陰の右腕になりまして。   作:スイートズッキー

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4話 光という名の隠れ蓑だろ

 

 

 

 

 

 貴族は十五歳になると、王都にある『ミドガル魔剣士学園』へ通うことになるらしい。俺とシドも例外ではなく、この度実家を出て王都へ行くことになった。

 

 本日は出発の日。駅で家族に見送られた俺達は、王都へと走る列車の中に居た。前世とは違ってそれなりの金がなければ利用出来ない交通機関だ。座ってる椅子も柔らかく、快適と言える。

 

「……いよいよだな」

「そうだねぇ」

 

 俺の隣に座っているのはシド。朝から上機嫌であり、珍しく裏のない笑顔をしている。前から王都に行きたいと言っていたし、今日を楽しみにしていたんだろう。二年ぐらい前にアルファ達【七陰】が世界中へ旅に出てからごっこ遊びも思う存分出来てなかったからな。その分余計に浮かれている。

 

 これからの敵となるであろう『ディアボロス教団』。どうやら世界規模の大組織だったらしく、アルファ達は仲間を集めるべく動いている。

 たまに俺だけに届く定期連絡を見て状況を把握してはいるが、リーダーの知らない所で組織が拡大ってどういうことだ。シャドウ様、アンタは何も言わなくても全てお見通しらしいですよ。

 

「ねぇ、ライ」

「なんだよ」

「王都になら絶対居るよね。主人公ポジションとかラスボスとか」

「……ブレないねぇお前は」

 

 シドと出会ってもう六年になるが、コイツは初めて会った時から何一つ変わっていない。戦闘力で言えば大きく成長しているが、精神的には全く変わっていない。俺を勧誘する際に言っていたバカみたいな野望もあの時のままだ。ここまでくると尊敬するよ。

 

「ふっふっふ、ライも狙い通り特待生になってくれたことだし、幸先良いなぁ」

「おい待て、狙い通りってなんだ? 俺はお前の役に立つ事が何よりも嫌なんだが?」

「まあまあ、学園でも仲良くしようね。ライ」

 

 ……またなんか企んでるよ。このボケ。

 と言うかこの言い方だと特待生になったのは俺だけでシドは違うってことか? なんで? 

 

「お前特待生じゃないの?」

「当たり前だろ? 陰の実力者は力を隠しているから陰なんだ。普段はどこにでもいるモブ、しかし戦えば実力者! それが良いんじゃないか。特待生なんて目立つ存在は論外だね」

「お前の頭が論外だわ」

 

 モブ道を極めるんだとかアホなこと抜かしてるシドを見て、俺は頭痛に襲われる。ここまでの付き合いで分かっていたつもりだが、俺はコイツのことをまだ理解出来ていなかったらしい。なんだよ、モブ道を極めるって。

 

「楽しみだなぁ」

「うるせーよ」

 

 行きの列車だけど……もう帰りたい。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 魔剣士学園へ入学して早一ヶ月。

 俺は魔剣士見習いとして平穏な日々を……送れなかった。

 

「見て、彼よ」

「特待生のライ君でしょ?」

「綺麗な白い髪〜、カッコ良いなぁ」

「てか一緒に歩いてる人達って誰? ライ君の友達?」

「ないない、あんな地味なの。ライ君に引っ付いてるだけのモブでしょ」

 

 廊下を歩いている俺を見て、女子生徒が好き放題言っている。向こうは聞こえてないつもりかもしれないが、耳は良いんでバッチリ聞こえる。そして俺以外にも聞こえてる奴が一人。一緒に歩いている地味なモブ野郎だ。

 

「……ご機嫌だな」

「いやぁ〜、我ながら完璧なモブ具合だと思ってね。ライの目立ちっぷりにも感謝してるよ」

「やかましい。お前このために俺だけを特待生にしただろ」

 

 手加減などしなければ、シドも間違いなく特待生になっていた。そうしなかったのはモブ道などというバカ丸出しの道を歩きやすくするためだろう。

 

(ライト)が無ければ(シャドウ)は無いってね。流石は僕の選んだ右腕」

「光という名の隠れ蓑だろ」

「その言い方は悪意を感じるなぁ」

「それは良かった。悪意しかねぇよ」

 

 俺の嫌味など効く筈もなく、シドはご満悦だ。俺を都合の良い身代わり、隠れ蓑にすることが出来たのだから当然だ。いつか絶対シバく。

 

「お、おいおい! なんか俺、女子に熱い視線を向けられてる気がする!」

「違いますよ! 僕! 僕を見ているんですよ!」

 

 満面の笑みを浮かべるシドへ周りに気付かれないよう肩をぶつけていると、俺達の前を歩いていた二人の男が騒ぎ出した。

 背の高い金髪の男がヒョロ・ガリ。小柄で坊主の男がジャガ・イモ。本当に貴族なのか疑いたくなる程の酷い名前であり、シドが自ら友達に選んだ二人だ。どうせ溢れ出すモブっぽさとかで選んだんだろう。なんとなく分かる。

 

「やべぇな! モテ期来たな!」

「困りましたねぇ! 坊主の魅力に気付かれるとは!」

 

 なんか盛り上がってるし、水を差すのも悪いな。性格はそこそこクズな奴等にも関わらず、どこか憎めない親しみやすさを感じる。まだ一ヶ月程の付き合いではあるが、一緒に居て居心地はそこまで悪くない。

 

「おいシド! モテ期! モテ期だぞ!」

「ライ君! 今がチャンスかもしれません!」

 

