陰の右腕になりまして。   作:スイートズッキー

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36話 一本ぐらいバレねぇだろ

 

 

 

 

 

 赤色の月光に照らされている『無法都市』。

 その中に存在する建物の屋上で、俺はおよそ人間の口から出たとは思えない低い唸り声を出していた。

 

 

「──あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁァァァァッッッ」

 

 

 

 あぐらをかきながら頬杖を突き、この世の全てに絶望したような声を出し始めて十分。時間が経てば経つほど、俺の中で怒りと怒りと憎しみは増していった。

 

「いやぁ〜、はっはっは! 楽しかったなぁ〜!」

 

 俺のすぐ近くで『赤き月』を見上げながら、同じく赤色の瞳を輝かせ高笑いを上げるシャドウ。口調はシドのものになっており、純粋に楽しいという気持ちを剥き出しにしていた。

 

 この正反対の反応。説明するのは簡単であり、いつも通りと言えばいつも通りだった。

 

「ねぇねぇ、いい加減立ち直りなよ。()()()()()()()()?」

「うるせぇッ!! 誰のせいだ誰のッ!!?」

 

 誰の目も耳もないこの状況。お互い自然体のままで接しており、言いたい放題言える空間だ。右腕としてじゃない、腐れ縁として口を開く。

 

「何が〝死にたくなければ逃げろ〟だ! 〝暴走が始まる〟だ! 〝もう時間がない〟だッ!! バッカじゃねぇーの!!?」

「いい台詞だよねぇ。あのお姉さんに感謝だ」

「パクっただけじゃねえか! 何度も何度も連呼しやがって! 気に入ってんじゃねぇよ!!」

 

 ラ俺ががこれほどまでに怒っている理由は──シャドウに連れられて始まり、ついさっき終わったばかりのグール退治にあった。『無法都市』全体で暴れ回っていたグールを一体残らず片付けたばかりであり、グールに襲われていた者達からすれば英雄と呼ばれる行動と言っても過言じゃない。

 しかし、実際にはシャドウによる『影の実力者』ごっこに遊びに無理矢理付き合わされていただけであり、『右腕』ムーブを強要される精神的苦痛を受けさせられたのだ。

 

「いやぁ、特にさっきのは良かったよねぇ。魔剣士の人達が襲われてるとこに割って入ったやつ」

 

 シャドウが満足気な声で思い返すのは、魔剣士協会へ集まった魔剣士達をグールの脅威から救った時のことだった。本人に〝救った〟などという意識は欠片も存在していないだろうが。

 

「僕が無防備に背を向けているところに襲いかかってくるグール。それを当たり前のように処理するライト。うーん、これぞ完璧な右腕。惚れ惚れするね」

「グールに喰われれば良かったんだ、こんなアホ」

 

 流れで付き合ってしまった厨二ごっこにより、後から耐えられないほどの羞恥が襲ってきていた。シバき倒してでも止めていれば良かった。

 

「なにより第三者の声が良かった。あ、危ない! ──と叫ぶ人に余裕の笑みを浮かべて、右腕に任せる『陰の実力者』。……やりたいことリスト、また一つ達成」

「今すぐそのリストを貸せ、ズタズタに切り裂いてやる」

 

 魔剣士協会の魔剣士達に思う存分ごっこ遊びを見せつけ、ご満悦なシャドウ。脳天を直撃した長台詞も良い感じに馴染んできたこともあって、テンションが上がっている。

 

「そういえば魔剣士の人達、僕らの名前呼んでたよね? いつの間にか有名人だ」

「……当たり前だろ。お前と俺は『ブシン祭』で派手にやらかしてるんだ。名乗らなくても、格好とかで予測は立てられるさ」

 

 これでまず間違いなくまた騒がれる。魔人の従者などという不名誉な呼び名が再び紙面に掲載されるかと思うと、やりきれない気持ちしか湧いてこなかった。

 

「ちゃんとライトのことを『右腕』って紹介しとけば良かったかなぁ」

「余計なお世話だ。恥をかかされたことには変わりねぇんだよ。……こうなったら、お前を殺して俺生きる」

「あっ、死ぬの僕だけなんだ」

 

