転生メジロと新人沖野Tによる楽しいトレセン協奏曲☆(なお第3者視点) 作:はめるん用
「……やべぇ。想像より何倍もハードだぞコレは。将来のためにもカネ稼がんと思ってトレセン来たけど、フツーにしんどいな……イロイロと……」
見た目は美少女、中身は男。そんな複雑で面倒な事情を抱えたチート転生ウマ娘・メジロヴェンデッタは人通りの少ないベンチで棒付きの蹄鉄キャンディーを咥えてグッタリとしていた。
理由は単純明快、周囲が女性だらけの環境というものが思っていたよりずっとストレスとなっているからだ。男女共学の中学校生活ではそこまで深刻ではなかった価値観の違いが、ウマ娘だけが机を並べるトレセン学園に通うようになって浮き彫りになったのである。
せめてもの救いは名前が『メジロ』であるため周囲がそこまでグイグイとコミュニケーションを踏み込んでこないことだろう。ヴェンデッタ自身は祖母が本当にメジロ家出身のウマ娘であり、身内贔屓と自尊心が強すぎたという理由で追放されていることは祖父から聞かされているのでその勘違いを利用することに抵抗は無い。
ただ、勘違いされているが故に下手に無様な姿を見せてしまうと『これから入学してくるであろう本物のメジロのウマ娘たちまで軽く見られてしまうのでは?』と気付いてしまったものだから余計な気苦労が増えているのだ。
(メイクデビューも問題だな。トレーナーとの担当契約が必要なのは仕方ないとしても、考え方が合わない相手と組んでも互いのためにならん。せめてオレが賞金目的だってことを肯定してくれるヤツを見付けないことには、なぁ)
チート能力を持つヴェンデッタにとって担当トレーナーなどレースに参加するためのライセンスとして機能すれば充分なのだが、彼ら彼女らも必死に努力をして中央トレセン学園のトレーナーとなったと思うと道具扱いするのも気が引けてしまう。
だが基本的にウマ娘にとってもトレーナーにとってもレースの勝利とは名誉なことであり、お金が欲しいだの有名になりたいだの俗物的なことを公言するモノはひとりとして存在しない。なので目的となるトレーナーを獲得するためには腹の探り合いも必要になるのだが、チート能力があろうとも本人は至って凡人である。そんな腹芸を転生したからといっていきなり使えるようになるワケがない。
コチラの意見を押し通そうとするなら、狙い目があるとすれば新人トレーナー辺りか。しかしそうなるとメジロの名が枷となる。
さて、ルーキーでありながら名門の肩書きに臆しないだけの胆力を持つトレーナーなどという都合の良い存在が果たして見付かるものか。
最悪の場合、意志力の低いトレーナーを逆スカウトで利用することも選択肢に含める必要があるかもしれない。そんなことを考えながらキャンディーをガリッと噛み砕いたヴェンデッタの前に、いつの間にやらひとりの男性が立っていた──と認識すると同時に男は跪いて、なんとヴェンデッタの脚を断りもなくペタペタと触り始めたではないか。
普通のウマ娘であれば、いやウマ娘でなくとも見ず知らずの男にいきなりセクハラされたのなら顔面に蹴りのひとつでも叩き込む場面だろうがヴェンデッタの中身は転生者でありオッサンである。驚きはしたものの疲れていることもあり不審者の行動を止めることなく好きにさせていた。しかし。
「……コイツは驚いたな。初めて見るタイプの脚質だ。ターフもダートも選ばない、その気になればスプリンターにもステイヤーにもなれる──いや、どちらかを選ぶ必要すらないかもしれんぞ、これは……ッ! だいぶ、いや、かなり荒削りな印象だが、いまからでも基礎をしっかり身に付ければ三冠路線でもティアラ路線でも充分狙える脚だ……ッ!」
スラスラと流れるように出てくる分析を聞いて、それまで半分ほど寝惚けていたヴェンデッタの頭は完全に覚醒してしまった。
髪型も普通で服装も大多数のトレーナーと同じようなスーツ姿、なによりもトレードマークである咥えたキャンディーが無いことで気付くのが遅れたのだろう。だがデリカシーが欠如した無遠慮な脚タッチでウマ娘の脚質を見抜くことができるトレーナーなど、ヴェンデッタにはひとりだけしか心当たりが存在しない。
雰囲気からして新人トレーナーではある。
コチラの意見を聞いてくれることにも期待できる。
メジロの名前に怯まない可能性もあり得る。
だが、今後のことを考えると──ヴェンデッタが黙っているのをいいことに目の前でセクハラを続行している男性トレーナーが結成するであろう、中央トレセン学園の強豪チーム『スピカ』に自分のせいで変な風評被害が纏わり付くようなことになれば目も当てられない。
ここは思い切って顔面に蹄跡を付けて立ち去るのが正解だろうか……などとヴェンデッタが悩んでいるうちに満足したのか、若い男性トレーナーは視線を合わせて楽しそうに微笑んでみせた。
メジロヴェンデッタ、まさかのSSR級トレーナー『沖野』と無事邂逅である。
オマケと本編の違いに戸惑っている方もいるようですが、オマケと本編の内容は似て非なるものです。何故ならオマケとは本編ではないからです。
ちゃんとした本編の続きを書いてみたいという方は恥ずかしがらずに名乗り出てください。心から歓迎いたします。