陰の右腕になりまして。   作:スイートズッキー

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41話 謎の男が手紙出すな

 

 

 

 

 

 雲のない、月がよく見える静かな夜。

 俺は宿を抜け出し、人目が全くない路地裏へ来ていた。ここが『ミドガル王国』ではなく『無法都市』だったなら、俺は間違いなくチンピラ共の標的にされていただろう。

 

 そもそもどうして俺が大切な睡眠時間を削ってこんな場所に来ているかと言えば、原因はいつものことながら──あのボケナスアホ厨二だった。

 

「……ったく、こんな時間にこんな場所に呼び出しやがって。クソシド」

 

 アルファ達との力試しを終えた後、俺のもとへ一通の手紙が届いた。差出人はシド、これだけで碌でもない内容なのは分かっていた。しかし、読まずに燃やすというのも気が引けたので一応読んだ。やっぱり後悔はしたけど。

 

「おーい、来てやったぞ。カッコいい登場シーンとか要らねぇから、さっさと出て来い」

 

 大人しく呼び出されてやったというのに、シドが姿を見せない。あの野郎、どうせ陰の実力者っぽい登場の仕方とかを考えてるんだろう。俺相手でもそのスタイルを崩さないところはもう尊敬に値……する訳ねぇだろ。

 

「てめぇっ! 人のこと呼び出しといて良い度胸じゃねぇか! 出て来い! お前のその性根を今日ここでぶった斬って──ッ!?」

 

 痺れを切らして叫んだ瞬間、俺目掛けて攻撃が飛んできた。夜中に騒ぐ男への制裁としては、大分タチの悪いものだったが。

 

(これは……〝糸〟か?)

 

 咄嗟に持ってきていた二本の剣を鞘から引き抜き、斬り刻んだ。月明かりしか光源がないため本当にうっすら見えるというレベルだが、俺の身体を拘束しようとしてきた物の正体は『糸』でまず間違いない。

 周りを確認してみれば、いつの間にか俺が居る路地裏には細い糸が無数に張り巡らされていた。

 

「……なるほど。()()()()()()()

 

 状況は理解した。シドがその気なら、相手するまでだ。

 魔力を適度に解放すると同時に、周囲に対して魔力感知を開始した。

 

 攻撃に使用された糸は斬った感触から察するに魔力で強化されていた。つまり、魔力を送っているシドの居場所を糸から逆探知出来るということだ。自らの居場所を知られても構わないという自信の表れ。ムカつく野郎だ。

 

「……上か。やっぱりバカと煙は高いとこってか」

 

 糸に纏わされていた魔力から逆探知した結果、シドの居場所が真上であることが分かった。路地裏を作っている建物の屋上、月をバックに立つことが出来る位置とも言える。

 

「面倒かけやがって、一発は殴らせてもらうぞ」

 

 糸を避けながら壁を蹴って上まで登ると、予想通りの奴が予想通りの厨二ポーズで立っていた。服装は黒スーツにダサ仮面、髪は後ろで一本に纏めており幼さを消している。格好から入るのはいつも通りだな。

 

 呆気なく接近されたというのに、シドに焦りはない。むしろ深い笑みを浮かべ、意味あり気に両腕を広げた。

 

「我が糸を容易く断ち切るか。強者のようだ」

「シド。殴られる準備は出来たか?」

「フッ……私はシドではない。私の名はジョ──」

「オラッ!!」

 

 わざわざ声を変えた状態で名乗ろうとしたシドに、俺は片方の剣を投げつけた。狙ったのは顔面、ダッセェ仮面に向けての全力投擲だ。

 

「……れ、礼儀がなっていないな。まだ名乗りが終わっていないぞ」

 

 少し演技にボロを出させることには成功したが、肝心の攻撃は防がれてしまった。剣は仮面に届く寸前で糸によって縛り上げられ、空中にピタッと停止させられた。

 

「中々の使い手だが、私には届か──えっ?」

 