 素直に驚くシャドウ。耳に入ってきた言葉が予想外だったようだ。

 

「そういうのって普通、お前を殺して俺も死ぬ……とかじゃない?」

「なんで俺がお前の後を追って死ななきゃならねぇんだよ。地獄にはお前一人で行け」

「その言い方だと、君も地獄行きだね」

「当たり前だ。俺達が天国行ける訳ないだろ。閻魔大王を舐めんな」

「ははっ、君らしいや」

 

 殺人に強盗、挙げ句の果てには国際指名手配だぞ。俺達が天国に行ける理由なんて探すのもバカらしいわ。

 それもこれも、全部コイツのせいだ。……まあ、俺も昔は荒れてたから全部って訳でもないか。

 

「……そういやお前、さっき次に行こうって言ったよな?」

「うん。言ったよ」

「次ってなんだよ? グールは片付けたろ?」

「君って疲れてると思考する力が弱くなるよね」

 

 なんだろう。めっちゃ殴りたい。

 

「──吸血鬼の始祖。見に行くでしょ?」

「……ああ〜、『紅の塔』に居るってやつか」

「そうそう。『血の女王』だっけ。うーん、悪くない異名だ」

 

 完全に忘れてた。そういえばソイツを倒すって目的でこの『無法都市』に来たんだった。てかクレアのことも忘れてた。アイツどこ行ったんだ? 

 

「おい、クレアどうすんだよ?」

「姉さんなら放っておいても死んだりしないでしょ。それより早く行こうよ! 始祖っていうぐらいだからきっと最強クラスだよ? 最強!」

 

 ガキのようにキラキラと目を輝かせるシャドウ。昔からそうだが、コイツは最強って言葉に強い執着を見せるところがある。今回の相手には名前負けしない強さを求めているんだろう。

 

「もう面倒くせぇよ。俺が消し飛ばしてきて良いか? 塔の上からボーンッてやればすぐ終わる」

「〝メテオ〟するってこと? ダメだよぉ、ちゃんと侵入しなきゃ。ボスキャラをダンジョンごと消し飛ばすなんて邪道さ」

 

 似たようなことしてきてるお前にだけは言われたくねぇんだよ。いつも爆発しやがって。俺を巻き込んでアトミックしたこと忘れてねぇからな。

 

「似たような塔が三本もあるんだ。一本ぐらいバレねぇだろ」

「……君って疲れてると凄いこと言い出すよね」

 

 どうして俺がコイツに呆れられなきゃならんのだ。時間をかけずに問題解決、敵にしか被害の出ない最適解だろうが。

 

「……わーったよ。行くよ行きますよ、行けば良いんだろ」

 

 これ以上ここで言い合っていても時間の無駄だ。さっさと行って吸血鬼をシバいて、『ミドガル王国』に帰ろう。

 

「あっ、そうだ。始祖の吸血鬼なら、財宝なんかも溜め込んでるんじゃないかな」

「なにボサッとしてんだシャドウ。──行くぞ」

「うんうん、それでこそ我が右腕だ」

 

 なに勘違いしてんだ。別にやる気出した訳じゃねぇからな。『騎士』としてやるべきことを思い出しただけだ。

 

「俺が全部貰うぞ」

「お互い財布から抜き取った戦利品(お金)でそこそこ身体が重いし、飛んで行くのはなしでどう?」

「上等。勝つのは俺だ」

「それはどうかな?」

 

 二、三度その場で屈伸してから、俺達は並んで地面を蹴り出す体勢を取った。

 何をするかなんて言うまでもない。俺達の間に──()()()()()()()()()()なんて友情は存在しないのだから。

 

「準備は?」

「いつでも」

 

 ──〝早い者勝ち〟。こういう場合の決まり事だ。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「……殺したい。人間を……殺したい」

 

 真紅に染まる月を見上げて、邪悪な笑みを浮かべる男が居た。白いローブに身を包み、頑丈な足枷をされて自由を奪われている。

 

「斬らせろ……人間を斬らせろ」

 

 この番犬が『白い悪魔』として恐れられていたのも昔の話。騎士団長すら務めた実力者も、今は自らの名も忘れ──『紅の塔』の門番として生かされる番犬に成り下がっていた。

 力こそが法。それがこの『無法都市』に於ける絶対不変のルールなのだ。

 

