陰の右腕になりまして。   作:スイートズッキー

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40話 強くなったな

 

 

 

 

 

「──よう。全員、コンディションは万全みたいだな」

 

 七人の強者から戦意を向けられているとは思えない声音のライト。そんなお気楽な余裕を隠そうともしないNo.2に、【七陰】達は闘争心を跳ね上げる。

 

「貴方こそ、元気そうで嬉しいわ。……今回は勝たせてもらうから」

「ああ、楽しみだよ。アルファ」

 

 少しばかりの笑みを浮かべ、剣を握ったアルファ。強さの序列で言えば組織全体で見てもNo.3。この場で最もライトの実力に近いと言っても過言ではない。

 

「ライト様、無法都市の一件では大変お世話になりました。……その恩返しも兼ねて、勝たせて頂きます」

「勝てたら右腕代わってやるよ。ベータ」

 

 うぇっ!? という情けない声を溢しながら、剣ではなく『弓』を手に持ったベータ。得意武器で挑もうとする辺り、本気度が窺える。

 

「……未熟ながらも今日のために作戦は立てました。勝負です、ライト様」

「鼻血は出さないようにな。ガンマ」

 

 煽りなどではなく真剣なライトの心配に、『大太刀』を作り出しながら同じく真剣な顔で頷いたガンマ。『最弱』の二つ名を不動のものとする彼女はどこまで喰らいつけるのか。

 

「ライトに勝つのですっ! デルタ負けないのですっ!! ガルゥゥゥッ!」

「よしよし、その意気だ。デルタ」

 

 スライムを手に纏わせ、全てを切り裂く『爪』を出現させたデルタ。近接戦闘ならば言うまでもなくトップクラス、彼女の働きが勝負の分かれ目になることだろう。

 

「ライト様。美しく……そして優雅に勝利してみせます」

「この間の演奏会みたいにか? とても良かったよ。イプシロン」

 

 嬉しそうに照れながら、『大鎌』という物騒な武器を掴んだイプシロン。クルクルと武器を回しながら感触を確かめる様子からは、強者の風格しか感じられない。

 

「約束通り〝ぎゃふんっ〟て言わせてあげるよ。ライト」

「だから言っただろ? 〝やれるもんならやってみな〟。ゼータ」

 

 ペロリと舌を見せた後、二刀の『円月輪(チャクラム)』を顕現させたゼータ。師弟コンビは勝負開始前からバチバチに火花を散らしていた。

 

「勝ったら……実験、付き合う……よね?」

「約束したからな。だからちゃんとやれよ? イータ」

 

 ライトの言葉に満足したのか、黒い『球体(ボール)』を数個ほど自身の周りに浮かび上がらせたイータ。研究者としての彼女が、本当に珍しく戦闘態勢に入った。

 

 全員が全員、一人の男へ意識を集中。

 力試しの準備は、完全に整った。

 

「今回の力試し、審判は私が務めさせて頂きます。──制限時間は十分! 【七陰】の皆様がライト様を戦闘不能にするか、舞台の上から()()()()()()()。ライト様は試合終了まで舞台に()()()()()()()()となります。【七陰】の皆様は舞台から落下した時点でリタイア、終了時に一人でも残っていれば勝敗は〝引き分け〟となります。尚、ライト様にはハンデとして飛行の禁止が定められています。よろしいですね?」

「ああ、大丈夫だ」

 

 舞台に上がり、ライトと【七陰】の間に立ったラムダ。手短に力試しのルールを説明すると、最終確認と言わんばかりに両者へ視線を向けた。

 

「準備の程は?」

「いつでも良いわよ、ラムダ」

「俺もだ」

 

 代表として答えたアルファと、二刀のスライムソードを構えたライト。始めから〝二刀流〟。【七陰】全員を同時に相手するため、流石に手加減はしないようだ。

 

 双方の意思確認を終え、ラムダが手を空へ向かって真っ直ぐに伸ばす。そのまま勝負開始の合図として振り下ろし、高らかな宣言をした。

 

 

「──始めッ!!」

 

 

 最初に動いたのは、やはりというかデルタだった。

 

「ガルゥアアアァァァッ!!!」

 

