ろっく・ざ・らいふ   作:モモサト

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ジャンプ

 ………本当に、いろんな事があったな。

 

 

 ライブハウス「スターリー」での初ライブを前に佐藤元は、控室の椅子に座りながら、そんなことを感慨深く思ってしまう。

 

 

 ―――バンドを組んでライブする。

 

 

 ただ、それだけを目標に、ここまで頑張ってきたのだけれど………。

 

 ―――いざ目標を達成して、その場に立ってみると―――全てが夢の出来事のような、ありえない奇跡の連続であったように思えて―――現実感が無かった。

 

 自分の隣で、死人のように青ざめた顔で、必死に手に「人」と言う字を書いては飲み込む事を繰り返している―――相棒である後藤ひとりにバンドを組もうと誘われて―――。

 

 そんな一匹狼とボッチの根暗な二人だけ組だけのバンドに―――。

 

 初ライブの緊張と期待に武者震いするようにスティックで小さくビートを刻み続けている―――今や活動スケジュールの調整などの一切を取り仕切ってくれている、頼れる姐さんドラマーの井上知佳が入ってくれて―――。

 

 ご機嫌に鼻歌を歌いながらベースの感触を確かめている―――自分たちとは真逆の明るい性格で、バンドのムードメーカーとなっている天才肌のベーシストの羽良明日香が、最後の足りないピースを埋めてくれた―――。

 

 正式にバンドを組んで、まだ1月しか経っていないことが信じられないくらい―――

 

 

 

 ―――この一カ月という時間は濃密だった。

 

 

 

 凄腕のベーシストのアスカがメンバーになった事で、自分もギター・ボーカルという役目に戻ることになり、せっかく固めたネックのオリジナル曲のアレンジを考え直すことになったからだ―――。

 

 とは言え自分のギターは、喜多さんが誤って購入した6弦ベースと半ば交換という形になっており、今更返してというのも心苦しく、どうしたものかと思っていると―――。

 

 アスカのバンド仲間だった弘子さんという女性が、使っていたギターを譲ってくれる事になった。

 

 「この子も、使われないよりは、使われた方が嬉しいと思うから」と、儚げな雰囲気が不思議な色気を感じさせる弘子さんから、黄色と黒のギター(フェンダー・テレキャスター)を引き継ぎ。

 

 普段から笑みを絶やさないアスカが、真剣な表情で「大切にしろよ」と釘を刺してくるのに―――譲られたのはギターだけではないのだと漠然と悟った。

 

 そんな色々な思いが乗せられたギターをニュー・ウェポンに―――中学の頃からひとりのギターの足を引っ張らないようにと研鑽に積んできた甲斐もあって、何とかハイレベルな内の楽器隊の足を引っ張らずにやれている。

 

 そうして、自分のギターの分だけ増えたサウンドを、どう曲の中に組み込んで、活かすか。

 

 それだけでなくアスカが、新曲を書き下ろしてくれたので、その曲を仕上げるために毎日のように、自宅にスタジオ同然の設備が揃うチカとアスカの家に入り浸って、練習に明け暮れた。

 

 自分たちより明らかに音楽的な耳の感度が良いアスカの指導の下、自分の下手糞なベースでは生み出せなかった―――ドラムとベースのリズム隊の音が組み合わさって生まれるバンド音楽としてのグルーブ感の輪郭が固まってきて―――その力強く躍動感のあるグルーブに背中を押されて、引っ張られるように、自分たち上物(メロディー)の音も形になってきた。

 

 そんな毎日が戦いのような日々の中で、自分たちの音楽に手応えのようなものを少しずつ掴めてきた事で、どこかで力試しをしたいという欲も出てきて—―――。

 

 「何か目標があった方が良い」というチカの提案でライブに出演してみようと決めて―――お世話になっているライブハウス・スターリーの店長の妹さんでもある虹夏先輩に相談したところ。

 

 ちょうど7月末に「結束バンド」も、ライブへの出演を検討しているから一緒に出ないかとお誘いを頂いた。

 

 そのライブに出演する事を目標として決めてしまったがために―――ようやく活動が落ち着いてきたバンド活動が、また忙しくなってしまったのだ。

 

 デモ審査のためにアレンジし直した、オリジナル曲のデモ音源を録音し。

 

 アー写(アーティスト写真)を撮影し。

 

 ライブのためのノルマのチケット(動員を保証するためのチケットノルマ)を売り切らなければならない―――などの果たさなければならない課題が一気に舞い込んできたからだ。

 

