「おお〜、凄いね」
「……確かに」
シェリーから頼まれたおつかいを無事に済ませ、外が夜に包まれた頃。『強欲の瞳』の制御装置であるアーティファクトの調整が終わり、俺達は次の行動を開始することになった。
敵側に見つからずに移動する策としてシェリーが提案したのは、副学園長の部屋に作られている隠し通路の使用だった。本棚の本を奥へ押し込むと、地下通路への隠し扉が出てくるというロマンの塊を見ることが出来た。
「こういうの大好き」
(分かる)
男でこういうの嫌いな奴はそうそう居ないんじゃないか。普段ならシドに共感するなんてのは嫌だが、こればかりは頷くしかない。
「……お父様、必ず助けます」
そんなアホ二人とは違って真剣な表情を浮かべるシェリー。ごめんなさい。空気読めなくて。
「お父さん、無事だと良いね」
「シド君……。本当にありがとう」
「ほんの少し助けただけさ。もう僕に手伝えることはない。ここからは君の力で、世界を救ってくれ」
(なんか規模デカくなってねぇか?)
学園の危機から世界の危機へ拡大。特に意味も無く言いたいから言っただけだろう。状況が状況なだけに、それっぽいと感じるのが腹立つ。
「ご安心を。この先も俺が護衛します。行きましょう」
「は、はい! よろしくお願いします!」
「シド、お前はこの部屋に隠れてろ」
「うん。そうさせてもらうよ」
明かりとなるランタンをシェリーが持っているので、先に隠し通路へと入ってもらう。俺は暗闇でもそれなりに視えるし、ランタンがなくても問題はない。
シェリーがある程度離れたことを確認し、俺はこれからシドが起こすバカ騒ぎに対して釘を刺した。
「シド。俺が居ないからってはしゃぐなよ?」
「分かってるよ。ライはシェリーを護ってあげて」
「……後で行く」
サッと会話を切り上げ、シェリーの背中を追って隠し通路へと入る。この後シドは敵が籠城している大講堂へ行くのだろう。【シャドウガーデン】のみんなも居るし、心配は要らないと思うが。
(……あっ、思ったより暗い)
俺は少し焦りながらシェリーを追いかけた。
隠し通路を進み始めて数分。足場が悪いのでコケそうになったシェリーを五回ほど助けたこと以外、俺達は順調に歩みを進めていた。
「す、すみません。ご迷惑を……」
「いえ、仕事ですから」
言い方はアレかもしれないが、こう言っておけばシェリーが気にすることもないだろ。仕事でやってるってのは事実だしな。
「そうだシェリーさん。一つお願いがあります」
「はい? なんでしょう?」
「俺と一緒に行動していたということを、シド以外には秘密にしてもらいたいんです。特に『紅の騎士団』には」
「な、何故ですか?」
本来俺はここに居たら物理的におかしい人間だからです、とは言えん。俺は不本意ながらお得意となった言い訳を考え、親しみやすそうな声音でシェリーへ返した。
「……実は、今回の護衛は俺の独断行動でして。『紅の騎士団』に知られれば厳罰、最悪の場合退団させられるかもしれません。身勝手な言い分だとは思いますが、どうかお願いします」
「……それでも私を助けに来てくれたんですね。……ライ君もシド君と同じで優しいです」
アイツと同じとか俺にとっては侮辱に当たるんだけど、今は我慢だ。
「分かりました。ライ君に護ってもらったことは誰にも言いません。──お友達としてお約束します!」
「……助かります」
セーフ。これで事件解決後の事情聴取でドッペルゲンガー扱いされることはなくなった。そんなことになったら誤魔化す方法なんてないし、『紅の騎士団』も学園も辞めて、【シャドウガーデン】一本でいくしか無くなるもんな。……いや、それはそれで良いんだけどさ。
(まあ俺も、お飾りの副リーダーだけどな)
シドのことをお飾りのリーダーと言っているが、実質俺もお飾りだ。組織を大きくしてきたのはアルファを始めとした【七陰】達。俺が何か貢献したのかと言われれば、返す答えは特に無い。
俺がシドの子守り以外にやってきたことなんて、シドの代わりにメンバーを鍛えたり、シドの代わりに組織からの定期報告に目を通したり、シドの代わりに本拠地に顔を出したり……あれ? 俺はそんなにお飾りじゃなくね?
