後輩の元ギタリストのライブハウスの店長に拾われた話   作:星ノ瀬 竜牙

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文化祭ライブが楽しみ過ぎるので初投稿です。
来週までお預けってマ?

ちょこっと主人公のボーカル兼ギタリストとしての側面が出てくるかもしれない。


オーディションの話

 春も終わり、梅雨も明け……いよいよ真夏に差し掛かるこの時期。

 

「えー、諸君。お待ちかねの給料だぞ?」

 

「「やったー!!」」

 

「や、やった……!」

 

 そう、ひとりちゃんたち『結束バンド』のみんながSTARRYでバイトを始めて一ヶ月が過ぎた頃である。高校生である彼女達にとっては念願のバイトのお給料ということもありテンションがかなり上がっていたようだ。

 懐かしいなぁ……俺も初めてのお給料のときはウキウキしたもんだ。

 

 まあ、もっともバンドをやる以上────

 

「じゃあせっかくのところ悪いんだけど……ライブ代徴収するね?」

 

「……聞いてください、新曲『さよなら諭吉』」

 

「ごめんね~!? 私だって心苦しいんだよ~!?」

 

 こうなるのである。お給料の半分ぐらいはライブ代にふっとんでいくと考えていい。つまり樋口一葉は確実に消え去る。悲しきかな。

 

「……あったなぁ、あんな時期」

 

「ですね……」

 

「俺らからするともう13、4年は前だもんなァ……」

 

「ぅぐ……やめてくださいその現実叩き付けるの……」

 

 俺の言葉にグサッと刺さったのは星歌であった。だってねェ……? 俺らもう三十路(30歳)三十路一歩手前(29歳)の店長副店長コンビなわけですから。年月の経過とは残酷である。天使のテーゼである。え、違う? 神話にはならない? そっかァ……

 

 そんな雑談をしていると、少し離れたところから音が聞こえる。

 ……どうやら、『結束バンド』最初の新曲ができあがったらしく、それを試聴していたようだ。

 遠くから聞こえるだけでもそれなりのモノが仕上がっている、と分かる。今聞こえているのは電子音だが……実際に生演奏になるとどれほどのモノに仕上がるのか……正直楽しみになってしまう。

 

「よし! じゃあ、来月ライブできるようにお姉ちゃんに頼んでくるね!!」

 

「え? まだ言ってなかったんですか?」

 

「大丈夫大丈夫! この前もすぐ出させてくれたし! ね、お姉ちゃん!!」

 

「あん? 出す気ないけど?」

 

「え?」

 

 ────まあ、当然。虹夏ちゃんのその期待を込めた言葉を蹴っ飛ばしたのは店長でありライブを仕切る当人である星歌だった。まったく、ほんと不器用な言い回しするなぁ……

 

「な、なんで!? オリジナル曲もできたのに!?」

 

「それはこっちには関係ないでしょ」

 

「あ、集客できなかった時のノルマなら払えるよ!?」

 

「……はぁ……お金の問題じゃなくて、実力の問題」

 

 ため息を吐きながら、次のライブのセトリ*1を決めていた星歌は虹夏ちゃんに向き直る。

 彼女の言い分はもっともだ。『結束バンド』は文字通りの無名バンド。実力は……まあ、ある程度できてきたが……それでもほかのバンドに比べればやはり劣る。それに、当然だが実績もない。そんなバンドをはいわかりました。と安請け合いして出演させられるほどSTARRYは甘くはない。

 

「っ……この前は出してくれたじゃんっ」

 

「あれは思い出作りのために特別にな」

 

「思い出作りって……」

 

「普段は審査とか色々やってるの知ってんだろ?」

 

「そう、だけど……」

 

「悪いけど、五月のライブみたいなクオリティなら出せないから」

 

 当然と言えば当然だ。即席だったし仕方ない面もあるだろう。それでもバンドとして出る以上下手なクオリティの演奏をライブハウスでやらせるわけにはいかない。それができるような店ではない。残酷な話だが、それなら路上でやってろ、と言われてしまうレベルなのだ。

 

「出せないって……じゃ、じゃあ私たちは……!?」

 

「……一生仲間内で仲良しクラブでもやっとけ」

 

「っ……」

 

 虹夏ちゃんが助けを求めるようにこちらを見つめてくる。だが、ここで手助けはしてやれない。否……()()()()()()()というべきだろう。ここで手を貸すのは『結束バンド』のためにはならない。

 だからこそ、俺は心を鬼にして首を横に振る。

 

「っ────」

 

「……まだなんかあんの?」

 

「未だにぬいぐるみ抱かないと寝れないくせにぃいいいい!!!」

 

「伊地知先輩!?」

 

 拗ねるように叫んで虹夏ちゃんはSTARRYから出ていく。……はて、ぬいぐるみ? 

