陰の右腕になりまして。   作:スイートズッキー

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34話 もう潜めてないけどな

 

 

 

 

 

 色々あった『ブシン祭』から二日。事件の騒がれ方も落ち着いてきた頃、俺とシドは未だ修復作業中の学園へと足を運んでいた。

 テロリスト襲撃の際に半壊した風景は改善されつつはあるものの、完全に元通りになるのはもう少し先の話になるだろう。

 

「んー、良い天気だなぁ。ライもそう思うでしょ?」

 

 雲一つない青空を見上げながら、アホが呑気なことを言っている。屋上に上がってきたため、空はよく見えるのだが。

 

「そりゃそうだろ。どっかのバカが雲を全部吹き飛ばしたからな」

「えー、ライだってやったじゃん」

「俺は一部を斬っただけだ。全部じゃねぇ」

 

 シドに反論しつつ、ここに来る前にマグロナルドで買ってきたバーガーやポテト、そしてドリンクを取り出す。それらをマットの上に並べれば昼食の準備完了だ。

 

「結構買ったね。お腹減ってたの?」

「精密検査をするって、ここ二日間まともな飯を食ってないからな」

「あー、アルファが用意してくれた言い訳のやつか」

 

 俺がテンション上がって解放した魔力。それを誤魔化すためにアルファは手を用意していてくれた。それが国で禁止されている指定薬物、『グンピードの実』。魔剣士が接種すれば最悪死んでいたらしく、俺はアイリス王女に絶対安静をキツく言い渡されていたのだ。

 

 シャドウを倒すためという理由があったとは言え、違法は違法。『紅の騎士団』からは除籍、そして学園は退学になるかとも思ったがそうはならず、俺はまだ二つの場所に籍を置いている。これもアイリス王女の計らいだ。騎士団は休職扱いにしてくれたし、仕事せずに金が入って超ラッキー。

 

「もう検査は終わって健康認定されたから自由だけどな。そもそも、俺は最初から健康だ」

「ジャンクフード食べながら言うことじゃないね」

「うっせぇな、ポテトやんねーぞ」

「ごめんごめん。……んー、良い具合の塩加減だ」

 

 快晴の下で食べるバーガーというのも悪くない。俺は同じく買ってきた新聞を広げながら、少しだけ機嫌が良くなった。

 

「何か面白い記事でもあるの?」

「面白い記事しかないぞ。……あれだけ派手に目立ったからな」

 

 笑えることに、新聞記事の半分は『ブシン祭』事件に関することだった。国中を巻き込んだのだから、仕方ないことではある。

 

「たとえばこれとかな……。王都に出現した──『魔人・シャドウ』

「魔人? 僕のこと?」

「他に居ねぇだろ。〝地獄の蓋が開いたような光景、まさに魔人。我々は悪魔を呼び起こしてしまったのだろうか〟……だとさ。好き勝手に書いてんな」

「んー、少し目立ち過ぎたかな。もっと陰に潜まないと」

「もう潜めてないけどな。遅過ぎるわ」

 

 どうしてまだ間に合うと思うんだろうか。

 

「……チッ。何が『魔人の従者・ライト』だ。誰が従者だ、誰が。俺が使えるコネ全部使って出版社に抗議してやる」

「良いなー、カッコいいじゃん」

「シバくぞ、魔人野郎」

 

 ……はぁ。俺まで十分目立ってるし。まあ、アレクシア王女とクレアとアンネローゼを同時に相手したからな。あのマッチングだけは本当に予想外だった。

 クレアはあの後俺の看病に見せかけてライト()に対しての愚痴をめちゃくちゃ言ってたし、アンネローゼは一方的なライバル宣言残して『ミドガル王国』を出て行くしで忙しなかった。

 

「あっ! そういえば僕の背中蹴り飛ばしたでしょっ!? 主の背中に向かってドロップキックかます『右腕』なんて聞いたことないよ!!」

「そうだな。王女の顎に向かって膝蹴りかます『陰の実力者』なんて聞いたことねーよ」

「……うっ。それは、まあ、そうだけど」

「お前はそろそろ手加減ってものを覚えろ。肝が冷えたなんてもんじゃないぞ」

 