 鼻息を荒くしながら声をかけてくるヒョロとジャガ。呆れる俺と興味なさそうなシドに構わず、勘違い非モテ男達は興奮していた。

 

「「彼女を作るんだ!!!」」

「無理だと思うよ」

 

 拳を高く振り上げたバカ二人を、それ以上のバカが一刀両断。まさか俺がシドの意見に対して素直に頷く日が来るとは……恐るべしモブ達だ。

 

 そしてこの個性豊かな友人達のせいで、学園生活七ヶ月目にして厄介なイベントが発生した。ノリノリのシドを見れば分かる、ろくでもないことであると。

 

 内容を聞けば、やはり予想通りだ。シド曰く学園青春イベントのお約束、モブとして絶対にやりたいことの一つらしい。

 

 

 ──学園のアイドルに告白して()()()()()()

 

 

 いやあるよ? 青春アニメとかでよく見る光景だよ? でもよく考えてくれよ。仮にも自分の上に立っている男がそんな情けない役割に全力出して飛び込もうとしてるんだよ? 俺だっていくら何でも思う所はあるぞ。

 

 シドは徹夜で告白の台詞を考えてきたらしいが、本気で玉砕する気しかない。明らかに労力をかけるポイントが間違っているというツッコミはしていたらキリがないのでやめた。別に良いよ、好きにしてくれ。お前はそういう奴だから。

 

 更に学園のアイドル──つまり告白相手の女子は超大物。

 ここ『ミドガル王国』の第二王女、アレクシア・ミドガル。眉目秀麗・文武両道・品行方正と三拍子揃った女性であり、言うまでもなく学園内での人気はトップだ。狙った男は数知れず、散っていった男もまた数知れず。

 

 そして今日、シドもその仲間入りをしようとしていた。自ら、望んで、敗北者達の山に加わろうとしていた。

 

 ……なんか言ってて悲しくなってくるな。右腕やめよっかな。

 告白現場を覗き見するため草に隠れていると、少しだけ目から汗が出てきた。

 

「おい、来たぞ」

「アレクシア王女です」

「……ん? ……ああ、そう」

 

 俺とは違いテンションの高いヒョロとジャガ。

 シドがフラれる所を見られると楽しんでいるのだろう。そもそもこの告白自体が罰ゲームによるものらしい。そりゃあ悪ノリするよな。俺もシドがフラれるポジションに居なかったらゲスく笑ってたと思う。

 

「ア、ア、ア……アレクシア王にょ!!!」

 

 ……うわぁ。

 

 リーダーの演技力にドン引きだわ。何アレ、何あの表情、何あのテンパリ、やりたいことに関しては本当に突き抜けてる奴だな。演技ということが分かっているから最早感心してしまうレベルだ。賞でも取れるんじゃないか? 厨二卒業して俳優にでもなれ。

 

 このまま王女にシドがフラれる。ヒョロもジャガも、俺もそう思ってた。いや、一番そう考えていたのはシドの奴だろう。最終的な結果に最も呆然としていたのは当の本人だったから。

 

「分かりました。貴方のような方を待っていたの。──よろしくね」

 

 なんかよく分からんけど、告白が成功した。

 俺も一瞬混乱して思考が止まったけど、中々レアなシドのアホ面が見れて爆笑した。取り敢えずブラコン拗らせてるクレアにはこう報告しておこう。

 

 弟に彼女が出来たぞってな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園生活とは波瀾万丈なものらしく、退屈しない日々を送っている。

 同級生の女子から告白された、上級生の女子から告白された、教師の女性から告白された、男から告白──などと色々なイベントを経験してきた俺だが、今日はその中でも特に刺激的な一日となった

 

 この数日間、俺は王女と付き合うことになった主様の動向を腹抱えて笑いながら──ではなく、右腕として冷静に観察していた。するとどうだろう。不思議なことに王女は何者かに誘拐され、その容疑者としてシドが騎士団に身柄を拘束されたのだ。

 

 王女誘拐の犯人とされればまず極刑は免れない。

 モブを極めるとか言ってるボケは自力で脱出なんてしないだろうから、笑い事ではなくマジで命が危ない状況だ。

 

(……どれだけ迷惑をかけるんだ)

 

 椅子に縛り付けられ拷問をされるシドを見て、俺はため息を溢す。別に痛めつけられている知り合いを見て悲しんでいる訳じゃない。最初はそのつもりで来たのだが、シドを見てその必要がないと分かった。

 

「嫌ぁぁぁ!! 命だけはお助けをぉぉぉッ!!!」

(楽しんでやがる)

 

 涙目で必死に命乞いをするシド。間違いない、モブっぽくを求めて演技している。アイツのヤバさはここまでだったか、命懸けでモブになりきっていた。なんかすまんかった、お前のこと舐めてたわ。もう同じ人間とは思わない。お前はただの妖怪だ。

 

「……はぁ。これから面倒事が始まるな。準備しておいてくれ。【シャドウガーデン】の指揮はいつも通り頼んだ」

 

 俺の言葉を聞き、隣で身を潜めていた金髪碧眼美少女が頷く。夜に溶け込む漆黒のスライムスーツを着用しており、身体のラインが一目で分かるけしからん格好だ。目の保養ですありがとうございます。

 

 耳に届くリーダーの情けない悲鳴を聞き流すため、俺は美少女の可愛さに意識を全て持っていった。

 

 

 

 




 ちなみにオリ主の総合的な強さはシャドウを百とするなら八十五ってところです。魔力量自体は勝っていますが、前世から修行してた奴だからね。仕方ないですね。

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