後輩の元ギタリストのライブハウスの店長に拾われた話 作:星ノ瀬 竜牙
ちょっとシリアス気味な最新話です。
アニメ最終回のライブ良かったですね。
EDがアジカンなのも含めてマジで良かった……二期マダー?
「……あ? きくりと連絡がつかない?」
『はい、そうなんです……連絡かけたんですけど……』
「昨日なにしてたんだ……」
『打ち上げですね……』
「…………もう言わなくていい、予想はついた」
『すみません……もっと見とくべきでした』
申し訳なさそうに電話越しに謝ってくる岩下に対して何とも言えない顔になる。
大方そのまま酔ってどっかぶらついた結果その辺で行き倒れてるんだろうなァ……
「まあ、とりあえず……今日は仕事が非番だから、ある程度探してみるわ」
『お手数をおかけします……』
「いいよいいよ、そのかわり帰ってきたらこってり絞っといてくれ」
そうして岩下との通話を切って俺は頭を抱える。
「どうしたもんか……」
探す、とは言ったが正直心当たりがある場所がない。アイツの場合は特に。
酔ってその辺ぶらついてるから、というのもあるし、そもそも連絡がつくような相手じゃない。
……下手すると、川の中にダイブしてそうなヤツだし。……してないよな?
どんどん不安になってきたさなか、ティロリン、とスマホのロイン通知が入る。
「……あれ、ひとりちゃんから?」
どうしたんだろうか、今日はバイト非番だったはずだし……チケットを売りに────
あ、もしかして俺に売ろうとしてるのか……?
うーむ、と悩みながらロインを開いて、ひとりちゃんからのメッセージを見る。
えーっと……なになに……?
「『助けてください、酔っ払いのお姉さんに絡まれてます』」
…………。
「………………いたなァ……」
めちゃくちゃ心当たりがある人物の話が出てきた。世間、狭かった。
────
「いやーまさか、先輩と知り合いだったなんて思わなかったなぁー!!」
世間狭すぎでしょー!! と酒を飲みながら、
「ほ、ほんとですね……」
「…………お前マジでいい加減にしろよ」
対して俺は、少し苛立ったようにため息を吐き……ひとりちゃんは頬を引き攣らせていた。
ひとりちゃんにロインで助けを求められたあと、居場所だけ聞いて即座に俺は駆け付けた。
そしたら、案の定というか……ひとりちゃんの隣にいた酔っ払いは廣井 きくりであった。
ほんとに世間が狭すぎる……どうやったら職場の同僚と大学の後輩がばったり遭遇してそこに俺が駆け付けることになるんだ……
「ふ、副店長さんは……このお姉さんと、し、知り合いなんですか……?」
「ん? あー……大学時代の後輩なんだよ、きくりは。それで色々とな」
そういえば、ひとりちゃんは知らないよなーと、俺はきくりのことを話す。
「……んぇ、副店長~? 先輩、今お店やってるんですか~?」
「ライブハウスのな、STARRYの名前ぐらいはしってんだろ」
「星歌先輩のところじゃないですか~、もしかしてヨリ戻したんですか~?」
「えっ」
「ちげえよ、ぶっ飛ばすぞ酔っ払い」
余計なこと口出しやがってお前……って、そういえば……
「お前ベースどうした」
「え? ……あー……居酒屋に置きっぱなしですね!」
(さっきまで私のべースは命より大事なモノって言ってたのにッ……!?)
マジかコイツ、マジかコイツ!!!!! ちょっと前にもやったよなお前なァ!!!
「ようし! 取りに行くよひとりちゃん!! 先輩!!!」
「い、いのちが軽い…………」
「お前ほんといい加減にしろよなァ!!!?」
ひとりちゃんに悪影響出たらどうすんだよ!!
きくりに腕を掴まれ、連れて行かれるひとりちゃんを追いかけながら俺はヤケクソ気味に叫んだのであった。
ほんとコイツあとで絞める、マジで!!
