ただそれにも限度はあって、度を越すと面倒なもんです。
まあ、それもまた人生。
いつだって、なるようにしかならない。
どういう頭の配線してるのか知らないが、守屋マネは「ひなっちをフッたのが気に入らない」と何度も俺に突っ掛かってきた。
そう言われたって、どうなるもんじゃない。雛と仲が良いらしいし、きっと友達思いの行動なんだろうけど俺にはなにも言えないんだ。
雛が嫌いな訳じゃない、でもそれは
……んだけど、なあ。
どうにも守屋マネにはそれが通じないらしく、言っても言っても平行線。それにこの人の姉は千夏先輩の親友だ、変に強く出て妙な話をでっちあげられたら堪らない。だから最近は表立って反論したりせず、言われるまま受け流す事にしていた。
それが最善だと思っていた、のだけれど。だけれども、甘かったようだ。
自分の頭の悪さを嘆きつつ、俺は目を伏せるしかない。
「今日こそはちゃんと話を聞かせてもらうからねぇ!」
そう言いながら俺の首根っこを掴んで、喫茶店まで引っ張ってきたのはまだ良い。いやまああんまり良くないけど。
それ以上に問題なのは、目の前の事。向かい合う席の向こうには、運ばれてきた季節のジャンボパフェに挑戦中の――千夏先輩がいるのだ。
「ちーちゃんはね、菖蒲のお姉の友達なんだよ。今日は立会人?みたいな事してもらうの。後で言った言わないになると面倒だからね!」
いやそんなもん撮影でも録音でもなんでもしろよ、なんでわざわざ言質取るために人を連れてくるんだお前は。しかもよりによって、この人を。
当然守屋マネは、俺たちの
何故雛と付き合えないのか。
何故告白されたのに、
そんなのは、たった一つの理由しかない。
俺は千夏先輩が、好きだから。
でもまさかここでそう言うわけにいかないし、雛との関係を誤解されたくない。千夏先輩は俺をただの後輩としか思っていない、それは確かな事だ。でも俺としては、この人に変な気を遣って欲しくないんだ。前も俺が雛を好きだと勘違いして距離をおこうとしたり、いっそうちを出ようかとか言い出したし。どうも千夏先輩はそういう所あるからな。
だからそう、できればここは穏便に済ませたいんだけど。
「ちーちゃん、食べてないで聞いてってばぁ。いのたってばヒドイんだよ、ひなっちが告白したのに「好きな人がいるから付き合えない」ってフッたの!有り得ないでしょ!?」
守屋マネはこっちの考えを全部無視して、最短距離で言って欲しくない言葉を叩き込んでしまう。大きなパフェを上から攻略に取りかかっていた千夏先輩も、さすがにスプーンが止まってしまった。まあ、そりゃね。多分この人、俺と同じでなにも聞かされないまま来たんだろうから、突然の話であれこれビックリはした筈だ。
と言うかさ、守屋マネ。告白したとかフッたとかそういうセンシティブな事をオープンな場所で言うんじゃねぇ、少しは考えろ。そういや匡も突然中指立てられたって言ってたし、誰にでもこうなのかコイツは。
いやそれはこの際、どうでも良い。
「そっか、た……猪股くんに好きな人がねぇ。それで蝶野さんを、か。ふーん」
興味があるのかないのか、その表情は相変わらず読めない。それでも、千夏先輩には聞かれたくなかったのに。
スプーンを止めたまま、千夏先輩は少しの間だけ固まって。そしてその後、複雑そうな顔で天井を扇いだ。
「んー……
「そうだよ! 女の子が勇気だして告白したんだから、好きになってあげるのが優しさでしょ!? いのたってひなっちとずっと仲良いんでしょ、なんで傷付けるようなことするのよ!! あんな良い子が好きになってくれたのに!!」
怒りに声を荒げる守屋マネ、自分の正しさを疑わない真っ直ぐな発言に気圧されてたじろぐ千夏先輩。
きっとその言葉は、優しさから出来ている。雛を気づかいたい、守りたいと言う熱い友情がそこにある。
それは俺の無い頭でもわかる、でもそれは――それは。
