転生メジロと新人沖野Tによる楽しいトレセン協奏曲☆(なお第3者視点)   作:はめるん用

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さんわめ。

 年が明けてすぐ。中央トレセン学園に戻ってきた貴方は早朝からひとり黙々とダートコースを周回しています。

 

 鬼気迫る勢いで、まるで最終直線のラストスパートのような速度で貴方が走り続ける理由はただひとつ。年末からお正月にかけての食べ過ぎによって育まれた贅沢なお肉たちを残らず処すためです。

 

 我が子が無敗のジュニア王者になったことを喜んだ母親が気合いをいれて大量に作った料理を前に、貴方は自ら後退のネジを破壊して本能のままに挑みました。

 特別なごちそうではなく、トレセン学園に来る前は日常的に食べていた品々ですが、それでも込められた想いはまさに世界最強の調味料でしょう。結果、貴方の体重は無事スペシャルな数値へと到達することになりました。

 

 

 ちょっとくらい大丈夫、などと甘えた考えのままだらしない身体をファンに見せるなど言語道断。エンターテイメントは観客の皆様の支えがあって成立する商売である以上、常にベストコンディションかつパーフェクトボディの自分で舞台に立たねばなりません。

 

 

 余剰に蓄えられたカロリーどもを悉く殲滅すべし。慈悲は無い。とにかく水分だけはタップリと補給しつつ、休息も食事も一切拒絶の心構えで貴方は走り続けました。

 なにやらコースの外からウマ娘たちの視線を感じますが、いまの貴方にはそのような些事に構っている余裕などありません。明日から始まる沖野トレーナーのトレーニングメニューに万全の状態で取り組むためにも、今日中にベストな体重まで絞らなければならないからです。

 

 本気の仕事には本気で応えるのがプロフェッショナルとしての義務。それは誇りでも名誉でもなく最低限のスタートライン。瞳に蒼い炎を幻視するほどの覚悟で貴方は砂塵の中を駆け抜けました。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「さて、いよいよクラシック級が始まるワケだが……ルイ、三冠路線とティアラ路線、どっちを走りたい? 春の天皇賞を目標にするなら菊花賞は経験しておきたいところだが、お前さんの場合はまだまだ走り方に改善の余地があるからな。恐ろしいことに。中距離でじっくり慣らしてから、ってのもアリっちゃアリだ。ま、ようはお前の好みで選んで問題ないってことだ」

 

 好みで選んでかまわない。レースの予定は沖野トレーナーに丸投げするつもりであった貴方は微妙に困ってしまいました。

 何故なら三冠ウマ娘を達成したときに得られる報酬も魅力的ですが、ウマ娘的にはトリプルティアラという響きもなんとなく高貴な感じがして“メジロっぽい”からです。

 

 脚質的にはどちらも問題ありません。短距離とマイルは勢い任せに逃げ切るスタイルで、中距離と長距離は追い込みで最後にまとめてブチ抜くと戦術は決めてあるのでトレーニングの方針で迷うことはないでしょう。

 

 

「あー、これはトレーナーとしてというより、俺の個人的な考えなんだが……なんというか、作戦とか、適性とかはもちろん大事だけど、どうせならお前が()()()()()と思えるほうを選んで欲しいってのが本音だ」

 

 面白そうだと思える選択を。その提案を聞いた貴方は驚きとも感動とも似ているモノを感じてついつい黙ってしまいました。どうやらこの世界でもチームスピカの土台はちゃんと存在するのだな……と、ウマ娘ファンとして感慨深いものがあるのでしょう。

 いずれ現れるであろうクセが強くとも魅力的なスターウマ娘たちが自分の後輩になるかもしれないのだと不思議な感覚にソワソワしつつ、クラシック路線とティアラ路線のどちらを選ぶのかという問い掛けにどんな答えを出すべきか貴方は考えました。

 

 直感で、貴方が面白そうだと思ったのは──。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「メジロの栄光再び、無敗のジュニア王者が狙うは“無敗の三冠ウマ娘”に決定! 雑誌もテレビもお前さんの話題で持ちきりだな。しかしまぁ、世間が賑わいそうだからって理由でクラシック路線を選ぶとは。ルイ、お前けっこう愉快な性格してたんだな。──あぁ、いや。別にダメだって言いたいんじゃない。むしろ安心したぐらいだ」

 

 最近なにか悩み事でもあったのか、どうも元気が不足していた沖野トレーナーが楽しそうに笑っている姿を見て、貴方は自分の選択は正解だったなと自画自賛しています。

 ちなみに貴方の母親も雑誌を大量購入してアパートの住民の皆さんや大家さんにまで配ったらしく、タブレット端末には沢山の応援メッセージが届きました。メジロ家を追放されたのは単純に気質が合わなかっただけで本人の性格は実は問題ないのではないかと貴方は疑い始めているようです。楽しそうなのでヨシ! 

