後輩の元ギタリストのライブハウスの店長に拾われた話 作:星ノ瀬 竜牙
ルーキー新作10位ありがとうございます。
※原作との相違点
STARRYが原作やアニメと違い、一年前にはできている。
とはいえ、誤差程度なのでそんな気にしないでもいい。
STARRYで働いてくれ、と後輩に頼まれた(というか半ば強制的に入れられた)日から凡そ半年。
俺もすっかりライブハウス『STARRY』の店員の1人になった。時が経つのは早いものである。本当に。
まあその間特にこれといって、変わったことはなかったが……星歌の妹である虹夏ちゃんがSTARRYにやって来た時、たまたま俺と鉢合わせた時のリアクションは印象深いままだろう。
「あれ!? お兄さん!? なんでここにっ!?」
「どうも、虹夏ちゃん。実は俺これからここで働かせてもらうことになったんだよね」
「え…………? …………どうぇえええええ!?!?」
あのときの凡そ人の出せる叫び声ではない絶叫は本当に印象深かった。
そのあと、やれ全然会えなかったからニュース見たとき心配した。とか、もうちょっとちゃんと会話の内容は起承転結を意識してください。とか説教されてしまったのは記憶に新しい。
いや本当にごもっともなんだけど、歳の離れた女の子に説教されてる絵面はあまりにも罰ゲームすぎた。恥ずかしかったです。ほんとに。PAさんは横でクスクス笑ってたし、星歌は俺の正座姿撮ってたしな!!
後、その時虹夏ちゃんと一緒にきていた山田 リョウ……リョウちゃんはなんというか愉快な女の子だった。虹夏ちゃんの同級生で友人、ベース担当らしい。口数が少ないユニセックスな……ああ、ユニセックスっていうのは男性にも女性にも見える中性的な見た目とかそういう意味である。って、誰に補足説明してんだ俺は。話を戻そう。
まあ彼女は絵に描いたようなベーシストだった。金の使い方が荒い、知能指数が(見た目と違って)低い、道草(物理)を食う。……いや、道草はさすがに食わんよな普通? まあなんにせよ、面白い女の子であった。意外と話の波長は合う子である。
そうそう、虹夏ちゃんとリョウちゃんは二人でバンドを組んでいるらしい。
バンド名は『結束バンド』めっちゃダジャレだった。というかそれエゴサするとき普通に結束バンドが引っ掛かりそうだ。
なお、絶賛ボーカルとギターが不足している模様。いい人いなかったのか? と聞いてみると「進学校だから、そういうのやるーって人あんまりいなくて」とのこと。わざわざ他校から探すのも大変だしなぁ。
しかし進学校である下高*1に入学しているとは……星歌はもちろん、虹夏ちゃんの努力も垣間見えてちょっとうるってきてしまった。
近況報告みたいな俺の独白はこんなところだ。
本当にさしたる変化はないのだが────
「副店長~、これ何処に置いておきましょうか?」
「お、虹夏ちゃん。それはカウンターの裏手に置いといてー」
「はーい!」
────なんか半年で副店長まで登り詰めてた。異例すぎるスピード出世である。いやなんで????
さすがに早すぎるでしょ。と星歌に問い詰めたところ……
「いや、バンドのオーディションとかも見てもらうスタッフが平社員のままなのはさすがにメンツとか色々気になるんで……」
と言われた。割とごもっともな意見である。いち下っ端がしゃしゃり出る状態は避けたいというのは分からんでもない話だった。実際スタッフ数は少ない、かつ俺ぐらいしか定休日以外毎日出勤してるやつはいなかったので納得の人選扱いされた。社畜経験ないのに社畜根性が染みついてる俺っていったい……。
なお、そのあとPAさんに補足で「店長、先輩さんを雑用みたいな扱いするのが嫌だったみたいですよ?」と言われた。やだ店長、優しい。俺好きになっちゃう。
なお、そう言ったら顔を真っ赤にした星歌に蹴っ飛ばされた。うん、セクハラだもんね。ごめんね!
