陰の右腕になりまして。   作:スイートズッキー

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18話 俺は聖剣を信じてる

 

 

 

 

 

(……もう疲れた)

 

 薄暗い通路を歩きながら、周りに気付かれないようため息を溢す。全ての思考を放棄し、『ライト』としてアルファ達の手伝いをすることにした。そこまでは良い。

 しかし、まだ数十分も経っていないのに疲れることの連続。既に俺の胃にはストレスによるダメージが蓄積されていた。

 

 今はライトの姿になっているため、情けない姿を見せることも出来ない。姿勢を正し、凛とした振る舞いをしなければならないのだ。アルファとデルタだけじゃなく、イプシロンや他の子達まで居るのだから。

 今回の作戦はそれなりに人員を使った大規模なものらしい。余計に作戦の詳細を聞いておけば良かったと、俺は遅過ぎる後悔をした。

 

「ライト? どうしたの?」

「……いや、なんでもない」

「そう、何かあったら教えて。貴方の考えを理解出来るのも、シャドウしか居ないんだから」

 

 隣を歩くアルファからそんなことを言われる。相変わらず買い被られてるようだ。誤解だと説明したところで無駄なのは、これまでの経験で学習済みだ。

 

(……はぁ、めっちゃ視線を感じる)

 

 俺が疲れている要因の一つ。それはこの『聖域』に入ってからずっと俺の背中に視線を向けている人物──アレクシア王女の存在だ。

 

(一度会ってるからな。バレないようにしないと)

 

 以前にライトの姿を見せている分、警戒はし過ぎるレベルで丁度良い。取り敢えず声音を変え、持っていた『紅の騎士団』の剣にはスライムを纏わせた。極力顔を合わせないことを心掛けているが、居心地の悪さだけはどうにもならなかった。

 

(まあ、これは自業自得か……)

 

 特別VIP席にて大司教を襲うということから始まった今回の作戦。どうやらあの大司教──ネルソンとか言ったかな。『ディアボロス教団』のメンバーだったらしい。教会の最高責任者まで教団員とは、マジで世界に根深い存在なんだなと再認識させられた。

 

 教団が深く関わっている『聖域』の調査。そのための案内役にネルソンも同行させる狙いだったらしいが、俺にとってはそんなことより重大な面倒事があった。

 

 それは──アレクシア王女を抑えることだ。

 

 特別VIP席にアレクシア王女が居ることは当然知っていた。俺は彼女の護衛としてこの国に来たのだから。

 あの猪突猛進娘が【シャドウガーデン】の作戦に首を突っ込まずにいられるだろうか? いや、突っ込んで来るに決まっている。

 

 だからこそ俺はアルファ達を先に『聖域』へ行かせ、自分が最後まで残った。間違ってもアレクシア王女が扉へ飛び込むなんてことがないように。

 だが彼女はここに居る。つまり俺の防衛は普通に失敗したということだ。おまけにローズ会長まで来てしまっている。残った意味が全くなかった。

 

(……まさかあんなのに気を取られるとは)

 

 もちろん、俺だって何もせずに突っ立っていた訳ではない。王女達を止められなかったのには理由がある。あまり思い出したくはないのだが。

 

 ネルソンを連れてウチの子達が『聖域』へ無事に侵入、そして扉が閉じようとしたところまでは上手くガード出来ていた。しかし、俺の意識を逸らそうと慌てふためいていたアレクシア王女のポケットからある物が床へと落ち、俺の意識を奪い取ると同時に決定的な隙を作り出したのだ。

 

 

 ──()()()()()

 

 

 ガキーンという重厚な音が響くと同時に、俺の身体は金貨へ吸い寄せられるように滑らかに動いた。無駄のない動作でしゃがみ、手を伸ばし、無防備な姿を晒してしまったのだ。

 そんな隙をアレクシア王女が逃す筈もなく、さっさと扉へダイブ。俺の防衛はあっさり突破されたという訳だ。それに続いてローズ会長もジャンプ。金貨に敗北した俺に、二連続シュートを止める手段はなかった。

 

(……だっせぇ。シドには絶対言えないな)

 

 散々シドのことをポチだの金の亡者だのとバカにしてきた身としては、こんな失態を知られる訳にはいかない。この話は墓場まで持って行こう。

 