 作っているイケボで煽りの一つでもしようとしたのだろうが、そんな隙を与えるはずがない。こっちはこんな夜中に呼び出されてイラついてんだ。さっさとぶっ飛ばして茶番を終わらせよう。

 

 魔力で強化されていると言っても、所詮はただの糸。斬るの自体は簡単だが、それじゃあ面白くない。

 俺は魔力で加速し、縛り上げられた剣の柄を目掛けて本気の飛び蹴りを当てた。剣を拘束していた糸からはギチギチと悲鳴のような音が上がり、呆気なく千切れる。するとどうなるか、剣が再びアホの顔面を貫こうと動き出すのだ。

 

「──ちょっ、あぶっ!!」

 

 イケボなのに情けない声を溢しながら、シドは剣を紙一重で回避。完璧に避けることは出来なかったようで、剣が掠ったのか仮面が音を立てながら割れて落ちた。

 

「ぼ、僕の仮面……!」

「取り敢えず一発な」

「──あっ」

 

 目に見えて動揺しているシドの肩に手を置き、俺は右拳を振り上げる。そしてそのまま勢い良く振り抜き、アホの左頬をぶん殴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……酷いよぉ。この仮面気に入ってたのに」

「酷いのはどっちだ。いきなり仕掛けてきやがって、俺は正当防衛をしただけだ」

 

 地面に落ちている割れた仮面を悲しそうに見ながら、膝を抱えて落ち込むシド。全面的に自業自得だと丁寧に説明すると、シドは何も言い返せずに肩を落とした。

 

「どうせスライムで復元可能だろ。いいからさっさと話を進めろ」

「わ、分かったよ。……と言っても、手紙に書いた内容がほとんどだから、直接話したいことは少ないんだけどね」

 

 割れた仮面を懐に入れ、スーツについた土埃を払いながらシドが立ち上がった。ようやく会話が出来そうだ。

 

「ベータに頼んでまで手紙送り付けてきやがって」

「ライなら読んでくれるでしょ? なんだかんだ言ってもさ」

「読まなかったことで後々面倒なことになるのは御免なんだよ」

「ははっ、なるほど。それもそうだ」

 

 夜風に吹かれながら、楽しそうに笑うシド。次なるごっこ遊びで何をするか決まっているからか、どこか上機嫌に見える。

 

 

「手紙にも書いたけど……僕は【シャドウガーデン】を()()()()()()()()()

 

 

 とても軽い口調でとんでもなく重い言葉を放ったシド。

 アルファ達に聞かれてしまえば、間違いなく混乱と動揺で何も出来なくなるだろう。それ程までに、このバカの存在は彼女達にとって大きい。

 

「……ん。まあ、知ってたけど」

 

 俺にだけ事前に相談してくる辺り、本当に面倒くさい。

 

 ──だが、それで良い。

 

 シドのごっこ遊びと【シャドウガーデン】の現実。

 この二つがすれ違い合っていると、俺だけが知っている。つまりその二つを傷付けずに、尊重してやれるのも俺だけということだ。いや、別にシドが傷付く分にはマジで本当にどうでも良いんだけどさ。

 

「敵を騙すにはまず味方から、ってやつか。お前が好きそうなやり方だ」

「だよねー! ライなら分かってくれると思ったよ!」

「うるせぇ、裏切り者。粛清対象め」

 

 当然、シドは本気で【シャドウガーデン】を裏切ろうなどとは思っていない。今回のごっこ遊びに於ける要とも呼べるのが、この『裏切り』なのだ。

 

「目当ては『ミツゴシ商会』のことだろ? 派手に稼ぎ過ぎとは思ってたが、やっぱり目を付けられてたか」

 

 シドの手紙に書いてあった内容。それは急成長し過ぎた『ミツゴシ商会』に対してのものだった。

 アルファ達の作り上げた『ミツゴシ商会』が頭角を現す以前は『大商会連合』という組織がデカい顔をしていたようで、最近目障りになってきた『ミツゴシ商会』を潰そうと圧力をかけているらしい。