「副店長、惰眠貪っていてもいい?」
「うん、惰眠貪ったら給料減らすからちゃんと起きて受付しような、リョウちゃん?」
「冗談」
絶対冗談じゃないよなァ……
リョウちゃん、だいたいなんも考えずにその場の勢いで喋ってるので冗談じゃない事の方が多い。そんでたまにシャレにならないこと言うんだから心臓に悪い。彼女が受付の時は割とハラハラドキドキモノである。
とはいえ、STARRYでの日々は割と楽しい。俺も、音楽やバンド自体が嫌いになったわけではないのだ。ギターにトラウマこそ生まれてしまったが、他のバンドの歌や演奏を聞くのは好きだ。そういう意味では本当に星歌には感謝しかないだろう。あのまま腐っていくよりはこうして欠片でも音楽に携われて……かつ、自分自身がギターに触れずに済むというのは今の俺にとっては天職だ。
……改めてあのときの星歌の案は鶴の一声だったんだなぁ。と思う。ほんと、どうしようもないぐらい優しいヤツだ。そういうヤツだから、人脈も多いんだろうけど。
そんな風に遠目からいろんなバンドの演奏を聴く日々を過ごしていたある日、事件が起きた。
なんと、『結束バンド』のギター担当がばっくれたらしい。しかもこの本番当日に。
合わせの練習とかなかったから疑ってはいたが不安が的中してしまった。その危機に虹夏ちゃんは「なんとかギター探してくる!」と外に出ていってしまった。
代理で俺も入れなくはないが、俺が多少ギターにトラウマを抱えてしまったことをある程度事情も含めて把握している虹夏ちゃんは勘定にいれずにいてくれたのは本当にありがたい話だ。同時に申し訳なさと罪悪感も湧き出てくるが。あれが下北沢の大天使ニジカエル……
なお、本番当日の準備中に自分に何も言わずに虹夏ちゃんがSTARRYから出たことをだいぶ怒っていた星歌は不機嫌……というか不安そうな顔で買い出しに出掛けた。ほんと身内にダダ甘い後輩である。
とはいえ、ギター探しはそんなにうまくはいかないだろう。……最悪を覚悟して俺が出ることも考えておこう。ここで彼女達に挫けて欲しくない、というのは星歌は勿論、俺も同じ気持ちだから。
────とか思っていたのだが。
「ホントにギター見つけてきちゃったなァ……」
幸運の女神は『結束バンド』に微笑んだらしい。ギターを背負っているザ・ピンクな少女を虹夏ちゃんが連れてきた。芋ジャージ、虚ろな視線、挙動不審。……根っからの陰のモノの気配がするのだが大丈夫だろうか。
「ピィッ……舐めてすみませんでしたッ!?」
うん? もしかしてあの娘、今俺の方を見て謝った?? なんで????
「大丈夫だよ、アレは副店長! ちょっと目が鋭いけどめちゃくちゃ優しい人だから!!」
「虹夏ちゃん??? 急にヒトをアレ扱いするのはどうかと思うな??」
いや俺確かにツリ目でたまに不機嫌そうに見えるらしいけど!! 失礼すぎでは!?
「まあ、ギター見つかってよかったよ。一応、一安心だな」
「ほんっと、見つかって良かったぁ……」
「あ、そうそう。店長から言伝。時間いっぱい練習しとけって。あと、勝手にライブハウス出ていったのあとで説教。だそうです」
「うぇ!? おに……じゃない、副店長! そこ副店長権限でなんとかうやむやにできない!?」
星歌が怒らせると怖い人物なのは妹である虹夏ちゃんはよく理解しているからこそだろう。こっちに頼み込んでくるがさすがに無理である。
「ンー、無理! というか権限的に俺の方が低いじゃん普通に」
「うー……そういえばそうだったぁ……」
とほほぉ……説教かぁ……っと落ち込む虹夏ちゃんと横でウロウロするギターちゃん。なんか面白いなこの空間。
「あ、そういえばリョウは?」
「リョウちゃんはスタジオでベースの最終調整中。あ、ギターの……えーっと……?」
「後藤 ひとりちゃんだって」
「おっけ、ひとりちゃんもギターの調整いるでしょ? スタジオ行くなら調整手伝うよ」
「は、はひ……命だけはどうかご勘弁を……」
「なにが????」
なんか話が飛躍しまくってんなひとりちゃん。この子もしかしなくとも面白い子では? 俺の面白い女センサーが反応している。ちなみに歴代で反応したのはリョウちゃん、PAさん、とある酒カスの後輩、星歌である。意外と俺のセンサーが正確なことはちょっとした自慢である。
その後、ギターの調整や諸々を終えたのだが……リョウちゃんを見ていきなり謝罪するひとりちゃんを見たり手がおぼつかなくてドヘタな演奏かましたひとりちゃんだったり、愉快なことがスタジオで起きた。
