆逐できる、人類の反撃ののろしを上げられる唯一無二の力。
問題は、その力を持っているのが…
最前線に左遷された俺だと言うことだ。
「──何故だろう、すごく嫌な予感がする」
つまり?深海棲艦を一方的に駆逐できる戦力を我が鎮守府は抱えている。
言い換えるなら、現有の各国の艦娘達を袖の下にできうる、力を上層部にとって都合の悪い人間である俺が保有していると…。
「もしかして俺、やっちゃったか?」
下手せずとも、この呼び出しって俺を抹殺するための罠だよな?
そんな事ないと思いたいけど…いや、希望的観測で物事を測るから、この事態を今まで把握できてなかったんだ、冷静になろう。
まず、俺は左遷されて最前線のショートランド泊地に来た、つまり上層部視点では、上を敵視してるような人間に見えていると…まぁ、まだワンアウトだいくらでも取り返しは着く。
次に左遷理由は艦娘を建造出来なかったため、これも誤解を解ければ問題ないな、なぜそれより遥かに高性能な現代艦の艦娘を建造できるのかといった問題に目を瞑れば…ツーアウト。
最後に俺は相当、性格が破綻しているクズだと思われてるってことだ…あれ?積んでね?
建造ができない=素質なしか性格が悪い
素質は問題なかったから性格が終わっている事になってる、その上で最前線に左遷されて上層部を恨んでいてもおかしくないと…スリーアウト、消されてもおかしくない経歴すぎる。
「ブルーリッジ、直ちに提督室に来るように」
緊急連絡用の無線でブルーリッジを呼び出した俺は足早に自室を後にし、提督室に向かった。
「──対策を考えよう」
少なくとも、問答無用で鎮守府を爆撃でもされない限りは大丈夫なはずだ…俺はそう自分に言い聞かせた。
ようやく、提督が自分の艦娘が現代艦ということを理解しましたね…なんか別の問題が生まれてる気がしますが…気のせいですね!