 

「なんだ今の捨て台詞」

 

「……ぬいぐるみって、このヨレヨレのパンダとうさぎのこと?」

 

「あらかわいい」

 

 リョウちゃんがいつ撮ったのか、パンダとうさぎのぬいぐるみを抱いたまま寝ている星歌をほどよく加工した写真を星歌本人に見せつける。PAさんはそれを覗き込みかわいいという感想を抱く。うん、確かに可愛い。

 

 ってか、あれ……このパンダ……? 

 

「……初めてのデートのときに俺が取ったパンダじゃん。まだ持っててくれたのか」

 

「っ……!?!?」

 

「へぇ、意外……副店長ってこういうの渡せる人だったんだ」

 

「リョウちゃんもしかして俺に喧嘩売ってる????」

 

 言い値で買うよ? 俺だって恋人にプレゼントぐらい送るわい!! ヒトをなんだと思ってんだ君は!! 

 

「その画像は消せ!! 今すぐにッ!!!」

 

「えー」

 

「あ、リョウちゃん一枚だけもらってもいい?」

 

「あ、私もくださ~い」

 

「お前らなッ!!」

 

「さすがに冗談だって」

 

 これ以上弄ったら星歌が顔真っ赤にして怒ってきそうだし、自重しよう。うん。

 

「なにしてるんですかっ! 追いかけますよ!!」

 

「え~……」

 

「面倒そうにしないでくださいっ!? ほら、後藤さんもっ!」

 

「は、はいっ!!」

 

 嫌がるリョウちゃんを連れて、喜多ちゃんが虹夏ちゃんを追いかけてSTARRYから出る。

 それを見届けた星歌はため息を吐くと……ひとりちゃんを引き留める。

 

「まって、ぼっちちゃん」

 

「あっはい!?」

 

 あ、これガンとばされて色々言われると勘違いしてる顔だ。一ヶ月で俺、結構ひとりちゃんが何考えてるか分かるようになってきたなぁ。

 

「虹夏にこれだけ伝えといて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()────って、なにしてんの……?」

 

 お腹を見せて仰向けになって、服従のポーズしてら。可愛い。

 

「せ、精一杯、服従心を表現しようと……!」

 

「はやく追いかけないと見失うんじゃないの……?」

 

「あっ、は……ワンッ!!」

 

 ひとりちゃん犬になっちゃった。忠犬ぼち公になっちゃった。

 ────というか、さりげなくお前も写真撮るのやめな? 星歌? PAさんはクスクス笑ってるし……。いや、まあ気持ちは分からんでもないけどね。

 

「ほらひとりちゃん、行った行った。虹夏ちゃんをそれとなーく、フォローしといて?」

 

「ワンッ!!」

 

「うん、可愛いけどもう犬にならなくていいよ?」

 

「あっはい」

 

 そうして、虹夏ちゃん達を追いかけひとりちゃんがSTARRYからいなくなった後の店内。

 

「……ほんと、不器用なシスコンだよなぁ。星歌」

 

「ほんとですねぇ」

 

「うるさい、二人とも」

 

「まあ、俺としても『結束バンド』には成長してほしいし……気持ちは分からんでもないけどね」

 

 星歌のパソコンの中に記入されているセトリ内のバンド、その面子の中に『結束バンド』と記入がされているのだから思わず苦笑してしまう。

 

「……先輩にも付き合ってもらいますからね」

 

「へいへい、分かってますよ。ま、審査する以上……辛口でいくから。

 虹夏ちゃんたちが泣くはめになっても怒んないでくれよ?」

 

「承知の上で頼んでますから」

 

「それならいいけどね」

 

 そうやって信頼してくれてるのはありがたいけど……これで、俺がこんな演奏聞いてられるか!! ってキレるはめになった場合、星歌はどうするんだろ。ちょっと怖いな? 