 マジであの瞬間は焦った。思わずドロップキックしてしまったほどに。

 

「て、手加減はしてたよ。力は弱めてたし」

「力の入れ具合じゃなくて、戦い方のこと言ってんだよ」

 

 お前の体術を相手出来る奴なんて世界中探してもそうそう居ないんだからな。せめてグーじゃなくパーで戦え。

 

「そういえば今日の朝、ライはアルファ達の所に行ったんだよね? 様子はどうだった?」

「……ん? ……ああ。特に問題はなかったよ」

 

 シドの言う通り、俺は今朝ミツゴシ商会へと顔を出した。事件が終わった後の状況なんかを細かく知りたかったからだ。説明してもらうならアルファ達にしてもらうのが一番分かりやすくて効率も良い。

 

(……俺が考えてるよりも、色々あったんだけどな)

 

 面倒なのでシドには伝えないが、本当に色々あった。

 

 ──組織としての次の動きを既に決めているとか。

 

 ──『教団』の狙いを読んで先手が打てそうだとか。

 

 ──俺達が本気になったことには結局意味があっただとか。

 

 空腹に耐えていた俺にとって、その情報量は中々に辛いものがあった。久しぶりにみんなの顔が見られたから辛いだけではなかったけど。

 

「そういや、ベータとイプシロンが荒れてたな。シャドウ様とライト様の試合を邪魔されるなんて〜、みたいな? イータとシェリーが八つ当たりされてたよ」

「ははっ、彼女達らしいね。イータとシェリーはどんまい」

 

 肩掴まれてガックンガックンされてたな。世界的に見ても最高峰の頭脳にする所業じゃない。二人とも目を回してダウンしてたし。

 

「後はアルファとニューへのお礼だな」

「そっか。ライは今回二人に助けられてたもんね。アルファが目の前でペラペラ喋り出した時は訳が分からなくて固まっちゃったよ」

「あの二人には感謝してもしきれねぇな」

 

 ニューは言わずもがな『ライ・トーアム』に変装してくれたこと。あれがなければ俺の評価を下げることも出来ず、最悪の場合俺の正体が『ライト』であることも疑われていたかもしれない。甘い物を買って手渡したらめっちゃ喜んでた。

 

(……アルファ。……可愛かったなぁ)

 

 そしてニューと同じく俺が助けてもらった仕事の出来る女、アルファ。アイリス王女とアレクシア王女の前に姿を現し、事前に用意していた見事な言い訳を完璧に決めてくれた。なんだよ、『グンピードの実』って。俺もそんなん知らないよ。

 

 以前ガンマの頭を撫でたことで嫉妬されたので、今回はアルファの頭を撫でた。サラサラの金髪はとても柔らかく、いつまでも触っていたかった。そして照れた表情は可愛過ぎた。一生守りてぇと思った。

 

「ライ? 顔がだらしないよ?」

「……そうかもな。緩み過ぎた」

 

 なんか恥ずかしいから素直に認めておこう。けど朝から美少女エルフ達に囲まれてきたんだ、お前じゃないんだから表情が緩むのぐらい仕方ないだろ。

 

(とまあ色々情報は手に入ったけど、やっぱり一番驚いたのは……あの人のことだな)

 

 

 ──ローズ・オリアナ先輩が【シャドウガーデン】に()()()()

 

 

(あの人いつの間にそんなことになってたんだ……? いくら面識がないとはいえ、顔も名前も知ってる人だから普通にめっちゃ驚いたぞ)

 

 今回の事件で捕らえたドM・なんたらかんたらの証言によれば、『オリアナ王国』は『教団』に乗っ取られていたらしいし、【シャドウガーデン】の力を借りたかったとか? 

