転生メジロと新人沖野Tによる楽しいトレセン協奏曲☆(なお第3者視点) 作:はめるん用
いち。
「うーん、まさか我が娘にこんな才能が隠れていたとはねぇ。案外、バアさんの主張は妄想じゃなくてマジだったのか? ……さすがにそれはないか」
「有名人と名前が同じ、なんて話はヒトもウマもいくらでも聞く話だからね。僕としては、こんなことになるならサークルでもスクールでも通わせてあげればよかったなって少し後悔してるけど」
中央トレセン学園に合格した愛娘のために各種手続きを処理しながら、とある一組の夫婦がそれぞれの想いを語り合っていた。
母親はとある名門ウマ娘と同じ名前、というか冠を持つウマ娘として産まれてきた。正直本人にしてみれば「だからなに?」という程度の認識なのだが、祖母が「その家は、当主の座は本当なら自分のモノになるはずだったのだ」という主張を繰り返すモノだからそれはもうウンザリとしていた。
どうにも自分が産まれる前からそういう拗らせ方をしていたらしく、近所の方々が白い目ではなくなにやら温かい目で見守ってくれていたぐらいだ。幸いにして祖父のほうは至ってまともで苦笑いをしつつも常に祖母に寄り添っていたので大きな事故や事件は起きていない。
ついでに言うなら、その名門ウマ娘の名前に狂気的な妄執を抱いている以外はそこまで酷い親ではなかった。無理やりレース系イベントに参加させられたことは数えきれないほどあるが、結果が奮わなくても出てくる言葉はいつでも前向きな物ばかりであったからだ。
入着を逃したときでさえ褒め言葉が出てくるし、対戦相手にも「私の娘に先着するとは、あの娘の将来はダービーかオークスの勝利ウマ娘に間違いないわね……ッ!」と大絶賛である。おかげで周囲からは変わり者だけどいいお母さんとして認識されており友人たちとの関係が悪化するようなことはなかったが、思春期で多感な時期の女の子にとっては普通に恥ずかしいのである。
さて、こうしてイマイチ走りの才能に乏しい娘にでさえこれだけ大袈裟に喜ぶ祖母である。孫娘が中央トレセン学園に合格したという報せにはそれはもう狂喜乱舞の大騒ぎであった。
草レースで小遣い稼ぎをしていたのは知っているし、走ることそのものを嫌っているワケでもない。なら試すだけならまぁいいかと軽い気持ちで受験を許したが、まさか本当に合格するとは思っていなかった。
なにせ中央トレセン学園である。我流の走り方でアマチュア相手に勝負するのとは違う、ライバルは全員学生でもプロフェッショナルなのだ。当然受験する側も粒揃いとなるはずで専門家の指導など一度も受けたことのない我が子の走りが認められるなどとは想像すらしていなかったのだ。
「お義母さんだけはあの子が合格すると本気で信じていたみたいだけど、まさか本当に合格してしまうとは思わなかったね。ただ……」
「本人の意識がなぁ。アイツ、レースのことを収入源ぐらいにしか考えてないみたいなのがちょっとなぁ。まぁ、オープンクラスをぼちぼち勝てればそれだけでもまとまった稼ぎにはなるからいいとして、万が一よ? それこそなにかの間違いでG1レースになんか出走するようなことになったりしたら……大丈夫かねぇ」
夫婦が懸念しているのはレースの勝ち負けなどではない。価値観の違いによる周囲との衝突を心配しているのだ。
ダービーという世界規模で通用する名誉あるレースですらそれほど興味を示さず、年末に家族で有マ記念でも見に行こうかと誘ってもコタツでゴロゴロしながらテレビで見れば充分だと返されてしまった。
ウマ娘だからといってレースに強い憧憬を抱かねばならないなどという決まりはないが、それにしても娘の反応はなんというか……冷めているというか、枯れているというか、とにかく熱量が感じられない。
「確かに心配だけれど、せっかく合格したんだし前向きに考えようよ。ほかの学生さんたちには申し訳ない言い方になるけれど、僕たちの娘は気軽にレースを楽しめる心の余裕があるんだって」
「そうかな……そうかも……? うん、まぁ、気負い過ぎてメンタルがブッ壊れるよりは全然マシかぁ。よし、そうと決まればチャチャッと書類を仕上げてやるとしますか!」
我が子は無事デビューできるだろうか、もしも重賞レースを走ることになったらご近所さんも誘ってレース場まで応援しに行こうか。
そんな他愛もない話題で盛り上がる夫婦であったが──彼らは知らない。祖母の言葉には真実が含まれており、事実としてとある名門ウマ娘の血が愛娘に受け継がれていることを。愛娘には唯一無二の特殊な力が宿っており、重賞どころか全ての距離でG1レースを勝利など息をするように容易いことを。
そして、母から受け継いだ冠と祖母から与えられた名前『メジロヴェンデッタ』が原因で多方面に無意味な勘違いをばらまくことになり、それに巻き込まれた担当トレーナーまでもが周囲から誤解されてしまうことを。
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