結局、打ち上げの最後にまわった……らしい、居酒屋にきくりのベースは置いてあったようで、俺が居酒屋の大将に頭を下げてベースを回収することになった。
大将さんももう慣れたモノらしい。……常習犯すぎるなコイツほんとに。
「おかえり~! 我が半身~!!」
「お前ほんともう……やめろよマジで……」
めちゃくちゃ聞き覚えのある言葉を口走りながら、ベースをぽんぽんと叩くきくり。
(状況が謎過ぎる……)
……ひとりちゃんが困惑してるのがよく分かる。
「私のマイベース! スーパーウルトラ酒吞童子EX! かっこいいでしょー?」
「あっはい、かっこいいです!」
「昨日のライブも大活躍だったんだけどねー! 打ち上げで飲み過ぎてさー!
気付いたら日が昇ってたし、全然知らないところにきてたんだよね!!」
「ほんとだよお前、なんで新宿からここまできてるんだよ……何時間飲んだんだお前」
酔い潰れたうえでよくここまで来れたよなお前マジで。
「えーっとたしか打ち上げが夜の10時からだったから……」
「……四時間以上は飲み倒したなお前」
「えっ」
それ大丈夫なんですか、って顔でひとりちゃんがきくりを見た。
「このままダブル太陽キメちゃってもいいんだけど……」
「…………」
ギロリ、と俺はきくりを睨む。
「この通り先輩の目が黒いうちはダメそう!」
当たり前だろうが。人の車に吐いたり、家に居座るヤツにそんなの許しませんよ俺は。
「あ、あはは……お、お酒好きなんですね……」
「うん! お酒飲んだら全部忘れられるからさ! つい!!」
「ぜ、全部……?」
「ほら、将来の不安とか!」
あと年金問題とか貧困格差とか色々!! と付け加えるきくり。
そんな政治家みたいな不安お前持ってねえだろうが。
「私はこれを幸せスパイラルって呼んでるよ! 真似していいよ!」
「えっ……」
「高校生にそんなもの押し付けるんじゃありません。ヤク中とかと一緒なんだよお前のそれ!!
ひとりちゃんもコイツのことは一々真に受けないようにな!!」
「あっはい……(……副店長さん、普段と違ってかなり辛辣だ……)」
こんなド腐れ女郎の傍にいること自体がよくない影響を及ぼしそうだ。ひとりちゃんとか虹夏ちゃんがコイツに憧れてピアスとか開けたりした時には俺は発狂する自信があるね。ダイス振っても失敗しそう。ああ! 窓に窓に!!
「まーピンとはこないよねー! でもひとりちゃんは大人になったら分かってくれそう!
絶対お酒ハマるタイプだよ! 顔見れば分かる!!」
「えっ……(お酒にハマった私……どんなのだろう……?)」
あ、これはひとりちゃんのいつもの発作がくるやつ────
「ぴぎゃあああああああ!?!?」
ほらきた!!!
「アッハハハ! もしかして君結構ヤバイ子~!?」
「ひとりちゃん!! 一回深呼吸しような! ほら、落ち着いて深呼吸!!」
ひとりちゃんは割と被害妄想が激しいというか、悪い方向に考えがちだからやっぱここ改善させてあげた方がいいよな!!
「す、すみません……取り乱しました……!」
「落ち着いたようで良かった……」
「いいよいいよ~、そういうの嫌いじゃないし~! そういやひとりちゃんはなにしてたの?」
そういえば……きくりに遭遇したことでなにをしていたのかすっかり聞くのを忘れていた。
「あ、私は────」
かくかくしかじか、とひとりちゃんは説明する。
つまるところ、チケット買ってくれる人を探すためにどうしようかと悩んでいて、ビラを配ろうとしたところできくりと遭遇した、とのことだったらしい。
「あー……ごめんなあ、ひとりちゃん。俺その日は普通にSTARRYでの仕事だからチケット買えなくて……」
「い、いえそんな……副店長さんには……お、お世話になってますし……」
(ほんとは買って欲しかったけど……)
「ぐすっ……なるほど……ひとりちゃんは、悲劇の少女だったんだね……えぐっ……」
「あっ、そ、そんな……」
同情してくれたことにめちゃくちゃ嬉しがってんなひとりちゃん……やっぱりチョロいよひとりちゃん……
「チケット売るのって……大変だもんね……! わたしも最初のころはすっごく苦労したよ……! ぐすんっ……」
「あー……まあ、そうだよなぁ……俺も昔はチケット売れなくて困ったもんだ……」
最終手段として星歌と星歌のお母さんにすみません買ってください……! って土下座したのは良い思い出である。
……ちなみに最終手段と言いながら、俺は結構な頻度で使っていた。
「そ、そうなんですね……!」
「よぉし……命の恩人のために私がひと肌脱いであげよう……!」
「ぶっ!? お前何してんだっ!?」
いきなり目の前でジャケット脱ぎ始めるヤツがあるかっ!?
