陰の右腕になりまして。   作:スイートズッキー

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38話 ぜってぇ嫌だ

 

 

 

 

 

 骨にまで響く衝撃。硬い壁に激突したダメージはそれなりに大きく、俺は受け身を取ることも出来ずに倒れ込んだ。

 

 ガラガラと落ちてくる瓦礫に頭を追加攻撃されながら、俺の耳には「あちゃー、やっぱり金貨詰め込み過ぎたかー」などという不快としか言えない台詞と声が飛び込んできた。

 

「──あれ? ライト? なにやってんの?」

「お前がなにやってんだァァァッ!? ミサイルみたいに飛んで来やがってッ!! 痛ってぇだろうがッ!! ──ゴホッ、ゴホッ。脇腹に……頭が刺さった」

 

 俺の上に乗っかっていたシャドウを退かし、呼吸を整える。スライムスーツに仕込んでいた小さめの宝を確認するが、大半は歪な形へと変化してしまっていた。そりゃあんな勢いで壁と俺に挟まれたらそうなるよな。言うまでもなく価値は激減した。

 

「ごめんごめん。思ったより金貨が重くてさ〜。攻撃避けられなくて吹き飛ばされちゃったんだ。流石は吸血鬼の始祖、楽しめる相手だよ」

 

 シャドウは楽しそうにそう言うと、俺と同じくスライムスーツに詰め込んでいたであろう大量の金貨を床に落とした。本当にどんだけ詰め込んでたんだ。王女のポチ五年分ぐらいはありそう。

 

「……はぁ。……めっちゃ頑張って詰め込んだのに」

 

 俺の視線の先にはスライム風呂敷の中から弾け飛んだ大きめの宝達が転がっていた。大きさと角度を計算して、ギリギリまで気合いで詰め込んだってのに。アホの一撃で全部台無しだ。

 

「おおー、ライトも頑張ったね。どんまい」

「お前……本当に……ッ!!」

「まあまあ、後で僕も手伝うからさ。それより早く戻らないと。最終決戦だよ? 最終決戦!」

 

 殺意と共に拳を握り締めたところで、散らばった宝は集まってこない。俺は一つ深呼吸をし、心を落ち着かせてから立ち上がった。

 

「どうしてお前はこう何度も俺に突っ込んで……もう良い。絶対後で手伝わせるからな」

「約束するから早く行こ? ライトもきっと楽しめると思うよ」

「吸血鬼狩りより厨二狩りをしたいんだが?」

「ははっ、はい行くよーっ」

 

 適当に返されてムカつくが、早く戻らなければならないことはなんとなく伝わった。それだけ『血の女王』とやらは強いのだろう。

 

「おい、どんなもんだ?」

「強いよ」

「それは分かってる。具体的に、だ」

 

 自分で開けた穴へ向かうシャドウの背中を追いながら、相手の実力を確認しておく。なんといっても始祖、〝原点にして頂点〟というのには覚えがある。

 

「そうだねー。魔力だけならアルファ以上……ライトに()()()()()()()()()()()()

 

 シャドウがニヤリと口角を上げながら言った言葉の意味を、俺は『血の女王』を自分の目で確認したことによってしっかりと理解した。

 

 

 なるほど。──〝化け物〟だ。

 

 

 血を連想させる赤い髪と、貴族令嬢のような高貴なドレス。

 辺り一帯を支配する魔力は濃密と言う他なく、魔力回路の弱い者ならばこの場に居るだけで失神するだろう。

 何故か目を閉じているが、放つプレッシャーはこれまで戦ってきた奴らの中でも群を抜いている。シャドウがここまで楽しそうにしている理由がよく分かった。

 

「──シャドウ様! ライト様! ご無事でなによりですっ!」

 

 最終決戦場へ乱入した俺達に声をかけてきたのは、ゼータによってこの塔に来ていると話を聞いていたベータ。後ろの方に視線を向けてみれば【シャドウガーデン】の子達も三人見受けられ、それなりに人員を送っていたのだと分かる。

 

 ベータとは久しぶりの再会だ。この間出た新作小説も良かったよ、と声をかけようと思った。しかし、俺はベータの状態を見て──思わず叫んでいた。

 

「どうしたんだその怪我ッ!? 誰にやられたッ!?」

「うぇっ!? こ、これはその……申し訳ありませんっ! 不甲斐ない姿をお見せしてしまって……!」

 

 額、頬、肩、腕と、至る所から流れ出る血液。どうしたって軽傷とは言えない傷の数々がベータには付いていた。【七陰】第二席である彼女にこんな傷を負わせられる敵など、この場には一人しか居ない。

