陰の右腕になりまして。   作:スイートズッキー

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28話 久しぶりだな

 

 

 

 

 

 昨日終わったアンネローゼとの試合に勝ったことで、俺は本戦の二回戦へと進出を決めた。久しぶりに満足のいく剣を振れたこともあり、自分で言うのも何だがとても機嫌が良い。

 今日は一日休養を取り、明日の二回戦に備える。アイリス王女からも『紅の騎士団』は休んで良いと言われているので、本日は完全にオフだ。

 

 

 ──そう、()()()()()

 

 

「じゃあ、いくよ?」

「……はいはい」

 

 俺に完全な休日など無い。所詮、『紅の騎士団』なんてのはバイトだ。本業にくっ付いた副業でしかない。副業がないなら本業が来るのは当たり前。なんでこの歳で社畜みたいなことしてるんだろうな。

 

 目の前でウキウキとした顔を晒すシドを見て、俺は深くため息を溢した。自分の部屋だというのに全く安らげない。このバカを迎撃するための防犯システムを本気でイータとシェリーに相談しようか悩むところだ。

 

 そんな俺の憎しみなど知る訳もなく、シドは懐から取り出した袋を机に置いた。俺もそれに続いて袋を取り出す。

 

「せーのっ!」

「……せーの」

 

 タイミングを合わせて袋の中身を机の上へ。机は一瞬でキラキラと輝く金貨で埋め尽くされ、シドが居なければ思いっきりガッツポーズでもしていた筈だ。

 

「あ〜っ、負けたか〜! やっぱり僕の方が大穴扱いだったんだ」

「嬉しそうだな」

「ジミナの実力を偽ることが出来たっていう何よりの証拠だからね」

 

 シドが俺のオフを潰し、部屋に突撃してきた理由は単純。『ブシン祭』の賭けで儲けた額を発表しようというものだった。最も、お互いがお互いにしか賭けていないため、俺の方が多くなるのは確実だっただろうが。

 

「ライが大穴扱いだったのは昨日の試合だけだったもんね。後は全部ライの方が優勢って見られてたし」

「お前は全部大穴だったからな。……あんなに弱そうじゃ無理もないけど、本戦に出た辺りぐらいから周りもいい加減気付けよな」

 

 そういえばヒョロはどうなったんだ? 二日前ぐらいから姿を見て……いや、考えるのはやめよう。多分、元気だろ。

 

「まあ、それだけ僕のパフォーマンスが完璧だったってことだね」

「調子乗んな。手遅れ厨二病患者。……満足したなら行けよ。俺は叩き起こされてイライラしてんだ。二度寝するから出てけ」

 

 ぶん殴って追い出したいところではあるが、そんな元気もない。俺はシドに対して即刻出ていくように口と指で命令した。

 

「ど、どうして窓を指差すのさ。ここ四階だよ? モブの僕がそんな高さから落ちたら大怪我するじゃん」

「ああ悪い、言葉が足りなかったな。──大怪我して出ていけ」

「酷くない……?」

「酷いのは急に突撃して来たお前だろうが」

 

 どうしてコイツはこう来て欲しくないタイミングで来るのだろう。狙ってやってるならマシな方だが、そんな意図が無いと分かっているので余計にタチが悪い。

 

「せっかく騎士団を休ませてもらってるってのに……」

「なんか忙しそうにしてるよね。ライのバイト先」

「バイト先とか言うな。……まあ、間違ってはねぇけど」

 

 忙しそうにしているのも、バイト感覚なのも間違ってはいない。給料を貰っている以上、真面目に働きはするけどな。

 

「ていうか、忙しいのはお前の婚約者のせいだろ。なあ? ローズ会長の恋人さんよぉ?」

「……どうしてそんな話になってるのか分からないんだけどね」

 

 先日、新聞の一面を独占した記事。それは『オリアナ王国』の王女であるローズ・オリアナが婚約者であるドエム・ケツハットを刺して逃亡したというものだった。

 留学に来ている王女というだけではなく、魔剣士学園の生徒会長としても知られているローズ会長。そんな品行方正な彼女が起こした大事件は瞬く間に国中へと広がっていった。

 