 俺が遠い目をしながらそんなことを考えていると、団体の一番前を歩く俺に近付いて来る人影が見えた。

 まさかのアレクシア王女襲撃かと一瞬だけ身構えたが、捉えた姿は漆黒のローブ。濃い水色の髪が見えるので、相手はイプシロンだと分かった。

 

「あ、あの……ライト様」

「……どうした? イプシロン」

 

 小声で話しかけてきたので、俺もそれに合わせて返す。どこか言葉にし辛い様子から、俺もなんとなくイプシロンの言いたいことを察した。

 

「そ、その……先程はありがとうございました」

 

 小さく頭を下げて礼を言ってきたイプシロン。何に対しての礼なのかは分かる、特別VIP席で起こった一件についてだろう。

 

 ネルソンを連れて行こうとした際、イプシロンが刺客に襲われそうになった。処刑人ヴェノムとか呼ばれていた奴だ。

 実力的に心配する必要は無かったが、不意打ちの一撃でイプシロンに攻撃が当たることが分かった。彼女ならそれでも紙一重で躱わせただろう、しかしそれではイプシロンの()()()()()に繋がってしまう恐れもあった。

 

 俺はイプシロンがわざとらしい胸部の揺れを作るためにどれだけ努力したかを知っている。なんなら俺はイプシロンの秘密について【シャドウガーデン】で唯一本人から相談された立場だ。助けてやりたいと思うのは親心のような兄心のような、そんな感情だ。

 

 だからこそ俺は、イプシロンに剣が振るわれる前にヴェノムを横から切り刻んだ。割とギリギリだったが、乙女の抱えるトップシークレットは無事に護ることが出来たという訳だ。

 

「気にするな。無事で良かった」

 

 何が無事だったかは敢えて言わない。俺はシドと違ってデリカシー無し男ではないからな。

 俺の言葉を聞いたイプシロンは嬉しそうに微笑むと、もう一度小さく頭を下げてから離れていった。律儀なところも可愛い。【七陰】の中で妹感が強いのは、やっぱりガンマとイプシロンなんだよなぁ。

 

(こんな考えを知られたら、ゼータの奴がうるさいかもな)

 

 不機嫌そうな顔と声で文句を言ってくる姿が容易に想像出来ると、俺は中々会えていない弟子を思って口元を緩めた。あのモフモフの柔らかい毛並みがそろそろ恋しい。

 どこで何やってんのかゼータだけはあんまり把握出来てないんだよな。今度理由を付けて呼びつけるか、俺の方からでも会いに行ってみるかな。

 

「……ライト。着いたわ」

 

 ボーッと考え事をしていると、アルファから声をかけられる。どうやら目的地に着いたらしく、周りの風景がさっきまでと違っていた。通路の最奥、つまり行き止まりだ。

 

「この地は『英雄』オリヴィエが討ち倒した『魔神』ディアボロスの残骸……その左腕を封印した場所とされている」

「それがどうした!? 御伽話を頼りに腕でも探すつもりか!?」

 

 急に怒声を発したのはネルソン。ウチの子達に拘束されながら随分と強気だ。余程この場所を調べられるのは教団にとって都合が悪いみたいだな。

 

「それも楽しそうだけれど、私達が知りたいのは『ディアボロス教団』のことよ」

「ぐっ……!!」

 

 あっ、黙った。このオッサン意外と口喧嘩とか弱いタイプか? 

 

「貴方が答えられないのは分かっているわ。だからここへ見に来たの。歴史の闇に葬られた……本当の真実をね」

(アルファかっけぇー。……シドも見習えよ)

 

 常に相手の先を取り、余裕を崩さない立ち振る舞い。全てを見透かすような声音と言葉は、まさしく強者のそれだ。陰の実力者ってアルファのためにある言葉なんじゃないか? 右腕乗り換えようかな。

 

 俺がアルファに惚れ直していると、通路の行き止まりに置いてある一体の石像についてアルファが口を開いた。

 

「これが──『英雄』オリヴィエの像」

「……えっ? オリヴィエは男性の筈では?」

 

 疑問を投げかけたのはローズ会長。それも当然のことだろう、一般常識として習ってきたオリヴィエは全て男性。しかし、俺達の目の前にある石像はどう見ても女性なのだから。

 

