転生メジロと新人沖野Tによる楽しいトレセン協奏曲☆(なお第3者視点) 作:はめるん用
沖野は考えた。
メジロの名前を持ちながらメジロのウマ娘として甘えた生き方を望まないストイックさは好ましいが、レース業界に強い影響力を持つメジロの名を無視できるトレーナーなどそういるワケがない。
実際は甘えがどうだというレベルを遥かに超えた問題が上のほうで起こっているのだが、そんなことを新人トレーナーでしかない沖野が知っているハズもない。そもそもルイヴュール自身が、入学前の身辺調査でURAの偉い人たちが「やべぇよ……やべぇよ……」となっていたなどと夢にも思っていない。
ともかく。このままだとメジロルイヴュールというウマ娘がデビューするのは難儀である。それは実に勿体ない話だ。となれば──。
「なぁルイヴュール。もしよければ俺に少しだけチャンスをくれないか?」
「チャンスだと?」
「次の選抜レースまで俺がお前さんの走りを磨いてみせる。それでもし俺のやり方を気に入ったのなら、担当契約について考えてみてほしい」
「……正気か? オレはレースに青春とやらは求めていない。言ってしまえば収入を得るための仕事として走るつもりなんだぞ?」
否定はされないにしても、まさかスカウトされるとは思ってもいなかったルイヴュール。もしかして変な解釈をされているのではないかと確認の意味で金銭目的だということを強調して聞き返す。
「ま、ウマ娘同士が本気で勝負する姿に憧れてトレーナーになったっていうのは確かにある。だが生きるためには先立つモノが必要だってのも理解できるし、なにより──仕事だって楽しみながらのほうがいいだろう?」
「クク……ハハハハッ! オマエ、オレに
これにはルイヴュールも膝を叩いての大笑いである。なるほど、どうせ働くなら楽しいほうがいいに決まっている。
こういう切り口でスカウトしてきたトレーナーは当然ながら誰もおらず、実に沖野Tらしい考え方だろう。そりゃあ、これなら未来でゴールドシップに懐かれるのも納得するしかない。
(渡りに船とはこのことか? 沖野さんなら窮屈な思いを抱えて走らされる心配はないだろうし、いい加減我流の走り方を続けるのもみっともないと思ってたところだ。問題があるとすれば……マックイーンと出会うリスクが高まることか)
千載一遇の申し出ではあるが、転生者特有の前世知識が決断を迷わせる。未だルイヴュールが知るネームドウマ娘は中等部にすら在籍していないが、稼げるうちはガンガン稼ぎたいのでいずれは顔を合わせることになるかもしれない。
おそらくメジロ家は自分の存在を把握しているし、何かしら思うところがあるのは確実だ。そうでなければわざわざ名前を変えて登録するように、なんて面倒な手続きをさせられることもなかったとルイヴュールは睨んでいる。
となれば、果たしてマックイーンとの──いや、メジロのウマ娘たちとの出会いは吉と出るか凶と出るか。前世も今世も一般家庭育ちのルイヴュールでは名門が抱える諸事情など想像もつかない。
(まぁ、この世界でも沖野さんがネームドウマ娘と担当契約するとは限らないし……そもそもチーム・スピカを結成するかもわからないよな……。となると、余計な気遣いをするよりも素直にメイクデビューを助けてもらったほうがいいかな? 多少のトラブルならチート能力でいくらでもリカバリーは利くし)
「それで、どうだ。選抜レースまでの間、お前さんの脚を俺に預けてみる気はあるか?」
「いいだろう。オレもいつまでもだらしない走り方を続けるワケにいかないからな。だが、そうだな。トレーニングの指導について、先に注文したいことがある」
「無理難題は勘弁してくれよ、こちとらルーキーなんだから」
「簡単なことだ。
「それは……そうだが。しかしお前さんの言うことはわかるけど、もう少し言い方はなんとかならないか? 命令って表現は正直好きになれそうにない。トレーナーだからってウマ娘に偉そうにする、ってのは俺の趣味に合わないんでな」
「仕方ないだろう? オレたちはこれからお互いに信用できるかどうか確かめようって段階なんだから。いきなり和気藹々と、とはならんさ。メジロの名を持つウマ娘のオレがヘラヘラ笑いながらトレーニングするのも世間体がよろしくないんでね」
どちらの言葉もルイヴュールの本音である。アプリなら「そして数ヵ月後」というセリフを一回タップする間に絆も深まっているが、残念ながらこの世界では地道にコツコツと歩み寄る必要があるのだ。
「ま、あくまで外向けの配慮だよ。ストイックな姿を見せるのは。ルームの中でまでピリピリするつもりはないさ。コーヒーでも飲みながらのんびり打ち合わせしようぜ、そこは」
「うーん……いまさら怖じ気付くワケじゃないが、名門ってのはやっぱり大変なんだな。わかった、俺もお前さんに恥をかかせないようにしっかりとトレーニングのメニューを考えるようにしよう。ついでにコーヒーも美味いヤツを仕入れておく。好みはあるか?」
「砂糖は少な目、ミルクも控え目、驚きとワクワクはコップから溢れるほどタップリで頼む」
「──ハハッ! わかったわかった、任せておけ! 俺とお前さんで、レースを見た人たちがビックリするような走りを作り上げようッ!」
勝負の世界に『もしも』は禁句である。
だが、それでも。もしもこの光景を見ていた者がひとりでもいたのであれば──トレセンの、レースの、そしてメジロの関係者たちは心の安寧を乱されることはなかったのかもしれない。
前回の後書きは『やっぱり読んでて賢さの下がる作品は……最高やなッ!』という自画自賛です。なにやら勘違いをさせてしまったこと、深く御詫びいたします。
しかしこの、下手で伝わらなかったネタを不特定多数に向けて説明するという辱しめはコメディ系二次創作者としては興奮するシチュエーションですね。