「どうも……プランクトン後藤です……」
「売れないお笑い芸人みたいなのが出てきた!?」
「悔しいです! とか言ってそうだね」
「そこじゃないよね副店長!?」
ぶっ倒れたひとりちゃんを見てそんな感想が出てきた。しかもそのあと可燃ゴミの箱に舞台の裏手で籠りはじめた。うん、この子やっぱ面白いわ。
「ひとりちゃん! 出てきて!? 本番始まっちゃうよ!?」
「や、やや、やっぱりできませんっ!!」
「しょうがないよ、即席バンドだし!! 私だってそんな上手じゃないから! ねっ!?」
「私は上手い」
「フグウッ……」
「リョウは黙ってて!?」
リョウちゃん追い打ちかけるの上手だなぁ……いつものことだがその自己肯定感の高さは見習いたい。マジで。ちょっと羨ましい。
「MC……でも、お役には立てませんし……そ、そうだ! 私の命をもって腹切りショーでもすればバンド名ぐらいは覚えてもらえるはずです!」
「ロックすぎない!?」
クレイジージャパニーズ文化である。何で腹切るつもりなんだろ、この子。
「大丈夫、ひとりがヤジられたら私がベースで『ぽむっ』てするから」
「べ……ベースってそんな、ファンシーな音……しましたっけ……?」
ぽか、とベースで叩くつもりらしいリョウちゃん。うーん、スプラッタ案件。
「流血沙汰もロックだからね」
「……ロックだから」
「ロックが免罪符すぎる……!?」
「普通に事件になるからやめな? 俺と店長に迷惑降りかかるだけだからね???」
「冗談」
────だからリョウちゃんの場合冗談に聞こえないんだよなァ!!
「それに! 今回ウチのバンド見に来るの私の友達だけだし!」
「へ……?」
「私、友達は虹夏だけだから。あと副店長」
「ナチュラルに俺をカウントにいれたなァ……」
しかもめっちゃドヤ顔で言ったよこのベーシスト。というか俺その場合しょっ引かれそうなんですけど。年齢差考えて?
「普通の女子高生に演奏の良し悪しとかわかんないから大丈夫だって!」
「え、炎上しそうな発言……」
トゥイッターにでも呟けば瞬く間に火の手があがるタイプのやつである。虹夏ちゃんたまに堕天するよね。おじさんちょっと怖いよ?
「ごめんなさい……私」
「けど……」
「虹夏、無理強いはするものじゃない」
「だよね……無理なお願いしてごめんね?」
「あ、いや……そこは……嬉しかったんです、ほんとうに……声かけられて。
バンドは、その……組みたいと、思ってたから……で、でも、メンバー……集まらなくて……だ、だから普段はカバー曲とか、ネットにあげたり……」
……はて、カバー曲? ……なんだろう急に既視感が湧く。この黒いカスタムされたギター、ピンク色……どっかで見たような? うーむ、わからん……。
ひとりちゃん曰く、「売れ線のバンド曲のカバーはだいたい弾ける」らしい。
すごいな、それができるのは並大抵の努力じゃない。死に物狂いで培った経験があるからこそなのだろう。挫けずにそこまでできるようになるためにいったいどれほど苦労したのか。評価を改めよう。面白い子だが、同時に凄い努力家な子なんだ。
「売れ線のカバーばっか……なんか
んんん?? ぎたー、ひーろー……? うーん? ホント、どっかで聞いた覚えが……ネットの方では有名、っぽいしそれをどこかで聞いたからか……?
「えーっとね、何が言いたいかっていうとね。上手くて話題の人もね? 私たちの見ていないところでたくさん、たっくさんギターを弾いてきたんだろうなーって」
ちら、とこちらを見つめて虹夏ちゃんはそうひとりちゃんに告げる。
────まあ、そりゃそうだ。才能だけですべてが解決するほどこの世の中は優しくはない。俺だって、音楽を始めた頃は楽譜すらまともに読めないようなポンコツだった。そういった所も含めて全部努力して、その果てにミュージシャンとしての自分がある。今日上手くできなかったから、今できなかったから諦めるのは違う。
本当なら、先駆者として俺がかけるべき言葉だろう。だが……今の俺にはそれを言う資格はない。だって、できなかったから終わったんだ。俺のバンドは。噛み合わなくなったからやめたんだ。どの口が言ってんだ、となるだけだ。だから俺は、虹夏ちゃんの言葉を黙って聞いて見守る。
「……怖いなら、これに入って演奏すればいい」
「おいそれ、裏手に置いてた空き箱だろ」
どこからともなくリョウちゃんが取り出してきた『完熟マンゴー』の段ボール箱。それ今日捨てに行こうとしてたヤツでは? なんで持ってきた? というか、他人をそれに入れようとすんな?
