後輩の元ギタリストのライブハウスの店長に拾われた話 作:星ノ瀬 竜牙
この作品は多分星歌さんヒロインです。
イチャイチャするかはわからないですが。
朗報、STARRYにスタッフが増える模様。
新しいアルバイトが入るという話だ。そのスタッフは『結束バンド』に入ったばっかりの噂のギタリスト。後藤 ひとりちゃんである。当然だが、バンドは活動費用がものすごく掛かる。
チケットのノルマ代、機材代などなど……数万円が毎回飛ぶのだ。月に飛ぶ諭吉の数はいったいどれほどなのか、俺も正直苦労した記憶しかない。
そのことでひと悶着? あって、なんかひとりちゃんが結婚費用を出そうとしたりしていたが。……まあ、人見知りにバイトはキツイよね。わかる。
「というわけなんだけど! 副店長、なんとかできませんか!!」
「うん、唐突に話ふったね。そこら辺見るのは俺じゃなくて店長だからね。というか、履歴書ないと採用するかどうかも俺には判断できないからね?」
「ケチー!!」
「ぶーぶー」
「はいそこ、ヤジ。当事者置いて行かないの」
頑張る、とは言っていたがものすごく嫌そうな顔だ。あれは多分断ったときに自分がノリの悪いヤツとか思われて当たりが強くなるとかが怖い、と言ったところだろうか。
「ひとりちゃん」
「あっはい!? 何か私粗相をしましたかっ!?」
「うん、してないから落ち着いてな?」
話が飛躍するのは多分この子の癖なんだろう。彼女の目の前にしゃがみ込んで問いかける。
「ひとりちゃんは、バイトしたくない?」
「ぇっ……え、っと……その……」
「まあ、初めてのことは不安だらけだよね。それに人馴れしてないとやっぱり怖いと思う」
当然だろう、しかも今までの話を聞けば聞くほど、この子が他人を怖がってる節があるのもなんとなく見えてくる。でも、多分それらの根本的な部分は自分に自信がないから。に直結しているんだろうな、ということも。
「まあ俺から言えるのは、ここで働いてくれるなら嬉しくはあるってことかな。人手はいくらあっても困らんからね。でも、最後に決めるのは自分自身なんだ。ここで働くかどうか、決めるのはひとりちゃんだよ」
「あ……ぅ……」
「ひとりちゃんにとっては辛いし残酷なことだと思うけど、この先バンドをしたいなら避けて通れない壁だ。
だから、しっかり考えて……自分で答えを出すこと。後悔はしないように、ね?」
「ぅ……は、はぃ……」
「ん、よろしい。まあ、もしここで働くってなったら俺がちょっと融通利かせて……なるべくお客さんと鉢合わせしないようなお仕事割り振ってあげるから、そこだけは安心してね?」
「ぁぅ……ご、めんなさい……」
「よしよし……こうしてここに来れてるだけ君は充分凄いから、もっと自分を褒めてあげなさい」
彼女の頭を優しく撫でながら俺はそう告げてみる。不安を取り除いてあげたかったが、これでは圧になっているかもしれないな……と思い返して苦笑いしてしまう。
「圧に感じちゃってたらごめんね、ひとりちゃん」
「あっいえ……そんな……」
「虹夏、あれが母性」
「リョウちゃん、ちょっと黙っててね?」
人をオカンみたいに言うんじゃありません。それとなんで虹夏ちゃんはちょっと目が冷たいの? 俺ロリコンかなんかだと思われてる? 虹夏ちゃん?? 違うからね??? ただこの子が放っておけないだけだからね?
