後輩の元ギタリストのライブハウスの店長に拾われた話   作:星ノ瀬 竜牙

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星歌さんに先輩って慕われたかっただけです。

やっつけなので続かない。


拾われたって話

 俺は、ギタリストだった。自分で言うのもなんだが、俺は天才というやつだった。

 ギターとボーカル、俺はその二足の草鞋でとあるバンドで活動していたのだ。

 

 いわゆるギターボーカルというやつである。俺に憧れてギターの道に入ってくれた後輩とかもいるぐらいには、俺は天才だった。

 

 けど、俺は天狗になるようなバカではなかった。堅実に、少しずつ、友人たちと始めたバンドを育てていった。おかげでメジャーデビューまでした。CDだって出せた。

 まあ、俺はずっと仮面を被ってたけど。今のご時世容易に顔を見せたら誹謗中傷とか怖かったし。覆面バンド、というわけではないがギターボーカルの俺だけずっと顔出しNGでやっていた。

 

 そのせいかネットでは俺の正体を考察する記事とかあった。

「実は宇宙人説」とか出た時にはさすがに腹を抱えて笑ったもんだが。人間だよこっちは。純度100%の人間である。

 

 話を戻そう。俺はギタリストだった。そう、だった。

 つまり、今の俺は違うのだ。やめた、と言うべきだろう。……まあ、早い話方向性の相違だ。友人達、そしてマネージャーと俺では見ていた方向性が違ったのだ。そりゃプロになる以上売れることは大事だ。仕事も入ってくるわけだし。そこには俺も異論はなかった。だが、そのせいで俺は揉めたのだ、事務所と。

 

 ……俺は天才だった。天才だったから、友達(凡人)を理解できなかった。俺の名が売れるほど、あいつらは霞んでいく。……マネージャーや事務所が選んだのは俺を中心に売るという方向性だった。結果としては、友人達はおまけになった。俺はそれが許せなくて事務所と揉めて……止めた友人達にそれでいいのかと問いかけた。その答えは俺が望むものじゃなかった。

 

「────お前が俺たちに合わせる度に、足並みを揃えようとするたびに自分が惨めになったんだ」

 

 何を言っているのか理解できなかった。だって、俺はお前たちと作る音楽が好きだった。それが好きでこの世界を進もうと思ったのに。

 

「お前が憐れんでるわけじゃないのも分かってる、本気で俺たちと一緒にやりたいんだってことも知ってる。けど……ごめん、辛いんだ。お前と比較される度に、お前の音を聞くたびに惨めになる。お前の音を台無しにしているって」

 

 悲痛に歪んでいるその顔を見てようやく俺は理解した。

 いつかのあるレビューに載っていた俺たちの評価「一人だけ、次元が違いすぎる。それはいつか、彼らをバラバラにするには充分なもの」それが今だったのだと。

 

 つまるところ、(天才)という存在が……友人達を終わらせたようなものだと。

 

 俺はその言葉を聞いた時、理解した時、全てがどうでもよくなった。絶望したんだろう。

 ────俺が築きたかったのはこんなものじゃなかったのに。

 

 そのあとのことは覚えていない。

 

 

 そうして俺は事務所をやめた。

 

 謎多き覆面の天才ギターボーカルの早すぎる引退と失踪。ちょっとはニュースになったらしい。

 ただ、俺は俺としての痕跡はどこにも残さなかった。事務所にも脱退するときに全て消してもらうという契約で入っていたから……まあ、マスコミにも俺の所在は気付かれなかった。事務所も厄介ごとを抱え込むのは嫌だったらしい。

 

 そのあとの俺は荒れに荒れた……と言ってもいいだろう。

 稼いだ金を使いつぶすように酒に溺れて煙草を吸って……そしてパチや馬につぎ込んでいた。一般的な人が思い浮かべる最低のギタリストらしいあり方だろう。クスリをヤらなかっただけマシかもしれない。

 

 心配してくれる友人や知人はいた。ただそれでも俺のやさぐれ具合に見限るヤツの方が大半だった。まあこんなアル中ヤニカスになったヤツを見限らない方がおかしいというものだ。

 

