──聖地・『リンドブルム』。
この世界で最も信仰されている宗教である『聖教』。その聖地とされているのが今回訪れたこのリンドブルムだ。
伝説に記されている三人の英雄に力を授けるため、女神が降臨した地とされているらしい。
そんなリンドブルムでは年に一度、『女神の試練』と呼ばれる祭典が開かれている。聖域と呼ばれる遺跡の扉を開く唯一の機会であり、挑戦する者の声に反応した過去の英雄達が姿を現すとのことだ。
英雄達と勝負をして勝利することが出来たなら、どこの国の騎士団からもスカウトされるようになり、一生安定した生活を送れることだろう。
そのため『女神の試練』が開かれる時期には世界中から魔剣士達がリンドブルムへと集まる。俺が『紅の騎士団』としてこの国へ来たのも、ミドガル王国からの来賓として招かれたアレクシア王女の護衛をするためだ。
中々ない国外への遠出、普通であればテンションの上がる行事だ。事実、二日間の列車旅を終えて聖地へ足を付けた際には旅行に来たような高揚感もあった。すぐに消えてしまったけどな。
「ちょっと! ちゃんと考えてるの!?」
「……これさえなかったらなぁ」
「なんか言った?」
「いや、別に」
最近では聞き慣れてきた怒声。形の良い眉を歪めながら、俺を睨みつけるクレアによるものだ。どうしてこう怒りっぽいんだろうか、昔から成長のないやつだ。
「シドにあげるお土産を決めるんだから、ちゃんと考えなさいよね」
「なんで俺がお前の土産探しに付き合わなきゃいけないんだよ。しかもシドに渡すやつとか、やる気出る訳ねぇだろ」
現在、俺とクレアはリンドブルムの街をブラブラしていた。『女神の試練』が開かれるのは明日ということで、今日だけ俺達は自由行動と決まっていたからだ。
アレクシア王女は長い列車移動で乗り物酔いしたらしく、部屋で寝ている。俺達以外に連れて来た騎士が護衛についているので、特に心配は要らないだろう。
「ああ、それにしろよ。なんか腕に剣が刺さってるアクセサリー」
俺が指を差したのは、旅行先でよく見かける小学生や中学生が好きそうな銀色の厨二アクセサリー。よくあるタイプはドラゴンなのだが、今回は腕ときた。まさかこの世界でもお目にかかれるとは。
「えっ? ……これのこと?」
「そうそう。シドは喜ぶと思うぞ」
「……本当でしょうね?」
「割と真面目に言ってるぞ」
高確率でシドなら喜ぶ筈だ。アイツは多分修学旅行とかでそういうアクセサリーとか、後先考えずに木刀を買うタイプだから。
「……じゃあ、これにしようかしら」
おっ、珍しい。いつもこれぐらい素直だったら可愛らしいんだけどな。見た目が良いだけに中身が残念過ぎる。
「はい。これアンタの分」
「は? なんで俺の分も?」
「一応手伝ってもらったから、お礼よ。ありがたく受け取りなさい」
「別に要らな──」
「ど・う・ぞ?」
「……はぁ。くれるなら貰っとく」
正直マジで要らないが、こんなことで口論するのも馬鹿らしい。俺は差し出されたアクセサリーを手に取り、そのままポケットへと突っ込む。これを所有する日が来るなんて夢にも思わなかったわ。
「……にしても、流石に賑わってるな」
周りを見回せば多くの人が視界に入る。貴族と思われる夫婦、一般家庭であろう親子連れの家族、俺達のような護衛を任されたであろう騎士と、種類はそれぞれ分かれているが。
「年に一度の『女神の試練』だもの。当然でしょ」
「観光的にも目玉って訳か。良いご身分ってやつだ」
「なによ、アンタだって昔『ベガルタ』の方に行ったじゃない」
「ああ、三日で帰って来たやつな」
剣の国と呼ばれる『ベガルタ』。魔剣士のレベルで言えば最強クラスの国であり、圧倒的な武力によってその名を広く轟かせている。俺が十歳の頃、家の提案でそのベガルタに武者修行もどきに行った。クレアが言っているのはその時のことだろう。
「移動で丸二日。ベガルタに居たのは一日だけだったし、観光とかは出来なかったぞ」
「目的は修行でしょ? ……そういえばあの時のことはあまり聞いてなかったわね」