とまあ……そんなやり取りがあったわけだが、最終的にバイトをするかどうか決めるのはひとりちゃん次第だ。
だからもし、彼女が勇気を出してバイトをするというのならバンドマンの先輩として、STARRYのスタッフとして俺はできる限り支えてあげよう。まずは、バンドを楽しいモノだと思えるようにしてあげるべきだし。
────
「────まあ、そんなわけで多分新しいバイトの子が入りにくる、とは思うけど店長としてはどう?」
「先輩が問題ないと思ってるなら大丈夫ですよ、ウチとしても人手は欲しいですし」
ことの経緯を説明すれば、そんな反応が星歌から返ってくる。
なんというか、相変わらず妹には甘いお姉ちゃんしてるな、星歌は。
「なんですか、その顔」
「ああ、いや。虹夏ちゃんの推薦だとホントダダ甘になるなーって」
「ッ……べ、べつにそんなんじゃ……」
「はいはい、星歌が虹夏ちゃんのこと大事に思ってるのは俺はよーく知ってるから」
「うぐ……」
めちゃくちゃ大好きなくせに、不器用だから勘違いされたりしてた時期があった。……本人が鈍いってのもあるんだろうけどな。コイツと虹夏ちゃん、そしてあの人の仲を取り持つのは本当に大変だったけど……まあ、悪くはなかった。楽しかったし。
「先輩だって、虹夏に甘いくせに」
「……そりゃあ、俺にとっては妹みたいな感じだしなァ。なんだかんだ小さい頃から面倒見てたし?」
「ふーん……」
星歌にギターを教えるために、彼女たちの家にお邪魔してはその度に虹夏ちゃんとよく遊んだものだ。一人っ子だった俺にとって虹夏ちゃんは本当に可愛い妹分であった。
最初はお姉ちゃんをとられるー!! って俺を警戒しまくってたのは懐かしい思い出である。しかしそうか、もう10年は経つのか。そりゃあ虹夏ちゃんも大きくなるよなぁ。と少ししみじみとしてしまう。
「……なんですか、こっち見て」
「ああ、いや……星歌も綺麗になったなぁって思って」
「んなっ……!?」
本当に綺麗になった。今コイツと付き合えるヤツはほんとに果報者だろう。家事はちょっとアレだができないわけではないし、面倒見も良い方だ。情けない話だが、少し妬いてしまう。
「あらあら、副店長さんは口説き上手ですね?」
「おやPAさん」
ひょっこりと星歌の後ろから顔を覗かせたのは我らがSTARRYの縁の下の力持ち、PAさんである。
「どうも~、機材のチェック終わりました~」
「サンキュ、いつもごめんね」
「いえいえ、お仕事ですから」
「ちょ、いつからいたの!?」
「えーっと、店長が妹さんの虹夏ちゃんには甘い人~って副店長が言ってた辺りですね」
「その時点で声かけなよっ!?」
あれま、聞かれていたようだ。まあ、隠すようなものでもないと思うんだけどな。というかバレバレだし。
「……もしかして、お二人って付き合ってたりします?」
「はっ……!? ちょ、何処をどう見たらそうなんの!?」
「うーん、全体的に? 割とツーカーでお二人とも成立してるなーって」
まあ、長い付き合いだからこそなんとなくニュアンスで察せるのは否定しない。それにまあ……
「……昔付き合ってたといえばそうだな」
「あら、そうなんですか?」
お似合いだと思ったんですけど、とPAさんは俺と星歌を見ながら呟く。本当に昔の話だ。俺がプロとしてデビューする前の話で、星歌にとっては夢を諦める切っ掛けになったとある出来事。まあ、揉めたりはしなかったしお互い納得した上で別れ話を切り出したんだが。
「お互い別に嫌ったわけじゃないんだけど、俺は当時バンドがあったし……星歌はほら、STARRY開くための勉強とか色々あったからさ。お互いそういうのに現を抜かせる状況じゃなくなって、自然とな」
「ちょ、先輩っ……!?」
「間違ってないだろ? それに、隠してるわけじゃないんだから別にいいと思うんだが」
「う……それは、そう……だけど……!」
「……? なんか俺、まずいこと言ったか?」
少し不服そうな星歌に俺は首を傾げる。はて、なにか気に障るようなこと言ってしまったか?
「ふふ、店長はそういう思い出は大切にしたいんですよ~」
「ぅ、ち、ちが……」
「……違うって言いたそうだが」
「いえいえ、照れ隠しってやつですよ。大切な思い出……しかも好きな人との思い出となればなおさら────」
「それ以上言ったら給料減らすからね!?」
「はーい」
なんたる横暴か。PAさんは店長のパワハラに屈して……はなさそうだな。あれは隙があったら定期的にからかってやろうって顔だ。絶対そういう顔してる。
「先輩も同罪ですからね」
「え!?」
俺もなのっ!? なんで!? ただ昔のことちょこっと話しただけじゃん!! 聞かれたくなさそうなデリケートな部分俺ちゃんと隠したよね!? 横暴だ! パワハラで訴えてやる!!