 

「アイツだなッ!? 『血の女王』にやられたんだなッ!?」

「ひゃっ、はいっ! そうですごめんなさい!!」

 

 自分で言ったように不甲斐ない姿を見られて恥ずかしいのだろう。ベータは手で顔を隠して狼狽えているが、俺の怒りはそんなところに向いていない。

 剣を構えて魔力を練っていたシャドウを押し除け、俺は『赤き月』を背にして優雅に浮かんでいる『血の女王』に怒声を浴びせた。

 

「──てめぇッ! よくも可愛いウチの子に怪我させてくれたなぁッ!? 傷でも残ったらどうすんだッ! まだ嫁入り前なんだぞッ!!」

「落ち着け、ライト。ベータの傷はもう治した」

 

 荒れる俺の肩に手を置きながら、シャドウが宥めてきた。確かにベータの傷は全回復しており「……シャドウ様ぁぁぁ」と恍惚の表情を浮かべていた。いや、幸せそうなら良いんだけどさ。

 

「我の獲物だ。横取りしてくれるなよ?」

「好きにしろよ。俺は興味ない」

 

 やり取りに満足したのか、シャドウが地面を蹴る。魔力による飛行を駆使し、始祖の吸血鬼へ空中戦闘を挑んだ。

 

「ラ、ライト様……。その、クレア様が……」

「えっ? クレア? ……何してんだコイツ」

 

 凄まじい速度でぶつかり始めたシャドウと『血の女王』を見ていると、ベータが再び申し訳なさそうな声音で話しかけてきた。促された先には見知った顔の女が地面に寝かされており、規則正しい寝息を立てていた。

 

「図太いなぁ。この状況で寝るか? 普通」

「すまない。私のせいなんだ。私が……彼女を巻き込んだ」

 

 ブラコン女の呑気な寝顔を覗き込んだ瞬間、クレアの側についていた女性から謝罪を受けた。やべ、全く気付かなかった。てかこの人どっかで会ったことあるな。格好と声に見覚えがある……ぞ。

 

「ああッ! アンタッ! あの時のッ!」

「えっ、えーっと、何度もすまない。私には覚えがないのだが……」

 

 そりゃそうだろうよ。今の俺は『ライ・トーアム』じゃなく『ライト』なんだから。けどなぁ、こっちにとってアンタは恨みのある人物に変わりないんだよ。良い機会だ、あの時受けた屈辱の謝罪をしてもらおう。

 

「アンタのせいで俺がどれだけ大変な思いをしたか! 謝れ! 今ここで誠心誠意俺に謝れっ!!」

「わ、訳が分からないのだが……」

「よくも厨二バカに厨二台詞を与えてくれたなっ! あの後めちゃくちゃ引きずり回されたんだぞっ!」

「そ、そうなのか。それは、その……すまなかった?」

 

 首を傾げながらではあるが、ちゃんと謝罪は受けた。その事実だけで俺は怒りに蓋を出来る。

 

「ん。こっちも悪かったな、熱くなって。──俺はライト。【シャドウガーデン】だ」

「私はメアリー。……最古の〝吸血鬼狩り〟だ」

 

 流れで自己紹介してみたが、ご丁寧に返してくれた。礼儀正しい人間は好感が持てる。それにしても……『メアリー』ね。

 

「なるほど。アンタがメアリーか。クレアが世話になったみたいだな」

「……私を知っているのか?」

「覗き見が趣味の弟子がいてな。ジャガノート? って奴と戦ってるところを見てたらしいんだ」

「そ、そうか。情けないところを見られてしまったな」

「いや、情けないのはそこでぐーすか寝てるバカだ。あの程度の相手に殺されかける女じゃねぇんだよ、本来ならな」

 

 まあ、クレアのことは今はどうでもいい。

 それよりもゼータからの話と合わせて浮かんできた、一つの矛盾点が気になった。

 

「アンタも吸血鬼なんだろ? どうして吸血鬼狩りなんだ?」

「……そこまで知っているのか。……私は──」

「悪い。ちょっと待て」

 

 話の途中だが、メアリーに背を向けてスライムソードを二本作り出す。シャドウと『血の女王』が繰り広げている空中戦闘の流れ弾が俺達の方に飛んで来たのだ。文字通りの流れ弾であり、先端が尖った赤い槍のような物体を叩き落とした。

 

「ま、まさか、人間がエリザベート様の攻撃を、こんな簡単に……?」

「エリザベート? 誰だそれ?」

 

 スライムソードに僅かばかり付着した物質を確認してみると、不純物のない純粋な赤い血液だった。血を操る能力か、まさに『血の女王』って訳だ。

 