「婚約者の名前を聞いた時は爆笑してたが……そんな場合でもないんだよな」

「そだねー。ライはこの事件について詳しいのかと思ってたよ」

「いや、『ブシン祭』に集中して欲しいってアイリス王女が口止めしてたらしくてな。俺とクレアが知ったのは昨日、試合が終わった後の話だ」

 

 まさかの人物が殺人未遂。流石に驚いたけど、大会に専念しろと言われればやることもない。ローズ会長とは特に親しくもないし、団長命令を無視してまで助けようとは思えない。

 更に言えば『オリアナ王国』は自国の問題として解決すると発表しているらしく、『ミドガル王国』に手出し無用との声を上げた。下手に関われば国同士の関係に亀裂が入りかねない状況だ。

 

「『紅の騎士団』としては動けないが……お前が動くなら手を貸すぞ?」

「いや、いいよ。彼女には彼女の考えがあるんでしょ」

「……俺が言うのもなんだが、お前はドライだな」

「めちゃくちゃ驚いたけどね」

 

 軽い声で笑いながら楽な体勢を取るシド。多分深くは考えてないんだろう。コイツはその場その場で対応する〝出たとこ勝負タイプ〟。それが出来てしまう実力を持っているのが面倒なところでもある。

 

「そう言えば事件が起こってから一回だけ会ったんだよね。ローズ先輩と」

「は? マジで?」

「うん。シャドウの姿でピアノ使って遊んでたら、なんか迷い込んできたみたいでさ。丁度良かったから楽しませてもらったよ」

 

 何をしてんだコイツは。逃亡中の王女様相手でも厨二ムーブって。

 

「……ってか、ピアノってあれだろ? 俺も運ぶの手伝わされたやつだろ」

 

 本戦進出を決めるための予選終了後、騎士団として街を見回りをしていた時に俺はシドから急に呼び出された。見回りぐらいならサボっても良いかと思い行ってみると、そこにはデカいグランドピアノ。そして始まるピアノ泥棒。俺は行ったことを一瞬で後悔した。そこに関する学習能力は自分でも無いと思う。

 

「そうそう。あの日あの日」

「……お前って無駄に出来ること多いよな」

「最高の『陰の実力者』になるための努力は惜しんだことないからね」

「俺に対する気遣いも惜しむな」

 

 なんで『ライト』の姿になってまでピアノを運ばなきゃならんのだ。リーダーと副リーダーが一緒になってピアノを運んでいる光景なんて、他の皆んなには絶対に見せられないな。まあ、あの子達はそれにだって意味があると深読みしそうではあるが。

 

「ははっ、いつもありがとう」

「欠片も感謝を感じない言葉をどうも。……話は終わりだ。早く帰れ」

「まあまあ、そう言わずに。──()()()()()()()()()()()()()()()

「……」

 

 楽しそうに笑うシドを見て、俺はトーナメント表を思い返していた。一回戦の相手はアンネローゼ。そして明日行われる二回戦、その相手は──ジミナ(シド)だった。

 

 想定していなかった訳ではない。むしろ、トーナメントの配置を知った瞬間から分かっていたことだ。

 

「……()()()()()()、か?」

「まさか。()()()()()()()()()

 

 シドの心からそう思っているような顔に、俺も口元が緩んだ。コイツのこういう部分は、そんなに嫌いではない。

 

 

「ライ。──僕が勝つよ」

「言ってろ。──勝つのは俺だ」

 

 

 その後、シドは無事に叩き出せた。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 その日、【シャドウガーデン】最高幹部である【七陰】達は──胸の高鳴りを抑えられなかった。

 

 場所は『ブシン祭』が行われる会場。特別VIP席に比べればランクは落ちるが、一般人が取れる席としては最高級の観戦席に彼女達は座っていた。値段だけ見ればVIP席と言って良いレベルであり、試合が目の前で見られる席だ。観戦という点に於いて、これ以上の席はない。

 

 普段から【シャドウガーデン】を支える強者の彼女達も、この日ばかりは年相応の少女の顔をしている。アイドルのライブに来たような者も居れば、興奮が止まらずにメモ帳へ激しくペンを走らせる者も居た。

 

 

 それも無理はない。これから始まる試合は彼女達にとって文字通り──『特別』なのだから。

 

 