「それも教団によって捻じ曲げられた偽りの真実よ。……まあ、我々はおおよそのことは理解している。ここへ来たのは、様々な物的証拠を回収するためよ」

(すみません。隣に全く理解していないバカが居ます)

 

 アルファが話を進める度に帰りたくなってくる。なんで俺ここに居るんだろう。アルファだけで良いじゃん。俺絶対要らない子じゃん。

 

 自分の存在意義を考えて情けなくなっていると、いつの間にかアルファが何かしたらしく、通路の最奥から白い光が放たれていた。入り口のようにも見えるので、間違いなく先へ進むパターンだ。

 やっべぇ、全然見てなかった。ついでに話も聞いてなかった。授業に一瞬でついていけなくなった時の懐かしい感覚だ。

 

(とか言ってる場合じゃねぇ! ど、どうしよう……)

「ライト」

「……ッ!!!」

 

 ビビった。心臓止まるかと思った。叫び声を上げなかった俺ナイス。声変えてないとまんまライ・トーアムだしな。アレクシア王女にライトの正体がバレる訳にはいかん。

 

「……な、なんだ?」

「言うまでもないでしょうけど、進めるわ。許可を頂戴」

「そ、そうか。そんな段階か」

「ええ。──始めましょう」

 

 だから何を? 何を始めるの? 

 

 ……うわぁ、デルタとかイプシロンもやる気満々な顔してるよ。デルタはともかく、イプシロンは絶対全部理解してるじゃん。さっきこっそり聞いときゃ良かったかな。

 

「さあ……御伽話の世界に旅立ちましょう?」

 

 この『聖域』に入る前にしたやり取りと同じだ。早過ぎるデジャブを感じながらも、やはり俺が返せる行動なんて肯定を表す頷きしかない。

 

「──ああ。そうしよう」

 

 うん。やっぱり俺要らない子だな。

 放たれる白い光に包まれながら──少し泣いた。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「……えっ? あれ?」

 

 ライトであることも忘れて、間の抜けた声を出す。アレクシア王女に聞かれる心配はない。それどころか、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……なんでぇ? なんで俺だけ?」

 

 白い光から解放され、目を開けてみればあら不思議。何故か俺一人だけよく分からん場所に飛ばされてしまっていた。これが差別か、要らない子に対する差別なのか。

 

「……どこだよ。ここ」

 

 フードを外しながら辺りを見回してみる。シンプルながらも清潔感のある広場であり、白をメインとしたデザインはどこか近未来的なものを感じさせた。

 

「ん?」

 

 取り敢えず散策してみるかと歩き出してみれば、ふと気になるものが視界に入る。それは数十段の階段を登った先にある空間に存在しており、男であればテンションが上がること間違いなしの光景だった。

 

(マス○ーソードみてぇだな)

 

 台座に突き刺さる青と金で装飾された一本の剣、見るからに伝説な雰囲気を出している。某ゲームでよく見た光景にそっくりだったため、そんな感想が口から溢れた。

 更にその剣の奥には見上げる程にデカい扉。何本もの太い鎖で封じられている様子は絶対に開けてはならないという意志を感じた。

 

「ていうか、また魔力が練れん」

 

 学園が襲撃された時と同様に、魔力が上手く操れない。これが『聖域』の特性なのかは分からないが、面倒な場所に来てしまったのは確定だ。

 維持するのが面倒なので、スライムスーツを解いた。これで見た目は普通の学生。怪しまれることは……いや、怪しまれるか。

 

「さて、どうしたもんかな」

 

 俺は剣が刺さる台座の隣に腰を落とし、軽く息を吐いた。シドの出現からアルファ達の付き添いまで怒涛の展開。短い時間に随分と疲労したものだ。

 

(俺だけ別の場所に移動した……のか? まあ、大丈夫だと思うけど)

 

 アルファにデルタ、イプシロンと、今回の作戦には【七陰】が三人も来ているのだ。身の安全を心配する必要は無いだろう。アレクシア王女達のこともついでに守ってくれるとは思うし、俺はここで大人しくしてよう。

 

「そういえばアルファが物的証拠とか言ってたな。……この聖剣とか持って帰ったら喜ぶかな」

 

 アホなことを考えながら完全に脱力していると、危険予知の信号が頭を走った。自分の直感は信じることにしているので、すぐ立ち上がりその場を動く。すると俺が座っていた場所へ、ぐへぇっという情けない声と共に何かが落下してきた。