 本能に任せた野生的で不規則な動き。持ち前の速度と合わせればとんでもない脅威となる。速度と攻撃力、この二つが突出しているだけでデルタは『暴君』と呼ばれるようになったのだから。

 

「前より速くなったな、デルタ。……けど、まだ甘いッ!」

「キャウンッ!」

 

 雷の如き攻撃を完璧に防御したライト。天性の直感と戦闘経験により、野生を用いた攻撃にも瞬時に対応してみせた。

 

「──ッ!! ……やるな、ベータ」

 

 デルタを弾き飛ばした瞬間、ライトが首を動かし回避行動を取る。一秒前まで頭を置いていた場所を通り過ぎたのは三本の漆黒の矢。遠距離代表とも言える攻撃を放ったのはベータであった。

 

「崩しました! 今です!」

 

 当たるとは思っていなかったのか、ベータに焦りはない。むしろライトの体勢を崩すことが目的だったようで、叫ぶように追撃を呼び掛けた。

 

「狙いは良かったぞ。──来るのはアルファか」

「ええ。七度目の敗北は無しよ」

「それはどうかな……!!」

 

 アルファの剣とライトの剣が激しくぶつかり合う。甲高い金属音を響かせる撃ち合いは美しさすら感じさせるものであり、下手に割り込もうものなら手痛い反撃を喰らうのは明白だった。

 

 しかし、この場に居るのは()()()()()()()()()()()()()

 

 体勢が不十分だったところにアルファの斬撃。捌くには捌いたが、ライトが押されていることに違いはない。その隙を逃す者など、この戦いには一人として存在しなかった。

 

「ッ!! ゼータか!」

「足下がお留守だよ。ライト」

 

 自分の気配を周りに溶け込ませることで完全に消し、ライトの死角から円月輪を振るったゼータ。足を狙った一撃は空振りに終わったが、ライトを空中へ誘導することに成功。飛行を禁止されているため、ライトは満足に動けない状態となった。

 

「お覚悟をっ!!」

「逃しません!!」

「実験……!!」

 

 ライトが宙に逃げた瞬間、アルファとゼータが即座に距離を取る。そこへ畳み掛けるようにして参戦してきたのはガンマ・イプシロン・イータの三人。

 ガンマとイプシロンはライトを前後から挟み、イータはスライムボールをライトの真下へ展開させた。

 

「「はぁぁぁぁぁあっ!!!」」

 

 前からはガンマの大太刀、後ろからはイプシロンの大鎌。タイミングを完璧に合わせて横一閃に繰り出された斬撃に対し、ライトは片方の剣を逆手持ちに切り替え、そのまま同時に防御した。

 

「チャンス……! 逃さない……っ!」

 

 同時攻撃を防ぐのには成功したが、イータによる追撃の一手がライトへと襲いかかる。真下に展開させていたスライムボールを十個に分裂させ、鋭利な形へと変えてからライト目掛けて発射した。

 

(……これは剣じゃ防げんな)

 

 剣を二本とも使ってしまっているこの状況。流石に防御も回避も出来ないと、ライトはスライムスーツへと意識を回す。背中全体を覆っていた部分を硬質化しながら引き伸ばし、真下からの攻撃をガード。三箇所への連続攻撃を捌き切って見せた。

 

「これも防がれるなんてっ!」

「ライト……めちゃくちゃ」

 

 イプシロンは驚愕し、イータは最早呆れの感情を抱いたが──この瞬間、ガンマだけは『想定内』だと笑みを浮かべた。

 

「おいおい……マジかよ」

 

 確かな連携による連続攻撃を防いだのも束の間、ライトが攻撃の意思を感じ取る。それは自身の前に居るガンマからでも、背後に居るイプシロンからでも、離れた所に居るイータから向けられたものでもない。

 

 向けられているのは──()()()()()だった。

 

「またベータかッ! なんつータイミングでッ!!」

 

 焦った声と共に、ライトが行動を起こす。これまで見せていた余裕は消え去り、ガンマとイプシロンを力任せに弾き飛ばすと、イータが放っていたスライムボールを踏み台にして跳躍。真上から落ちてくる無数の矢に対して、光速の剣を振るった。

 