 

「〝ユキメ〟……だっけ? お前に話を持ちかけた獣人の協力者だったよな?」

「うん。そだよ」

 

 シドの話によれば、このユキメという女が今回の発端。『無法都市』にある三本の塔の内の一本、『白の塔』の支配者だ。裏社会を支配する切れ者のようで、その女曰く『ミツゴシ商会』を潰すのと同時に『大商会連合』も潰してしまいたいとのことだ。デルタ寄りの獣人ではなく、ゼータ寄りの獣人だな。

 

 協力者にシドを選んだだけでなく、『ミツゴシ商会』と『大連合商会』の一斉排除ときた。漁夫の利を狙うにしても、思い切った考え方だ。随分とまあ大物だな。

 

「流石にアルファ達でも、商会が束になって相手されたら敵わない。だから一度全部0にしてから、僕が新しい商会を立ち上げてアルファ達を招こうと思ったんだよ。まさに『破壊』と『再生』さ」

「……お前にしては、筋の通った話だな」

 

 珍しく、コイツの言うことに納得した。

 確かにこのままいけば、『ミツゴシ商会』は『大商会連合』に潰されるだろう。アルファ達の努力の結晶を、そんな結末で終わらせる訳にはいかない。

 

「具体的な話は決まったのか?」

「ライ、これは知ってるよね」

「……()()か」

 

 シドから投げ渡された二枚の紙、それは近頃国中に流通し始めた紙幣だった。これまで使用されていた金貨と同じ価値を持つ、所謂〝お札〟だ。

 前世では当たり前に使用していた物だったが、この世界では目新しい物。世界の違いを感じさせられた物でもある。

 

「ミツゴシの紙幣に……こっちは何だ? 印刷が違うな」

「『大商会連合』のお札だよ。ミツゴシの真似をして最近流通させ始めたみたいだね」

「プライドも捨てて後追いか、必死だな。……にしても、これは酷いな」

 

 ミツゴシの紙幣に比べて、連合の紙幣の出来はお世辞にも良質とは言えないものだった。印刷は荒いし、透かしもない。技術の差は素人目にも歴然だ。

 

「そう! そこなんだよ!」

「……何がだ?」

 

 ビシッと俺に向かって指を差し、子供のように目を輝かせるシド。少しばかり赤色に染まっているため、マジで興奮気味だ。

 

「昔、お年玉で一万円を貰った時に思ったんだ。これ……コンビニのコピー機で増やせないかなって

 

 そうか。コイツは昔からアホだったんだな。

 

「店長の爺さんにめっちゃくちゃ怒られて断念したけど、今の僕を止める存在は──居ない!」

「居るぞ。ここに」

「偽札を作るんだ!!」

「聞いてるかー?」

 

 グッと拳を握り、固い意志を表すシド。こうなったコイツはそうそう進路変更しない。前世で叶わなかった事というのも、アクセルを踏み込んでいる要因だろう。

 

「そもそも、偽札なんてどうやって作るんだ? 連合のやつなら出来なくはないだろうけど、ミツゴシの方は逆立ちしたって無理だぞ」

「そうだね。だから偽札は『大商会連合』の物を作ろうと思ってるんだ。その辺はユキメが全部やってくれるって話。流石に少し時間はかかるみたいだけど、三日以内には何とかするって言ってたよ」

「おんぶに抱っこだな」

「役割分担と言って欲しいね」

 

 物は言いようだが、そうするとコイツは何を任されたんだ? 

 

「お前何すんだよ?」

「えっ? 見て分からない?」

「分かる訳ねぇだろ」

 

 着ているスーツを強調しながらシドに驚かれるが、分からないものは分からん。分かって当然みたいな顔やめろ、腹立つ。

 

 ……いや、待てよ? 

