転生メジロと新人沖野Tによる楽しいトレセン協奏曲☆(なお第3者視点)   作:はめるん用

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下ネタは自重することにしました。

ちなみに試作の書き出しは「オレの股間の昇り竜が隠れ蓑してしまった」でした。


にわめ。

「俺がお前さんにできることはそれほど多くないと言ったな。スマン、ありゃウソだ。ハッキリ言ってお前の走りには問題しかない。……いや、だってまさかメジロのウマ娘が高い身体能力にモノを言わせた力任せの走りしかできないなんて思わないだろ!?」

 

 でもオレの走りは速かっただろう? 貴方がそう反論すると沖野トレーナーは「それはそうだけど、そういう問題じゃないんだって……」と肩を落としてしまいました。

 

 特殊な事情がミルフィーユのようにたっぷりと重なっている貴方はウマ娘として正しい走り方というものをあまり理解していません。レースの映像などを参考に見よう見まねで“それっぽく”走っているだけなのです。

 正しい知識を身に付けているトレーナーがじっくりと観察すれば、それが問題のある走り方であるとすぐに気が付くだろうという予想は貴方もしていました。だからこそ、こうして先手を取って指導を受けられる環境は渡りに船というワケだったのです。

 

「いや、ここは前向きに考えよう。本人に問題があると自覚があって、それを矯正するためにトレーナーの……俺の手助けが必要だと理解してるんだし。とりあえずしばらくコースは使わずに、ランニングマシンで走り方を覚えるところからだな」

 

 

 社会人経験者である貴方は“人に物を教える大変さ”というものを知っています。故に、チート能力があるからと自惚れることなく沖野トレーナーの指導には全力で従い努力するべきであると考えています。

 そこに前世から引き継いでいる貴方自身の性格と、そこにチート能力による補助が加わることにより、機械のプログラムの如く正確で精密な動きを繰り返すことでフォームの改善はスムーズに行われました。

 

 これにはさすがの沖野トレーナーも驚きを隠せない様子。貴方の走り方がどんどん改善していく姿を見て、途中からはすっかり言葉を失ってしまいました。

 とりあえず文句を言われない程度には成長できたな、ヨシ! と、貴方も大満足です。もちろん母親が望んでいるメジロのウマ娘としてのイメージを壊すワケにはいきませんので、貴方はしっかりと『おすまし顔』をキープしています。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 沖野トレーナーの指導によりウマ娘らしい走り方を身に付けることに成功し、模擬レース、選抜レース、そしてメイクデビューと貴方は問題なく勝ち抜くことができました。しかし、勝利という結果を手に入れたからといって課題が無いワケではありません。

 

 たとえば、本来であれば少しでも余分な距離を走らなくて済むようになるべく内ラチにそって走るべきなのですが、貴方にはそれができません。あくまで肉体がウマ娘というだけで中身はごく平凡な一般転生男性ですから、顔の横を自動車と同じ速度で物体がすれ違うのはとてつもない恐怖です。

 同じ理由でほかのウマ娘たちの側を走るのも貴方としては全力で拒否したい案件です。チート転生者である貴方がレース中に転倒する確率はゼロですが、ほかのウマ娘たちのほうから倒れ込んでくる可能性があるだけで血の気が引くような事故を想像するには充分です。

 

 さて、こうした悩みを自力で解決しようとするウマ娘はアプリでも何名かいましたが、もちろん貴方はそのような回りくどい真似は選びません。

 何故なら沖野トレーナーは共にトゥインクル・シリーズを駆け抜ける大事な相棒であり、レースに関係することはしっかりと相談することこそが信頼の証であると考えているからです。むしろ、トレーニングや出走の計画を管理してくれている相手にこうした情報を出し渋る理由が理解できないぐらいでしょう。

 

 

 貴方はできるだけ簡潔に沖野トレーナーに自分の考えを伝えることにしました。走っている最中に邪魔な物体が周囲にあると鬱陶しいので、逃げか追い込みで走れるようにしてほしいと頼みました。

 

 

 さすがにワガママな要求だったのか、沖野トレーナーの表情はお世辞にも明るいものとは言えません。ただ、それでも貴方の希望にそったトレーニングプランを提供してくれたのですから感謝しかありません。

 もちろんその気持ちはしっかり相手に伝えなければ意味がありません。貴方はちゃんと沖野トレーナーに対し、与えられた計画は完璧に遂行してみせるから安心して欲しいとお礼を述べました。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 走り方を改善しながら順調に勝利を重ねた貴方は、ついにジュニア王者を決める年末のGⅠレース『ホープフルステークス』に出走することになりました。

 普段のレースは実験的な意味合いもあり加減しながら走っていましたが、今回ばかりは貴方は本気で勝ちを狙いにいくつもりです。何故なら、貴方の母親がトロフィーを飾るための棚を自作してしまっているからです。

 

 基本的に貴方は賞金のほぼ全額を母親へ仕送りとしています。復讐心に取り憑かれていてもストレスの発散は必要だろうと考え、ならば散財することで多少の気晴らしになれば良いとの気遣いでした。

 そうしてしばらくしたころ、貴方に写真が添付されたメールが届きます。そこにはホームセンターで購入したであろう資材を背景に、つなぎ姿の母親がサムズアップしている姿が写っていました。

 

 

『アンタが勝ち取ったトロフィーを飾る場所は任せろd(`・∀・)b』

 

 

 貴方はかつて、母親はメジロ家とレースさえ関わらなければ比較的まともであると評価しましたがそれは間違いだったかもしれません。メジロ家さえ関わらなければわりと親バカなのではないかと考えを改める必要がありそうです。

 期待されているならそれ相応の態度を見せておくのも親孝行というもの。貴方は「年末の休みにはホープフルステークスのトロフィーを持って帰る」と返信しましたので、このレースは絶対に負けるワケにはいかないのです。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「あー、ルイ。その、なんだ。──ジュニア王者おめでとう! 見事な走りだったぞ! 追い込みウマ娘たちの手本にしてもいいぐらいの末脚だったな! ウイニングライブも盛り上がってたし、お前さんのファンも大喜びで……だから……」

 

 お祝いの言葉にしては歯切れがよろしくありません。これはなにか言いたいことがあるのに遠慮しているのだなと察した貴方は、沖野トレーナーに言いたいことはハッキリ言ってくれたほうがいいと催促しました。

 

 心底気まずそうに語り始めた内容は、どうやらウイニングライブで貴方が『作り笑い』をしていることを彼は見事に見抜いていたようです。アニメではライブ関係のアレコレをトウカイテイオーに頼っていた印象がありましたが、やはり優秀なトレーナーということなのでしょう。

 貴方にしてみれば外見こそ美人の部類でも中身は中年男性なものですから、大衆に向けて笑顔を振り撒くという行為には頭痛がするほど抵抗感があります。なんなら頭の中ではオジサンが勝負服を着てステージの上で美少女ボイスで歌っている光景が浮かんで胃袋がポロロッカするんじゃないかと思うぐらいです。

 

 さすがに転生者であることを打ち明けるワケにはいきませんが、話せる部分だけでもしっかり相談しよう。そう考えた貴方はなるべく言葉を選びつつ、高貴なイメージを崩さないよう毅然とした態度で沖野トレーナーへ伝えました。

 

 

「ウイニングライブで笑う自分を想像するだけで吐き気がする。そもそもオレはああいう笑い方を必要としていないし求めていないから、笑顔で人前に立つ方法を知らない。だが安心してほしい、役目は問題なく果たして見せる」


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