 前、後ろ、真下を制圧した者に対して──時間差で真上から〝曲射〟。『堅実』の二つ名で呼ばれるだけはあると、ライトは無駄のない詰め方に若干の恐怖すら覚えた。

 

「ウガァァァァアッ!!!」

「……うおっ」

 

 曲射を全て弾いた瞬間、狙い澄ましたかのようにデルタが再び突撃。肉眼では捉えきれない程の速度で繰り出された飛び蹴りは見事に直撃し、ライトを戦場となっている舞台へ激しく叩き付けた。

 数回バウンドした後、すぐさま体勢を立て直すライト。身体に響く衝撃を無視しながら、更なる追撃に備えた。

 

「デルタが勝つのですっ!!!」

「シュシュシュのシュゥゥゥゥッ!!!」

 

 キョロキョロと目を四方に動かし、ライトは状況を把握。迫り来る『暴君』と『最弱』の一撃に、反撃の隙を見出した。

 

 〝トーアム流・二刀剣術〟。『守りの型』

 

「──双刃(そうじん)流水(りゅうすい)

「がっ!!」

「ぺぎゃっ!」

 

 破壊力だけは一級品の一撃を軽く受け流し、力を分散。明確な隙を作り出したところで、ライトはガンマとデルタの腕を掴み一回転しながら思いっきりぶん投げた。

 

「わああぁぁぁっ!」

「きゃあぁぁぁっ!」

 

 ライトの勝利条件は【七陰】達をリングアウトさせること。チャンスをモノにするための行動としては最適解であった。

 しかし、最適の行動であるということは──その行動を取ると予想しやすいということに他ならない。優秀な頭脳を持つ彼女達が対策していないはずもなく、投げられたガンマとデルタはそれぞれ後方に待機していたベータとイータによって受け止められたのだった。

 

「おおっ、やるな」

「思い通りにはいかないわよ。──ライトっ!!」

「私達も成長してるってことっ!!」

 

 二人を場外に出来なかったことで、ライトは【七陰】達の成長を感じ取った。前回までの彼女達であれば、今の投げで間違いなく二人をアウトに出来ていたはずだからだ。伊達に六度も敗北していないようで、力以上に連携の練度も跳ね上がっている。

 

 アルファとゼータの連撃を捌きつつ、ベータとイータからの遠距離攻撃にも気を配る。剣と円月輪が体勢を崩しにかかり、隙を突くように矢と球が急所を的確に狙い撃ちしてきた。

 

「イプシロン!」

「はいっ! アルファ様!」

 

 更に高速でクルクルと回される大鎌が追加。メインの攻撃をイプシロンに任せたことで、アルファとゼータの攻撃にも鋭さが増す。防御も回避も容易くはない、流石のライトも全ては捌けず身体に傷を残し始めた。

 

「腕を上げたな、イプシロン」

「む、胸なんて上げてませんっ!!」

「言ってない言ってない」

 

 死んだ目で否定したライト。流石に哀れである。

 

「ゼータ! 合わせて!」

「アルファ様こそ! 遅れないでよね!!」

 

 緩んだ会話も発生したが、ここが攻め時とアルファとゼータが畳み掛ける。イプシロンがライトの動きを制限している間に、自身の身体を()()()()()()()()

 

「これは……なんだ?」

 

 吸血鬼の得意技である霧化。『無法都市』で衝突した『血の女王』との一戦により、それを我が物とした【シャドウガーデン】。現在使いこなせているのはアルファとゼータの二人だけだが、十分に強力な手札である。

 

 ライトの周りを霧として囲むアルファとゼータ。攻撃するまで実体がないというのは中々に厄介であり、ライトは更に傷を増やした。

 

「霧になってるのか。……面白い」

 

 流血しているというのに、悪い笑みを浮かべるライト。常識人のつもりでいても、根っこの部分は戦闘狂。見たこともない技術に心躍らせ、湧き上がる闘争本能に身を委ねた。

 

「俺も……そろそろ全力でいく」

 

 ここまでの戦いで五分の時間が経過。このまま制限時間である十分が過ぎれば、舞台に【七陰】が残ったままになり勝負が引き分けで終わってしまう。相手の実力を正確に把握し終えた今こそ、全力で勝ちにいく時だ。

