転生メジロと新人沖野Tによる楽しいトレセン協奏曲☆(なお第3者視点) 作:はめるん用
メジロルイヴュールは転生者、それもチート能力の持ち主である。
全知全能には程遠いが、少なくともレースで勝つだけならば小学生の時点でギリ世界最強である。脚の長さが充分に育ったいまならば余裕の世界最強ウマ娘だろう。
だが悲しいかな、中身がヒト族の男であるが故にルイヴュールは致命的な弱点を抱えていた。生身で自動車並みの速度で走ることへの恐怖心をどうしても克服できずにいるのだ。
ほかのウマ娘にとっては当たり前の光景でも、ルイヴュールにとっては常に「これコケたら死ぬなぁ……」という感覚が付きまとう。走ることそのものは嫌いではないが、勝負となるとチート能力により恐怖心を封じ込めなければハルウララにすら完敗するだろう。
さて。つい先日の出会いから仮契約とはいえ沖野と担当契約して二人三脚で選抜レースに挑むことになったワケだが、全ての事情は話せなくともスピードにビビってしまう悪癖については話さなければなるまい。
「……ってコトでな。衝撃の瞬間とかテレビでやってんの見ると、どうにもイヤな未来が見えるワケだ。まったく、想像力が豊かなのも考えものだな」
「まさかお前さんにそんな弱点があったとはな。それで模擬レースで圧勝してるんだから大したもんだが」
事故や怪我が原因で走れなくなるウマ娘のことは沖野も知っている。そうしたメンタルケアもトレーナーが学ぶべき知識としてしっかりと叩き込まれているが、まさかあれだけ唯我独尊風味の態度を続けているルイヴュールがそれに近い現象で悩んでいたとは思わなかったらしい。
沖野個人としては好ましいとは思えた。メジロのウマ娘として恐怖に立ち向かいながら走っていると考えれば立派なものである。その実態が賞金目的なのは名族の令嬢にしては俗物的だなとは思うが、それもまた愛嬌だと好意的に受け止めている。というか、あまりにも崇高な志を抱くウマ娘はさすがに新人には荷が勝ちすぎているので遠慮したい。
しかしトレーナーとしては走りに恐怖を感じるという状態は決して軽視できない真面目な問題である。経験によるトラウマの類いでないだけマシではあるが、精神を鍛えるのは身体を鍛えるよりも何倍も時間が必要だし難易度もまるで違うからだ。
「ルイ、お前さん模擬レースで『逃げ』と『追い込み』ばっかりやってたのは……もしかして、ほかのウマ娘との接触を警戒してたのか?」
「ほぅ、白状するよりも先に気が付いたか。オマエも知ってのとおり、オレの走り方は乱暴そのものだからな。バランスを崩さない自信はあるが、どんな外的要因で事故が起きるとも限らん。自爆でオレが怪我をするのには耐えられるが、ほかのウマ娘たちに怪我をさせてしまうのだけは絶対に許容できん」
これはルイヴュールの紛れもない本音である。事故を起こしたことなど1度も無いが、これからもそうだとは限らない。草レースと公式レースではウマ娘たちの想いは全くの別物だと想定するべきだ。
それに多少のラフプレーも醍醐味であった野良試合と違い、トゥインクル・シリーズを走るウマ娘たちが突発的なトラブルに臨機応変に対応できるとは思えない。厳格なルールに
「感情を完璧に抑え込めばどうということはないが……それはオマエが望む走りではあるまい? まだ仮契約とはいえ担当トレーナーの意向を無視するのはルールで禁止だろう」
「そう言われちまうと仮契約とはいえ担当ウマ娘のためにも知恵を限界まで振り絞りたくなるところだが……。いや、ルイ。案外なんとかなるんじゃないか?」
「ずいぶん簡単に言ってくれるな」
「そりゃ思い付いた方法が簡単だからな」
○□○ー
困難に立ち向かうとき、最後まで頼りになるのはそれまで積み上げた基礎である。
「……、……ッ!」
(バランス感覚、そしてスタミナは正真正銘の化物レベルだな。そして命令は忠実に遂行する、ってのは伊達じゃなかった。教えた走りを完璧にモノにしている。──まぁ、見掛け倒しでもあるんだが……)
沖野が思い付いた指導は実にシンプルな方法である。走り方を整えるための反復練習のついでに練習場のコースの外ラチ近くをひたすら周回して、障害物が側にあるというシチュエーションに気合いで慣れるというものだ。
少なくとも見た目だけならば完璧に近いと言っていい。規格外のスタミナで一定のペースとフォームで延々と周回を重ねており、気紛れに計測してみたタイムは誤差が殆どない。
が、表情を見れば内心が穏やかでないのは沖野にはお見通しである。まるで氷かガラスの彫刻のように、一切の感情が失われていた。耳が絞られていないのは流石はメジロの令嬢なのかもしれないが。
「お疲れさん。走りは悪くなかったぞ。走りは」
「……糖分が足りん」
ルームとは比べ物にならない声色から、外ラチの側を走るだけでも相当なストレスになったことがわかってしまった沖野は苦笑いでルイヴュールを労った。
ルイヴュール本人もまさかここまで消耗するとは思っていなかったのか、入学前の草レースや昨日までの模擬レースは相当適当に走っていたのだと反省しているらしい。
「ハハ……。ルームの冷蔵庫にココア冷やしてあるから。ジョッキに注いで好きなだけ飲んでいいぞ」
「オレ、このトレーニングを極める頃には糖分の取りすぎで肥えるかもしれん」
「お前さんの場合、消費してるカロリーもほかのウマ娘とは比べ物にならんから大丈夫だろ。──うん?」
「どうした沖野、急にふしぎなおどりを踊り始めて。いまのオレなら確実にMPはゼロだぞ」
「いや、
「……仕方ないヤツだな。先にそっちを回収に戻るか」
自分、そろそろ第3者視点いいッスかね?