「特に話すこともないからな。あんまり覚えてないし」
大人達数人と手合わせし、程よく手加減することで負けて終わった。目立って吸収したい技術も見つからなかったので、得られるものはなかった修行だ。
幼い記憶をすぐに流し、どこかやる気に満ちた顔をするクレアに声をかけた。
「気合い入ってるな」
「それも当然。──『女神の試練』、絶対合格してやるんだから」
この会話からも分かるように、クレアは今回の『女神の試練』に参加する予定だ。アイリス王女からの推薦らしいし、やる気は十分と見える。
俺に参加の話を持ちかけなかったのは断られると予想したからだろう。少しずつ俺の性格が分かってもらえてきたようでなによりだ。
「……ていうか、アンタ何か言うことはないの?」
「は? 何が?」
「だから! 私のこの格好を見て言うことはないのかって聞いてるの!!」
またも怒りながらクレアが俺に見せつけてきたのは、自身の服装だった。
両肩の部分が見える女性らしい白色のニットに、シンプルな黒色のズボンといった格好だ。白色はクレアの黒い髪を引き立たせる意味では良く似合っており、ズボンも足の細さを更に強調させていた。先程も思ったが、怒ってなければ文句なしに美少女だ。
「あー、似合ってると思うぞ」
「棒読み! 少しは感情を込められないの?」
不満そうに腕を組むクレアだが、これに関して俺は絶対に悪くない。
(だってその服を選んだの……俺じゃん)
三日前の話にはなるが、俺は女体化していた。何を言っているのか分からねぇと思うが俺もよく分からん。その場しのぎに名乗ったレフ・トーアという名前で、俺は『ミツゴシ商会』に来たクレアの接客をさせられたのだ。
三日後に『リンドブルム』へ行くの、という分かりきった言葉を聞きながら、俺はクレアの服選びに付き合わされた。自分の意見が取り入れられたファッションなのだから、今更感想なんて出てこない。まあ、クレアからしたらそんなこと知る筈もないけど。
「つまんない男。そんなんじゃ結婚出来ないわよ」
「お前にだけは言われたくない」
「なんですって!?」
「嫁の貰い手がなくなったらシドで良いだろ。安心しろ、俺はそういうのも良いと思うよ。知らんけど」
「はぁ!? シシシシ……シドと結婚なんてする訳ないでしょ!!」
いや、お前に関してはそう言い切れない怖さがある。言葉では否定しているが嫌そうな顔はしていない。ブラコンもここまでくると極まってるって感じだな。
「そうかい。そりゃ失礼しました。……お前この後どうするんだ?」
「……剣を振れる場所へ行くわよ。明日のために調整しておきたいし」
興奮が落ち着いてきたのか、クレアは髪を手で払いながら返答。ならここからは別行動が取れるって訳だ。ありがとうクレア、その言葉を待っていた。
「そうか。ならここを真っ直ぐ行った所に騎士団の訓練場があるから、そこを使わせてもらえよ。『女神の試練』に挑戦するためって言えば貸してくれるだろ」
「なんでアンタがそんなこと知ってるのよ」
「お前が剣を振りたいって言い出した時のためだ。お前はこういうこと調べたりしないだろ」
「あっそ。……一応お礼は言っとくわね。……ありがと」
いやいや、礼を言いたいのはこっちの方だって。どうやって解散する方に持っていこうかと考えてたら、そっちの方から切り出してくれたんだから。
「じゃあここで一旦解散だな。また夜に」
「ええ。……アンタはどうするの? 何か予定でもあるのかしら?」
「まあな。死んでも外せない用がある」
時間が惜しいので早速歩き出す。土産探しに付き合わされたが、待ち合わせ時間までまだ余裕はある。小走りで行けば確実に間に合う筈だ。
「ちょっとライ! 用って何よ!?」
「デートだデート! じゃあな! 頑張れよ!」
クレアの方を振り返ることもなく、俺は背中越しに手を振る。そして俺の中に溢れ出してきたのは旅行に来た時のような高揚感ではなく、全く別の感情による胸の高鳴りだった。
その日、アルファには珍しく余裕がなかった。