「何か文句でもありますか」
「いえ、なんでもないです」
いやこっわ、めっちゃ笑ってくるやん。目だけ笑ってない笑顔みせてくるじゃん。
憐れ俺、店長の圧には勝てなかった。はい、店長は裏表のない素敵な人です。そして俺は上司に逆らえない憐れな犬です。ワン。
俺の取った選択肢は服従である。社会の闇はこうして生まれるのだ。ワンワン。
────翌日、ひとりちゃんがSTARRYにやってきた。のはいいが、見た目の不愛想さとかヤンキーみたいな雰囲気から店長である星歌を前にあわあわしていた。いやまあ星歌のことよく知らんとそうなるよね。と横で思わず苦笑いしてしまった。
大丈夫だよひとりちゃん。この人見た目こそ不愛想だけど中身はひたすらに虹夏ちゃんにダダ甘なシスコンだから。と、遠目で見守っていたらめっちゃ星歌に睨まれた。やっべ、これ俺が何考えてたか気付かれてるな。退散退散。スタジオの方に引っ込もう。
「ああ、そうだせんぱ……じゃない、副店長。ひとりちゃんにドリンクの仕事教えてあげて」
「え、俺?」
「基本カウンター仕切ってるの副店長でしょ」
「まあ、そうだな……」
それに、ひとりちゃんのカバーは俺がすると言った手前断るのは申し訳ないし。
「ひとりちゃん、メモ帳いる?」
「あっはい、お願いします……」
「オッケー、シャーペンで大丈夫? 鉛筆とかの方がいい?」
「しゃ、シャーペンで大丈夫、です」
予め用意しておいたメモ帳とシャーペンをひとりちゃんに手渡す。最初は覚えるの大変だろうし、ゆっくり一つ一つ教えてあげた方が良さそうだな。
「トニックウォーターはこの棚から……ああ、トニックウォーターっていうのは炭酸飲料で、カクテルっていうお酒とかに混ぜたりするモノだよ。これは大丈夫?」
「は、はいっ!」
「よし、で……このサーバーからビールが出るよ、コップはその隣に置いてあるから……まあ、ここはあとで実際にやってみて覚えようか。メモ大丈夫?」
「……で、できました!」
「で、この上の棚にカクテルがあるんだけど……この辺りも実際やってみて覚えていこう。あと、棚がちょっと高いからもし届かないとかあったら言ってね」
「あ、え、えーっと……」
おや、あわあわし始めて……何故かギターを取り出し……? ってそれどこから取り出したの。
「か、カクテルは~♪」
歌にして覚えようとしはじめた。そういう感じで覚えようとする子初めてだわ。びっくり。
「ぼ、ぼっちちゃん!? ドリンクをちゃんと覚えようとするのは嬉しいけど一旦ギターを置いて!? 副店長が驚いてるから!?」
隣にいた虹夏ちゃんまであわあわとしはじめて、ひとりちゃんを止めようとしてる。ちょっと面白いから見守る……ってうん?
「楽しそうですね~」
「……あれ? 前のライブはヘタクソだと思ったんだけど」
「あー、確かに。上手ですね?」
……星歌とPAさんの言葉が耳に入ってようやく納得がいく。そうだ、俺が聞いたときと本番の演奏、ドがつくほど下手だった。だというのに、今こうして演奏しているとどうだろうか。かなり上手い。ああ、なるほど。俺がひとりちゃんの演奏を見て感じた違和感はこれか。
様になっているほど弾く姿が似合っていたのに、そこから出てくる不協和音。
その違和感の理由がなんとなく分かった。合わせられないんだ。コミュニケーションが苦手ってのは薄々感じていたが……それ故にバンド経験がない。だから他者と音を合わせられない、それが結果としてぐちゃぐちゃになって不協和音になっていたんだろう。
そして何より……不安が音に出ているんだろう。音楽とは、まあ早い話自分の感情を体現するような代物だ。だからこそ、その日の心境次第では全く違う音が出る。ひとりちゃんは常に不安を覚えているからこそ、それがノイズになって本来の音を潰してしまっているんだ。
────ああ、惜しいな。
思わず俺の口からそんな言葉が漏れ出た。
本当に惜しい。その不安がなくなれば彼女はたちまち化けるだろう。今聞いているこの音色ですらかなりレベルが高い。……だが、それでもやはり不安が混じった音だ。多分彼女のギターセンスはこの程度じゃないのだろう、本調子ならもっと上だ。そこに至るまでにどれほどの勉強と練習を重ねたのか。高校一年生でコレか。底が知れない。──俺が抱いた感想はこれだった。
嫉妬とかそんな醜い感情が湧きすらしない、むしろ尊敬すらできる領域。
