陰の右腕になりまして。 作:スイートズッキー
前書き失礼します!
今回の話には『TS』要素が含まれています!苦手な方は
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まで読み飛ばすことを推奨致します。
敵である『ディアボロス教団』によって魔剣士学園が襲われてから二日。
授業が行える状態ではないと夏休みが前倒しになったので、俺達学園の生徒はみんながそれぞれの過ごし方へと分かれていった。
実家に帰る者も居れば、寮に残る者も居る。剣の修行のために遠出する者も居るらしい。
そんな生徒が多い中、俺はどれにも当てはまらず、俺だけの過ごし方をしていた。訪れている場所は王都での評判も盤石なものとなってきた『ミツゴシ商会』。つまりライ・トーアムとしてではなく、
「ラ、ライト君! 凄いんですよ! イータさんの考え方!」
「ライト。シェリーは良い子。最高」
ピンク髪のちびっ子とワインレッド髪のちびっ子に勢いよく迫られる。幼女趣味の奴が今の俺を見れば、血の涙でも流して羨ましがるかもしれない。
俺からすれば二人とも精神年齢差から妹のようにしか見えず、無条件で保護欲を掻き立てられてしまう存在だ。
「わ、分かった分かった。落ち着けよ二人とも、ちゃんと聞くから」
シェリーを【シャドウガーデン】にスカウトした手前、様子を見に行かないという選択肢は存在しない。『紅の騎士団』の仕事始めは明日からなので、今日は取り敢えず朝からここへ来たという訳だ。
(……にしても、仲良くなったなぁ。いや、なんとなくそんな予感はしてたけどさ)
俺の前でわいわいと笑顔で会話するちびっ子コンビ。王国随一と名高い頭脳を持つシェリーと【シャドウガーデン】随一の発明家、【七陰】第七席・イータ。組み合わせてみたら面白そうとは思ったが、まさか現実になるとは。相変わらず人生って予想出来ないもんだ。
「今からイータさんとこのアーティファクトの解析をするんです! 成功すれば魔力をストックしておける魔力保存装置を作ることが出来て、戦闘だけでなくあらゆる技術の発展に繋がると思うんです!」
「……お、おう。そうか」
前は時間が無かったから遮ったけど、その時に今度ちゃんと聞くって言ったしな。いや、言ってはないな。心で思っただけか。
「ライト」
「ん?」
「シェリーは……良い子」
「そ、そうだな」
「ライト。グッジョブ」
「グ、グッジョブ」
あまり口数が多くないイータがよく喋る。サムズアップしているのは珍しくないが、表情がいつもより柔らかい気がする。
「でも、打ち解けられてるみたいで良かったよ。何か不自由があれば遠慮なく言ってくれ。俺じゃなくても、周りが必ず助けてくれる」
「はい! ありがとう! ライト君!」
幸せそうな笑顔を見せるシェリー。もちろん完全に元気を取り戻したとは思えないが、最悪の状態に陥ることは回避出来たようだ。親を失っても、前に進む。本当に強い子だ。
「そうだ! ライト君! 昨日イータさんと共同開発したものがあるんです! 見てもらえませんか!?」
「えっ、もうなんか開発したの?」
「ぶいぶい」
いや、早くね? この子達会って一日も経たずになんか共同開発しちゃったの? マジかよ。超相性が良かったのか、それとも混ぜるな危険だったのか。
「それで? 何を開発したんだ?」
「こっちです! 来てください!」
「きてきて」
「お、おいおい、引っ張るなって」
二人に腕を引かれ、部屋を移動。連れて来られた場所にあったのは、割とデカくゴツイ機械だった。小さな煙を上げながら振動する様は明らかなヤバさを感じさせる。
「……爆発とかしないよね?」
「しない」
「しません!」
ぬぼーっとした眠たい目と、キラキラとした明るい目。真反対の視線に貫かれてしまい、俺はただ頷くことしか出来なかった。
「これは何をする機械なんだ?」
「名付けて……『性・別・逆・転・装置〜』」
「です!」
「ちょっと待って」
「「……??」」
この子達はなんで首を傾げてるんだ? とんでもないものを作ったという自覚がないのか? イータはサラッと言ったけど、名前だけでもえげつないんだが?