まだ日も昇っていない時刻に目覚めると、朝からシャワーを浴びて念入りに髪の手入れをする。一時間かけて服を選び、更にそこから一時間かけて化粧をする様子は、普段の効率的な彼女からは想像も出来ない姿であった。
朝からとんでもない労力を使い、無事に完成した自分を鏡に映す。
(……これで良い、かしら)
黒色をメインとした服にはレースがデザインされており、白い肌がより美しく見えて言葉に出来ない色気を漂わせていた。合わせたスカートは膝下ほどの長さで、全体的に綺麗に纏まったフォルムをしている。そこから覗かせる足は白く細く、周りから注目されること間違いなしだ。
髪型も迷いそうになったが、手頃なハーフアップに落ち着いた。以前可愛いと言われたことを思い出した瞬間、割と即決だった。変化のついた金色の髪はふわふわと揺れ、可愛らしい動作を繰り返すことだろう。
「アルファ様! とてもお綺麗ですっ!」
「そ、そうかしら……?」
「はい!」
鏡に映るアルファを褒めたのはイプシロン。意見を聞かせて欲しいというアルファの願いを聞き入れ、様子を見に来ていた。
「で、でも……」
「大丈夫です! 今のアルファ様は女神にも勝る美しさ! これで自信を持たないのは世の女性に対する侮辱になってしまいますわ!!」
そこまで言うのかとアルファは不思議に思ったが、美に関してイプシロンより気合の入った者は【シャドウガーデン】に居ない。素直に彼女の言葉を信じ、出かける準備を済ませた。
現在居るのはリンドブルムの仮拠点。土地勘のない場所なので、早めに待ち合わせ場所に向かいたいのだ。絶対に遅刻したくないという気持ちの表れだった。
「行ってらっしゃいませ、アルファ様」
「え、ええ。……行ってきます」
本当にレアな緊張気味のアルファを見て、イプシロンでさえも胸の鼓動が加速する。わざとらしい揺れを起こしながら、イプシロンは外へ出て行ったアルファの可愛いさに膝から崩れ落ちたのだった。
アルファが待ち合わせ場所に到着したのは、約束していた時刻の約三十分前。あれだけ慌てて準備をしたというのに、意外と余裕が残っていたものだ。
(……少し、早かったかしら)
日傘を差し、木陰に立つアルファ。エルフであることが目立たないよう帽子もしっかりとかぶっている。傘を持つ手とは反対の手で少し大きめのバッグを持っており、アルファはそれを大事そうに見つめていた。
「…………」
日傘と帽子を僅かに上に向け、アルファの視線が空を捉える。そこに見えたのは澄み渡るような青空と、それを彩る白い雲。アルファは自覚のない優しい笑みを浮かべ、日傘をゆっくりと回転させた。
本当ならばそこらにある店の鏡で身だしなみの最終チェックをしたいのだが、万が一そんな姿を待ち人に見られでもすればアウト。羞恥心のあまり、アルファは喋れなくなる自信しかなかった。
時間が進むに連れて緊張が高まっていく。何も考えずに空を見上げていると心地良い風が吹き抜け、アルファの髪が靡いた。一瞬閉じた目を開けてみれば──そこには待ち人の姿があった。
「わ、悪い! ……遅かったか?」
水色の上着に白色のシャツ、茶色のズボンという服装。焦って来たのか表情は強張っており、それさえもアルファは愛おしく感じてしまう。
待ち合わせ時刻の三分前、アルファの待ち人であるライ・トーアムは現れたのだった。
「ふふっ、遅刻はしていないわよ」
「そ、そうか。……けど、アルファを待たせたんじゃないか?」
「えっ? ……いいえ。私も、さっき来たところだから」
「ふぅ、なら良かった」
本当は三十分前から待っていたのだが、そんなことを言える筈もない。むしろ心の準備をする時間が出来たと、アルファは待ち時間に感謝すらしていた。
「じゃあ、行くか」
「……ええ。行きましょう」
こうして、約束していたデートが開始された。他に知っているのがイプシロンのみの、秘密のデートだ。場所も観光地として最上級であり、デートをするには申し分ない街だ。
アルファは緩む口元を押さえながら、歩き出したライの隣へピッタリと並んだのだった。
「走って来てくれたのね」