俺は思わず顔を逸らして、ひとりちゃんの目を隠そうとする。
「へっ!? あ、あのわたしそういう趣味はっ!? そういうのはふ、副店長にっ!!」
「ひとりちゃん????」
いましれっと俺を売ろうとしたよね? 盾にしようとしなかった??
「私と先輩と、君で……」
「はわわわっ……!?」
「今からここで路上ライブをしましょー!!」
「……え?」
────は?
「え"」「は?」
いまコイツなんて言った??
「ろ、路上ライブですかっ!?」
「そうそう! 路上ライブ!! ビラもあるし、路上ライブで客を呼んで……チケット買ってもらうのが一番良いって!」
いや、まあ……たしかに一番この状況下だと最適解かもしれんが……!
「待て待て、いきなりは酷すぎるだろ……経験も少ないんだぞ、ひとりちゃんは」
「えー、でも今日はここら辺でお祭りもやってるみたいですし、人も多いから……路上ライブには最適解だと思いますよ?」
「そもそもアンプとか機材がないだろ、それどうする気だ!
それに! 俺は
「えっ……」
「あ、もしもし~! 私! はーい、生きてまーす!」
「聞けよッ!!!!?」
コイツ、わざとスルーして電話しやがったっ!!!?
「あ、今から路上ライブするんだけど機材持って来てくれない? あ、うん機材だけでいいよ! それとマイクも! うん! うん! じゃあよろしくー!」
ピ、とスマホの通話を切ってきくりはこちらを見る。
「────だって、こうでもしないと……先輩はこっちに上がってきてくれないじゃないですか」
「────────」
その目は、何処までも真剣で、酔いなど何処かにいっている様子だった。
お前、もしかしなくとも最初から────
「…………はぁぁぁぁ……」
俺は思わずため息を吐いて、空を見上げる。
────ほんと、コイツのこういうところは嫌いだ。見透かしてくるような、こういうところが、本当に可愛くない。
「あ、先輩……その……やっぱり、ダメでした……?」
のそ、と動いた俺を見て……少し怯えたように、きくりはこちらを見る。
別に殴ったりはしねえっての……むかしっから、酔いがさめると急に弱気になるんだから、コイツは。
「コンビニ……ワックスと、カラーコンタクト買ってくる」
「……!」
俺が発したその言葉の意味を、きくりは悟ったのだろう。少し顔を輝かせたのが、よく分かった。
……ほんと、星歌といいきくりといい……どうして、こうも俺に期待するんだか。
────
コンビニでワックスと赤いカラーコンタクトを買った俺は、それを使って髪型を弄る。
といっても、髪を上に掻きあげてワックスで固めてオールバックにし……カラーコンタクトで目を赤くする、それだけなのだが。
「…………はぁ」
なんでこんなことに、とため息を吐きながらきくりが横で機材を弄っている間にスマホのカメラで自分の容姿を確認する。
うん、相も変わらず憎たらしくて……心底大っ嫌いな、あの頃の俺の顔だ。いや、少しは老けたか……?
「よし、これで機材は大丈夫! みなさーん! 今からライブしまーす! タダなんで見ていってくださーい!!」
「あ……ア……アッ……!」
「ひとりちゃん、カオナシみたいになってるけど……」
大丈夫じゃなさそうだなこれ、話がとんとん拍子で進んだせいで状況しっかり吞み込めてないな?