(まさかのTS製造機……)
俺は無理に笑顔を作りながら、煙を上げ続けている装置を見る。名前からは全く想像のつかない見た目だ。いや、この名前で想像がつく装置なんて存在しないとは思うが。
「……えーっと、つまりこの装置を使うと男が女になって女が男に……んん? ははっ、そんな訳ないよな」
「あってます」
「あってる」
「あってたわ」
やっぱり間違いじゃなかったみたいだ。このちびっ子コンビ、結成一日目でなんてやべぇもん作ったんだ。こんなん兵器じゃん。
「【シャドウガーデン】が保管してたアーティファクト、シェリーが解析した。これが出来た」
「省くな」
「そのアーティファクトの力を完璧に制御する装置をイータさんが開発したんです! これが出来ました!」
「省くなって」
俺の言葉も届かず、ちびっ子達の微笑ましい雰囲気は崩れない。
「ぶいぶい」
「ぶいぶい、です!」
仲良く揃ってダブルピースしているヤベェ奴ら。間違いない、混ぜるな危険の方だった。うわぁ、ミスったぁ。
「け、けど、完成してるのか? 流石に信じ難いんだが……」
「もちろんです! ねっ! イータさん!」
「うんうん。完璧、万全、100%」
聞きたくなかった自信満々発言。どこか嫌な流れを感じ取ったので、俺はそろそろ退散しようかと別れの言葉を開始した。
「さ、さーて、シェリーも良い感じみたいだし……俺はそろそろ」
「でもまだ使ったことはない」
「へ?」
「ライト。……実験体になって?」
「普通に嫌だわ」
こうなると予測出来たからこそ、さっさと退散しようとしたのに。可愛らしく首を傾げ、ピタッと密着してくるイータ。小さく寝癖のついた髪に、眠そうな瞳。ふわふわとした声は聞いているだけで睡魔がやってくる。
昔から発明が好きだったイータ。俺はそんな彼女に付き合って……と言うよりは付き合わされてよく実験の手伝いをしていた。まあ手伝いと言っても、ほぼ実験体だったけど。
ほぼ並ぶ者が居ないレベルの魔力量を持つ俺は、イータ曰く最高の実験材料らしい。魔力を原動力としている装置を使う時であれば、充電の無くならないバッテリー扱いすることが出来るんだ。そりゃあ最高の実験材料だろう。
「そ、そうですよ、イータさん! ……実験体なんて、嫌ですよね?」
「ライト。……ダメ?」
(ぐっ……)
まさにこの二人、光と闇。
正反対の性質を持ちながら、やってることは揃っている。
(……良いコンビなのかもな)
片方は『悪魔憑き』として蔑まれ、奇跡的に命を拾った少女。そしてもう片方は二日前に最愛の父親を亡くし、天涯孤独となった少女。
そんな二人から上目遣いでお願いされて断れるやつが居るだろうか。いや、居ない。
「……ちゃんと元に戻れるんだろうな?」
満面の笑みで頷くシェリーと得意気な顔で頷くイータ。俺は覚悟を決め、大人しく実験に付き合うことにしたのだった。
王都で流行を作ってしまうほどに人気が出ている『ミツゴシ商会』。服に化粧に下着と、女性用品には特に力を入れている。貴族は着飾りたい欲求が強い傾向にあるため、独身から夫婦まで見事に足を運んでくれているという訳だ。
そんな『ミツゴシ商会』の一室にて、俺は着せ替え人形にされていた。
「ライト。かわいい」
「こっちも似合うんじゃないでしょうか!」
「シェリー、こっちも」
「ああ! それも良いですね!」
なんとも楽しそうだと、俺は死んだ目でため息を溢した。いや、今の状況からすれば一人称は『俺』ではなく『私』の方が適切なのかもしれないが。
(……マジで性転換しちゃったよ)
目の前にある大きな鏡に映るのは──白髪の美少女。