「俺は……()()()()()()()()()

 

 斬り飛ばされた利き腕とは違い、戯れによって残された片腕を振るわせる。手には剣を握っており、人を斬りたいと我慢が出来ない様子だ。

 既に守護するはずの城門は派手に破られた。言いつけを守れなかった番犬に、欲求を抑えることなど不可能だ。

 

(『暴君』ジャガノートに……『妖狐』ユキメ。どちらも俺では絶対に勝てない化け物。そんな奴らを相手にする気はないさ)

 

 格上相手には剣を向けることすらない。そもそもアーティファクトの城門を剣によって破壊された時点で、挑む気すら起きはしないのだ。番犬が『暴君』と『妖狐』の侵入を見逃したのも当然のことであった。

 

「キヒッ……斬りたい。……人間が、斬りたい」

 

 命を奪う瞬間が最も生を実感する。異常な快楽もここでは通常、無法の名は伊達ではない。

 

 鎖に繋がれた番犬は願う。自分より弱く、痛ぶり甲斐があり、いい悲鳴を上げてくれる──そんな獲物が現れることを。

 

「……『赤き月』に感謝だなァ」

 

 醜く歪めた口で、番犬が月へ手をかざす。願いを叶えてくれた礼をするかのように。

 

(人数は……二人。ツイてるぜェ。切り刻める……キヒッ)

 

 番犬が視界に捉えたのは二つの人影。『紅の塔』へ真っ直ぐに向かってきており、土煙が舞い上がるほどの速度を出している。何度も何度も肩と肩をぶつけ合っているようにも見えるが、番犬にはどうでも良いことであった。

 

「……殺すゥゥゥゥ」

 

 剣を振り上げ、獲物目掛けて跳躍。自らの欲求を満たすため、番犬はボロボロの歯を外に出しながら高笑いを上げた。

 

 

「──死ねえええぇぇぇェェェッッ!!」

 

 

 自分こそが生存競争の頂点に立っている。そう勘違い出来るよう、そう思い込めるよう、番犬は黒い衝動に身を任せる。破られた城門へ飛び込もうとしていた二人の人間に、襲いかかった。

 

 ──そして。

 

 

 

「「──邪魔ァッ!!!」」

 

 

 

 斬られた。

 いや、斬られたという意識すら無かった。

 ただ自らの身体がいつの間にか二つに分かれてしまっていたと、番犬は宙を舞いながらどこか他人事のように思考した。

 

(……俺、の……身体?)

 

 痛みはない。むしろ鎖から外され、久しぶりに自由の身となったことで嬉しいという気持ちすら感じていた。

 番犬は風前の灯である命を燃やし、自身を斬ったであろう二人へ視線を向ける。

 

「……あ、ああ。……あり、がとう」

 

 回らない口で最後に伝えた感謝。柄にもないと不恰好に笑いながら、番犬はその人生に幕を下ろした。殺すことでしか何かを得られなかった、最悪の人生に。

 

 こうして、『紅の塔』に役者が揃った。

 攫われた弟を救おうとする姉。主君の願いを叶えようとする従者。戦いを楽しむ暴君。落とし前をつけようとする妖狐。

 

 様々な意思と思惑が交錯するこの塔。そんなドラマ溢れる異様な場に──二人の災害(バカ)が突撃した。

 

 

「俺は右! お前は左! ちゃんと階段登って行けよッ!」

「ライトこそ! 反則はなしだよッ!」

「お前と一緒にすんな!」

 

 斬り捨てた番犬など一瞬で忘れ、大声で侵入ルートを決める二人。一人は赤色、もう一人は黄色に瞳を輝かせている。

 

 

「「──宝物庫おぉぉぉォォォッ!!!」」

 

 

 取り決め通り、二人は別々の階段を駆け上がっていく。

 青紫と白銀の軌跡を描きながら、黒い衝動よりも更にドス黒い──〝金の衝動〟に突き動かされて。

 

 

 

 




 シャドウ&ライトの戦果。

 グール討伐数……『352体』
 吸血鬼討伐数……『28体』
 住民救助人数……『1534人』

 財布強奪数……『375個』
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