 直ぐにでも送らなければならないデモ審査の音源は、既に一度録音した経験があったため―――前回の音源は音質が荒くなってしまった反省を踏まえて―――音質を改善して撮り直したものを送り。

 

 アー写の方は、少しのお金を掛けて相手の時間の都合が付けば、アスカの知り合いのカメラマンに撮ってもらう事もできると言われたが―――そんなお金もなければ、時間的な余裕もなかったので―――今回は、お手軽に自分たちで済ませてしまう事にする。

 

 どうせ、カメラマンが来たって、しっかりカメラ目線で写真に写るメンバーなどアスカくらいのものだし、何でもいいだろうと個人的には思ったのだが―――バンドのイメージをビジュアル的に伝える、とても大事なものなのだと怒られてしまった。

 

 そのため、その手のセンスが残念ながら壊滅的な自分とひとりは大人しく、チカとアスカに写真の構図も撮影場所も全て任せる事にする。

 

 その結果、アスカは「こういうのは弘子が得意だから」と弘子さんをカメラマン代わりに呼ぶと―――。

 

 自分は、下ろし立てのパリッとした無地の黒のTシャツに、直接白のペンキでNECKという文字とロゴマークを荒々しく書き込んだものを着せられて、アスカの家にある一人掛けの高そうなソファーに座すように指示された―――。

 

 そこで、胸の文字が見えるようにしながら、できるだけ偉そうに、ふてぶてしく座るようにと注文を付けられ―――細かい指導を受けながらも、それっぽいポーズを決めるに至り。

 

 そんな自分の周りを固めるように、いつもの恰好をした3人が楽器を持って、思い思いに立つ。

 

 何度か構図を変えたり、光量を変えたりしながら、1時間ほど掛けて計100枚近くの写真を撮った結果。

 

 普段より更に人相が悪くなった顔で、カメラを睨みつけるように見据える自分を中心に。

 

 左側にギターを持った、ひとりが茫洋と立ち。

 

 右側のソファーの手すりに自分に背中を向けるように腰掛ける、野球帽で顔を隠したチカが、ドラムスティックを肩に担ぐように掲げ。

 

 背後から自分の肩に手を置いたアスカが、しな垂れ掛かるように寄り添いながら楽しそうに笑う。

 

 ―――その写真が、最終的に一番雰囲気があるからという事で、自分たちのアー写に決定した。

 

 確かに少し退廃したような、反骨精神が滲み出た、雰囲気のある写真だが―――トゥイッターを使うようになって「匂わせ」という概念を学んだばかりの身からすると、少しアスカやチカとの距離が近すぎないかと心配になる。

 

 「ああ、それ狙ってるから」

 

 「うん、これ以上、モト君とヒトちゃんに変な女を近寄らせさせないためにも牽制しておかないと―――あと、モト君―――モト君の事は信じてはいるけど―――ネックのためにもバンドマンらしい女遊びなんて絶対させないからね」

 

 「あっ、はい」

 

 何を考えているのかニマニマと悪戯に楽しそうに笑うアスカと―――押しが強い相手に迫られたらコロッと落ちかねない脇の甘さのある、自分とひとりを守らなければという使命感に燃えるチカを前に―――ただ、頷く事しかできなかった。

 

 その上で、ひとりに「だ、大丈夫だよ、モト君、私たちにそんな事できる訳ないから」と慰めなのか、止めなのか分からない言葉を貰って―――そんな様子を見ていた弘子さんに思いっきり笑われてしまう。

 

 「仲良いんだね―――うん、なんか、すごく応援したくなるバンドだ」と言って貰えたことだけが唯一の救いだった。

 

 自分にそこまでモテ要素があるとは思えないのだけど―――歌っている時〝だけ〟は世界一カッコイイ存在に見えるのがバンドのフロントマンなのだと言われれば―――そういうものなのかもしれないが―――〝だけ〟を強調するのは悲しくなるので止めて欲しい。

 

 ただ、そんなに女にだらしないと思われているのは正直、心外だ。

 

 別に女に興味がないなどと変に硬派ぶるつもりはないし―――

 

 ―――た、確かに、自分たちが2時間近く掛けて通学していることを知ったアスカが、「それなら家に泊まっていけば」と言ってくれたのをキッカケに、一週間の内の半分近くをアスカかチカの家のどちらかに、ひとりと一緒に泊めてもらっているような状況で―――それを知ったサッツーに「佐藤は将来、ヒモになる才能がありそうだよな~」と笑われたりはしていても―――

 

 人として不誠実な事はしない、顔しか知らない蒸発した糞オヤジのような筋を通さない男には絶対に成らないというのが、誰に明かした事はなくとも、昔から己に誓った唯一無二の信念なのだ。