「んぇ? 外でギター弾いたことないの?」
ひとりちゃんが、弾いたことがないからできるはずがない、とそうきくりに観念して告げる。
……まあ、その通りだ。ひとりちゃんは徹底的というぐらい、他者へ演奏を見せたことがないんだろう。
実際、オーディションでも……即席だった頃も、そうなのだろう、ということが音から滲み出ていたし。
「うーん……そんなに怖いなら、目を瞑って弾くとか? なーんて、人見知りなんだね~? わかるよ、私もそうだったしー」
俺が横でトントン、とマイクを叩いてマイクテストを行っている間に……
きくりからある言葉が聞こえてくる。
「でも、一応言っとくけどね……」
「あ、はい……」
「今目の前にいる人たちは君の戦う相手じゃないからね?」
────敵を見誤るなよ?
そう、ひとりちゃんにきくりは告げていた。
……そうだ、敵ではない。敵がいるとするならそれは……不安がったり、怖がっている自分自身。
いまここで、足を止めてくれている人たちは決して、戦う相手ではないのだから。
「先輩、大丈夫ですかー?」
「……言われなくとも、心配無用だ」
「……! ……やっぱり先輩はそうじゃないと────」
面白くない、とその先にきっとそんな言葉が続くんだろう。俺は薄々察しながらも……
「面白味がない方が、今の俺は好きなんだよ」
そんな風に突っぱねた。
「……そっか」
だからこそ、そんな少し残念そうな……寂しそうな声に、俺は少し罪悪感を覚えてしまった。
でも、悪いな……きくり。俺は、もう二度と、ステージには立たないって決めてるんだ。
だから……これは、今回限りだ。最初で最後だよ。お前と一緒にライブをするのは。
「それじゃあ始めますねー! 曲はこの子のバンド『結束バンド』のオリジナル曲でーす!
パチパチパチパチー!!」
「あっ、え、えっと……」
「……ひとりちゃん、きくり」
「ふ、副店長……!」
「────遅れるなよ」
「「っ────!」」
もう二度と、マイクを握ることはないと思っていた。大勢の前で、この喉を使うことも……歌うこともないと思っていた。本当に、捨てる気だった。
なのに、ひとりちゃんがSTARRYにやってきてから……そう思っていた日々が少しずつ、変わっていた。
歌を、教えることになった。かつてのように音楽を楽しいと思うようになった。
大きく息を吸う、ギターとベースの音が耳に入ってくる。懐かしい感覚だ。
大丈夫、まだ感覚は覚えている。
────ああ、本当に……
そう思いながらも、俺は目を開けて……マイクに命を吹き込んだ。
────
さっきの、副店長の一言……不思議な感覚だった。
まるで一気に引っ張られたような……空気が変わったような。
そういえば……副店長のこと、殆ど知らない。
昔、バンドマンだったってことと……店長さん虹夏ちゃん、お姉さんと昔馴染みだってこと以外私は何も知らない。
だからこそ、なのかな……副店長の今の言葉で、何かが変わって、私は少し気になった。
────ふと、ベースの音が耳に入る。
……すごい、お姉さん……即興なのに音に全く迷いがない、すごく自信に満ちてて伝わってくる。
楽しんでるんだって……!
「『あのバンドの歌がわたしには────』」
それに、副店長の歌も……聞いただけで分かる。次元が違う。あまりにも、遠いところに立っているようだった。
お姉さんのベース、私のギターにすごく嚙み合っている。
違う、
だって、私とお姉さん、そして副店長さんは……初めて一緒に演奏している、即興のライブなんだ。
本当は嚙み合うはずがない、あのときの……初めて虹夏ちゃんたちと演奏した時みたいに、ぐちゃぐちゃになる方が自然なのに……
私の演奏を確実に支えてくれるお姉さんのベースを更に調和するように……副店長さんの歌声が入ってくる。
私とお姉さんの演奏を確実に繋ぎ止めて、一つに纏めあげている。カリスマ、なんてそんな枠組みに納められるほどかわいいモノじゃない。
こんな芸当、どれだけの練習と才能があればできるんだろう。
きっと、気が遠くなるほどの練習を重ねて培った技術なんだ。すごい、お姉さんも副店長も────
それに比べて、私は────
お客さんに笑われてないか、怖い。顔を上げるのが怖い。人前で演奏するのが怖い。
「が、がんばれっ!!」
えっ……?