 

 しかし、繰り返して言うならば──それは【七陰】達にも()()()()()()()()()()()

 

「──今よ!」

「……霧から身体を戻した?」

 

 ライトに対して優位を取っていたにも関わらず、アルファとゼータが同時に霧化を解いた。遮られていた視界を取り戻したのは良いが、ライトの目に飛び込んで来たのは呑気に喜んでいられるような光景ではなかった。

 

 ──【七陰】による〝同時攻撃〟。

 

 アルファ、ベータ、ガンマ、イプシロン、ゼータ、イータの六人がそれぞれ剣を構えてライトへと向かっている。完全に包囲されており、逃げ道はない。真上だけは空いているが、飛行を禁止されているため無いも同然だった。

 

 世界的に見ても上位の実力を持つ六人による一斉攻撃。いつの間にやら舞台の中心にまで移動させられていたライトは、まさしく八方塞がりであった。

 

「……霧になったのは俺を舞台の真ん中に移動させるためか」

 

 ニヤリと口角を上げ、二本の剣を構えたライト。

 襲いかかってくる六本の刃を、二本の刃で跳ね除けた。

 

 繰り出したのは『ライ・トーアム』の剣ではなく、『ライト』の剣。【シャドウガーデン】副リーダーが放つ、漆黒の剣であった。

 

「──双刃(そうじん)旋風(せんぷう)

 

 二刀のスライムソードをしならせ、その場で高速回転。ムチのように伸びる斬撃により、迫り来る六人へ同時に斬撃を当てた。

 攻撃するために振り下ろした剣は防御に回さざるを得なくなり、六人は舞台端ギリギリの所まで吹き飛ばされる。剣を舞台に突き立てながら、どうにか落下だけは免れた。

 

 格の違いを見せつけられる攻防になってしまったが、彼女達の攻撃は──()()()()()()()()()()()

 

「……なるほどね」

 

 納得したように空を見上げるライト。そこには何故か同時攻撃に参加していなかったデルタがおり、ライト目掛けて身の丈を遥かに超える大剣を叩き付けようとしていた。

 霧化による位置の誘導と同時攻撃による意識の固定。この二つの行動には最後の一撃を決めるデルタへのサポートとしての意味があったのだと、ライトは微笑んだ。

 

 しかし、残念ながら思惑通りにはいかなかった。最後の一撃を決め切るのに、同時攻撃が呆気なく対処され過ぎたからだ。ライトの方には反撃するだけの余裕があり、実力的にも十分可能なものとなっていた。

 

 デルタの奥義・『鉄塊』に対し、ライトは得意技としている返しの剣を──放とうとした。

 

双刃(そうじん)──……ッ!?」

 

 残花、とは続かず、ライトの動きが文字通り〝停止〟した。

 すぐに視線を下げ、自身の身体に何が起こったかを確認するライト。黄金の鎖とも呼ぶべき代物に身体を拘束されており、腕どころか指一本動かせなくなっていた。

 

「これは……?」

 

 周りを見回してみると、鎖を出しているのがデルタを除いた六人だと分かった。それぞれ手には短剣のような物を持っており、その先端から黄金の鎖が飛び出していた。

 

「……〝アーティファクト〟か」

 

 ライトの言葉に返答する余裕もないのか、六人は辛そうな顔を見せる。どうやら魔力の消費が半端ではないらしく、立っているのもやっとと言った様子だ。

 それでも、数秒足止めできれば十分。『暴君』の一撃を完璧に当てるには、それだけで十分なのだ。

 

 

「──ガウァァァァアアアッッッ!!!!」

 

 

 舞台の半分を一気に潰せそうな程の大剣がライトへと振り下ろされた。並の存在であれば間違いなく肉塊へと姿を変える威力。何も抵抗出来ない状態でこれを喰らえば、いくらライトと言えども地に倒れることだろう。そうなれば力試しは【七陰】の勝利。気力を振り絞った、彼女達の勝利となる。

 

「──本当に、流石だよ」

 

 ライトは素直に喜んだ。

 昔から面倒を見てきた彼女達の、著しい成長を。

 

 しかし、それは決して勝ちを譲るものではない。

 むしろその逆、まだ負けてやることは出来ないという──意地の表れだった。

 