 

 ただ、そうは思っていても、ここまでチカが過保護になっているのには、しっかりとした理由があり―――前科がある身としては強く意見も言えない。

 

 前科というのは、デモ審査を突破して、ライブへの出演が認められたことでノルマのチケットを売り切るために、つい先日、地元の金沢八景で路上ライブをした時に知り合った、酔いどれベーシストが大半の原因だった。

 

 ―――というのも今日日は、何でもネットを介して購入できる時代だが、ライブハウス・スターリーのライブチケットは対面販売(電話予約のチケット取り置きはある)のみだ。

 

 そのため、チケットを売り切るためには、何処かでチケットを手売りで売らねばならず、身近な友人や家族などに売らねばならないのだが―――自分たちのバンド仲間である「結束バンド」は同じ演者側であてにできず。

 

 共通のバンド仲間であるエリさんは、幼馴染のカヨさんが「結束バンド」のサポートギターとして出演することから「結束バンド」のチケットを購入することになっており―――密かに当てにしていたサッツーも「結束バンド」のチケットを購入するという事で―――チケットを捌く身近なあては全滅してしまった。

 

 そこで、友人にバンドを入っていることを秘密にしているチカも含めて、家族以外にチケットを売る宛がない人間が3人になり、10枚近くのノルマチケットを持ち余し―――どうすればいいのかと頭を抱えていると。

 

 早々にノルマのチケットを売り捌き、余裕の笑みを浮かべたアスカが、それなら自分たちの地元である金沢八景でチケット販売を兼ねた路上ライブをしてみたら、どうかと提案してくれたのだ―――。

 

 確かに実質「ネック」の公式トゥイッターとなっている、自分のトゥイッターのフォロワーの大半は、地元の中学時代の同級生や下級生だ。

 

 ―――トゥイッターで路上ライブをすることを告知した上で、地元の花火大会の時期に合わせて路上ライブをすれば、もしかしたら10枚くらいならば旧友や顔馴染らが買ってくれるかもしれない。

 

 事実、トゥイッターで、ライブをすると告知したら見に行くと言ってくれていた人もチラホラといたし、その人たちに手渡しでチケットを売るのだと思えば勝算が全く無い訳ではない。

 

 そこに一縷の希望を見出し、路上ライブのやり方を知っているというアスカの指示に従って、花火大会の見物客で人通りが増える夕方の時間帯の路上ライブは禁止等々の誓約を受けながらも―――路上ライブの許可を取り付ける。

 

 そして路上ライブ当日、チカとアスカは、チカのお母さんが運転する車に機材等を詰め込んで現地に来るということで―――自分は家からアンプ等の重い機材を持って、トイレに引き籠るひとりを連れ出し、約束の時間よりも早く集合場所に向かった。

 

 金沢八景駅から少し離れた、海沿いを走る金沢シーサイドラインの高架下が路上ライブの許可を取った場所なのだが―――車の通りが多い場所ため、集合場所はそこから一番近い駐車場となっている。

 

 その集合場所に向かう道中にある近所の神社前、そこに問題の酔いどれベーシストは倒れていた。

 

 一駅隣の「金沢文庫駅」や「追浜駅」近辺などは飲み屋なども多いため、朝早くに行くと大学生くらいの人が酔い潰れているのを見る事は稀にあったが―――昼時の金沢八景の市街地のど真ん中で生き倒れている人を見るのは初めてで―――。

 

 最初は見た時は、何かの事件か、急病者かと、ともかく本気で焦った―――救急車を呼ぶべきか、いやまずは意識があるかを確かめて、いや、でも倒れている人を下手に揺らしたりしたらいけないんだっけ? ―――ともかく冷静になって、やるべきことをやらなければと考えていると、ガシリと足首を掴まれて―――

 

 「み……ず、お水、く、だ、さい―――それと酔い止め、じじみのお味噌汁、おかゆも食べたい―――か、介護場所は天日干ししたばっかの、ふかふかの布団で―――」という酔いどれベーシストが、ただただ泥酔しただけの酔っ払いなのだと気付いた時には全てが遅かった。

 

 ―――最初はヤバイ奴に捕まったと思ったが話してみると気の良い人で、信じ難いが昔の自分と重なることがあるという、ひとりの事をいたく気に入ったらしく。これからノルマチケットを捌くために初めて路上ライブをすることに緊張している自分たちに「アドバイス」をくれた。

 

 「足を止めて君達を見てくれる人は敵じゃない、敵を見誤るなよ」とは、なかなかに蘊蓄に富んだ言葉であると思う。

 