「おい見ろよ。すっげぇ美人が集まってるぞ」

「エルフに……あの子は獣人か?」

「っておい! 小説家の『ナツメ』先生じゃねぇか!?」

「それだけじゃねえって! 演奏家の『シロン』さんも居るぞ!」

 

 もちろん貸切という訳ではないため、他にも観客は居る。お互いの声が聞こえないような距離ではあるが、目を凝らせば顔は確認出来る。そのため他の者達が騒ぐのに、彼女達の知名度は十分過ぎた。

 

「俺知ってるぞ! あの人は『ミツゴシ商会』の会長だ!」

「どういう集まりなんだよ……。有名人ばっかじゃねぇか……」

「何話してんだろうなぁ」

「目の保養過ぎる……」

 

 座っている全員がとびきりの美女ばかり。男達の意識を独占してしまうのも当然であり、人によってはこれから始まる試合よりも真剣に目を酷使していた。

 しかし、当の彼女達は熱い視線を向けられていることなど気にもしておらず、興奮気味に試合開始を待ち侘びていた。

 

「まだ始まらないのです!? デルタ達遅刻したんじゃないですっ!?」

「お、落ち着きなさいよデルタ! 大丈夫だから!」

 

 尻尾をブンブンと振りながら子供のように騒ぐデルタと、そんな彼女を宥めるイプシロン。隣同士に座っているため、姉と妹のようにも見える。

 

「ちょっとガンマ! デルタを大人しくさせてよっ!」

 

 たまらず近くに座るガンマへ助けを求めたイプシロンだが、相手を間違えたとすぐに肩を落とした。

 

「主様とライト様の試合……私はなんて幸運なんでしょう。私如きでは結果を予想出来る筈もない。今はただこの幸せを……感じていたい」

 

 神に感謝する巫女のように手を合わせ、目を閉じていたガンマ。助力は期待出来ないと、イプシロンはため息を溢す。気持ちが分からなくないので、責める気にもなれなかったが。

 

「ベータ!」

「シャドウ様とライト様の戦いそれは主と右腕という信頼関係の上で行われる予想も出来ない戦いお互いの実力を知り尽くしているが故に無駄な攻撃など無い完成された剣が見られることは確実──」

「ああっ! もうっ!!」

 

 絶え間ない言葉と共にメモ帳と睨み合うベータを見て、イプシロンは再度諦めた。ガンマの隣に座っているベータも頼りにならない。

 肩を落とした彼女を救ったのは──『第一席』の存在であった。

 

「デルタ。──()()()()()()()

「ひゃっ、ひゃい! ごめんなさいなのですっ!」

 

 そこへ飛んできたのは、実質的な組織のまとめ役であるアルファからの一声。デルタがシャドウとライト以外に唯一格上と認めている人物なだけあり、騒いでいたデルタを一瞬で黙らせた。

 

「せっかく可愛い洋服を着せてあげたんだから、お淑やかにしなさい。彼らの試合なら、もうすぐよ」

「わ、わかったのです……」

「ふふっ、良い子ね。偉いわ、デルタ」

 

 反省したように耳を畳んだデルタだったが、アルファから褒められすぐに笑顔に。単純過ぎる性格にイプシロンが呆れるが、ようやく静かになったと安堵した。

 

 現在、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、イプシロンの順で席に座っており、他に予約した席が後三席残っている。

 一番離れた場所に座っているというのに、結局デルタを大人しくさせたのはアルファ。イプシロンは改めて彼女の凄さを理解させられた。

 

「そういえば……この子達はまだ来ないのですか? アルファ様」

 

 少し心配そうな顔で自身の隣の席を見たイプシロン。試合開始が近いというのにまだ席に来ていない()()のことを気遣っているのだ。

 イプシロンの優しさにアルファは妖艶な笑みを浮かべると、優雅な仕草で髪を耳に掛けながら返答した。

 

「心配しなくてもすぐに来るわ。イータとシェリーは今頃、ライトの激励に行っているでしょうから」

「ええっ!? そうなんですか!?」

「あら? 貴女もシャドウの激励に行きたかった?」

「い、いえっ! ……そんなことは」

 

 明らかに行きたかったというイプシロンの顔を見て、アルファは可愛らしく笑う。自身もライに会いたかったが我慢したからだ。これから始まる試合に、全神経を集中させられるように。

 