 

「ところで、副店長さん」

 

「ん、なに?」

 

 PAさんがとんとん、と俺の肩をたたいて何かを聞きたそうにしている。はて、なんですか? 

 

「……犬、お好きなんですか?」

 

「え? まあ、好きだけど……どうした?」

 

「へぇ……♪」

 

 ……? PAさんが、こちらに? わざわざ顔を寄せて……? 

 

「私や店長がぼっちちゃんみたいなことしたら、どうしますか?」

 

「そういうセンシティブなお話はノーコメントで!!!」

 

 ナニを言い出してるんですかね君は!?!? 普通にドキッってするしPAさん普通に綺麗な人だから顔近いのめっちゃ恥ずかしいんですがっ!?!? 

 

「なるほどなるほど、そういうのはありと……」

 

「ナニも言ってませんがっ!?!?」

 

 この人たまに距離感近いからめちゃくちゃ心臓に悪いなァ!! あ、まって! 星歌さん!? 誤解です!! 怒らないで────って頬膨らまして拗ねてる!? 

 

「………………ふんっ」

 

「あらあら、店長が拗ねちゃいましたからこの辺で……」

 

 絶対この人俺を使って店長を弄びたいだけだなァ!? 見た目清楚っぽいのにピアスゴリゴリにつけてるギャルギャルしてる子の思考回路わからん! 怖いっ!! 

 

「心配しなくても、店長から副店長さんを盗ったりはしませんよ?」

 

「はあッ!? そんな心配してないけどっ!?」

 

 ──俺も、もうちょっとピアスつけたりしてヤンチャしとけばよかったかなぁ…………。学生時代はバンド以外じゃ文武両道の優等生で俺通ってたけど失策だった可能性がある……? 

 そんなことを考える今日この頃であった。

 

 ────

 

 翌日。

 

 

「え、なにその髪型、なにやってんの……?」

 

「ば、バンドマンとしての成長を見た目で表現! だそうです……」

 

 リョウちゃん発案のもと、容姿をきっちり整えてきた三人(虹夏ちゃんを除く結束バンドメンバー)がそこにいた。

 というか、そのスーツときのこヘアーのヅラ……ウチの裏手にあったやつでは? 

 

「やっぱりリョウか……」

 

「飲酒、喫煙、女遊び……そして髪型はきのこヘアー! それがバンドマン……!」

 

「ほぐあっ……!!」

 

「イメージがコテコテすぎる!! それに煙草もお酒も二十歳になってから!! あと副店長に流れ弾いってるからやめたげてっ!!!」

 

 ごめんなさい……飲酒も喫煙もバンドマン時代からやっててごめんなさい……クズギタリストみたいなことしててごめんなさい……

 え、女遊び……? 星歌に後ろから刺されそうだったししませんでしたよ……? 

 

「はい、きのこー!」

 

「虹夏」

 

「なに、満足した?」

 

「虹夏には目が半分隠れてうざったい感じの斜め前髪枠が空いてるから」

 

「そんな枠は結構です」

 

「ふぐうっ……!!」

 

「しまった!? 学生時代のお兄さんのバンドに斜め前髪枠いたの忘れてたっ!?」

 

 ごめんね……そんな枠のアホばっかりが集まったバンドで……コテコテのイメージすぎるバカ共の集まりでほんとごめんね……

 

「あ、あの……わ、私……女遊び無理です……私と遊んでくれる女の人がいません……!」

 

 理由が悲しすぎる者もここにいた。大丈夫だよひとりちゃん……そんなことしなくていいからね……

 

「大丈夫、下北沢のビレパン前でギターを背負って、気怠そうにしとけば誰か寄ってくるから」

 

「ごふうっ!?」

 

「こらこら! 偏見に満ちた情報を教えないっ! 真面目にやる!! あとそろそろ副店長に流れ弾当てていくのやめようかっ!!」

 

 リョウちゃんの偏見……だいぶウチの元バンドメンバーに刺さって心が痛い……それに付き合わされて、目から光を失った星歌に何度問い詰められたか……! 

 く、黒歴史……うごごご……月光蝶で消し去りたい……おヒゲのあるガンダムどこ……? 