「ちょ、アンタ何言ってんのっ?」
「な、なんかギターの人不安そうだったからつい……」
「ついって……あのねぇ……」
応援、してくれた……? 私を……?
なんで? って思うよりも前に……ふと、副店長さんが言っていた言葉を思い出した。
『初めてのことは不安だらけだよね』
『最後に決めるのは自分自身』
『しっかり考えて、自分で答えを出すこと。後悔しないように』
『────ひとりちゃんの音は、誰かの心を震わせることができる凄い音だ。
だからこそ、そこには自信をもって演奏してほしい』
お姉さんの言葉を思い出す。
『今目の前にいる人たちは君の戦う相手じゃないからね?』
『────敵を見誤るなよ?』
ああ……そっか。初めから、敵なんていないんだ。私が勝手に怖がっていただけなんだ……!!
────ギターの音が変わる。
「「!」」
きくりと俺は、彼女の音が変わったことに気付く。
一気に安定感が増した。すごいな、この子は本当に。……このわずかな時間で、気付いたんだ。
ああ、この音だ。俺が聞きたかった君の音は……この音だよ!
だから、思わず俺は笑ってしまって、地面を思いっきり踏んづけた。
「「……!!」」
それは、俺から二人に向けた合図だった。
「『背中を押すなよ もうそこに列車が来る』」
まだいけるよな、上に。
ついてこいよ、できるだろ?
────先輩の音が変わった。
すぐに気付いた、多分、ひとりちゃんも。
さっきよりも一段階……ううん、二段階ぐらいレベルを引き上げてる。
それに対応するように、私とひとりちゃんの演奏のレベルも引き上げられる。
本当に規格外。歌声だけで、他の人のレベルを引き上げてしまう。
やっぱり先輩は凄い、これが当たり前にできる人なんだから。
そして何より……先輩のこの歌声に、ひとりちゃんも食らいついて……ううん、隣に立ってることだ。
ひとりちゃん、こんな風に演奏できるんだね。すごいなあ。この頃の私なんて、先輩の隣どころか、食らいつくことすらできなかったのに。
絶対にこの子は上がってくる、そう確信できるぐらいに。
楽しいな。愉しいなぁ……こんなにも楽しく演奏できるなんて、いつぶりだろう……?
私も、テンションがアガってきちゃった。でも、そんな楽しい演奏はすぐに終わってしまう。
きっと、ひとりちゃんもそうだろう。少し名残惜しいと感じつつも……フィニッシュに向けて、バチを動かす。
「『ほかに何も聴きたくない。 私が放つ音以外────』」
そうして、演奏が終わる。
立ち止まってくれた人たちの、拍手が聞こえる。
「ありがとうございました、ただいまの歌はこの女の子のバンド
『結束バンド』のオリジナル曲『あのバンド』でした!」
良かったぞー、兄ちゃん! ギターの子も凄く頑張ってた! ベース、すごかったなぁ……!
なんて、声援が聞こえてくる。
────すごいなあ、ひとりちゃん。この短時間で気付いて欠点克服するなんて……!
そうだよ、ひとりちゃん。ここにいる人は君の演奏が聞きたくて立ち止まってくれた人たちなんだよ!
かくして、ひとりちゃんは無事にチケットを二枚売ることに成功した。良かった良かった。
「こんなキラキラした時代が私にもあったはずなのに……うう……今夜はヤケ酒だ……!
先輩にも付き合ってもらいますから──── 先輩?」
「…………すまん、ちょっとトイレにいってカラコンとってくる」
そう言いながら、青白い顔になった先輩が席を外すのを見て……私は、やってしまった。と顔を顰めてしまった。
「やっぱり、まだ……ダメだったかなぁ……」
むしろ、やりすぎたのかもしれない。あの顔は、ダメだ。って理解できてしまう。
バンドをやめる、って言ってたあのときと同じ顔だった。
やっぱり私じゃ、ダメなんだなぁ……
「あ、あれ……お姉さん、副店長さんは……?」
「あー……ちょっと、トイレにいってコンタクトとか外してくるって」
「あ、そうなんですね……」
きっと、ひとりちゃんは何も知らないんだろう。あの様子を見るに……先輩はひとりちゃんを可愛がってるから教えたくないのかもしれないけど。
そしてふと、ひとりちゃんを見ると……ライブのチケットを一枚手にもってあたふたとしていた。
……あー、それがノルマの最後の一枚なのかな?