「予想外のアクシデントがあってな。間に合って良かったよ」
日傘をたたみながらアルファが笑う。隠されていた金色の髪が太陽の光に当たり、キラキラと輝きを放った。
「え、えーっと……似合ってるな、その服。髪型も、可愛い」
「……あ、ありがとう。……嬉しいわ」
いきなりの褒め言葉を受け、アルファが帽子で顔を隠した。しっかりと褒められたことに喜びつつ、ライからは見えない位置で小さくガッツポーズを決めた。
「貴方も……素敵よ。制服以外の服、久しぶりに見たわ」
「ははっ、それもそうだな。夏休みって感じするよ」
艶のある白色の髪を揺らしながら微笑むライ。表情は穏やかであり、横目で見ていたアルファは僅かに頬を染めた。
「今日はお互いお休みだ。ゆっくりしようぜ」
「そうね。エスコートは任せても?」
「任せろ。調べは完璧だ」
「ふふっ、頼もしいわね」
自然な流れで手を繋ぎ、ライはアルファの日傘を預かった。快晴による暖かな日差しに当たりながら、心地良い風を受ける。ただ歩いているだけにも関わらず、二人とも気分が高揚していた。歴史を感じさせるリンドブルムの街並みも散歩するには楽しい場所であった。
談笑しながら気になった店に入るというのを繰り返して数店舗。ライに案内されたカフェで紅茶を飲み、たわいもない会話を続けた。
その後またもライに案内された本屋でお互いに一冊ずつの本を買い、綺麗で広い公園へと足を運んだのだった。
「──良い天気だなぁ」
「そうね。……気持ち良いわ」
辿り着いた公園のベンチに腰を落とすと、ライは未だに澄んでいる青空へと伸びをした。アルファもライの言葉に頷きながら、持っていたバッグを自身の膝の上へと移動させた。
「腹減ったな。そこにある店でパスタでも食べようかと思ってたけど、他に食べたいものとかあるか? この辺は店が多いから、大体のリクエストには応えられると思うけど」
「ありがとう。けど……」
「ん? どうした?」
どこか歯切れの悪いアルファ。ライがそんな彼女の顔を不思議そうに覗き込むと、アルファは覚悟を決めたようにバッグの中から木製のバスケットを取り出した。
「こ、これ……良かったら食べて」
アルファが少し緊張気味にバスケットを開くと、中から出て来たのは大量のサンドイッチだった。白いパンに色とりどりの具材が挟まれており、ライには宝石箱のようにすら見えた。閉じ込められていた香りが外へ飛び出すと、空腹は更に刺激されてしまった。
「も、もしかして……手作りですか?」
ライの問いかけに小さく頷いたアルファ。それを見たライは見えないようにガッツポーズを決め、喜びのあまり表情をだらしなく緩めた。
「い、いただきます!」
「早起きして作ったから、その、不恰好なものもあるかもしれないけど」
「──美味い!!」
「……もう。……ふふっ」
緊張したのがバカらしくなる程の即答に、アルファも表情を緩めた。ライが手に取ったのはベーコン&タマゴサンド。使っているソースも全て手作りしており、一番の自信作であった。
「コーヒーもあるわよ?」
「ありがたく頂きます」
味の感想もそこそこに二人で食べ進めると、多めに作って来たサンドイッチはあっという間に消滅。あれだけ労力をかけた割に呆気ないものだと、アルファは少しばかり苦笑いした。
「……ふわぁ。幸せだなぁ」
「どうしたの? おじいさんみたいよ?」
欠伸をしながらベンチに背中を預けるライを見て、クスクスと愉快そうなアルファ。普段頼りになる人物が自分の前では自然体であるという優越感にも浸っていた。
「久しぶりに癒されてる気がする」
ライにとって最近は胃を痛めることが多かった。アレクシア王女の子守り、心臓を止めてまでモブになりきろうとするバカ、親を失った少女、自分一人で背負い込もうとするアホなどなど。癒しと呼べるものなど存在していなかった。
「……私も、癒されてるわよ?」
隣に座るライの肩に身体を寄せ、アルファも小さく欠伸をした。ライの体温を感じた途端、睡魔に襲われてしまったようだ。
「眠いか?」
「……少しだけ」
「寝てもいいぞ。肩は貸してやる」