 

「でも、成長って目に見えないし……判断基準ぼんやりしてる」

 

「ううん、はっきりしてるよ! とにかくお姉ちゃんと副店長を納得させればいいんだから! 練習あるのみ!! ほら、さっさと着替えて練習行くよ!!」

 

 ……おじさんもへこたれてないで、練習付き合うかぁ。……ちなみに弁明しておくと俺はきのこヘアーとか前髪うざったいタイプではなかった。

 ただでさえ視力悪くて眼鏡マンだったのに、前髪うざったくできるわけないんだよこちとら。

 

 まあ、そんな一幕があったのは余談である。

 

 ────

 

 そして、来たるオーディション当日。

 

 ステージの上には、『結束バンド』の四人が立つ。

 

 そして、俺、星歌、PAさんの三人は向かい側の席に座ってそれを見る。今の俺たちは審査員である。身内だからとか関係なく。厳しく見る側だ。これでダメならどの道今回のライブはなかったことにする。……頑張れよ。ここで呑まれたら、この先キツイぞ? 

 

「結束バンドです!」

 

 リーダーでありドラムの虹夏ちゃんによるバンド名の紹介。深呼吸をする。

 

「じゃあ、『ギターと孤独と蒼い惑星(ほし)』って曲、やります!!」

 

 四人がそれぞれ視線を合わせて頷く。……演奏が始まる。

 

「突然降る夕立、あぁ、傘もないや嫌、空のご機嫌なんか知らない────」

 

 喜多ちゃんのボーカル。……うん、俺が教えた通りだ。しっかりと歌えてる。歌詞もはっきりと耳に入ってくる。

 元々素質自体はあった。だからそれを磨くために基礎を教えた。土台を作った。

 ……すごいな、この二ヶ月でここまで仕上げられるのか。

 

 音で、ペットボトルの水が揺れる。

 

 ──学生としては確かに凄い。ここまでできるのは感心できるほどだ。

 だが、それはあくまで学生としては、だ。この先バンドをやっていくならまだ足りない。これだけでは足りない。

 どうする『結束バンド』、このままじゃ落ちるぞ? 

 

「「こんなに、こんなに、息の音がするのに」」

 

 音が、変わる。────ひとりちゃんのギターの音だ。彼女のギターが……『結束バンド』に、『ギターと孤独と蒼い惑星(この曲)』に今まで以上の色彩(いろ)を与える。

 

「「変だね、世界の音が」」

 

「「しない────」」

 

 ひとりちゃんが、サビに入る瞬間……ステージを踏み込む。瞬間だ。

 ほんの一瞬、まばたきするような一瞬で────彼女のギターの音が全てを引っ張るように……いや、違う。彼女の想いが全部音になって伝わってくる。

 

 緊張している、まだ怖い。人馴れしていないから余計に怖い。……そんな想いも伝わってくる。

 けど、それ以上に「このまま、バンドを終わらせたくない」と、彼女の音が鮮明に伝えてくる。

 

「……ははっ」

 

 ああ……それだ。俺が見たかったバンド。……────俺が欲しかったモノ。この子達なら、俺を。

 

自然と笑みが零れていた。右手が疼いていた。足がリズムをとるように動いていた。

 

 

 もちろん、ひとりちゃんのギターが凄いのは前提だ。だけど、それに瞬時に気付いて、カバーするようにドラムの虹夏ちゃんとベースのリョウちゃんが動いた。

 リードギターとして引っ張るひとりちゃんを後ろから支えるように演奏し始める。経験者だからこそだろう。

 

 喜多ちゃんは必死でまだ気付いていない、けど……それでも、彼女の歌もギターの音も……ひとりちゃんに引っ張られるように、上のレベルに踏み込んでいる。

 

 ────凄いな、本当に。

 

 これが、できるのか。この段階で、生まれたばかりのヒナみたいな……結成して半年も経たない少女たちがここに来れているのか。

 

「馬鹿なわたしは歌うだけ」

 

「────ぶちまけちゃおうか、星に!」

 

 そうして、喜多ちゃんが歌い切り……彼女達の演奏が終わる。

 

「「「「ありがとうございました!!」」」」

 

 うん、見事だった。拍手を本当なら送ってあげたいところだけど……これは、オーディションだ。

 ……俺がすべきことは履き違えない。星歌と視線を合わせて頷く。

 

「……いいんじゃない?」

 

 星歌はそう口に出す。当然、四人とも顔に笑みが浮かぶが……

 