 最後まで付き添ってくれようとする後輩(アル中バカ)も居たりはしたが。

 まあそんな日々が一年ほど過ぎた頃、貯めてた金も使い始めていたのだ。有り体に言えば、底が着きそうになっていたのである。

 

「……金どうしよ」

 

 そろそろ本当に働かないとやばい。金を借りるとかは面倒事避けたいからしたくないし……仕事……

 いや、パチンコでスってきた俺が悪いんだけど。

 

「……まあいいか」

 

 どうせ、この先くたばるだけなんだ。使い切って野垂れ死んでもいいか。

 そんなネガティブな気分に重なるように、雲行きが怪しくなっていく。あれぇ、雨降らないって言ってたと思ったんだけどなぁ……

 

「傘持ってきてねえし、別にいいか」

 

 濡れて帰ればいい、風邪ひいて死ぬのもまあ……ありかもなぁ……

 髪が、服が、身体がずぶ濡れになっていく。これゲリラ豪雨ってやつか。まあ歩いて帰るだけだし別に気にしないけど。

 

 そんな風にヤケになっていたからこそ、一番今会いたくない後輩と遭遇することになるとは思わなかったんだが。

 

「……あれ、先輩?」

 

「……んぁ?」

 

 濡れてぼそぼそになった髪をかき上げて、声のした方向を見る。

 傘をさして、こちらを見る赤い瞳と視線が重なる。この金の髪と赤い目のヤツで、俺を先輩と慕ったヤツは一人しか知らない。

 

「……星歌……か?」

 

「やっぱり、先輩だ。その恰好……というか、傘どうしたんですか」

 

「あァ……いや、あー……忘れた、持ってくンの」

 

「なにしてるんですか……今日降るって言ってましたよね……?」

 

「……あー……ニュース見てなかったわ」

 

「先輩ってそういうところしっかりしてる人だったと思うんですけど」

 

 嘘だろこの人、みたいな顔でこちらを見てくる後輩……伊地知(いじち) 星歌(せいか)

 ……まあ高校、大学が一緒でそこで先輩後輩の関係だっただけのやつ……というには少し縁が深い関係ではあるのだが……そういう関係である。

 

「スマホとかでも天気予報見れますよね?」

 

「……バッテリー切れてたンだよ」

 

 充電もほとんどしてなかった。誰かから連絡がくるのが億劫だったからだ。

 

「…………雨、多分しばらく降ると思うんですけど……ウチ、来ます? 近いですし」

 

「…………マジで言ってる?」

 

 仮にも男だぞ、俺。と警告もかねて彼女を見つめる。

 

「先輩がそういうことする人じゃないのは私が一番知ってます」

 

「……でも、虹夏(にじか)ちゃんにも迷惑だろ」

 

 彼女の妹、俺にもよく甘えてきてくれていた幼い少女の姿を思い出して俺は断ろうとする。

 少なくとも……今の俺という弱みを彼女たちには見せたくはなかった。

 

「なら、店の方に来てください」

 

「……店?」

 

 はて、お店など彼女の家の付近にあっただろうか……と、曖昧な過去の記憶を探る。

 

「……言いましたよね、私、ライブハウス経営し始めたって」

 

「あー……」

 

 言ってたような、言ってなかったような。その頃の俺はプロデビューしてノリに乗ってた頃で忙しかったしあんまし記憶にないんだよなァ……

 

「……覚えてないんですね」

 

「スマン……」

 

「……まあ、いいです。先輩も忙しかったと思いますし……それに、このままびしょ濡れの先輩とはい、さよなら。ってできるほど私はひとでなしじゃないですよ」

 

 まあ、そうだよな。星歌は仏頂面というぐらい不愛想だが……根っこの部分はどこまでも優しいヤツだ。

 このまま俺が断ったら断ったで、気に病むのは彼女自身だろう。仕方ない。ここは彼女の誘いに乗ろう。

 

「…………悪い、じゃあ頼む」

 

「分かりました、じゃあこっち寄ってください」

 

「いや、それはさすがにちょっと」

 

 さすがに相合傘はハードル高いので丁寧にお断りした。相合傘か濡れるかどっちを取るかと言えば濡れた方がいい。うん。

 