 まぁ、水代、酔い止め代、しじみの味噌汁代、しめて約1000円―――帰りの電車代しかなくてお金を払えないから今度返すというが絶対に帰ってこないだろう―――お金の代金分には少し物足りないが―――その余剰分は今度のライブ成功のためにお賽銭したんだと考えれば、悪くないお金の使い方だったと精神衛生上のためにも、そう思っておこう。

 

 そして、「せっかくだから見に行くよー」と笑う酔いどれベーシストこと廣井きくりさんが、酒の入ったビニール袋は持っていても―――命より大事だというベースを昨日の飲み屋に忘れたというので、追浜駅前の問題の居酒屋まで案内していたら―――余裕を持って家を出た筈なのに時間ギリギリになってしまった。

 

 そんな問題がありつつも、メンバーと合流し、廣井さんとアスカが顔見知り同士だったことに驚きながらも―――お金が返ってくる可能性が増えたことを喜びつつ―――。

 

 路上ライブの許可を貰ったシーサイドラインの高架下に行くと―――既に中学時代の下級生や同級生が20人近く集まってくれていた。

 

 それを見て、先ほど廣井さんが言ってくれた言葉の本当の意味が分かったような気がした。

 

 準備と片付けを含めて約2時間の路上ライブは、残念ながら持ち曲は4曲しかないため、半分以上は流行の曲のカバーだったけれど―――車の通行音や浜風の音に負けないくらいに全力で歌って演奏していたら―――途中、警察官の人に道を塞がないようにと注意されるくらいに多くの人が自分達の歌を聞いてくれて―――。

 

 最初は、チケットの販売をチカのお母さんに頼っていたのだけれど、それだけでは手が足りずに、最初から来てくれていた水城ユウカに手伝いを頼むくらいに多くの人が興味を持ってくれて―――ノルマの10枚とは別に、少しでも売れたら良いなと余剰に持ってきておいたチケット30枚を全部、捌くことができた。

 

 その理由の半分くらいは、最初は誰もが自分達の実力を伺うように見ていた緊迫した空気の中、で「いいぞー」「さいこう」等々と観客側から盛り上げてくれた廣井さんのお蔭だろう。

 

 「君達は絶対に上に上がってくるよ、私のこういう勘は当たるんだ」と言って、最後のチケットを買ってくれた事と言い、廣井さんは本当に悪い人ではないのだけれど―――。

 

 チケット代金を払えないからと、ひとりにお金を立て替えてもらった事を横で見ていたチカに―――芋づる式に自分が水や酔い止め代、しじみの味噌汁の代金などを立て替えた事を知られて―――ついでに、チケットを買ってくれた6割強が女子だった事で、押しの強い女に対して脇が甘い危なっかしいコンビだと心配される事になってしまったのだ。

 

 ―――悪い人ではないのだと頑張って言い訳をしたのも、この場合は良くなかったのだろう。

 

 ―――「そうだね」と優しく微笑むチカの目には鬼子母神のような覚悟が宿っていた。

 

 

 

 

 ―――改めて思い返してみても、この一カ月の出来事は本当に目まぐるしおいくらい、騒々しくて………夢の出来事のように充実した日々だった。

 

 

 

 

 そんな日々を思い返して、ふっ、と思わず笑ってしまう。

 

 「おーおー、流石は我らが大将、余裕そうだね」

 

 そんな自分の様子に気付いたらしい、アスカがニヤリと笑ってカラカウように言ってくる。

 

 そんな自分たちのやりとりに、必死に緊張を振り払おうとしていた、ひとりとチカの目が此方に向くのが分かった。

 

 「……まー、そうだな、この根暗コンビが本当にバンドを組んで、ここまで来たんだって奇跡に比べりゃ―――初ライブの緊張なんて楽しみでしかねぇーな」

 

 隣で震えていたひとりの肩を抱き寄せて、頭をグシャグシャと撫で回してやりながら不敵に笑うと―――緊迫していた控室の中の空気の温度が上がっていくのを肌で感じた。

 

 「だ、だね」

 

 「ふふふ」

 

 「確かに、ここまでの事を思い返せば、楽しみでしかないなー」

 

 そんな自分の不敵な笑みに応えるようにバンドメンバーの3人も笑う。

 

 その時、コンコンと控室を叩くノックの音がしてガチャリと扉が開き、虹歌先輩の姉である店長さんが部屋に入って来た。

 

 「時間だぞ―――なんだ、少しは緊張を解してやろうと思ったんだが、思ったより余裕そうだな」

 

