陰の右腕になりまして。   作:スイートズッキー

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19話 倒しちまっても良いんだろ?

 

 

 

 

 

「──アルファ様。全員の脱出を確認しました」

「そう、ありがとう。イプシロン」

 

 手短に報告を済ませ、イプシロンがアルファへ軽く頭を下げる。『聖域』への突入任務が無事に終了し、【シャドウガーデン】と飛び込み王女二人は外の世界へと脱出していた。

 一人を除いて『聖域』に取り残された者は居ないようなので、取り敢えず一安心だろう。

 

 そう、()()()()()()

 

「撤収するわ」

「ま、待ちなさい!!」

 

 引き上げようとしたアルファに待ったをかけたのは、飛び込み王女組の一人であるアレクシアだった。銀色の髪は所々ボサボサになっており、『聖域』内での扱いが雑だったと分かる。

 

「アイツは……置いていくの?」

「誰のことかしら?」

「は、はぁ? あのライトとかいう人のことよ!」

 

 不思議そうな顔で小首を傾げるアルファに、アレクシアが再度叫んだ。天と地程の実力差がある相手にもこの強気、伊達に王女を務めていない。

 

「置いていく、ね。──()()()()()

「……えっ?」

 

 予想外の返しに、アレクシアは困惑した。『聖域』に入った後、彼女はライトと呼ばれる人物と並んで歩いていたからだ。間違いなく仲間意識は強い筈であり、急に居なくなったことを心配していない訳がないと思っていた。

 

「ぎゃ、逆って……どういう意味よ?」

「そのままの意味よ。私達が彼を置いて行ったんじゃない。()()()()()()()()()()()()

 

 ますます意味が分からないと、腕を組んだアレクシア。隣に居るローズも似たような反応を見せていることから、同じように困惑しているようだ。

 

 説明する義務も義理もないアルファだが、ライトのことを誤解されたくないと口を開く。教えねばなるまい、その義務ならばあるのだから、と。

 

「彼の行動には必ず意味がある。シャドウと同じようにね」

「シャドウ……」

 

 アルファの口から出た名前に反応するアレクシア。それも無理はない、僅かな遭遇で自身の価値観を大きく変えた存在なのだから。

 

「ライトはシャドウの右腕。あの二人のことは、あの二人にしか分からないわ」

「あ、貴女達でも分からないの?」

「……そうね。努力はしているけど……遠いわね」

 

 アルファの言葉に、【シャドウガーデン】全員が表情を変えた。恩人であるシャドウ達の背中が遥か先にあるという事実。それに直面した時、いつだって彼女達はどうしようもない無力感に襲われるのだ。

 

「──『光が無ければ陰は無い』。シャドウはよくそう言っていたわ」

 

 余計なことまで話し過ぎたと、アルファがため息を溢す。問答を断ち切るように髪を手で払うと、アレクシアに背を向けて歩き出した。

 

「……話は終わりよ。気を付けて帰りなさい」

「あっ! ちょ、ちょっと! 待ちなさいよっ!!」

 

 今度はアレクシアの声を無視し、アルファ達はその場から去った。残されたのはローズと、小説家ナツメの姿をしたベータだけだった。

 アレクシアは結局重要な情報を得られなかったと落胆。それなりに覚悟して首を突っ込んだというのに、割に合わない話だ。

 

「……ライト。……シャドウの右腕」

 

 姉と同じ『天才の剣』を振るった人物。

 下水道で一度会っただけの関係だが──シャドウと【シャドウガーデン】、この二つの存在を知ろうとすればする程、ライトという人物が深く関わってくる。

 

「…………」

 

 ポケットから取り出したのは極厚の金貨。アレクシアはそれを掌に置き、しばらく無言で見つめた。『聖域』に飛び込むチャンスを作ってくれた物であり、拾ってくれたのは話題の中心であったライト。その後しっかりと返却してきたことを考えると、それほど悪い奴ではないのかもしれない。

 

「……一体、何者なの?」

 

 見上げた夜空には──白く美しい月が光り輝いていた。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「何をしておるのだァァァァッ!?!?」

 