 ────

 

「ただいま。雨やっぱすっごいね」

 

「あ、おかえりなさい。店長……ってあら、その人は?」

 

 黒い髪に糸目、というべきだろうか。星歌が経営しているライブハウスのスタッフらしき女性が星歌と共にやってきた俺を不思議そうに見つめてくるので軽く会釈する。

 そりゃなんかびしょ濡れの男が来たら不思議がる方が普通だしな。

 

「……どーも」

 

「私の学生時代の先輩。雨ん中傘もささずにずぶ濡れで歩いてたから拾った」

 

「あらまあ」

 

「いや拾ったって」

 

 あながち間違いじゃないけど、俺は犬や猫じゃないぞ。

 

「どうも、このライブハウスのPAをやってまーす」

 

「あ、どうも……後輩がいつもお世話になっております……」

 

 ああ、なるほどPAエンジニアさんだったか。確かにライブハウスじゃ必要な人材だなあ。めちゃくちゃ美人さんだ。

 

「あらやだ、美人さんだなんて」

 

「あれ、声に出てましたか」

 

「……ふんっ」

 

「あいった!? いきなりなにすんだ星歌!?」

 

「べつに……」

 

 なんでもないならなんでそんな不機嫌な顔して俺の足踏んだんですかねえ!? 俺なんか気に障るようなこと言ったか!? 

 

「あらあら」

 

 PAさんはPAさんで面白いモノ見つけたみたいな顔で星歌と俺を交互に見てくるんだけどいったいなんなんだよほんとに!? 

 

「それはそうと、先輩はそろそろ着替えて」

 

「え、いやでも着替えなんて今もってないし……」

 

「裏手にスタッフ用の服あるからそれ着てきなよ、軽く乾かしとくから」

 

「や、それはそれで迷惑が……」

 

「いいから! 着替える!!」

 

 あっはい。星歌にゴリ押しされてそのまま俺は服を着替えた。

 なんでこんな普通にしっかりした燕尾服とかあるんだよここ。おかしく……いや、ライブのタイプによってはあるな……おかしくねえわ。電波系アイドルとかもライブやるし、そういうのにコスプレっているもんな。うん。

 

「星歌、濡れてる服はどうすればいい?」

 

「置いといてくれたら軽く乾かしとくよ」

 

「わかった、じゃあ置いておく」

 

 端の方に避けて私服を置いておき、スタッフ用の……とりあえず燕尾服を着て出てくる。

 

「あら、お似合いですねー」

 

「……ん、そうか? 一応、ありがとうございます」

 

「一枚いいですかー?」

 

「あ、いや写真はチョット……」

 

 いい思い出があるわけではないのでPAさんからのお誘いは丁重に断らせてもらった。

 

「……あ、店長。私は裏の方で作業しておきますね~」

 

「は? いや、今日別に裏方仕事ない────」

 

「積もる話もたくさんあると思いますからごゆっくり~」

 

「────分かった。お願い」

 

 PAさんの言葉の意図を汲んだのか星歌は頷いていた。……まァ……あるよなぁ……話は。

 そのままPAさんの姿が見えなくなってから沈黙が続く。やっばきまずい。どうしよう。

 

「そこ、座りなよ」

 

「……おう」

 

 星歌に促されるまま、俺は椅子に座る。その隣に星歌も座り込む。え、隣? 前でなく?? なにゆえ??? 

 

「星歌……? なんで隣に……?」

 

「私が聞きたいこと、聞こうとしたら逃げそうだし」

 

「…………」

 

 否定はできなかった。彼女が聞きたいであろうことは俺が一番言いたくないことで、逃げようとするだろうことも自分でなんとなく予想できてしまったから。

 

「…………なんで、やめちゃったんですか」

 

「────ッ」

 

 ほらきた。俺が一番触れて欲しくなかったこと。……俺の正体を彼女は知っている。プロとしてデビューしたバンドの覆面のギターボーカリストであることを彼女は知っていた。だからこそ、その言葉を紡いだのだろう。

 

「まぁ……アレだ。方向性の違いってヤツだよ。バンドにはよくあるだろ」

 