「い、いつも弾いてる環境と、同じですぅ……!」
なお、本人には好評だった。まじかよ。いや、防音室ないならだいたい暗い押し入れとかクローゼットの中で演奏するよね。わかるけど。
「どんなところに住んでるの、ひとりちゃん」
「みなさん! 下北を盛り上げていきましょう!」
「少し気が大きくなったね」
「やっぱこの子面白いな」
愉快な女の子だなァ、ひとりちゃん。
「そういえばライブではなんて紹介すればいい? ひとりちゃんって本名のままでも大丈夫?」
「あ、いや……それは……」
あ、段ボールから顔出したら声小さくなった。面白い生態してんなぁこの子。
「じゃあ、あだ名とかはなかったの?」
「ちゅ、中学では……『あの……』とか『おい……』とか……」
「それあだ名じゃないよね!?」
「あ、あだ名で呼び合うほど親しい交友関係は持ったことがなく……!」
あだ名というか、後藤さん……? 誰だっけそれ? とか、名前なんだっけ……ってやつでは? それ。ほんとに陰のものだなひとりちゃん……
「ひとり……ひとりぼっち……ぼっちちゃんはどう?」
「そんなデリケートなところを!?」
「ぼ、ぼっちです私!」
「喜んでるし!?」
しかもめっちゃ目が輝いたなァ……今まで目がずっと死んでたのに今日イチ輝いてるわこの子。
「あ、あだ名とか初めてで!!」
「うぅ……なんか、私が涙出てきちゃった……」
わかる。めっちゃわかるよ虹夏ちゃん。なんか憐れな生態見るとちょっとほろりとくるよね。
やだ、おじさんの感性ほんとおじさんになってる。
「そ、そういえばまだバンド名聞いてなかったんですけど……」
「うぐっ────」
「?」
虹夏ちゃんの反応に首を傾げるぼっちちゃんこと、ひとりちゃん。いやまあ、このリアクションは不思議がるよね。
「結束バンドだよ」
「…………?」
「ぷふ、傑作」
「サムイし!! 絶対変えるからァ!!」
「なんで? 可愛いよね?」
「あ、はい」
「副店長もそう思うでしょ?」
いやそこで俺に話題を振るなよリョウちゃん。ほら、虹夏ちゃんが俺のこと凄い目で見てくるから。下手なこと言ったら許さんみたいな顔になってるから。
「まァ……覚えやすいし、わかりやすい名前で特徴的だと思うよ。ベースに酒吞童子EXってつけたりするヤツよりはめちゃくちゃいいと思う」
これはほんとである。後輩のあのネーミングセンスには思わずダッッッッサッッッッ!? となったものだ。
「比較対象!!! やっぱり変な名前だと思ってるじゃん!! あーもう! バンド名は後回し!! そろそろ出番だよ!!」
「あ、ぅぅ……」
あ、ぼっちちゃんがまた段ボールの中に引き籠ろうとしてる。この子観てて飽きないなぁ。
その後、無事新生『結束バンド』の初ライブが始まったのだが……
「副店長副店長、あれなんですか?」
「アー……うン……あれは、完熟マンゴー仮面だヨ。『結束バンド』の助っ人さん」
「なんだそれ。というかどっから拾ってきたんだあんなの」
やっぱ目立つし気になるよな!! 完熟マンゴー段ボール!! PAさんが不思議そうに完熟マンゴーの段ボール見ながら俺に聞いてくるからちょっと申し訳なくなったわ!! ぼっちちゃんの名誉のためにも正体は黙っておくけど!!
珍生物を見るような顔で、完熟マンゴーに店長の星歌やPAさん含め、お客さんの視線が集まっていたのはちょっと可哀想だと思った。頑張れぼっちちゃん。俺は応援してるぞ!
ちなみに即席バンドだったし、約一名絶対視線が(物理的に)合わないせいで演奏はだいぶミス多めで散々だった。問題点は山積みだが、それは今後改善していくだろう。うん、するよね? していくと思いたい。
余談だが、反省会は眠い(リョウちゃん)、疲れた(ぼっちちゃん)メンバーのせいで行われなかったらしい。
#結束しろよ『結束バンド』
思わずそんな呟きをトゥイッターに投げたくなったのはここだけの話である。まあ、トゥイッター俺はやってないんだけどね!