 

 

 ──()()()()()()()()()()

 

 

「……シド。何やってんだよ」

「やあ、ライ。さっきぶりだね」

「そんなこと言ってる場合か。なんでお前が上から降って……っと」

 

 床に転がるシドに呆れていると、またもや上から何かが降ってきた。反射的に腕で受け止めれば、そこには予想外の人物が驚きの表情をしていた。

 

「アンタは……さっきシドと戦ってた古代の戦士か」

 

 濃い紫の長髪に、アメジストのような瞳をした女性。綺麗な顔をしてえげつない攻撃をしていた彼女に間違いない。

 遠目で見ていた時には正確に測れなかったが、間近で感知すると魔力の質がやはり異常だ。名前は知らないが、シドや俺に迫る実力者なのは間違いないだろう。

 

「あら、受け止めてくれてありがとう」

「どういたしまして。女性には優しくしろと教えられてるんでね」

「そう、素敵な教えね」

「父親からさ。尊敬してるよ」

 

 美女をゆっくりと降ろし、突然現れたシドへ視線を向ける。コロシアムから飛んで行ったのは分かっているが、どうしてこんな所へやって来たのやら。

 

「シド。なんでお前がここに?」

「いやぁ、色々あってさ。ヴァイオレットさんと遊んでたんだ」

「ヴァイオレットさん?」

 

 俺が首を傾げていると、謎の美女が小さく手を上げた。

 

「私のことらしいわ。ちなみに名前はアウロラよ」

「アセロラ?」

「……やっと常識人に会えたと思ったのに」

 

 残念そうにため息を溢すアウロラさん。ごめんて、マジでそう聞こえたんだもん。

 

「悪い悪い、アウロラさんね」

「ふふん。分かれば良いのよ」

「ライの方こそ、どうしてここに?」

「俺は……まあ、色々あった」

「僕と同じこと言ってるじゃん」

「う、うるせぇ。だ、駄目リーダーの代わりに働いてたんだろうが」

 

 俺の色々については、あまり深く掘り下げられると不利になる。適当に誤魔化すため、この話は流すことにした。シドが神出鬼没なことなんて今に始まったことじゃないしな。

 

「……取り敢えず、ここは敵の拠点らしい。俺はアルファ達と来たんだが、よく分からん内に一人にされた」

「へー、災難だったね」

「ここでお前に会うよりはマシだったけどな」

「ははっ、またまた」

「いや、割とマジ」

 

 敵の拠点で一番会いたくない男に出会ってしまったんだぞ。しかも上から降ってくるとか避けようがねぇじゃん。ホラーじゃん。

 

「それにしても、なんか凄い場所に出たね」

「……ここは『聖域』の中心よ。最も力が集まっている場所でもあるから、魔力の類は全く扱えない筈よ」

 

 俺が非情過ぎる運命を呪っていると、シドとアウロラさんが辺りの確認を始めた。どうやらアウロラさんには『聖域』についての知識があるらしい。……ていうか俺、いきなり中心に飛ばされたのかよ。えっ? いじめ? 

 

「ねぇライ、アレって何?」

「……ん? ……ああ、見ての通りだろ」

「伝説の聖剣的なアレか。まさか実物を見られるなんてなぁ。後ろの扉は?」

「俺が知る訳ないだろ」

 

 面倒臭くなり始めながらこの場で唯一知ってそうなアウロラさんに視線を向けると、彼女は表情を険しくした後、深刻そうな声音で語り出した。

 

「……その扉の中に、この『聖域』を維持している魔力の核があるの。それを壊せばここから出られるわ」

「そっか、じゃあ話は早いね」

「壊すにしたって……鎖はどうすんだよ?」

 

 シドは軽いノリで言うが、扉を開けるのは簡単じゃなさそうだ。少なくとも、今持っている剣では僅かなヒビすら入れられないだろう。

 

「この剣じゃ無理かな。ライでも無理?」

「無理だ。魔力も使えないしな」

 

 俺の剣はシドのやつに比べると上等な代物だが、流石にこの鎖相手だと切れ味が足りないと思う。使い手の腕次第とか言える次元じゃない。

 

「そっかー。じゃあ明らかに使ってくださいっていう感じで刺さってるこれを使うしかないのかな」

「抜けないと思うけどな」

「僕もそう思う」

 