「じゃあ「好きじゃないけど可哀想だから」って理由で付き合ったら、雛は喜ぶのかよ。そんなわけ、ないだろ……」
拳を握り締めて俺は、偽りの無い本心を吐露していく。
俺だって雛をいたぶりたい訳じゃない、アイツは大切な
好きだと言う気持ちは、変えようがないんだ。そこを無理矢理曲げて付き合ったって、お互いを害しあうだけでしかない。きっぱりと区切りを付けて、それぞれの道を歩むべきだ。勿論雛が俺を罵倒しようが殴りかかってこようが、それは受け入れる。その痛みも苦しみも、お互いの為だから。
それでもまだ俺が一方的に悪いと言うならもうそれで良い、無理に納得してもらおうとは思わない。
人の気持ちなんて、本人にさえ分からないんだから。
好きな人の名前以外全て言い尽くした俺を、まだ怒りの冷めないまま拳を握り締めている守屋マネが睨み付ける。それを制してくれたのは、誰あろう千夏先輩だ。
「そう……だね。私は猪股くんの方が正しいと思うよ、気持ちが向くかどうかは本人にしか決められない。好きになって貰ったからって相手を好きになれるほど、猪股くんは器用じゃないだろうし」
それに、と千夏先輩は更に続ける。
「こういうのは当人同士の問題で、菖蒲ちゃんがそうやって引っ掻き回すのは良くないよ。もしこうやって
バッサリと正論で切り捨てられ、さすがの守屋マネも黙ってしまう。俺相手ならまだしも、千夏先輩に食って掛かるほどの蛮勇では無いんだろう。年上の貫禄ってやつか。一つしか違わないのに、どうしてこんなにも大人なんだろう。来年になったら俺もこうなれるのか、いや無理だな絶対。
そうこうしている間に先輩はパフェだけでなく追加で頼んだコーヒーも胃の腑に収め、そして伝票を手にして立ち上がる。
「まあ、さ。菖蒲ちゃんが友達を心配するのを悪いとは言わないよ、でももうちょっと気を遣ってあげようね。この手の話って、嫌がる人も多いんだから」
ここは払っておくから、二人とも遅くならないうち帰りなさいね。そう言うと千夏先輩は後ろ手を振って店を出て、そして残されたのはバカ二人。
話すことは全て話して、これ以上はやっぱりどこまで言っても平行線。
それは御互いに分かっているだろう、だからこそ再戦の火蓋は切って落とされない。
「……帰ろうか」
「……そだねぇ」
さっきからエキサイトし過ぎて周囲からの視線も痛い、切り上げるべきだ。
あれこれ思うところはあるけど、ここまでにしよう。
どうせまた明日には、色々突っ掛かって来るんだし。
ああ全く、大変だな。
「さっきは大変だったねぇ、大喜くんや」
「えー……と、本当にご迷惑お掛けしました」
帰って夕飯を終え、自室にて俺は千夏先輩に頭を下げている。勿論今日のあれこれを詫びるために。
まあ千夏先輩は怒った感じじゃなく、むしろ俺を心配してくれているみたいだけど。
――と。
その顔を見ていて、俺はふと思う。この人、どうして俺が告白されたのを知っていたんだろう。まさか雛が言うとは思えない、そこまで仲良く無い筈だし。とは言え守屋マネが知ってた辺り、そこそこの人数が把握してたりするのか。でも――。
「そう言えば大喜くん、好きな人がいるそうですね」
いきなり飛んできた言葉の一撃に、考えていた事が全てふっとんでしまう俺。それに気付いているのかいないのか、千夏先輩はニヤニヤ笑って俺を見詰めている。
ここでそう来るか、この人は。
喫茶店でのぶちまけ話なんて、これに比べたら小さいことだ。逃げ場の無い密室で二人きり、その状況でこうなる事に比べたら。
さあ、どうしよう。どうにかお茶を濁すか、それとも――それとも。
返す刀で、こっちから踏み込んだらどうなるかな。俺が好きなのは貴女です、と。
真顔で却下されるか、それとも呆れて笑うだろうか。なんにせよ恥をかくだけだ、人間恥じゃ死なないんだから。
息を飲んで拳を握り、俺は覚悟を決める。
さあ、行こうじゃないか。ここが命の捨て所、ってね。
とりあえずなんとか形になった感じですかね。