 

(けど、新人として加入ってことは名前も無くなってるはずだよな。担当は……ラムダか。心配だ)

 

【シャドウガーデン】のメンバーでも古参と呼んでいい褐色の肌を持つダークエルフ・ラムダ。組織の幹部であり、十一番目の『ナンバーズ』だ。

 昔は剣の国『ベガルタ』で軍人をしていたらしく、人材を育成することに関しては右に出る者が居ない。スパルタを絵に描いたような人物だが、その裏には新人に命を落として欲しくないという優しさが隠れている。

 

(でもスパルタなのは変わんねぇんだよな……。アルファに何かあったら報告してくれとは言っといたけど、俺がしてやれることは少ないだろうなぁ)

 

 でもまあ【シャドウガーデン】には自分の意思で入ったらしいし、俺がそこまで気にかける必要はないか。ローズ会長の担当はシドの方だし。無自覚でフラグ立てたんだから責任取ってやれよ。

 

「何? 僕の顔に何か付いてる?」

「いや別に。王女キラーだと思ってな」

「話が見えないんだけど……?」

 

 幸せにする気はないくせにフラグは立てまくる。王女キラーと言うより、女の敵だな。コイツの興味が厨二病からほんの僅かでも女性関係に向け……無理だろうなぁ。それこそもう一度死んで転生しても……無理だろうなぁ。

 

「……アレクシア王女とシェリーとローズ会長が可哀想だ。後はうちの子達も」

「本当に何の話してるのさ……」

「お前が女の敵って話だよ」

「えぇ〜、なんか理不尽じゃない?」

「理不尽なのはお前だろ。魔人様」

 

 納得いかなそうな表情を見せるシドを無視し、俺は再び新聞へと視線を向ける。表の記事は大体読み終わったので、次は裏面だ。

 

「……えっ、マジか」

「どしたのー?」

「なあシド。お前これ知ってたか?」

 

 裏面を開いた瞬間、視界に飛び込んできた大きな記事。俺達の事件に負けず劣らずの文字量だ。

 

 

『ブシン祭・会場。──〝崩壊〟

 

 

 分かりやすいシンプルなタイトルにも関わらず、事の重大さはとんでもないものだった。『ブシン祭』が行われていた会場がいつの間にやら崩壊していたのだから。

 

「ああ、知ってるよ。確か昨日の朝の話だったかな。ライはまだ医務室に居たから知らないよね」

「そういうことか。なんか外が騒がしいなとも思ってたんだ。クレアの愚痴がうるさくて全く聞こえてこなかったけど」

 

 記事の詳細を読みながら、残り少なくなってきたポテトを頬張る。どうやら崩壊による怪我人や死人は出ていないらしく、会場だけが犠牲になったようだ。

 

「どうして壊れたんだろうな。あんなに頑丈だったのに」

「僕達が割と全力で戦っても余裕だったのにね」

「だな。『ミドガル王国』の建設技術に感心してたんだけどな」

「僕も細かいことは知らないんだよね。記事読んでよ」

「ん、分かった」

 

 シドに促され、事故が起こった原因の部分を探して読み上げる。

 

「えーっと。……〝『魔人・シャドウ』と『紅の騎士団』所属のライ・トーアムによる激しい試合により、会場には多大な損害が出た。試合を観戦していたミドガル国王は安全のため、会場の耐久度を調べさせると発言。検査に入った役員が柱の耐久力を確かめるために金槌で一度叩くと柱が折れ、そのまま会場は崩壊。膨大な建築費用をかけた会場は一瞬で瓦礫の山と化したのだった〟。……だとさ」

「うわ〜、怖いね〜」

「老朽化か? 何にせよ、国王の考えは正しかった訳だ」

 

 なんか俺達のせいみたいに書かれてるが、それはないだろ。戦ってる時も全然壊れる気配とかなかったし。そんなに会場を傷つけた覚えもないしな。

 

「今年の『ブシン祭』はどうなるんだろうね。お開き?」

「いや、別会場で行うらしい。……まあ、もう俺達には関係のないことだけどな」

「それもそうだね。僕は正体がバレて失格、ライは棄権。優勝するのは誰になるかな」

「さあな。クレアじゃないか?」

 

 なんか知らんがめちゃくちゃやる気になってたし。手も足も出ずに『ライト()』にボコられたからか? 