 俺達の会話を聞いて首を傾げるアセロラさん。まあ、前世とかでゲームやってないとこのノリは分からないよな。

 

「どうして抜けないの? この剣なら鎖が切れるってここに書いてあるけど……」

「僕達には分かるんだよ。この剣は……選ばれし者にしか抜けない」

 

 シドが短く言葉を返しながら、聖剣を両手で掴む。そのまま力を込めて抜きにかかったが、ビキビキという音を立てただけで剣は抜けなかった。

 

「やはり……剣が拒絶している」

「あっ! 台座の部分に『聖剣は勇者の直系の子孫にしか抜けない』と書いてあるわ!」

 

 うん、知ってた。

 それよりアウロラさん博識だな。書かれてるのは古代文字っぽいのに、普通に読めるなんて。

 

「即座にそれを理解するなんて……貴方達、何者?」

「ただの陰の実力者さ」

「普通の一般人」

 

 シドの馬鹿力なら無理矢理抜ける可能性もあると思ったんだが、やっぱり無理なものは無理か。

 

「ん?」

 

 しゃがみ込んでじっくり台座を見てみると、そこには少しばかりのヒビが入っていた。どうやらシドの挑戦は完全に意味が無かった訳ではないらしい。

 

 ……これなら、いけるか? 

 

「シド、これ見ろ」

「なに? ……んー、可能性はあるかもね」

「二人で同時にやればな」

「こういうの、ゲームで言うところのバグってやつだよね」

 

 この世界のバグがなんか言ってる。

 

「俺が右側、お前は左側だ」

「オッケー」

 

 聖剣の持ち手部分をそれぞれ掴み、全力で踏ん張る体勢を作った。アウロラさんは俺達が何をしようとしているのか察したらしく、小走りで距離を取った。

 

「準備良い?」

「ああ。──せーのっ!!!」

 

 

「「ふんッ!!!!」」

 

 

 その瞬間、聖剣から危険信号のような音が大音量で発生。ガキンガキンという剣と台座が擦れるような音も鳴り響いた。

 俺とシドは構わずに力を込め続ける。ゴリ押し以外の何でもない力技を押し通すために。

 

「シド、力を入れ直すぞ」

「うん。いけそうだね」

 

 汗で手が滑ってきたので、一度手を離してからやり直す。聖剣がビクッと揺れた気がしたが、多分気のせいだろう。

 

「ちょっ、ちょっと、壊れちゃうんじゃ……」

「大丈夫。──俺は聖剣を信じてる」

「貴方何も知らないでしょう!?」

 

 アウロラさんの言葉を無視して、シドと共に再び聖剣へと手を付けた。きっと耐えてくれるさ、俺達の聖剣なら。

 

「「せーのっ!!!」」

 

 どうやら二度目の挑戦で、ようやく限界を迎えたらしい。

 

 ──()()()()()

 

「……抜けたね」

「……抜けたな」

 

 俺とシドの視線の先にあるのは、聖剣の哀れな姿だった。引きちぎられた台座に刺さったまま転がる様子は、勇者以外には絶対に抜かせないという強い意志を感じさせた。

 

「強情だねぇ」

「根性あるな、この聖剣」

「貴方達……両方ゴリラだったのね」

 

 なにやらアウロラさんに不本意なことを言われている。俺のゴリラ具合なんてシドと比べれば可愛いものだ。リンゴを握り潰す程度の話じゃない、シドなら木材とかだって爪楊枝みたいにへし折れる。

 

「まあ、取り敢えず……剣だけ抜くか」

「そうだね。ライ、台座押さえてくれる?」

「分かった。剣は任せる」

 

 またも聖剣がビクッと震えた気がしたが、多分気のせいだろう。

 

「次はいけそうだね」

「さっさと終わらせるぞ」

 

 早く済ませてアルファ達と合流したい。聖剣を手土産にすれば、ガッカリされることもないだろ。

 

 そんなことを考えながら、シドと俺が聖剣と台座に手を伸ばした瞬間──新たな登場人物がこの広場にやって来た。

 

 

「何をしておるのだァァァァッ!?!?」

 

 

 俺達の耳に、聞き覚えのある怒号が響いた。

 

 

 

 




聖剣「えっ!? 今からでも入れる保険があるんですかっ!?」
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