 シャドウに対して放っている攻撃も血液を使用したものであり、こっちに飛んで来た槍のようなものから触手のように追尾するものまである。血液は特に魔力を通しやすい部類なので、莫大な魔力と魔力操作の技術があればこんな戦い方も出来るようだ。

 

「……ああ、『血の女王』の名前か。どうしてアンタが知ってるんだ?」

 

 剣に付着した血液を振り払い、再びメアリーの方へ視線を向ける。どうやら訳ありなことは間違いないみたいだ。

 

「あれは……もう千年も前のことだった」

「すまん。短くまとめてくれ」

「…………」

 

 いや、長々と昔話されても困るんだよ。今も真上でバトってる厨二バカがいつ爆発するか分からないんだから。いつでもフォロー出来るように構えておくためには、話は短くまとめて欲しい。

 

「……エリザベート様は人間との共存を望んでおられた。そのために、吸血鬼の力の源である『血』を絶ったのだ。主人であるエリザベート様に続き、配下である我らも血を捨てた」

 

 つまりメアリーはあの吸血鬼の始祖の配下ってことか。すげぇな、何年生きてるんだよ。考えるのも無駄なぐらい長い時間なんだろうな。

 

「エリザベート様が領主をしていた街は、まさに平和そのもの。──『安息の地』と呼べる楽園だった」

 

 うわ、また流れ弾飛んで来たし。シャドウの野郎、攻撃は全部自分で処理しろよ。

 

「しかし、配下の一人であるクリムゾンは人間との共存など望んではいなかった。エリザベート様が押さえ込んでいた吸血鬼の本能を強制的に呼び起こすため──奴はエリザベート様にたった一滴の血を与えた」

 

 どこにでも迷惑な奴は居るもんだな。自分の好きなことに全力を出して迷惑をかける厨二バカも、完成された平和を崩すクソよりかは幾分かマシに思える。

 

「しかもそれが行われたのは、今日と同じく『赤き月』の夜。吸血鬼の力を限界以上に引き上げてしまうこの月の前に、エリザベート様は暴走を抑えられなかった。……その結果三つの国を滅ぼし、最後は自害なされたのだ」

 

 ……相変わらずこの世界で起こる事件は重いものばっかだな。どうしてこんな世界に転生したのやら。もっとほのぼのした世界が良かったと何度思ったか分からない。まあ最初に出会った奴が厨二患者(アレ)じゃ、どっちみち碌な生き方は出来なかったと思うけど。

 

「自害したって言うけど、アイツは生きてるぞ?」

「……吸血鬼は心臓を貫かれれば死ぬ。それはエリザベート様とて例外ではない。……だが、完全な自害とはならなかったんだ。彼女は心臓のみで現代まで形を残し、先程復活してしまわれた」

「めちゃくちゃだな。吸血鬼ってやつは」

 

 心臓だけになって千年生き続けるとかどんだけだよ。にんにくとか十字架で倒せた前世の吸血鬼って雑魚だったんだな。

 

「私は……エリザベート様の意思を尊重するために、今日まで生きてきた。……吸血鬼狩りとして、生きてきたんだ」

 

 てか槍だけじゃなくて、触手までこっちに襲ってきてるんだけど。人と話す時は顔を見てって育てられたのに、流石にノールックで防ぐのは無理だわ。

 

「お、お前は本当に人間なのか……?」

「失礼だな。普通の人間だろ」

 

 魔力を纏わせた一撃で向かってきていた攻撃を全て消し飛ばす。シャドウもそこそこ楽しめたみたいだし、ぼちぼち解決に動くとするか。

 

「それで? アンタはどうしたいんだ? 『血の女王』を殺したいのか? それとも……助けたいのか?」

「……えっ?」

「主人の意思を尊重するだとか、そんな綺麗ごとはどうでもいい。千年もの間、主人のために生きてきたアンタはどうしたいんだ?」

 

 たった一人で、千年。

 主人のためなんて口で言うのは簡単だが、実際にやるのは地獄以外の何ものでもないだろう。とてつもなく長い寿命を持つ吸血鬼だって、それは変わらないはずだ。

 故に、メアリーがここまで生き延びてきたのは主人に対する『気持ち』。そんな人物が自分の意思に従わないなんて、理不尽過ぎるだろ。

 

「大事な人なんだろ? アンタにとって」

「……私はエリザベート様の側近をしていた。こんな私を頼ってくださり、笑いかけてくれた。……『右腕』などと呼んでくれたのは、あの人だけだった」

 

 ……右腕、ねぇ。

 