「って言いたいところだけど……

 ドラム(虹夏)、肩に力入れすぎ。ギター二人(喜多ちゃん、ぼっちちゃん)、下向きすぎ。ベース(リョウ)は自分の世界に入りすぎ」

 

 続く言葉はそんな辛辣な指摘だった。

 ────当然、オーディションだ。採点する側は評価すべきところは評価して、ダメなところはダメだと指摘しなくてはいけない。ただ、今のは指摘だけだ。評価はしていない。……つまり。

 

「でも……まあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っく……」

 

 そんな不器用な星歌の褒め方に思わず、噴き出しそうになる。

 

「アドバイス……ありがとうございました……」

 

 ほら……四人とも勘違いして落ち込むように、俯いたじゃん。

 

「え、なにそのリアクション?」

 

「いや、だって……」

 

「だからどういうバンドか分かったって! ここ喜ぶところだから!」

 

 あ、ダメだこれ。俺が耐え切れん。

 

「ぶぁっはははっ!! ダァメだ! ひぃーっ!! 耐えようと思ったけどこれはさすがに無理!! お前分かりにくすぎるんだよ星歌っ!!」

 

「ちょ、なんで笑うんですか先輩っ!!」

 

「……え?」

 

「店長さんは合格って言いたいんですよー」

 

 俺は横でげらげらと笑うなか、PAさんが上手いこと星歌の足りてなかった言葉を付け足す。

 

「だから、そう言ってんだろ! 合格っ!!」

 

「いやさっき、全然お前言ってなかったからな?」

 

「「「「えーっ!?!?」」」」

 

「もうお姉ちゃん分かりにくすぎるよーっ!!!!」

 

「あーもう!! 先輩からはないんですかっ!!!」

 

「くくくっ……あん? 俺から?」

 

 虹夏ちゃんの訴えに笑いながら同意するように頷いていると、星歌からそんな風に話を振られる。

 そうだなァ……欠点部分はざっくりと星歌が教えてくれたし、俺からは……

 

「なら、俺からもちょっとだけ。まあ大方の意見は星歌と一緒だけど……まずはドラム。

 星歌の言う通り力みすぎたね。虹夏ちゃんはリーダーであると同時に、バンド全体を支える縁の下の力持ちともいうべきドラムだ。ここが土台である以上、一番ズレちゃいけない場所でもある。だから緊張するのも良いことだけどほどよく肩の力を抜いて叩くことを意識して。君の音を主軸にみんなが動くことを忘れちゃいけないよ? でも、途中のサビからの起点は見事だった。そこは虹夏ちゃんの強みだからどんどん活かしていこう」

 

「っ、はいっ!」

 

「うん、いい返事。じゃあ次ベース。この中だと確かに一番バンドのベースとしては最適解だった。

 ……けどまあ、過信しすぎてる節はあるね。今回は上手く嚙み合ったけど……このままだとズレが出てくる。星歌も言ってたけど自分の世界に入り込みすぎないこと。とくに『結束バンド』はギター初心者もいる。ペースを合わせることも大事だよ。演奏とボーカルの技術自体は文句なし、上手くボーカルをアシストできていたからそこはしっかり自分を褒めていこう」

 

「……」

 

 こくり、とリョウちゃんはこちらを見て頷く。うんうん、アドバイスをしっかり受け止められるのは良きことかな。次は……喜多ちゃんから行こうか、と俺は喜多ちゃんに視線を向ける。

 

「次、ギターボーカル。喜多ちゃん。まあやっぱり初心者だっていうのもあるし、ギターとボーカルの二足の草鞋だからまだまだ至らない点は多いね。この中だと一番課題が多い」

 

「うっ……そう、ですよね……」

 

「ただ、基礎をしっかり作った分歌唱力に関しては文句なし。歌詞がしっかり耳に入ってきたし……歌声から歌詞に乗せたい想いがちゃんと伝わってきたよ。数ヶ月だけしかやっていないとは思えないぐらいには成長してる。うん、そこは花丸だ」

 

「! ありがとうございます!」

 

「ただ、歌に集中するあまりギターが疎かになってるのはいただけないよ? もちろん、ほかのバンドだとギターボーカルの中には歌唱中は弾かないってところもあるけど……『結束バンド』はそうじゃないだろう? ギターとボーカル、どちらも完璧にこなせるように頑張ること。いいね?」

