俺の意見も聞かれずに【シャドウガーデン】という組織が結成されてから三年。俺とシド、そして最初の仲間となったアルファは十三歳になっていた。
身体的成長から筋力も増え、剣の腕前も以前とは比べ物にならない程に上がった。魔力だけかと思っていたが、どうやら俺には剣の才能もあったらしい。それでも前世から修行していたとか言うボケナス主様には勝てていない。
まあ、剣だけでなく色々なところで振り回されているのだが。やれ右腕だのなんだのと言ってこき使われ、組織のNo.2としての立場を任されている。
……というか、ただの遊び相手かもしれない。
「ライー! 盗賊殺しに行こうぜー!」
神様、どうかこのバカに隕石を落としてください。
これから寝ようとしていた俺に、シドは部屋の窓からやって来てこの台詞をとても良い笑顔で言ってきた。マジで殴りたい。
(野球じゃなくて虐殺か)
この世界の中島は野球ではなく、虐殺に誘ってくるらしい。俺にため息が増えたのは全部コイツのせいだ。いつか絶対ボコボコにする、それが今の俺の夢だ。
「姉さんが攫われてさ〜。一応助けに行こうかなって」
シドの姉、クレア・カゲノー。出来損ないを演じているシドとは違い、俺と同じで将来を期待されているカゲノー家の長女だ。黒髪ロングという正統派美少女だが重度のブラコンであり、シドの家へ遊びに行く度に俺は睨まれている。
「【七陰】も全員揃ってるし、後はライトだけなんだよ」
ここでライからライトに切り替える辺り、本当に設定を重んじるやつだ。
そしてシド……シャドウが言った【七陰】とは【シャドウガーデン】に入れるためにアルファがどんどん連れて来た『英雄の子孫』達のことだ。アルファを含めて合計七人、シャドウは何かとカッコよさげな名前を付けたがる。
メンバー全員がアルファと同じく『悪魔憑き』だったため、シャドウによって命を救われている。俺に魔力暴走を治す技術はないので、精々戦い方を教えてやったぐらいだ。それでもそこそこ信頼され、好かれてはいると思う。
「リーダー直々に来てくれるとは光栄だ。ほら、帰れ」
「えー、行こうよー。姉さんを攫うぐらいだから、それなりに実力はあると思うんだ。いい経験値稼ぎだよ」
盗賊をメタル系モンスターか何かと勘違いしてないか? 盗賊を経験値なんて言う十三歳はお前ぐらいなもんだよ。
「さっ、行こう!」
こんな年相応の少年らしい笑顔で手を伸ばしてるのに、頭の中は盗賊相手に厨二ムーブすることしか考えてないとか本当に残念だ。
もしも俺が屋敷に閉じ込められている可哀想なお嬢様とかだったら、シャドウはヒロインを助けに来たカッコいい主人公にでも見えていたのだろう。
「……はぁ、分かったよ。準備するから先行ってろ」
もう断るのも面倒臭い。シャドウの傍若無人に対して、俺は抵抗より諦めを取るようになっていた。だって断れた事ないんだもん。
「よし。待ってるぞ、右腕」
「はいはい。シャドウ様〜」
神様、本当に隕石を落としてください。
嫌々訪れることになった盗賊アジト。【シャドウガーデン】の『ライト』として来ることになったので、服装もちゃんとスライムスーツを変化させている。俺以外の全員が黒色の中に金色のラインが走っているにも関わらず、俺のやつは金色ではなく銀色のラインだ。シャドウ曰く、見分けやすくするためだとかなんとか。全く嬉しくない特別扱いだ。
「ライト、敵の人数はおよそ五十。リーダーは『ディアボロス教団』の幹部クラスよ」
「へぇ、そうなのか」
無事に【七陰】達と合流し、アルファから状況の説明をされる。てか今『ディアボロス教団』って言った? 盗賊じゃないの?