「私は……エリザベート様を助けたいっ! 惨めでも、無様でも、どれだけ恥を晒そうとも! 私はもう一度……あの人と『安息の地』を求めたいッ!!」

「──やることは決まったな。最後にもう一つ答えてくれ。今、『血の女王』は正気なのか? それとも一種の暴走状態なのか?」

「め、目覚めたばかりで自分の力を制御出来ていないと思われるが……分かるのか?」

「まあ、なんとなくな」

 

 昔、シドが言っていた。

 戦いとは──『対話』であると。

 

 聞いた瞬間は何言ってんだコイツと思ったが、年月を重ねると共に考えが変わってきた。確かに、一理あると。

 先程からちょいちょい飛んで来る流れ弾には『意思』を感じない。相手の動きを誘導しようだとか、相手の身体のどこに当てようだとか、そういったものが一切感じられないのだ。

 

(……似てるな。あの時と)

 

 思い返すのは聖地『リンドブルム』で行われた『女神の試練』。予想外なシャドウ参戦により降臨した古代の戦士──アウロラさんのことだった。

 あの時の彼女の状態と今の『血の女王』の状態がとてもよく似通っているのだ。

 

(そういやアウロラさんも血液に魔力を通して攻撃してたっけ。なんか繋がりでもあるのか? ……今考えることじゃないか)

 

 ふと湧いた疑問を頭の隅へ追いやり、思考を元の路線に戻す。

 

「つまり、『血の女王』は本来の力を出していないってことだよな?」

「あ、ああ。あれだけ暴れているのも、目が覚めて喉が渇いたから本能的に血を欲している……と言ったところだろう」

「どこまでも迷惑な話だ。そういう意味じゃ、あの二人は似た者同士だな」

「確かにエリザベート様と互角に渡り合っている彼は実力者だが……」

「そういうことじゃないんだけど……まあいい。アンタには同情するよ、()()()()()()()()()()()()()()

 

 どうやらシャドウも『血の女王』の違和感には気付いているらしい。動きから攻めの意思が薄れている。直に剣をぶつけているんだから、気付いて当然と言えば当然だけどな。

 

 

「──シャドウッ! フォローはしてやるッ! さっさと片付けろッ!!」

 

 

 シャドウの考えが分かったのと同時に、俺がやるべきことも決まった。爆発的に魔力を引き上げたアイツに続き、俺も魔力を練り上げる。

 前回核爆発に巻き込まれた時と違って、今は魔力が練られる環境だ。たとえ攻撃性のある爆発に巻き込まれたところで、全魔力の半分が吹っ飛ぶようなことにはならないだろう。まあ、相手を殺そうとして爆発(アトミック)する訳ではないので、あり得ない話ではあるのだが。

 

 なによりこの場には──()()()()()()()()()()

 

 

「〝アイ・アム──〟」

 

 

 赤色に染まる夜空へ、青紫色の魔力が広がる。

 俺は瞬時にスライムソードの形を変化させ、塔の床全部を覆い尽くした。名付けるならば『スライムプロテクト』。これで塔を守るための準備は整った。

 

「……さあ、いつでもこい」

 

 相変わらず楽しそうに笑うアホを見て、俺の口角も僅かに上がった。

 

 

「〝リカバリーアトミック〟」

 

 

 〝破壊〟と〝再生〟をもたらす『核』が──放たれた。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 吸血鬼事件もようやく終わりを迎え、俺達は『ミドガル王国』に帰るため『無法都市』に一つしかない駅に来ていた。列車の出発時刻までにはまだ余裕があるので、シドと二人で朝飯用に買って来た肉まんを頬張っているところだ。

 

「姉さん、大分話し込んでるね」

「色々あったんだろ。二人一緒に死にかけたらしいし」

 

 シドと俺が視線を向ける先には、一台の馬車と二人の女性が立っている。一人はクレア、もう一人はメアリーであり、お互い別れを惜しむように抱き締め合っていた。

 

「そういえば姉さんも『紅の塔』に居たんだってね。知らなかったなぁ」

「やっぱり偶然通りかかっただけか……」

「何が?」

「別に、なんでもねぇ」

 

 やはりコイツに姉の危機を救おうなどという弟心なんてものは存在していなかった。いや、分かってたことなんだけどさ。

 

「それにしても……思ったより収入が得られなかったなぁ。残念だ」

「金貨の話か?」

「そうそう。実は戦闘中に結構な枚数を破壊されちゃってさぁ。重いからって一回捨てた金貨ぐらいしかまともに残らなかったんだよね。ライが守ってくれなかったらもっと悲惨なことになってたよ」