「あの……ライ君」
「は、はい? なんですか?」
やっぱりシドの方がお飾りじゃねぇかとムカつき出していると、後ろを歩いているシェリーが声をかけてきた。顔は見えないが、どこか緊張しているようだ。
「シ、シド君とは……その、昔から親友なんですか?」
「……それなりに付き合いは長いですね」
かれこれ七年ぐらいは付き合いがあるか。我ながらよくやるよ。
「どうしてそんなことを?」
「い、いえ。私は小さい頃からお友達が居なくて……その、シド君が初めてのお友達だったんです」
初めての友達がアレとかお気の毒だな。……ん? これってブーメランなのか? いや、別にアイツを友達とは思ってないけど。
「だから、その、普通のお友達同士が何をして遊んだりするのか分からなくて……。あはは、お父様にも研究ばかりではダメだと言われてしまいました」
乾いたように笑うシェリー。申し訳ないが、俺とシドの関係は貴女が思っているようなほのぼのとした関係じゃないです。俺達を基準に考えるなんて『友達』の定義に失礼だ。
「良かったら聞かせてもらえませんか? 二人のお話を」
こんな状況からくる緊張を紛らわせたい意図もあるんだろうが、こうも期待するように訊ねられては断り辛い。
望みは薄いが、俺はシェリーが満足しそうな記憶を探してみた。
「お友達とはピクニックに行ったりするんですよね?」
(……ピクニック)
『ライ〜、盗賊狩りに行こうよ〜』
──却下。
「普通のことで笑い合ったり!」
(……普通のこと)
『見てよライ、この仮面のデザインカッコ良くない?』
──却下。
「一緒に何かへ取り組むのも憧れなんです!」
(……取り組む)
『違うって! 手紙の開き方はこう! 出来るまでやるからね!』
──却下。
「お友達同士の秘密というのもありますよね!」
(……秘密)
『ライは僕の右腕だから立ち位置は僕の右側だよね。いや、敵の方から見た右側のが良いのかな? そう考えると……僕の左側?』
──却下。
(……ろくな思い出がねぇ)
キラキラと憧れを語っているシェリーに合わせて記憶を呼び起こしてはみたものの、話せそうな内容が一つも出て来なかった。逆に清々しいまである。
「シド君とライ君も、そういうことをしてきたんでしょうか?」
「……え? ……あー、まあ、はい」
「わぁ! 良いですね! ……私もいつかやってみたいなぁ」
これで良い。俺が大人になりさえすれば、彼女の理想を護れるのだから。ウキウキと楽しそうな声を聞けば、シドへのムカつきも少しは落ち着く。
「──お母様が亡くなって一人になった私を……引き取ってくれたのがお父様でした。本当の娘のように愛情を注いでくれて、私は幸せ者です」
引き取ってくれたってことは、父親であるルスラン副学園長とは血の繋がりがないってことか。……この子も色々複雑なんだな。
「『強欲の瞳』の研究も、最初はお母様がやっていたんです。……だからこそ、私が『強欲の瞳』をなんとかしないと」
改めて気を引き締めるようにシェリーは自身の過去を語った。めちゃくちゃ重い部類だったので、俺は特に言葉を返せなかった。
「ごめんなさい。急にこんな話をして……。ライ君は聞き上手ですね」
「……いや、全然」
俺が返す言葉を探していると、それより先にシェリーが強い気持ちを宿した声音で口を開いた。
「──私はお父様を助けたい。私を助けてくれたように、今度は私がお父様を助けたいんです」
「……大丈夫。俺も居ますから」
「はい! ありがとう! ライ君!」
顔を見なくても笑顔だと分かる喜びの声を聞き、俺は少しだけ口元を緩めた。そして同時に、シェリーには気付かれないように目元を指で押さえた。
(……こういう話に弱いんだよな)
シドが居なくて良かった。アイツがこの場に居たら間違いなくからかわれていた筈だ。アイツは人の心なんて捨ててるから、シェリーの話を聞いたとしてもいつも通りの無反応なんだろう。
シェリーにも言ったが、俺が彼女を護るのは仕事だからだ。しかし、今の話を聞いて私情を挟まないほど俺は薄情な男じゃない。面倒なことであっても、出来る限りシェリーを手伝ってあげよう。
(……けど)
一つだけ気になることがある。国に管理されていたという『強欲の瞳』を──
様々な組織に根を張る『教団』が相手となれば、盗まれたとも考えられる。しかしそうならば国の方から盗まれたとの報告がされている筈だ。
アイリス王女は第一王女であると同時に『紅の騎士団』の団長。危険なアーティファクトが盗まれたというなら、事件として彼女の耳に届いていなければおかしい。だがアイリス王女からそんな話は聞いていない、つまり盗まれたというのは考えにくい。
(国の組織に『教団』が関わっていて、バレないよう隠蔽工作をした……? それとも……いや、これはないな)
とある可能性を考えはしたが、すぐに否定。
あり得ないというより、
もしもこの予想が当たっているのなら──あまりにも世界が厳し過ぎる。
「ライ君、もうすぐ大講堂へ出られる筈です」
「……油断せずに行きましょう。シェリーさん」
結末がどうであれ、俺のやるべきことは変わらない。