 

「はいっ!」

 

 うんうん、いい返事だ。おじさんもっといっぱい教えてあげたくなっちゃう。先生として教え甲斐があるなぁほんと。

 

「……じゃあ、最後に。リードギター。ひとりちゃん」

 

「っ……はいっ」

 

「途中、音に不安がいっぱい出てたね。良し悪しは分からない人はたくさんいるけど、それでも音に出てくる感情は確実に聞く人に伝わってくる。……演奏する側が常に不安を抱いてしまうのはわかる。けど、それを音に乗せてしまってはダメだ。僕らミュージシャンは観客を楽しませるものであって、不安にさせちゃいけない。そこは覚えておくこと」

 

「……はい」

 

「ただ……うん、サビ手前からの演奏は見事だった。ひとりちゃんが『結束バンド』に向ける想いが全部伝わってきた。今まで俺が聞いてきた君の演奏の中で一番良かった。……ひとりちゃんの音は、誰かの心を震わせることができる凄い音だ。だからこそ、そこには自信をもって演奏してほしい。君の音はすごいんだから、ね?」

 

「あ、アドバイスありがとうございますっ」

 

「うん、よろしい。まあ総括すれば……『結束バンド』の音がちゃんとわかったよ。四人それぞれの想いが音になって……それが1つになってしっかりと俺の心に伝わってきた。だから頑張れ、期待してるよ」

 

「「「「はい、ありがとうございましたっ!」」」」

 

 ……久しぶりにこんな熱く語ったかもしれない。それだけ、この子達に期待したからこそ。なんだろうけど。

 まあとりあえず……『結束バンド』のこれからが楽しみだ、と俺は彼女達を見て、笑みを浮かべていた。

 

 なお、このあと緊張の糸が途切れてひとりちゃんが虹色を吐いてしまったことは本人の名誉のためにも黙っておくことにしよう。

 

「……先輩、気付いてたんですか。ぼっちちゃんのこと」

 

「ン、まァな。……最初、すごいドヘタな演奏してただろ? あの時はまだ違和感を覚えたぐらいだったんだけど……ほら、バイト始めた当初の弾き語り。あそこで色々と腑に落ちてなァ。……やっぱり、凄いよあの子。多分本来のスペック引き出せたらあの当時の俺より上手いと思う」

 

「……そんなに、ですか」

 

 俺のその言葉に星歌は目を丸くする。俺がそこまで評価することってなかなかないもんな。

 

「おう、そんなにだよ……どれだけストイックに練習をこなしたらあのレベルに到達できるのかね」

 

 少なからず、死に物狂いで練習したのだろう。才能と血の滲むほどの努力の末に仕上がったものだ。後藤 ひとりのギターは。……だからこそ、俺が傍で見てやらないといけないだろう。

 

 ────俺のような、間違いだけは犯さないように。

 

 

「そういえば店長、本当は最初からあの子達出す気だったんですよね?」

 

「ぅっ……なんのことだよ……」

 

「だって、ライブスケジュールを一枠ずっと空けてたじゃないですか。なんであんな意地悪を?」

 

「い、意地悪とかじゃないから!! 納得できなかったら出す気はなかったよ。

 まあでも……粗削りだけど、感じるモノはあるし? 身内の私が厳しくして、バンドを育ててあげた方がいいじゃん?」

 

「ふふ……こういうのって、シスコンって言うんでしたっけ?」

 

「違うぞPAさん、星歌の場合はツンデレシスコンって言うんだよ。かなり重度の」

 

「先輩っ!!!」

 

「やっべ!怒った!!」

 

 俺の指摘に顔を真っ赤にして怒鳴る星歌。そこで怒鳴ると図星だって言ってるようなもんだぞぅ!! 

 

「ふふ、本当にお似合いですね?」

 

 俺と星歌がわいわいぎゃいぎゃい、と取っ組み合いをして攻防を繰り広げていたところを見ながらPAさんがクスリと笑って、写真を撮っていたことに俺も星歌も気付いていなかったのはまったくの余談である。

*1
バンドの演奏順などを決めるセットリストの略称




主人公

ぼっちちゃんの実力にすぐに気付いていた。
俺のようなギタリストにはならないように、と見守りつつ支える立場についている。
『結束バンド』の光に目を焼かれかけている。
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