「ふふっ、ありがとう。……でも、それは少し──」
もったいない、という言葉は続かず、アルファは眠りについた。この天気に合わせて食後、そして隣には安心感の塊。アルファにとっては昼寝をするのにこれ以上の場所はなかった。
「……寝顔も、可愛いよな」
規則的な寝息を立て始めたアルファを起こさないよう、慎重に体勢を整えたライ。しっかり寝顔を見た後、先程購入したばかりの本を読み始めたのだった。
「……ごめんなさい」
「気にすんなって。アルファの寝顔も見れたことだしな」
「〜〜〜ッ!! ……はぁ、油断したわ」
結局日が落ちるまで爆睡したアルファ。枕の役割を果たしたライは固まった身体をほぐしながら笑った。
「疲れてたんだろ。アルファは頑張り過ぎるからな」
「……貴方は、いつも優しいわね」
「いや、頑張り過ぎてんのは事実だろ」
アルファの頭を撫でながら、苦笑いするライ。【シャドウガーデン】の実質的なまとめ役であるアルファの負担は大きい。リーダーはポンコツ、そして副リーダーもポンコツ。ライはアルファに対して申し訳なさをずっと感じていた。
「ありがとうな。アルファ」
「……」
夕日に照らされるライの顔に、アルファが見惚れる。そして同時に自身の顔の熱が上がったことも自覚した。分かりやすい自分を、アルファは少しばかり疎ましく思った。
「ははっ、それにしてもよく寝てたな」
「……貴方のせいよ」
「ええっ? 俺のせいなのかよ」
恥ずかしいのか、アルファはライと顔を合わさずに口を開いた。ここまで無防備に睡眠をしたことなど、何年ぶりのことだろうか。
「でも……ありがとう。また明日から頑張れるわ」
「無理はするなよ。俺ならいつでも手伝うから」
「ふふっ、シャドウが嫉妬するわよ?」
「アイツよりアルファ達の方が大事だからな。……リンドブルムに行くってことを聞いた時は驚いたけどさ。偶然って怖いもんだ」
ライの言う通り、彼がアルファとリンドブルムで会うことになったのは本当に偶然だった。ライがシドの代わりに目を通している定期連絡で【シャドウガーデン】がリンドブルムを訪れると知り、良い機会だとアルファをデートに誘ったのだった。
「本当に偶然かしら?」
「当たり前だろ。アルファが思ってるような先読みはしてないぞ。ていうか出来ないぞ」
「ふふっ、そういうことにしておくわ」
ライは全て事実しか言っていないのだが、アルファがそれを信じる訳もない。いつもの謙遜としか思われず、ライの評価に変動はなかった。
「……まあ、無理はするなよ。手伝うってのは本当だし、頼って欲しいしな」
「ええ、もちろんよ。貴方は頼れる副リーダー様だから」
笑顔のままアルファがベンチから腰を上げる。夕日がアルファを照らす様は、絵画のような美しさを放っていた。
「……そうだな。リーダーよりは役に立つ自信があるぞ」
「本当、仲良しね」
「違うから」
親友同士の関係性に微笑むアルファだが、ライは真顔で否定。そんなやりとりをしていても幸せだと、アルファはこの時間が終わることに寂しさを感じた。
「……そろそろ、解散かしらね」
「……そうだな。俺も戻らないと」
ライは『紅の騎士団』、アルファは【シャドウガーデン】へと戻る時がやってきた。昼寝をしたことは後悔していないが、やはりもったいなく感じてしまったアルファだった。
これ以上一緒に居ると離れたくなくなると、アルファが先に動いた。
「今日は楽しかったわ。……本当に」
「俺もだ」
「また……デートしてくれる?」
「当然。──また誘うから」
その言葉に、アルファの心が踊る。
少し言葉を交わしただけで、寂しさは和らいだ。やはり自分は単純なのではないかと、アルファは口元を手で隠した。
「そ、それじゃあ……また」
「ああ、またな」
別れの言葉はシンプルに、二人の男女は背を向けて歩き出した。
今日与えてもらった癒しを原動力にし、明日からのやるべき事に備えるのだ。
夏休み最初の試練が──
二期にテンション上がって長くなってしまった。
胃の痛い日々が続いたオリ主への癒し回となりました(笑)。