 腕が動かない以上、剣を振ることは出来ない。つまり、剣を隕石に変えることも出来ないということだ。ならどうするか、答えは簡単。時として、単純(シンプル)なものこそが最高(ベスト)の結果を叩き出すのだ。

 

 剣を隕石に変えられないのなら──()()()()()()()()()()()()

 

 もう一つの奥の手を、ライトはここで出した。

 

 

 

 

 

「──〝シンプル・イズ・メテオ〟」

 

 

 

 

 

 白銀の魔力が弾け、舞台全体に爆風が広がった。

 デルタが繰り出した『鉄塊』も、ライトを縛っていた黄金の鎖も、同じく舞台に立っていた六人も、例外なく全てを『隕石(メテオ)』が吹き飛ばした。

 

 舞台の上で立っているのはただ一人、ライトのみだ。

 

「良い攻撃だったよ、デルタ」

「きゅ、きゅーん……」

 

 目を回したデルタをキャッチし、首元を掴んでから舞台の外へ優しく放り投げたライト。絶望的状況としか表現は出来ず、アルファを除いた六人は全員リングアウトしていた。

 

「俺の勝ちだな。アルファ」

「……ッ!」

 

 最早立っていることも出来ずに、アルファが倒れたままライトへ視線を向ける。絶対に負けられない戦いだからこそ、最後まで諦める訳にはいかなかった。

 だが、現実は残酷だ。身体が動く気配もなく、剣は舞台の外へ飛んで行ってしまった。

 

 アルファが勝利を掴むための術は──既に残されていなかった。

 

「強くなったな。……本当に」

「……ライト」

 

 舞台の外へ出そうと、ライトがアルファを抱え上げる。そんな場合ではないというのに、アルファの心が幸せに包まれた。緩みそうになる口元を見られないよう、アルファはすぐに片腕で隠した。

 

 暖かな体温が伝わり、傷が癒えていく。魔力によって治療されているのだとアルファが気付いた時には、もうリングアウト寸前。優しい魔力を受けたまま、アルファは敗北も受け入れた──はずだった。

 

 

「──試合時間十分経過ッ! そこまでッ! 力試し終了としますッ!!」

 

 

 耳に響いたのは、よく通るラムダの声だった。内容はこの力試し終了を告げるもの。最初に取り決められていた十分がたった今経過したらしい。

 この事実に一番驚愕したのはアルファを含めた【七陰】だろう。七度目の黒星を回避するため、命懸けで挑んだのだから。

 

 いくつもの視線を一身に受けるライトは、アルファを抱えながら小さく声を溢した。

 

 

「……あっ、やべっ」

 

 

 七度目の力試しはこうして幕を閉じた。

 

 

 勝敗──〝引き分け〟。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「……ふー、さっぱりした」

 

 無事に力試しが終わり、風呂上がりに一息つけるようになった。結果はまさかの引き分けだったが、みんなの成長を感じられたから全然オッケーだ。

 アルファを紳士的にアウトにしようとさえしなければ……いや、普通に時間経過を見誤った俺が悪いんだけどさ。

 

「湯加減はどうだった?」

 

 新しい服に着替えてから部屋に戻ると、アルファが出迎えてくれた。俺と同じようにさっぱりしてきたらしく、綺麗な髪はキラキラと輝いている。お茶を入れてくれたようで、机の上には紅茶が並べられていた。

 

 俺のために用意してくれた部屋は装飾も凄く、金貨に換算すると千枚は軽く超えると思う。家具から何から高級過ぎて、どこか腰が引けてしまう。

 

「お茶菓子もあるから、好きに食べて」

「はーい! 頂きます!」

 

 もちろん、明るい声で返事をしたのは俺ではない。ピンク色の髪をふわふわと揺らし、アホ毛を左右に躍らせている少女・シェリーだ。

 先ほど行った力試しを見学していたらしく、クッキーを齧りながら少々興奮している。

 

「お邪魔してます! ライトくん」

「ああ、久しぶりだな。シェリー。【シャドウガーデン】には慣れたか?」

「はい! 皆さん仲良くしてくれて、とっても楽しいです!」

「そうか。それはなによりだ」

 