 

 

 口もと寂しい沖野トレーナーに代わり蹄鉄を型どった棒つきキャンディーをカラカラと転がしながら、貴方は皐月賞の攻略について作戦会議を始めようと持ちかけました。

 真剣勝負に貴賤無し、道穢れなく夢険し。どのようなレースであろうとも油断など許されませんが、クラシック級独特の熱狂ぶりはやはり特別なものです。もしかしたら熱血硬派な運動会のように、レースの途中で旋風脚や奥義ウマ娘の術などで妨害される可能性も考慮しなければなりません。

 

「いやお前、メジロの令嬢がなんであのシリーズなんか知って……いや、そういえばお前は──あぁ~ッ! うん、なんでもない! ただの独り言だ、気にしないでくれ。ま、さすがにそんな極端なことは起きないだろうが、垂れウマ娘には警戒してて損はない」

 

 表面上は冷静でも事故にビビりまくりでバ群に近付きたくない貴方は、最終コーナー手前で加速を始めて大外から差しきる走り方を好んでいます。と、いうよりも中距離から先はそれしか基本的にできません。

 なのでいままでは垂れウマ回避はほとんど考えたことはありませんが、沖野トレーナーが言うには加速のタイミングが知られている以上、そこに合わせて誘導してくる技巧派な走りをしてくるウマ娘が出てこないとも限らないとのこと。

 

 それならそれで結構なことだと貴方は余裕の態度を崩しません。正道だろうと王道だろうと邪道だろうとも全て正面から受けて立つ。売られた喧嘩は高値で買い、そして勝つ。

 それが強者としての義務であり、メジロの名を持つ己にとってのノブレス・オブリージュであると笑って見せました。これが貴方なりに考えたメジロっぽさを全面に押し出したウマ娘の姿のようです。

 

 

「義務、義務か。なぁルイ、お前が母親の期待に……天皇賞を連覇しようって頑張ってるのは知ってるが、そこにお前自身の気持ちはちゃんと入ってるのか? もちろん期待に応えたいって気持ちを否定するつもりはない。俺だって同じだからな。だが──いや、だからこそ。トレーナーとして、担当するウマ娘の夢を叶えてやりたいんだ。なぁ、ルイ。お前自身の夢は……どこにある?」

 

 

 レースを片っ端から無礼して賞金ガッポガッポでさっさと引退して悠々自適に暮らすこと。この場面で正直にそんな夢を語るには、いまの貴方には勇気が足りていないようです。

 

 もしも貴方が守銭奴などのお金に意地汚いキャラクターとしてトレセン学園で生活してやろうなどと考えていたのであれば別ですが、いまの貴方はおちぶれようともメジロのウマ娘。復讐はそれとして、メジロ家の名誉を傷付けるような言動をするワケにはいきません。

 だからと言って心にもないウソを並べるのも沖野トレーナーの信頼を裏切る行為。どうしたものかと悩む貴方でしたが、そこは流石のチート転生者。とてもグッディストなアイディアが天から降り注いできたのです。

 

 貴方は沖野トレーナーに向き直り言いました。皐月賞の勝利は社会的にも名誉なことなのだから、自分が勝つことができたらご褒美のひとつくらい担当トレーナーからあってもいいだろう、と。

 

 まぁ、それぐらいは……と貴方の意図が読めず困惑した様子の沖野トレーナーですが、どんな状態だろうと言質を手に入れたことには変わりません。

 相手が正気を取り戻す前に畳み掛けるべし。貴方は沖野トレーナーに対し、もしも皐月賞を勝つことができたら、メジロルイヴュールというウマ娘の夢を探すのを手伝ってもらうと要求しました。

 

「────ッ!? は、はは……ッ! よしッ!! いいぞ、その賭けのったッ! お前の走りにオールインしてやるッ! だがなルイ、一方的な賭けってのは普通に考えたら成立しないよな? だから俺からもお前にひとつ、要求させてもらう。……ルイ。次の皐月賞、余計なことは考えないで心のままに走ってこい。それでもお前なら必ず勝てる。前評判なんか気にしないでとことん大舞台を楽しんでこいッ!!」

 

 なにやら不思議な賭けの形が成立したような気がしますが、とにかく誤魔化すことには成功しました。残る課題は皐月賞という舞台を如何にして楽しむかということだけですが……あえてチートのアシスト無し、自分の真の実力がどの程度のモノなのか試してみようかと貴方は考えているようです。




トレセン学園の関係者だけを曇らせてもいいし、母親も曇らせてもいい。

あるいは、メジロ本家やネームドウマ娘たちを曇らせてもいい。

自由とは、そういうものだ。
(書くとは言ってない)
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