肩を少し超える長さの髪には艶があり、全体的に肌も白い。それらの要素から漆黒の瞳がよく目立っている。自画自賛になりはするが、美少女だった。死んだ目でさえなければ。
「ライト。こっちも着てみて」
「ライト君! こ、これもどうですか……?」
「ハイハイ、キルヨー」
俺は先程から機械的に服を着替え続けていた。もう抵抗なんて諦めた。女の子にされたし(事実)。
(……まあ、別に良いか)
楽しそうに服を選んでいるシェリーとイータを見ると、僅かだが気も晴れる。特にシェリーが笑顔でいることは良いことだ。少しでも彼女のメンタルを回復させることに成功しているのなら、この辱めも甘んじて受け入れるさ。
「そうだ! イータさん! あれを忘れてました!」
「失念。私達としたことが」
髪を一本に纏められてポニーテールにされた所で、シェリーとイータが何か閃いたように騒ぎ出した。これ以上何をしようってんだよ。死体蹴りだぞ。
「お化粧道具を取りに行きましょう!」
「うんうん。きっとライトに似合う」
「ライトさん! 少し待っててくださいね!」
「待ってて」
そう言い残し、二人は部屋を出て行った。どうやら俺に化粧をするための道具を取りに行ったらしい。本当に死体蹴りだった。
「……これが、俺か」
再び鏡を見ても、そこには美少女。夏休みは成長の機会と言うが、性転換した男は魔剣士学園の中でも俺だけだろう。貴重な経験と言えばその通りなんだが。
(にしても、スカートってヒラヒラしてて落ち着かないんだな)
今着せられているのは『ミツゴシ商会』の女性店員用制服。黒をメインとした地味めなデザインではあるが、キッチリとした上半身と柔らかくふんわりとしたスカートが合わさり高級感を出している。まあ、ウチの子達の素材が良いっていうのは大前提なんだけどな。
俺が興味本位でクルッと一回転したり、低くなった身長を面白がったり、実験の結果を程々に楽しんでいると──部屋の扉が開いた。
シェリーとイータが戻って来たのかと視線を向けてみれば、そこには全く予想していなかった人物が立っていた。
「失礼します。……あっ、従業員さんですか?」
──クレア・カゲノー、出現。
(はぁぁぁぁァァァア!?!?)
驚きのあまり、喉からキュッと音が鳴った。黒い髪、真紅の瞳、魔剣士学園の制服。どこからどう見てもクレアだ。そっくりさんではない、
そんなパニックになりそうな俺へ不幸は続く。冷静になる前に、困難が畳み掛けられたのだ。
「失礼します。どうしました? クレアさん」
「姉様。姉様も流行りぐらいは知っておいた方が……あら? 可愛い従業員さんね。初めて見たわ」
──
(うえぇぇぇぇェェェエ!?!?)
ダメだ。状況が理解出来ない。なんでよりもよってこんな状態の時に会いたくない人ランキング上位勢が押しかけてくるんだ。ていうかここ客を通す部屋なのかよ、イータのやつ許さん。
「どうなされました? ……まさか!」
(ガンマァァァァァァア!!!)
救世主登場。黒いドレスに身を包んだ女神が顔を覗かせる。恐らく
「し、失礼。……ライト様なのですか? 」
クレア達の間をすり抜けて、ガンマが俺の側へと寄ってくる。流石は【シャドウガーデン】の頭脳、女体化しても俺だということを瞬時に見抜いてくれたらしい。
「ど、どうされたのですか? このようなお姿……かわいい」
「実はイータの発明した機械の実験でな。めちゃくちゃ情けないんだが助けて欲しい」
王女&ブラコンに聞かれないよう小声で説明を済ますと、ガンマが小さく頷き笑顔を作った。
「こちら教育中の従業員でして。失礼致しました。さあ、椅子の方へお掛けください。今回は旅支度の準備でご来店されたと伺っております。我が『ミツゴシ商会』の商品を存分にご覧くださいませ」
(ナイス!)