「教団が関わってるのか?」
「ええ、クレア・カゲノーに英雄の子の疑いをかけたようね」
なるほど。だからシャドウは俺に盗賊だと説明した訳か。アイツの考えた設定を一番信じてないのが本人って笑えるな。笑えないけど。
「……そうか。分かった、ありがとう」
「良いのよ。貴方の役に立てて嬉しいわ」
くっそ可愛いなぁ。夜だから光源は月だけ。月明かりに照らされる金髪美少女エルフとか最高以外の何者でもない。緩んだ表情を見せないよう、俺は手に持っていた仮面を顔に付ける。もちろん、デザインはシャドウが担当した。ダッセェ。
「ライト様。シャドウ様は……?」
俺がどうやって潜入するかを考えていると、アルファの後ろから出てきた少女に声をかけられる。
名前は『ベータ』。アルファと同じくエルフであり、負けず劣らずの銀髪美少女だ。そしてどこがとは言わないが年齢の割にとても発育が良い。
「シャドウなら……単独行動だな。
魔力を探知してみたところ、既にアジトの中へ入っていた。人を誘っておきながら自分は待つことも出来んのか。後で殴っとこう。
説明するのも胃が痛いし面倒なので、シャドウを崇拝しているベータが納得しそうな言葉を適当に投げておいた。
「流石シャドウ様……!」
ほらな。こうなるんだよ。
なんならベータだけでなく、他のメンバーも似たような顔をして似たようなことを言っている。
「その知略……感服いたします」
目を閉じながら感動しているのはまたまたエルフ。【七陰】三番目のメンバー、『ガンマ』。アルファ以上の頭脳を持っているが、戦闘能力は最弱。何も無い所で転ぶ天才だ。
「ボスは最強なのです!」
フリフリと尻尾を振る狼の獣人、『デルタ』。頭の出来は一番貧弱だが近接戦闘なら【七陰】でもトップクラス。シャドウのことをボスと呼びめちゃくちゃ懐いている。
「主様なら当然のことですわ」
胸を張りながらドヤ顔したのはまたまたまたエルフ、『イプシロン』。プライドの高い子だが、シャドウのことは皆と同じように慕っている。俺のことは……まあまあって感じかな。後どこがとは言わないが盛ってる。
「主の意図を瞬時に理解出来るのは、ライトだけ」
シャドウではなく俺を褒めてくれたのは猫の獣人、『ゼータ』。隠密行動を得意としており、情報収集をさせれば右に出る者は居ない。俺が特に面倒を見てるからか、俺に懐いてくれてる。モフモフしてて可愛い。実家で飼ってた猫を思い出す。
「……うんうん」
眠そうな顔で頷くのはやっぱりエルフ、『イータ』。どうやら魔力適正の高いエルフは『悪魔憑き』になりやすいらしい。この子は技術・研究担当であり、シャドウに色々と前世の知識を吹き込まれている。寝たまま歩き出す程に寝相が悪い。
(……女子ばっかなんだよなぁ)
何か理由があるのかもしれないが、発見する『悪魔憑き』は女子ばかりだ。従ってメンバーは俺とシャドウ以外全員女子となっている。性欲が枯れているアホは良いかもしれないが、俺は至って健全な男子。ドキドキすることも多いので心臓に悪い。
「……やるか」
アジトから爆発音が聞こえたので、シャドウが暴れ出したのだろう。俺はアホリーダーの代わりに【七陰】へ指示を出した。未だに命令とかするの慣れないんだけどな。
「デルタ、お前は正面から突っ込め。好きにやって良い」
「わかったのです!」
デルタは勝手に暴れさせておく。それが一番本領を発揮させてやれるから。
「イプシロン、ゼータ、イータ、はデルタに続け」
「分かりましたわ」
「了解」
「……うん」
ここの奴等がそこそこ出来るなら、デルタ対策で遠距離攻撃をしてくるかもしれない。それに加えてデルタが殺し損ねた連中を掃除してくれれば良いさ。
「アルファ、ベータ、ガンマは俺と来い」
「ええ」
「はい!」
「承知しました」
さて……幹部クラスってのはどの程度かな。
「……フン、小娘が」
薄暗い牢屋の中で、男が気絶した少女を見下ろす。
見た目は麗しい美少女だが、手に付けられていた拘束具を手の肉を削ぐことで外したイカれ少女だ。すぐに顔面へ拳を打ち込まれ、気絶させられてしまったが。
少女の名はクレア・カゲノー。『ディアボロス教団』に攫われ、幽閉されている真っ最中だ。誘拐を命じた張本人である男・オルバは殴った手を見つめながら、忌々しそうにため息を吐いた。
「オルバ様! 侵入者ですッ!!」
「なんだとッ!?」
静かだった牢屋に大声が響く。伝えられた内容は予想外の侵入者。このアジトを特定されただけでなく、真っ向から乗り込んでこようとは考えてもいなかった。
「て、敵は恐らく八人! 圧倒的な強さです! 我々では歯が立ちませんッ!」
報告を受け、オルバが走る。この支部を任されている者として、自らが剣を振るうしかない状況になってしまった。
「あり得んッ! ここには王都の近衛に匹敵する騎士を……ッ!?」
オルバの動揺を更に加速させたのは足元に転がって来た部下の死体。首元を一撃で仕留められており、相当な実力者の仕業であることが分かる。選りすぐりの部下達をこうも容易く屠る敵、オルバは警戒を最大に引き上げた。
「貴様ら何者だァァァッ!!」