 しばらくこちらをじっと見つめてくる彼女の視線に耐え切れなくなって俺は観念したように答える。

 

「それは知ってます。ニュースとかでも言ってましたから」

 

「はは、だよなぁ……」

 

 うん、知っている。彼女が聞きたいのはそういう事じゃないんだろう。あんなにすごいバンドだったのに。誰よりもあのバンドを大切にしていたのに、どうして? とか、そういうことなんだろう。

 

「…………天才ってさ。普通の人を理解できないんだよ。……俺は理解できなかったんだ。あいつらのこと。……まあつまり、俺があのバンドのあり方を壊して歪めたんだ。その気はなくてもそうしちゃったんだ」

 

「……そう、ですか」

 

「……そうなんだよ。まあ……俺の話はこれで終わり。哀れな天才が凡人を理解できずにバンドは空中分解した。それだけの話だよ」

 

「それで、ギターもやめたんですか」

 

 星歌は俺の指を触りながら、更に問いかける。

 

「…………ああ。やめた」

 

 一年はもう、ギターに手を付けていない。ギタリストにとって特徴的ともいえる指先の硬さは少しずつではあるがなくなっている。それがなによりもの証拠だった。

 

「…………私、先輩にここでライブしてもらうのが夢だったんですよ?」

 

「そりゃ残念。俺はもう引退だ。他によさそうな人に頼むべきだな」

 

「……酷い人ですね。私にギターを一から教えて、やめんなよって言っといて。自分だけはあっさりギターをやめるんですね」

 

「バンドするようなヤツってだいたいそんなひとでなしだろう」

 

「…………先輩の嘘つき」

 

「そうだな、噓つきだ」

 

 彼女のその言葉はどんな言葉よりも俺の心に深く突き刺さった。勝手に約束して、勝手に破ったのは俺だ。本当に酷い話だろう。いつかの記憶を思い出す。

 

 もし、歌で世界をとれたならその時は────

 

「…………噓つきには、罰がいると思いませんか」

 

「……どんな罰をお望みで? お前が二度とこの辺りに来るなと言うなら、二度と来ないが」

 

「──そうですね、なら…………」

 

 

 ────ここで、働いてください。

 

 

「────は?」

 

 なんだって? 

 

「あー、俺の耳が悪くなったのかもしれない。もっかい言ってくれ?」

 

STARRY(ここ)で、私の仕事を手伝ってください」

 

「ン~! 聞き間違いじゃなかったなァ!?」

 

 何言ってんだこいつ。いや本当に何言ってんだ!? 俺いまバンドもギターもやめたって言ったよねェ!? 

 

「だからですよ。引退したプロからの評価とか観点が欲しいんです。オーディションとか、いろんなところで」

 

 あーなるほど。確かにそういうのって重要だよネ! 

 

「私はほら、スカウトされたことはありますけど結局アマですし……先輩ならちょうどいいなーと」

 

「ちゃっかりしてんなァ!?」

 

「それに、約束破って本当に悪いと思ってるなら……責任取ってくれますよね?」

 

 そう言う星歌の目が笑っていなかったことに俺は気付く。あ、これアカンヤツや。

 

「アッ……もしかして星歌さんかなり怒っていらっしゃいます……?」

 

「今ならキリンの角食べて雷起こせそうです」

 

「金獅子レベル!? わかりましたちゃんと責任とってここで働かせていただきます!!」

 

 大魔王 伊地知 星歌 から は 逃げられない ! ▼

 

 ────こうして、俺はライブハウス『STARRY(スターリー)』の店員として働くことになったのだ。

 

 ……まあつまり、なにが言いたいかっていうと……「後輩の元ギタリストのライブハウスの店長に何故か拾われた」という、そんな話である。

 

 そして、このライブハウス、STARRYで巻き起こるある少女たちのバンドとそれを見守る俺や星歌たちのどたばたしたりほのぼのしたり……ちょっとしっとりしたりする話だ。




主人公

名前はまだない(考えてないとも言う)
元々とあるメジャーデビューしたバンドで覆面ギターボーカルをしてた。
伊地知 星歌とは高校、大学が同じであり彼女の先輩である。
彼女の妹である虹夏とも顔見知りではあるようだが……
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