 相変わらずの小動物。保護欲が掻き立てられるんだよな、この子。可愛い孫を持つ爺さんになった気分だ。

 

「アルファ。他のみんなはどうしてる? 成長してたぞって褒めたいんだけど」

「ベータ、ガンマ、イプシロンの三人は『ミドガル王国』へ戻ったわ。忙しい身だから仕方ないわ。デルタとイータは疲れたから寝るって自室に。ゼータは……貴方から頼まれた任務と言って出て行ってしまったわね」

「そうか。デルタとイータはなんとなく分かってたけど、他の子はやっぱ忙しいよな。無理して来てもらって悪かったか。今度お礼しなきゃな」

 

 ベータには前世で俺が好きだった小説の話とかで、ガンマはよく分からんから直接聞こう。イプシロンもよく分からんが……一緒に甘い物でも食べに行こうかな。

 

「きっと喜ぶわ。……それで? ゼータに頼んだ任務って何かしら? 私、何も知らないんだけど?」

「大したことじゃないから気にすんなって。それより、せっかくアルファが用意してくれた紅茶が冷めると嫌だからさ。おやつタイムといこうぜ」

「……もう、たまに見せる貴方の秘密主義はなんなのよ。……私だって、貴方の役に立てるのに」

 

 どこか拗ねたような顔を見せるアルファ。普段大人びている分、こういう表情は新鮮だ。ギャップを感じてめっちゃ可愛い。

 

「アルファには十分助けられてるって。一番優秀だからな。シェリーもそう思うだろ?」

「は、はい! アルファさんは本当に凄いです! 私、憧れてますっ!」

「ほら、流石は【シャドウガーデン】のリーダー兼副リーダー様だ」

「そのどちらも私じゃないでしょ……もう」

 

 困ったように笑うアルファだが、俺の戯言に話を流してくれたようだ。大人だなぁ、まだ十五歳とは思えん。

 

「優秀と言えば、シェリーもよ。貴女が開発したものは既にいくつも実用段階。ライトに見込まれただけのことはあるわね」

「へぇ、そんなにか。凄いなシェリー」

「い、いえっ! 私なんてまだまだですっ! イータさんと共同研究ですし、【シャドウガーデン】の協力がなかったら完成しないものばかりですから!」

 

 シェリーは手をブンブンと振りながら謙遜しているが、アルファがここまで褒め言葉を口にするのも珍しい。相当評価されているみたいだ。

 

「魔力増強のアーティファクトを完成させたことで『スライムソード』と『スライムスーツ』の機能強化。魔力制御のアーティファクトは訓練での実力向上に大きく役立っている。……更に、今日貴方に使ったアーティファクトもシェリーが完成させたものよ?」

 

 ……えっ。今なんか恐ろしいことを立て続けに言われた気がする。

 

「きょ、今日使ったアーティファクトって、あれか? 俺の動きを封じた……〝黄金の鎖〟」

 

 満足そうな顔で頷くアルファと、照れ臭そうに笑うシェリー。ほのぼのとした雰囲気が漂ってるが、俺からしたらたまったものではない。あれのせいで奥の手を使う羽目になったし、引き分けにもされてしまったのだから。

 

「な、なんなんだ? あれ」

「えーっとですね。あれは封印のアーティファクトを分析・改良したものなんです。あっ、もちろんイータさんとの共同開発ですよ?」

 

 いや、問題はそこじゃない。

 

「とんでもない威力だったんだけど。マジで身体動かんかったぞ」

「ガンマが立てた作戦の要だったもの。何度もシミュレーションしたわよ。……あんな方法で破られるとは思わなかったけど」

 

 どこか納得いかないとジト目を向けてくるアルファ。まあ、そう思うのも分かる。俺が同じ立場だったらそうなるもん。

 

「あれは対象の空間を固定して『完全停止』させるといったものなんですが……ふふっ、やっぱりライトくんは凄いですね」

「貴女の方が凄いです。なに? 空間を固定って? 完全停止って?」

 

 ラスボスじゃん。やってることラスボスじゃん。味方陣営に引き入れて良かった人材なのか? 