順調に育っていけば、俺も超えられるだろう。それどころか、プロの世界でも普通に通用し続ける。ああ、ダメだ。抱いてはいけないというのに、俺は……今、後藤 ひとりに光を見てしまった。彼女ならば、俺が成しえなかった何かに届くんじゃないか、そう思ってしまった。
──本当に無意識のうちに右手がぴくり、と疼くように震えていた。
「はやく仕事に戻れ」
「あいたっ」
「あうっ、なんで私っ!?」
「はっ!?」
星歌にチョップされて我に返った。そうじゃん、今バイトの説明中だったわ。シリアスなのはナシである。自重しよう。虹夏ちゃんは……うん、どんまい。
「まあ、ドリンクのスタッフは基本的には注文された飲み物をささっと、出すだけ……なんだけど、最初はやっぱりハードル高いと思うし……うん、そうだなァ……今日は俺と虹夏ちゃんで注文はとるから、ひとりちゃんはその注文の飲み物淹れるだけにしてみようか」
「あの…………お金とかは……?」
「ああ、チケット代金とは別で500円払うと貰えるドリンクチケットで飲み物を注文できるシステムになってるんだ。だから勘定は受付……今はリョウちゃんがやってるとこだね。あそこで支払うから、ここではレジとかの細かい作業はしなくて大丈夫」
「な、なるほど……」
ドリンクチケット見ながらめちゃくちゃぼったくってるのではみたいな顔してるな、ひとりちゃん。めちゃわかりやすい。
「そんなあからさまにぼってるみたいな顔しないでぼっちちゃん。そもそも、ライブハウスって……あ、副店長、説明お願いしまーす!」
「今面倒だと思って俺に投げたよね、虹夏ちゃん。別にいいけど」
「えーそんなことないですよ、やだなー」
ワッ……下北沢の大天使が堕天しちゃった……! 絶対面倒だから説明してくれそうな俺に投げちゃえって思ったよね虹夏ちゃん??
「あー、ライブハウスって括り的には飲食店なんだよ」
「えっ……そ、そうなんですか?」
「ライブできる場所ってだけでお店開くには手続きが大変で、時間もかかるんだ。
そこで、ライブハウスを飲食店として開く、それだと手続きがある程度簡略化されて楽になるってわけ」
「な、なるほど……」
「だからドリンクを商品として出して、あくまでウチは飲食店ですよーって形をとってるわけだ。
めっちゃずるっこい裏技みたいなもんだと思えばいいよ……ひとりちゃん、聞いてる??」
めっちゃ目が輝いてるけど今の要素のどこに……あ、あれか。コミュニケーション能力が下の方だとハードルが高い飲食店のバイトをすることになってるという事実が嬉しいのか。微笑ましいねェ……
と、ひとりちゃんを見ているとぽつぽつ、とライブを聞きに来たお客さんが入り始めていた。
「……客入り始まったな、ぶっつけ本番だけどできる? ひとりちゃん?」
「ぁ……え、えっと……」
ドン! と厚紙をカウンターに置いて……? えーっとなになに『本日はありがとうございました』……?
「終了しちゃった!?」
「うーんまだぶっつけ本番は早かったかァ……」
さすがにまだ荷が重かったらしい。
ということで、結局今回はサポート役に徹してもらうことにした。俺と虹夏ちゃんが注文受け取って、その注文の飲み物をぼっちちゃんに入れてもらうという形をとった。これなら人前で話すのが苦手なひとりちゃんでもなんとかできるはずだ、多分。
まあ、そこからは割と難なくやってくるお客さんを捌けた。
どうやらひとりちゃんはそれなりに覚えは早い方らしい、初めてにしては随分テキパキと注文の入ったドリンクを用意していた。
「お疲れさま、よく頑張りました」
「ア……ありがとうございます……」
「接客はまだ厳しそうだけど、初めてでここまでできたら上等だよ。少しずつ慣れていこう」
「は、はい……」
「と、じゃあ俺は機材の最終チェック手伝ってくるから、虹夏ちゃんあとよろしく」
「はーい!」
「えっ!? あ、あのっ……!?」
「大丈夫大丈夫、そろそろライブも始まる頃だし……そうなるとカウンターの方には基本的に人は来ないから安心していいよ。それに、今日のバンドはそこそこ売れてきてるところだから、今後の活動のために見学しておくこと。機材チェック終わったら、俺がカウンター戻って全部やっとくから」
どうやら星歌も同じ考えだったらしい、受付のリョウちゃんと話している姿が視界に入った。
いつものことだが、俺は楽器や機材の調整の最終チェックを担当している。ある程度経験のある俺にだから任されているが、正直俺じゃないメンバーでも充分な気はしている。俺いる?