「あの子についても心配は無用よ。ちゃんと来てるでしょうから。……シャドウとライトの勝負。それをあの子が見逃す訳ないもの」

「そ、そうですね。ありがとうございます」

「楽しみましょう? 間違いなく、素晴らしい勝負になるでしょうから」

 

 聞いた話によると、昨日シャドウがライトの部屋を訪れたらしい。今日の試合に対する覚悟をぶつけ合ったのだろうと予想したアルファは、これから始まる試合を誰よりも楽しみにしていた。

 

 それに加えて久しぶりに──()()()()()

 仲間を家族のように大切にしているアルファにとって、今日という日は心から喜ばしい日となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──〝ちびっ子コンビ〟襲来。

 俺の目の前の状況を簡潔に説明するのに、これ以上の言葉は無いだろう。

 

 場所は試合会場へと続く入場通路。そこには子供のようにはしゃぐテンションの高い声と、眠そうな大人しい声が響いていた。

 

「ラ、ライ君! あの、頑張ってくださいっ!」

「シェリー。それ言うの……八回目」

「はっ! そ、そうですね! イータさん」

「でも、応援は……良いこと」

「ですねっ! ライ君! 頑張ってください!」

「……九回目。ぶいぶい」

 

 楽しそう(小並感)。

 

 二分前ぐらいから一方的に繰り広げられているほのぼの応援に、俺はしっかりと癒されていた。力が抜けそうな会話を試合前にされるのは賛否が別れる所だろうが、俺からすれば特に問題はない。

 むしろシェリーとイータが応援に来てくれて素直に嬉しい。こんな小さい美少女コンビが実は世界最高峰の発明家達であるとは、誰も見抜けないだろうな。作る物もえげつない物ばかりだし。

 

「ありがとな。シェリー、イータ。そろそろ席に戻った方が良いぞ。ここから少し距離があるんだから」

 

 後十分もしない内に、試合が始まる。この二人の歩行速度を考えると、今から席に向かって丁度良いぐらいだ。

 

「分かりました! 応援してますっ! あっ、もちろんシド君も──」

「シェリー、だめ」

「そ、そうでしたっ! 言ってません! 何も言ってません!」

 

 楽しそう(小並感)。

 

「イータ。ちゃんとシェリーを案内してやれよ? 迷子にならないようにな」

「うん、分かった」

「シェリー。ちゃんとイータを歩かせてやれよ? その辺で寝ないようにな」

「はい! 分かりましたっ!」

 

 ガシッと手を繋ぎ、笑顔と無表情で頷いたちびっ子コンビ。何回話してても初めてのおつかい感が抜けないんだよなぁ。

 

「じゃあ、ライ君。また後で」

「ばいばい」

「おう、しっかり観てろよ」

 

 とてとてという効果音が付きそうな走り方で去っていくシェリーとイータ。転ぶことなく階段を登り切ったのを確認し、俺は試合会場の方へ身体を向けた。腰にある二本の剣の重みと共に。

 

「──妹さんですか?」

 

 ニコニコと評判の良さそうな笑顔で話しかけてきたのは案内係のお姉さん。選手の身体検査と入場の見送りをしてくれる人だ。危険物の持ち込みなどしていないので、後は見送ってもらうだけである。

 

「ええまあ、そんなところです」

「可愛らしい子達ですね。特に桃色の髪をした女の子」

「ああ見えて頭が良いんですよ。得意分野なら国一番でしょうね」

「ふふっ、お兄さんは妹さんが大好きなんですね」

「そうですね。大切な存在です」

 

 楽しそうに笑っているお姉さん。美人で礼儀正しく、背筋も伸びている。そう──()()()()()()()

 

「……茶番はこんなもんか? 満足しただろ」

「えっ? 急にどうされ…………はぁ、なんでバレちゃうかなぁ」

 

 理想の美人を続けようとしたみたいだが、すぐに観念して表情を崩した。相変わらず切り替えの早い奴だ。昔から少しも変わってない。

 

 そうしてお姉さんだった顔を捨てると、残念そうな顔と声で『()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「久しぶりだな。──〝ゼータ〟

 

 

 

 




 まさかの最高戦力集結。

 ドMケツバット「……どうすればええんや」
 ブシン祭・会場「……どうすればええんや」
 作者「……どうすればええんや」
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