 

「問題は魔力の消費が激しいことね。私達【七陰】でも維持出来て()()()。今回はデルタ抜きの六本で無理矢理使用したから、数秒しか保てなかったわ」

「そうなんですよね。七本の短剣に分けてようやくまともに使用出来ましたから、これ以上の改良は難しいかもしれません」

「十分だろ。あれならシャドウの動きだって止められるぞ。多分俺みたいに吹き飛ばしてくるだろうけど、最初の一回目なら間違いなく刺さる」

 

 このアーティファクトが使えるなら、【七陰】と協力すればシャドウに下剋上すら可能だろう。それ程までにあの黄金の鎖はぶっ壊れ性能だ。

 

「でもまだ完成はしてないんです。決まっていないことがありまして」

「えっ? まさかまだ威力が上がるとか言わないよな? 魔力を練れなくしたり……」

 

 そうなったらマジでヤバい。俺でもシャドウでも対処は不可能だ。

 恐ろしい才能に怯えていたが、シェリーが告げた内容は平和なものだった。

 

「名前です。名前が決まっていないんです」

「な、名前?」

「はい。このアーティファクトには名前が決まっていません」

「この子、そういう部分にはこだわるのよ」

 

 意外に職人派なのかな。揶揄われているのかと思ったが、シェリーの目はマジだった。

 

「候補はあるのか?」

「ありますっ!」

「ふーん。どんなのだ?」

「『光陰(こういん)の鎖』です!」

「却下で」

「えっ……。ど、どうしてですか?」

 

 余程自信があったのか、僅かに瞳を潤ませるシェリー。そんな顔されても駄目なものは駄目です。

 

「俺とシャドウがセットみたいで……なんか嫌」

「そ、そこがコンセプトなんですよ! 【シャドウガーデン】のリーダーであるシャドウくんと副リーダーのライトくん。お二人の名前から考えたものなんですっ」

「なら余計に却下」

「あ、あぅ……そうですか」

 

 悪いなシェリー。ここは譲れない部分だ。それにほら、普通に恥ずかしい。

 

「『陰の鎖』とかで良いだろ。それっぽい」

「ラ、ライトくんがそう言うなら……」

「決まりだな」

 

 アホ毛を優しく潰すようにシェリーの頭を撫でる。サラサラとした髪の手触りは良く、子犬でも撫でているような感覚だ。

 

「そういえばライト。今日はこれからどうするの? もう日が暮れそうだけど」

「そうだな……今日はここに泊まらせてもらおうかな。どうせ明日は休みだし」

「そ、そう! 分かったわ」

 

 なんか嬉しそうな声を出したアルファ。部屋に人を呼ぶと、夕食の用意まで頼んでくれた。

 

「悪いな」

「いいえ、嬉しい。……わ、私も今日はもう休みにしてあるの。……だから、その、一緒に居られるわね」

 

 くそ可愛い。なんだこの子。これがクーデレか。最高です。

 

「わ、私もライトくんとお話ししたいですっ!」

「ああ、もちろんだ」

「ふふっ、そうね。ゆっくりした時間を過ごせそうだわ」

 

 金髪美少女エルフとピンクアホ毛才女とのお茶会。このまま終わっていれば、俺の『アレクサンドリア』訪問は楽しい記憶となっていたことだろう。

 

 そう、()()()()()()()()()()()

 

 俺は忘れていた。

 いや、忘れたフリをしていた。思い出さないように、蓋をしていただけだった。

 

「ライト様。こちらベータ様からの手紙となっております」

 

 翌朝、俺のところへ手紙が届いた。

 持って来てくれた子によるとベータからとのことだ。

 

 しかし、俺はなんとなく嫌な予感に襲われる。

 そしてこの嫌な予感が外れたことは、残念ながら一度もなかった。

 

 ベータからの手紙といっても、ベータから伝えられた内容は無し。とあるバカに頼まれて、『アレクサンドリア』に居る俺へ代わりに手紙を届けたらしい。

 

 差出人の所には、()()()()でこう書いてあった。

 

 

 ──〝スーパーエリートエージェント〟より、と。

 

 

 取り敢えず、読んでから燃やした。

 

 

 

 




 一万文字超えてしまった(笑)。
 戦闘描写入れると長くなるんですよね。
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