まあ……いるから雇ってるんですよ。と星歌に真正面から言われたのでそのままやっているんだが。
調整自体はつつがなく進み、完璧に仕上がった。最近じゃお馴染みになったバンドのメンバーにお礼を言われるが、仕事をしただけである。まあ、演奏で礼は返してくれ。とだけ言っておいたが。
そうしてカウンターに戻ってくると、ひとりちゃんが見守られながらではあるが、お客さんの注文を聞いてドリンクを出している姿を目撃した。
「……やればできる子だな」
少し笑顔は引き攣っていたが、それでもしっかりと接客をしていた。傍から見ると小さな一歩かもしれないが、彼女にとっては本当に大きな一歩だろう。褒めてあげよう。
「おつかれー」
「あ、副店長! さっきぼっちちゃんがね!!」
「うん、見てたよ。よくできました、ひとりちゃん。凄いじゃないか、大きな成長だね」
「え、えへへへ……い、いやぁ……そ、それほどでもぉ……」
わー、分かりやすい。褒めてオーラがすごい。おじさんもっと褒め称えたくなっちゃう。気を抜いたらよーしよしよしよしよし! ってやっちゃいそう。カビのスタンド持ってないのに。
────
仕事も終わり、ひとりちゃんが先に帰宅して少し経った頃。
「ぼっち、頑張ってたね」
「そだねー……それに、また明日って言ってくれたねー」
「うん」
「バンド組めてよかったよー。……そだ、ぼっちちゃんにロインしとこーっと。『明日も頑張ろう』っと」
椅子に座って話している虹夏ちゃんとリョウちゃんの二人を見ながら、片付けをする。いつものことだ。ただちょっと違うのはその話題がひとりちゃんになっているところだろうか。
「ぼっちちゃんも協力してくれてることだし……あとは新しいボーカルを────」
「…………」
え、なに。なんで二人してこっち見るの。今の話題からなんで俺を見るの、虹夏ちゃん??
「副店長、ボーカルしない?」
「やんねえよ。学生バンドにおじさんスカウトするの新手の嫌がらせか???」
「……残念、副店長、歌上手いからちょっと期待したのに」
「うん、上手いのは否定しないけど期待しないで? キラッキラの青春送ってる学生バンドに三十路のおじさん加入したら死んじゃうから。おじさんたちまち萎れるから。歳の差考えてな???」
リョウちゃんが言うと冗談に聞こえないというか、今回は絶対半分ぐらい本気だったのがわかるんだよなァ!!
「リョウ、あんまり副店長に迷惑かけんな。困ってるだろ」
「分かってる、冗談」
星歌が助け舟を出してくれておとなしく引いてくれたが……いや絶対冗談じゃないってあれ。隙あらば俺に歌わせようとしてるってあの子。
「あははー、さすがにそこまでは追い詰められてないって、私たちー。それは最終手段にとっておきます!」
「「
虹夏ちゃん本気じゃんこれ!! やめてよ!? おじさんにキラキラ青春時代の光浴びさせないで!? 致命傷になるからいろんな意味で!!!
「虹夏」
「あ、やば……冗談だよお姉ちゃん! さすがにしないって!!」
星歌が本気で怒ってるのを察したのだろう、虹夏ちゃんは慌てて謝っていた。
……さすがに助け舟は出しておこうか。二人とも悪気はないだろうし。
「まあまあ、星歌も怒んなって。俺は別に困ってないから」
「……先輩は甘すぎますよ、虹夏とリョウに」
「まァ……今一番応援してるバンドだからね、『結束バンド』は。
ちょっとは甘く対応したくなっちゃうさ」
「お兄さん……」
「ぶい」
「そこドヤるな」
「それに────いや、なんでもない」
俺が伏せた言葉に、星歌たちは首を傾げる。まあ、褒められた言葉じゃないから黙っておくべきだ。これは。
だって、言えるはずはないだろう。『結束バンド』なら……後藤 ひとりちゃんなら、俺が望んだ景色を作ってくれるんじゃないかって、淡い期待を抱いている。そんな他人に勝手に夢見て期待してる酷い話を。
やっぱり俺は、ちゃんとしたクズのバンドマンらしい。そう自覚して自嘲気味に苦笑した。
主人公と星歌さんの関係
実は元カレ元カノ同士。
喧嘩別れとかしたわけではなく、お互いのために身を引いた感じ。
なのでまた付き合う?と言えばヨリを戻せるぐらいには仲が良いが……
主人公はヨリを戻すと絶対依存するからそういう話は切り出さない。と決めている。それにこんな俺より絶対釣り合う人出てくるだろうし。とも思っている。
対して星歌さんは先輩にまだその気があるならヨリを戻したいとは思っている模様。なお、ツンツンツンツンデレ(虹夏ちゃん曰く)なので、自分からは言いだせていない。PAさんとかに先輩盗られるんじゃないかって冷や冷やしてるのはここだけの話。