シェリーを護衛し、シャドウの様子を見に行き、身代わりをしてくれているニューと周りにバレないように入れ替わる。……やること多いな。
俺が静かにため息をつくと同時に、シェリーが石造りの隠しスイッチをガコンと押し込む。すると石の壁がゆっくりと動き出し、大講堂への抜け道が姿を見せたのだった。
「シェリーさん。体勢を低くして」
「は、はい」
無事に大講堂へ入ることに成功したシェリーとライ。大講堂内を上から覗き込める場所に出た二人は、敵に見つからないように移動を開始した。
「……なるほど。アイツか」
「はい。あれが『強欲の瞳』です」
ライが目星を付けたとある男に、シェリーも同意の頷きを見せた。二人が注目したのは大講堂内で唯一身体に鎧を付けている人物であり、ライは感知出来た魔力量から、シェリーはその人物が手に持っているアーティファクトから、その人物が事件の首謀者であると理解した。
「ルスラン副学園長は……居ないか。シェリーさん、まずは『強欲の瞳』の魔力阻害を解除しましょう」
「は、はい。……いきます」
父親を見つけたい気持ちを我慢し、シェリーはライの言葉に従う。解析の終わった制御装置を指でワンタップし起動させた後、手に構えて逆転の一手を投じたのだ。
「……えいっ!」
シェリーによって『強欲の瞳』へ向かって投げられた制御装置。空中で金色の光を放つと効力を発揮、魔力阻害を起こしていた『強欲の瞳』を停止させることに成功した。
「よし。ナイスです。シェリーさん」
「は、はぁ……ドキドキしました」
「まさかぶん投げるとは思いませんでしたけどね」
「あはは、上手くいって良かったです」
狙い通りに事が運んだので、シェリーとライの表情も和らぐ。そしてそんな二人の耳に届いたのは、魔力が解放された生徒達による反撃の雄叫びだった。
先陣を切ったのは生徒会長であるローズ・オリアナ。敵一人を蹴り飛ばして剣を奪い取ると、瞬く間に数人の敵を切り捨てた。
「シェリーさん。撤退しましょう」
「で、でも……」
「ルスラン副学園長は居ません。他の場所を探しに行きましょう。──それに」
血生臭い殺し合いの始まった大講堂だったが、天井のガラスが割られると同時に飛び込んできた一人の男によって状況は一変した。
漆黒のロングコートを纏ったその男はローズの近くへと降り立つと、真紅の瞳を光らせながら剣を天に向かって掲げた。
「我等は──【シャドウガーデン】」
いつのまにやら大講堂は黒コートに身を包んだ者達によって包囲されており、敵側に明らかな動揺が見受けられる。
「「「「「陰に潜み……陰を狩る者」」」」」
綺麗に揃えられた声で告げられる言葉。それを聞いた者達は動揺し、本能的に恐れを抱いた。表の世界に生きる人間からすれば、裏の世界で生きる人間など恐怖する対象でしかないのだから。
そして、一方的な虐殺が始まった。
圧倒的な実力差で【シャドウガーデン】側が次々と『教団』を斬り捨てる。粘る者も中には居たが、数回剣を交わす内に命を散らした。
「……凄い」
「今の内にここを離れましょう」
「は、はい!」
自分とは違い驚くほど冷静なライへ頼もしさを感じながら、シェリーは意識を切り替える。ここに父親が居ないと言うのなら別の場所を探すだけ。諦めるという選択肢は持ち合わせていないのだ。
「……雑な奴だ」
「ふぇっ?」
「逃げますよ」
「ラ、ライ君!?」
突然ライに抱えられたシェリー。走り出したライの表情には焦りが浮かんでおり、早くこの場を離れようとする意思が感じ取れる。
「どうしたんで──ッ!!」
荷物のように抱えられながらシェリーが訊ねようとする。しかし、それはどこからか巻き上がった爆発と燃え上がる赤い炎によって止められた。
数秒とかからずに炎で包まれる大講堂。生徒達は急いで脱出を試み、ローズの指示によって退路を確保している。
そんな生徒達とは裏腹に【シャドウガーデン】は冷静そのもの。敵を残らず殲滅した後、天井近くの窓から幻のように姿を消した。
「た、助かりました……」
出て来た隠し通路へと滑り込み、炎から逃れたライとシェリー。危機一髪だったこともあり、シェリーは安堵の一息を溢した。
「ありがとうございます、ライ君。……ライ君?」
朗らかな笑顔で礼をするシェリーだったが、ライからの反応は無い。隠し通路の奥を睨みつけ、深刻な表情を浮かべている。
「……シェリーさん。お父さんを見つけました」
「ほ、本当ですか!?」
「まず間違いありません」
「行きましょう! 案内してください!」
詰め寄るシェリーへ、こくんと頷きを返したライ。
「お父様……今行きます!」
そんな決意に満ちたシェリーに視線を向けるライ。何か言葉を告げる訳でもなく、ただただ無表情だ。
「行きましょう! ライ君!」
「……そうですね」
歩き出したシェリーを追うライの目には──陰が落ちていた。
最近はオリ主が好きと言ったコメントをちょくちょく貰えて喜んでます。やはり自分で考えたキャラが好かれるというのは嬉しいものですね。
見事なファンアートのお陰でライの姿も明確に想像出来ますし、本当に助かってます(笑)。
技名も……ダサいと言われますが好かれていると信じたい!当分出す機会無いとは思いますが。