 多くの血管が浮かび上がる程の怒りと共に、大司教兼『ディアボロス教団』のメンバーであるネルソンが吠えた。

 アルファ達との戦闘を終えたばかりであり、憤慨するだけでも一苦労だ。

 

「誰? あのハゲた人?」

「ん? そりゃ、あれだよ……誰だっけ」

 

 ネルソンが叫ぶ原因となった二人、シドとライ。聖剣を台座ごとぶち抜くという意味不明なことをしたばかりにも関わらず、自分達が怒られているとは微塵も思っていなかった。

 

「ああ、そうそう。敵だよ、敵」

「ふーん。隣に居るエルフの女の子は? アルファに似てるみたいだけど」

「そっちは知らん。ていうか似てないだろ。アルファの方が可愛い」

「……そうだね。ごめん」

 

 のんびりマイペースに状況を確認する二人へ、ネルソンは更に怒りを引き上げる。護衛として連れて来た『英雄・オリヴィエ』のコピー体を自身の前へと出し、盾がある状況を作ってから再び声を張り上げた。

 

「貴様ら何者だッ! ここがどういう場所か分かって侵入したのか!! ……ん? 白髪の貴様の顔には見覚えがあるぞ……アレクシア王女の護衛をしていた『紅の騎士団』かっ!?」

 

 やべっとライが表情を歪めるが、今更バレたところでもう遅いとすぐに開き直った。

 

「ただの騎士ではないということか。どうやってここへ来た!」

「……知らないな。こっちの二人もよく分からんけど、俺はいきなり飛ばされて来ただけだ。むしろ俺は被害者だ」

「な、なんだと?」

 

 聖剣の台座に伸ばしていた手を引っ込め、ライが不満顔を隠そうともせずに答える。事実、彼は何故ここに飛ばされたのか分かっていない。

 

(飛ばされただと? ……ありえん。ここは『聖域』の中心地だぞ)

 

 ネルソンがチラリと向けた視線の先にあるのは巨大な門。『教団』内でもトップシークレットとされている『とある物』が封印されている場所だ。その影響で魔力阻害は最高レベル、簡単に侵入出来る場所ではない。

 そしてネルソンが気になった"飛ばされた"という言葉。すなわち、『聖域』が呼び寄せたということになる。

 

(やはりありえん! 膨大な魔力を呼び寄せたと考えれば可能性はあるが……そんなもの()()()()()()()()()()()()()()()()()()──ふっ、そんな訳がない)

 

 馬鹿げた思考を振り払うように、ネルソンが首を動かす。一人の人間にそこまでの魔力が宿る筈もないのだ。どうせ『聖域』の誤作動か何かだろうと結論付けた。

 

「ふん! まあいい。この場所を知られたからには生きて帰れると……ちょっと待て! お前達何をしている!?」

「「えっ?」」

 

 ネルソンの悪役台詞を完全に無視し、聖剣を持ち上げ出したシドとライ。どうやら話が長かったので、飽きてしまったようだ。聖剣はガタッと震えた。

 

「なんなのさー、邪魔しないでもらえるかな?」

「今忙しいんだ。後にしてもらって良いか?」

「その剣に触れるでないわ!! 台座ごと引き抜きおって!! バカかお前達!!」

 

 ここまでのやり取りを無言で眺めていたアウロラが、ネルソンの言葉にゆっくりと頷いた。ようやく会えた常識人が敵側であることに悲しさを覚えながら。

 

「すぐ終わるって。ハゲの人」

「おい、シド。それは流石に失礼だろ。えーっと、名前は確か……『ダイソン』」

「吸引力変わらなそうだね」

「ネルソンだぁぁぁぁァァァッ!!!」

 

 相変わらず人の名前を覚えるのは苦手らしく、しっかりと間違えたライ。転生者ならではのツッコミを入れたシドと合わせて、ネルソンは完全にブチギレ。流石にアウロラも少しばかり同情した。

 

「──ッ!? 貴様ら、アウロラまで連れ出したのか!?」

 

 真面目に気が付いていなかったのか、ネルソンの顔が驚愕に染まる。『災厄の魔女』とも呼ばれる彼女に意識が向かない程、シドとライのインパクトは強かったようだ。

 