部下達の血で染められた地面に立つ八人の侵入者。全員が漆黒のスーツに身を包んでおり、異様な存在感を放っている。仮面を付けているため顔は確認出来ないが、年齢は自分よりも相当下であるとオルバは感じ取った。
激昂するオルバに返答したのは、整列する七人の前にゆっくりと出て来た唯一フードを被っている者だった。
銀色の仮面で顔を隠した、声を聞く限り性別は男。
後ろの七人が一歩下がって構えているところから察するに、この男がリーダー格なのだろう。オルバは鞘から剣を引き抜きながら、侵入者達へ怒声を浴びせかけた。
「此処がどういう場所か分かっていてこんな真似をしたのか!?」
「ああ、『ディアボロス教団』の支部だろ?」
「なっ……!」
少しでも情報を引き出そうとしたオルバだが、強烈なカウンターを喰らう。表の人間はもちろんのこと、裏の人間でさえ知る者は少ない組織の名を間違えることなく口にしたのだ。
「『魔人ディアボロス』・『英雄の子孫』・『悪魔憑き』。やる事が多くて大変だな。ご苦労さん」
「き、貴様ッ! どこでその名をッ!? どこでその秘密を知ったァァァァ!!!」
磨き上げられた剣術を持って、オルバが男へと斬りかかる。真っ直ぐに振り下ろされた剣は岩も切り裂く威力、丸腰で受ければ即死は免れない。
「グゥッ!?」
「……意外に基本的な剣だな。悪の組織には似合わない」
「こ、小僧ッ!!」
オルバ自慢の一閃はいつの間にか現れた剣によって防がれ、ただの筋力によって軽々と押し返された。
「幹部クラスなんだろ? 油断はしないぞ」
「くっ! 生意気な!!」
右手に握る剣と同じように左手にも剣が現れる。どういう原理か分からないが自由自在に武器の出し入れが可能なようだ。オルバは見たことのない技術に戸惑いつつも、勢いを落とすことなく再び剣を振るった。
二刀流を相手にすると確実に手数で負ける。ならば狙いは一つ、込められるだけの魔力を込めた全身全霊の一撃で沈めることのみ。
「喰らえぇぇぇぇぇえッ!!!!」
繰り出せる最高の一太刀。
それは──呆気なく防がれた。
「……な、なんだと。──グハァッ!」
「良い太刀筋だ。やっぱりアンタ悪人らしくない」
二本の剣で攻撃をクロスブロックし、男は呆れたようにオルバを評価する。その後すぐにガラ空きとなっている腹部へ蹴りを決め、オルバを吹き飛ばした。
(この力の差は……クソッ!)
相手が格上であると理解したオルバ。懐から瓶を取り出し、中に入れていた赤色の錠剤を一つだけ噛み砕いた。それと同時に跳ね上がる魔力量、オルバは自身の限界を無理矢理突破した。
これで優勢になった。オルバのそんな考えを嘲笑うかのように、対峙する男の魔力量が──
「……そ、そんな。……あり得ん」
視界で捉えられる程に濃密な銀色の魔力。自身の魔力とは比べることすら烏滸がましいレベルで差がある。
「大人しく降参した方が良いぞ」
男はそう言うと剣に魔力を纏わせ、戦闘を開始してから初めて攻撃体制に入る。右の剣を肩に乗せ、左の剣を胴の横まで引き寄せた。あそこから二刀の剣を振り抜けば、考えるのも恐ろしい破壊力の斬撃が繰り出されることだろう。
──当たれば死ぬ。
オルバの研ぎ澄まされた直感は、本能へ逃走の一手を激しく命じた。
「グゥオオオオッ!!!」
立っていた地面を剣でくり抜き、下へと落下する。この支部の最高責任者なだけあり、隠し通路への入口はしっかりと記憶していたらしい。
わざとらしく巻き上げられた土煙が消えると、オルバの姿も消えていた。思惑通り、見事逃走することに成功したのだ。
逃げた先で──悪魔に出会うとも知らずに。
「……逃げたか」
今にも爆発しそうな魔力を押さえ込み、ライトが構えを解く。一つため息をついてから、両手に握る剣をスライムスーツへと収納した。
「すぐに追うわ」
「追わなくていいよ、アルファ」
「何故?」
「下には
「……そう、だから彼は単独行動をしたのね」
アルファの言葉に、周りの六人も声を上げる。尊敬している主の先を見通す力に感動しているのだ。実際にはそんな事実ありはしないのだが。
「流石ね、ライト。こうなると分かっていたんでしょう?」
「……どうだかな。……疲れた。クレアを助けて帰るぞ」
「ふふっ、素直じゃないんだから」
ぐったりと疲労した様子のライトに笑いかけるアルファ。照れ隠しのつもりと思っているようだが、ライトは本当に疲れていた。恥ずかしい名乗りをしただけで精神的にかなり削られていたのだ。シャドウに見られていたらと考えるだけで鳥肌が立つ。
(……あのバカには神の加護でも付いてるのかね)
シャドウがこの状況を読み、敢えて単独行動していたとライト以外の全員が確信している。実際にはただ待つことに飽きて一人で突撃し、下の方に居た敵達を片付けていただけの話だ。
(……絶対道に迷ったな)
流石は右腕。正解だった。
(さっさと帰って寝よ……)
どうせもう片付いていると決めつけたライトは【七陰】全員を引き上げさせ、シャドウを置き去りにして自分も帰宅したのだった。
ゼータのモフモフ具合は猫派の作者に刺さりますねぇ。
かげじつのお陰で原作にあまり出番の無いゼータとイータが出て来て嬉しいです(笑)。
ちなみに主人公の名前は右腕→ライトアームから付けました(笑)。