サラッと俺のことを流し、椅子の方へ誘導させることに成功。流石はガンマ、『ミツゴシ商会』会長としての風格も出てる。
「ライト様、今の内に」
ありがとうガンマ。この恩は忘れない。
チャンスを逃さないため、三人が椅子へ腰掛けた瞬間に行動開始。お淑やかそうな歩き方で必死に扉まで足を動かした。
……のだが。
「ちょっと待って」
逃げ去ろうとしていた俺の手をバシッと掴んだのはクレア。椅子に座ったまま、横を通り過ぎようとした俺の動きを完全に止めた。
「な、なんでございましょう……? 私は教育中の新人、皆様のお相手を出来る立場ではございません」
声を女性のものへと変え、必死に対応する。女性の声は苦手だが、違和感は持たれていないようだ。
クレアは緊張で汗が流れ出した俺に、鬼のような言葉を言い放った。
「確かに王女様の相手はさせられないけど、私なら良いでしょう? 貴族と言っても下級貴族だから、そんなに気を遣わないでも平気よ」
何を言ってんだコイツ、ふざけんじゃねぇよ。万が一正体がバレないにしても、お前の相手なんてしたら俺のストレスがとんでもないことになるわ。
そんな感情を顔に出す訳にもいかず、俺は精一杯の愛想と共に口を開いた。
「い、いえ、私などまだまだで。クレア様のお相手をさせて頂くなんてとても──」
「ん? 私、貴女に名乗ったかしら?」
や ら か し た。
「あっ、えっと、その……そう! 先程アイリス王女が名前を呼んでいらっしゃったので! それで!」
「ああ、そうだった。記憶力良いわね」
「は、はい。……ありがとうごぜぇます」
危ねぇ。第二の人生で一番焦った。今の返しはマジでナイスだ。自分で自分を褒めてあげたい。俺がホッと一息ついていると、クレアはまたも朗らかに提案を繰り返す。
「私ならいくらでも練習台にしていいから。ねっ?」
ねっ? じゃない。全然ねっ? じゃない。
「その白い髪と黒い目はムカつくやつを思い出すけど、貴女はアイツと違って愛想も良さそうだし、ちゃんと出来るわよ」
「そうですね。何事も経験です」
「可愛い顔してるじゃない。名前はなんて言うの?」
王女姉妹もクレアの提案に乗ってしまった。これではガンマが助け舟を出すことも難しい。つまり、逃げ場が無くなった。
人間諦めが肝心。俺は乾いた笑みを顔に貼り付け、止まりかけの思考で言葉を振り絞った。
「──レ……レフ・トーアと申します」
この後めちゃくちゃ接客した。
「……酷い目に遭った」
「ご、ごめんなさい! ライト君!」
ある意味での地獄を乗り越え、俺は無事に男へと戻った。時刻は夕方、あの人達どんだけ長居してたんだ。
明日から『紅の騎士団』として国を出る予定なので、俺もそろそろ帰らなければならない。見送りはシェリーがしてくれるようだ。イータは悪びれもなくいつの間にかベッドで寝ていたが、寝顔が可愛いから許す。
「じゃあ、そろそろ行くよ」
「はい。今日はありがとうございました。こんな風にお友達と遊べて……楽しかったです」
「……そうかい。そりゃ良かった」
これからイータだけじゃなく、【シャドウガーデン】全員と仲良くやってくれたら嬉しい。シェリーの頭脳は間違いなく役に立つし、戦力的にも彼女の加入は大きな意味を持つ筈だ。
「当分会えなくなると思うけど、元気でな。今度来る時はシドも引っ張ってくるから」
「はい! 楽しみにしてます! ……ところで、ライト君は明日からどこへ行くんですか?」
「ん? ああ、『リンドブルム』だよ。アレクシア王女の護衛でな」
これがクレアと共に俺が任された夏休み最初の仕事だ。カゲノーって付くやつは俺にストレスをかける運命でも背負ってんのかな。
「気をつけて。ライト君」
「ありがとう。じゃあな、シェリー」
これから明日の準備して、早く寝る。列車で向かうことになるから、駅に集合だったな。朝早いんだよなぁ、遅刻したらクレアに殺されそうだ。
「──ライト君!」
「ん?」
夕暮れの空を見上げながら歩き出した俺に、シェリーが声を上げる。振り返ってみると、そこに見えたのは夕日に照らされながら涙する一人の少女だった。
「私を助けてくれて……『ありがとう』」
泣きながら笑っている。そんなシェリーの顔を見て、俺は複雑な感情に襲われた。
もっと良い解決方法があったのではないか、彼女から親を奪わない道があったのではないか、組織に誘ったのは本当に正しかったのか、などと考えていたからだ。
だが、彼女はハッキリと感謝の言葉を口にした。ならば俺が返すべき言葉はきっと──これしかない。
「……『どういたしまして』。……またな」
長く顔を合わせることもせず、俺は再び歩き出した。気の利いたことも言えないが、それでも良いと思う。俺はシェリーの気持ちを分かっているし、シェリーも俺の気持ちを分かってくれていることだろう。
言葉足らずと言われてしまえばそれまでだが、俺は根っからの善人という訳じゃない。
だから良いことをしたとは思えないが、シェリーのためになることをしたとは思っても良いかもしれない。それぐらいの自己満足になら浸っても文句は言われない筈だ。
(……さて、明日からも頑張りますか)
言葉では表せない達成感に背中を押され、俺は一つ大きな伸びをした。
アニメ終わっちゃいましたね……。
正直大きなモチベーションの一つだったので寂しいです。二期に期待!
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