 

「うっ……。姉さんか……」

「一応弟なんだから、姉を応援してやれよ」

「試合を観てなかったら首絞められるし、優勝したところを見てなかったりしたら殺されるよ」

「なんだ、ハッピーセットか」

「そんなセットは嫌だよ!」

 

 バーガーの包装紙を丸めながらため息を溢すシド。姉に対して弱いのは昔からなので、特に何も思わない。

 

「でもまあ、僕達が戦ってる時に会場が壊れなくて良かったね」

「壊れなくても邪魔されたけどな。……あのまま続けてたら、どっちにしろ壊してたかもしれないけどさ」

「ははっ、そうだね。瓦礫の山も残らなかったかも」

 

 読み終わった新聞を畳み、袋から最後に残ったバーガーを取り出す。今まで食べていたテリヤキマグロとは違い、本日発売の新作バーガーだ。

 

「あっ、ライもそれ買ったんだ」

「お前もか。ちょっと気になった」

 

 期間限定という言葉に弱いのは前世の影響だろう。目玉焼きの挟まった月見るバーガーの派生商品。その名も──。

 

「『赤い月見るバーガー』、ね。……チリソースたっぷりだな」

「スパイシーだね」

 

 パンの柔らかさ、肉の厚さ、目玉焼きの香ばしさ。どれを取っても感想は最高の一言だ。チリソースが多過ぎることに目を瞑ればの話だが。

 

「……ん、結構いける」

「鼻がピリピリするけどね」

 

 全てのバーガーとポテトを食べ終え、ゴミを袋の中へと入れて片付け完了。心地良い満腹感と共に、その場へと寝転んだ。

 

「食べてすぐ横になるのは良くないんだよ?」

「同じことしてる奴に言われたくねぇ」

「いやー、やっぱり至福の時間なんだよねー」

 

 優しい風が吹き、眠気すら襲ってくる。こうしていてもそこまで暑さを感じないのは、もうすぐ夏が終わるからかもしれない。

 

「残念だったね。決着つかなくて」

 

 唐突に、シドがそんなことを言い出した。

 何の決着を指しているか、聞き返すまでもない。

 

「まだまだチャンスはあるだろ。──()()()()()()()()()()

「なら大丈夫かな。僕を殺せるのは──()()()()()()()()()

 

 俺を殺せるのも僕だけ、とでも言ってるつもりか。

 裏を返せば〝僕以外に負ける訳ないよね〟と煽っているのだ。どこまでもムカつく奴め。お前に言われるまでもなく、そんなことは当たり前なんだよ。

 

「まっ、あのまま続けてたら俺が勝ってただろうけどな」

「それはないね。勝ってたのは僕だから」

 

 ……分かってる。この問答に意味がないってことぐらい。

 

「いや、多分俺が勝ってたぞ。あの時の魔力、ノッてたから」

「それは僕だって同じだよ。なんならライの方よりノッてた」

 

 ……それでも、意味がなかったとしても。

 

 

「──上等だ。今日は腕相撲な」

「──望むところだね。負けた時の言い訳を考えておきなよ。()()()()()()()()、ね」

 

 

 俺はコイツと張り合うのをやめられない。コイツに少しでも負けたという意識を持ちたくない。どんな些細なことでも、俺はコイツより上でありたい。

 

 お互いがそう思ってるからだろうな。だから俺はこんな奴に長いこと付き合ってしまっているんだ。輝かしい少年時代から貴重な青春時代まで、我ながら本当によくやるよ。

 

「あっ、てめぇ、握り方反則だぞ」

「ライこそ、肘の位置がおかしくない?」

 

 本日の勝負、腕相撲。

 

 思ったより白熱して屋上にヒビが入ったため──〝引き分け〟で終わりにした。

 

 

 

 




 学園・屋上「ちょっ、痛い痛い!やめてっ!!」
 ブシン祭・会場「来いヨォッ!こっち来いヨォッ!!」

 次回から無法都市編突入です!
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