「そのチケット、私が買うよ?」
「え、いいんですかっ……!?」
「もちろん、私は普段新宿を拠点に活動してるから近いし……それに、そのライブハウスは知ってるからね!」
「あ、ありがとうございます!」
「おにころ五本分以上のライブ、期待してるよ~?」
「は、はいっ!」
そう言って、私は野口先生と五百円硬貨をひとりちゃんに手渡して……
「あ、そうだ……ひとりちゃん、お願いがあるんだけどいい?」
「……へ?」
私は、忘れないように……ひとりちゃんにあるお願いをした────
────
「う、げぇぇ……ぉ…………ぇ……!」
一人、トイレで嘔吐いて……鏡を見た。酷い面だ。やつれきったような……死にそうな青白い顔。
やっぱりダメだった。これだけは、もう無理なんだろう。
俺は
俺にとってのトラウマで、二度と、戻らないモノ。
何もかもぶち壊した自分が、何食わぬ顔で歌うことが許せない、ギターを弾くことが許せない。
全部壊しておいて、一人だけ幸せになろうなんて赦されない。
楽しいと感じた自分に嫌悪する、憎悪する、憤慨する。
「楽しんでんじゃねえよクソッタレが。
鏡に映る自分を睨みながら、俺はそう告げる。ああ、本当に憎たらしい。
「期待なんてするな、戻れるなんて思うな。
睨みつけたまま、俺はコンタクトもワックスも落として……いつもの自分に戻る。
……さすがにいい加減戻らないと、心配されるし……それに、星歌に気付かれる。
それだけは、ごめんだな。俺はそう小声で呟いて……トイレから外に出た。
────
「ごめん、お待たせひとりちゃん! って、あれきくりは?」
「い、いえ……お姉さんなら、先に電車で帰るって……」
「……そっか、今日はまあアイツにも迷惑かけたし、なんか奢ろうかと思ってたんだが」
アイツなりに、ひとりちゃんや俺のことを考えて動いてくれたんだろうし……その詫びぐらいはしようと思ったんだけどな……
「そういえば私……お姉さんの連絡先知らない……」
「ん? どうしたのひとりちゃん?」
「あ、いえその……で、電車賃が、私のライブチケット買ったせいで……お姉さん、なくなったらしくて……」
「……もしかして、払った?」
「…………はい」
………………前言撤回、高校生に金借りるようなクズには二度と奢らねえ。
「ひとりちゃん……今日迷惑かけたお詫びとアイツの電車賃」
「え、い、いや……でも、そんな……悪いですよ……!」
「いいから、受け取っておきなさい。ちゃんとあとでアイツにお金は返してもらうから。
……今までの分も含めて、利子つけて」
「…………あ、はい」
ひとりちゃん、今「お姉さん……副店長からもお金借りてたんだ……」って顔してるな……?
あと多分、バンドマンってお金なさすぎでは? って考えてるやつだ。
そうだよ、ひとりちゃん。バンドマンって基本的にお金ないんだよ。
「……ひとりちゃん? 俺の顔に何かついてる?」
「あっいえ……そういう、わけでは……」
「……?」
ひとりちゃんが帰り際にチラチラと、俺の顔を見ていたのが少し引っ掛かったが……
まあ……気にするようなことでもないか、と判断した。
だからこそ、ひとりちゃんが何を思って俺を見ていたのか……それに気付くことはなかったのだが。
主人公
自分の音楽ほど嫌いなモノはない。
それでも音楽に囚われている
どうしようもないほどに救いようがない男
ひとりちゃんが頑張っているところを応援している。
廣井 きくり
後藤 ひとりを導く良き(?)先人。
ベーシストであり、昔主人公のバンドの演奏に聞き惚れた過去がある。
今でも、あの人が舞台に上がって演奏してくれる日を待っている。
後藤 ひとり
みんなご存知 guitar hero。
お姉さんと副店長の技術に憧れと驚愕を抱いた。
お姉さんに頼まれたお願いを聞いて、
副店長を気にするようになる。