「ふっふっふ!! どうやらお前達は魔女に(たぶら)かされたようだな! お前達ではその扉は開けられん! ましてや鍵となる聖剣も……」

 

 抜けはしない、と続けようとしたネルソンだったが、シド達の足元に転がる無惨な姿の聖剣を見て口を閉ざした。

 

「も、もう良い!! 無駄なお喋りは終わりだ!」

「いや、喋ってたのほとんどお前じゃん」

「うるさいっ! オリヴィエ! アイツらを始末しろ!!」

 

 ライに事実を言われてムカついたのか、ネルソンがオリヴィエへと指示を飛ばす。内容はシンプル、侵入者達の殲滅だ。

 無感情に歩き始めたオリヴィエを見て、ライがシドへと言葉を投げる。

 

「どうする?」

「そうだねー、魔力はすぐに使えないしなぁ」

 

 魔力操作に秀でたシドでも『聖域』の中心では魔力を自由に操れないらしく、顎に手を当てて思考する様子を見せた。

 ライはそんなシドにため息を溢すと、腰に携えていた剣を引き抜き、ゆっくりと向かってくるオリヴィエへ身体を向けた。

 

「時間は?」

「今から始めると……五分ってところかな」

「ん、分かった」

「どうするの? 強いよ、相手」

「魔力を目と耳に集中させて、無理矢理強化するさ。それで十分だ」

「そっか。頼むよ、我が右腕」

「うるせぇよ。黙って魔力練ってろ」

 

 何らかのやり取りを終えると、ライもオリヴィエに向かって歩き出す。その身体に無駄な力は入っておらず、僅かな緊張すら感じさせない。

 

「ちょっ、ちょっと! 貴方何をする気なの!?」

「アウロラさんはそのバカの背中にでも隠れてなよ。攻撃が飛んできたら危ないからね」

「あ、ありがと……じゃなくって! 戦う気!?」

 

 そんなアウロラの言葉にライからの返答はなく、ただ軽く左手を上げて応えられただけであった。すかさず止めようとしたアウロラだったが、飛び出そうとする前にシドによって肩を掴まれた。

 

「やめときなって。危ないよ」

「危ないのは彼の方でしょ!! 貴方の知り合い殺されるわよ!?」

「大丈夫だって」

「大丈夫な訳ないでしょ!? アレは人間が勝てる相手じゃ──」

「ヴァイオレットさん。()()()()()

「……えっ?」

 

 宥めるように、ではなく、単なる事実を口にしているといった様子のシド。あまりにも落ち着いているため、アウロラの頭は逆に冷静になってしまった。

 

「安心して良いよ。面白いものが見られるから」

「面白い……もの?」

 

 何故か片目を閉じ始めたシドに言われるがまま、アウロラは遠ざかっていくライの背中に視線を向けた。どこにでも居そうな普通の体型、とびきり身長が高い訳でもなく、見ただけで分かるような筋肉が付いている訳でもない。

 

(何故……そんな風に歩けるの?)

 

 相手の力量が測れていないのか、はたまた自分の力を過信しているのか。そのどちらなのかは分からないが、アウロラからすれば正気の沙汰ではない。

 対峙するのは伝説の英雄オリヴィエ。間違っても人間が勝てるような存在ではない。自殺行為でしかないのだ。

 

「フハハハハッ!! どうやら命知らずの馬鹿のようだな! オリヴィエ! 構わん! 殺せぇッ!!」

 

 ネルソンの言葉へ反応するように、オリヴィエが動く。華奢な身体からは想像出来ないほど軽々と剣を構え、ライヘ向かって疾風の如く駆け出した。

 

「──シド」

 

 命を狙われている立場とは思えない態度で、ライが振り返りながら口を開いた。悪戯っ子のような顔をしており、どこか楽しんでいるような雰囲気すら感じ取れる。

 

 美しい()()()()を輝かせながら、ライは不敵な笑みと共に言葉を投げた。

 

 

 

「──別に……倒しちまっても良いんだろ?」

 

 

 

 




 オリ主が魔力解放モードになると、目の色が黄色に変わります。
 黄色にした理由は単純で

 シド→赤
 ライ→黄
 アルファ→青

 信号機カラーにしたかったからです(笑)。
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