 

 別にお前の金貨を守ろうとしてた訳じゃねぇよ。主に塔自体と俺が貰う予定のお宝達のためだ。

 

「でも珍しいよね。ライが自分の取り分を他人に渡すなんて」

「ん? ……ああ、メアリーに渡したやつのことか」

 

 クレア達の別れを待つように止まっている馬車。その荷台には、俺が持っていこうとしていた宝の半分が収納されている。元々は彼女達の所有物なので、返したという意識も特にないのだが。

 

「これからお金も必要になるだろうしね。優しいじゃん、ライ」

「そんなんじゃねぇよ」

「何か理由があるの?」

()()()()()()()()()()()()()、応援したくなったのさ」

 

 右腕なんて、簡単になるもんじゃない。

 振り回される立場にも関わらず、返ってくるのは信頼という名の無責任。賃金だって発生してない俺の場合はただのボランティア。やってらんねぇよ。

 

「へぇ〜、迷惑な奴って誰?」

「お前だよ、ボケ」

 

 皮肉の効かないシドにムカついていると、クレア達の別れが済んだ。僅かに涙を浮かべながら手を振る様子は、どちらも普通の女の子にしか見えない。

 

「見つかると良いね。『安息の地』」

「そうだな。まあ、吸血鬼に時間は腐るほどあるだろうし、ゆっくり探すだろ」

 

 人間と吸血鬼の共存。異種族が共に暮らしていくには多くの苦労があるはずだ。それでも、彼女達は求め続けるのだろう。誰もが笑って生きていける──そんな『安息の地』を。

 

「思惑通りか? シド」

「急にどうしたの? 何が?」

「『血の女王』を助けたことだよ」

「ああ〜、そだね〜。ハッピーエンドも嫌いじゃないよ」

 

 嬉しそうな声音で答えたシド。顔に、貼り付けたような笑みを浮かべて。

 

「とぼけんなよ。お前がそんな理由で人助けをする訳ねぇだろ」

「酷い言われようだなぁ。……じゃあ、ライには理由が分かるってこと?」

 

 試すような態度で訊ねてきたシドに、俺は少しばかり表情を緩めながら返した。

 

「全力の『血の女王』と──()()()()()()()()、だろ?」

「……ははっ。やっぱライには隠せないか」

「当たり前だ。何年お前に付き合ってやってると思ってる」

 

 何が起きようとも、コイツは変わらない。ただ自分の理想を叶えるため、やりたいようにやるだけ。周りのことなど考えず、後先だって考えず──『陰の実力者』を目指すだけなのだ。

 

「本調子じゃなくてあの強さだからね。全力勝負となればもっと楽しいでしょ」

「次は俺の番だから、お前はその次な」

「ええっ!? ライは興味無いって言ってたじゃん!」

「お前との戦いを見て興味が湧いた」

「後出しはズルいよっ! 僕が先だって!」

「おい、見ろよ」

「へっ?」

 

 文句を言いながら詰め寄ってきたシドの頭を掴み、出発しようとしていた馬車へ顔を向けさせる。

 馬車の窓から顔を覗かせたのは『血の女王』こと、エリザベートだった。

 

 ──また、お会いしましょう。

 

 会釈と共に見せた美しい笑みに、俺はそんな意思を感じ取った。俺達がシャドウとライトだと、彼女には分かっていたようだ。どこまでも驚かせてくれる。

 

「やっぱり面白いね。長生きする楽しみが増えたよ」

「……いくらお前が妖怪でも、吸血鬼に寿命で勝つのは絶対無理だぞ」

「それはそうかもしれないけど、僕は後300年は生きて『陰の実力者』をするつもりだからね。それは絶対達成してみせるよ」

「300年もお前に付き合わされるこの世界が不憫だ。同情するね」

 

 こんなバカの遊び場として300年も使われていたら、その内この世界は消滅していそうだ。そうなる前に、俺は幸せな人生を送って天寿を全うしよう。

 

「何で他人事なの? ライにも300年は生きてもらうよ?」

「は? なんで?」

「当たり前じゃないか。僕の右腕は──()()()()()()()()()()

 

 心の底から思っているように、シドはそう言った。やはり、コイツと出会ったことが二度目の人生最大の失敗だ。誰かタイムマシンを開発してくれ。あの日の夜からやり直したい。

 

 そんな俺の後悔など知るはずもなく、シドは再び楽しそうに笑った。

 

「よろしく頼むよ。右腕」

「……ふっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ぜってぇ嫌だ」

 

 

 

 




 『無法都市』編が終了しました!お付き合い頂き、ありがとうございます!

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