 「まぁ、そこそこはですね」

 

 「そうか―――それじゃあ、いい事を教えてやろうか、今日、集まった客の大半はお前等を見に来たそうだ―――台風のせいで人が集まらなかったってのもあるが―――初出場の初ライブで一番多く客を集めたなんて奇跡みたいな快挙だぞ、お前等」

 

 そう普段は少し鋭い目付きが近寄りがたい店長さんは、鋭い目付きを緩めて褒めるように言ってくれる。

 

 「あはははは、そりゃ出来過ぎですね―――でも、ありがとうございます。お陰で、気合が入りました」

 

 「ふん、それじゃあ直ぐ来いよ」

 

 そう言い捨てて恥ずかしそうに扉を閉めて出ていく、店長を見送ると、すぐ脇に置いていた弘子さんから送られたギターを手に取り立ち上がる。

 

 「そんじゃあ、まぁ、せっかく奇跡が立て続けに起こってくれたんだ―――最後にもう一丁、俺達の力で奇跡を起こして―――そうだな―――伝説にでもしてやるか?」

 

 「あはははは、そりゃいいね、乗ったよ、大将」

 

 「う、うん」

 

 「うん、やってやろう」

 

 アスカが手を前に差し出してくるのに合わせて、円陣を組むようにして手を重ね合わせながら笑う。

 

 自然と全員の視線が自分に集まってくるのに不敵な笑みが漏れる。

 

 「行くぞ、お前等」

 

 「はいよ」

 

 「う、うん」

 

 「行こう」

 

 ―――叫ぶ必要などない。ただ、お互いの目標が同じなのだと決意を確かめ合うように言葉を交わし、控室を出る。

 

 控室を出てスタッフの人に誘導されて廊下を歩いていると、急に胸がドキドキして緊張が蘇ってきたが―――明るいステージの上に出た瞬間、わぁぁーという歓声が上がった瞬間に、そんな緊張も吹っ飛んでしまった。

 

 ギターとアンプ、エフェクターを繋ぎ、マイクスタンドの高さを調整しながら薄暗い会場内をゆっくりと見渡していくと。

 

 既にライブを終えている「結束バンド」の面々がいて、バンド仲間のエリさんとチカさんがいて、菊池、旧友らがいて、水城がいて、ミワちゃん、チカの妹さん、廣井さん、路上ライブでファンになったとチケットを買ってくれた大学生のお姉さんたちがいてと―――これまでに知り合った人たちの顔が確認出来て―――色んなものがこみ上げてきて、涙がこぼれそうになったのを噛み殺す。

 

 気持ちを落ち着けるようにネックの仲間たちの事を確認すると、全員、ライブの準備は整っているようで―――いつでも行けると力強い視線を自分に向けてくれる。

 

 それに「行くぞ」という思いを込めてニヤリと笑い返すと、観客席に向き直る。

 

 「あー、あー、どうも、皆さん、こんばんは『ネック』です。台風の中、ライブ会場にまで足を運んでくれて本当にありがとうございます。

 ―――このライブは自分たちの『ネック』の初ライブで、本当に色んな人に助けてもらって、自分たちはこの舞台に立たせて貰いました。

 だから――あー……この場を借りて、いろいろ感謝とか、個人的な感傷とか、いっぱい言いたい事はあるんですが―――とりあえず歌います。

 それが今の俺達が、ここに来てくれた皆さんに返せる最大限の感謝の形だと思うので―――そういう色んな思いを全部乗っけて歌いますんで、聞いて下さい」

 

 この胸の中に湧き上がった熱が消えてしまわない内に歌ってやろう。

 

 

 「―――ネックのオリジナル曲で『ロック・ザ・ライフ』です―――」

 

 

 チカの3カウントで始まったライブは―――

 

 学園祭の時のような「ある意味伝説のライブ」時よりは、少なくとも、まともで高尚な伝説として「スターリー」で語り継いでくれているようだった。




終わりです。

ここまで読んでくれて、本当にありがとうございました。

オリキャラ出し過ぎだなと自分でも思いましたけど、オリキャラたちはネックのメンバー候補として考えて、没になってしまった子達で、ごめんよーという供養も兼ねているので、消すに消せなかったです。

もっと喜多ちゃん、虹夏ちゃん、リョウ先輩を出したかったけど、オリジナル展開に進んじゃったからね、クソが。

という個人的な言い訳と反省をさせてもらいつつ、根暗共がバンドを組むまでの物語として、ここで完結にしたいと思います。

改めて、最後まで読んでくれて、本当にありがとうございました。
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