 確か手紙に書いてあった意味不明なあれは──。

 

 

「──〝スーパーエリートエージェント〟さ!」

 

 

 ……とか書いてあったっけな。

 小学生が考えそうって感想を持った後にすぐ記憶から消してたわ。

 

「スーパーエリート……なんだって?」

「エージェント! 裏の世界で暗躍し、圧倒的な実力と頭脳でその他を完膚なきまでにねじ伏せる! 一度やってみたかったんだよねぇ〜っ!! 『陰の実力者』に通じる部分もあるしさぁ! 全てが終わった時に知る衝撃の真実、裏切りこそが……最善の選択であったと。く〜っ! 楽しみだなぁっ!!」

「……なんか、安心したよ」

 

 どこまでもブレないこの男。アルファ達を救いたいという気持ちが無いとは言わないが、四割あれば良い方だろう。残りの熱意は全部ごっこ遊びに向けられているはずだ。

 

「『再生』の部分は分かったが、『破壊』の部分はどうすんだ? まさか実力行使で潰す訳じゃないんだろ?」

「もちろん、そんなことする気はないよ。ライに殺されるからね」

 

 お前は俺をなんだと思ってるんだ。流石の俺でもお前に対してそういう信頼ぐらいは持ってるぞ。

 

「さっき偽札を作るって言ったよね。それを使うのさ」

「偽札か……。ただの小遣い稼ぎではないと?」

「昔、教育番組で見たんだ。──()()()()の話をね」

 

 偽札に信用崩壊とくれば、なんとなくやりたいことが想像出来た。紙幣は最近流通し始めたばかり。これまで主流だったのは『金貨』だ。紙幣=金貨の価値関係を、コイツは意図的に壊そうとしている。

 

「もし本当に信用崩壊を引き起こせたとして、民衆にそれが伝わったら大変なことになるな」

「紙幣から金貨への換金を求めて、銀行に人が押し寄せるだろうね。そうなる前に大量の偽札を作って『大商会連合』の金庫を空にしてやればいい。その後、『ミツゴシ商会』にも同じように人が押し寄せて──共倒れが完了だ」

 

 変なところで賢いと言うか、変な知識を持っていると言うか。前世から馬鹿げた夢を本気で追っていただけあって、シドの頭には驚かされることが多い。主に厨二関係へのドン引きなのだが。

 

「つまりここまでの話をまとめると……お前は偽札を使った信用崩壊を提案し、その上で用心棒としてユキメに雇われたってことか?」

「そうそう、話が早くて助かるよ。流石は僕の右腕」

「お前のせいで無駄に理解力がついたんだよ。いつか法的に訴えてやる」

「あれ? なんか可笑しくない?」

 

 何はともあれ、ここまでの話で大体の事情は飲み込めた。スーパーエリートエージェントとか理解に苦しむ部分は放っておくけども。

 

「となると、お前は正体を隠して動くってことね。道理で声も変えてるし、似合わない格好してると思った」

「スーパーエリートエージェント、ジョン・スミスだよ」

「シャドウじゃなく、そっちでいくのな」

「暗躍する『謎の男』感出てるでしょ?」

「謎の男が手紙出すな」

 

 〝ちょっとやりたいことのためにユキメって獣人と協力して【シャドウガーデン】を裏切ろうって思うんだけど、ライに相談して良い? なんか『ミツゴシ商会』ヤバいらしくてさぁ、潰して新しく作り直そっかなって〟……じゃねぇわ。そんな内容の手紙を裏切ろうとしてる組織の本拠地に送ってくんな。読んだ後にめっちゃ焦って燃やしたわ。

 

「ねぇねぇ、ライ。話も一段落ついたところで提案なんだけどさ。ライも僕と一緒に──」

()()()()。今回の件、()()()()()()()

「……だよねぇ」

 

 分かっていたと言わんばかりの反応を見せるシド。当たり前だ、俺がアルファ達を裏切れる訳ないだろ。今回は中立、どちら側にもつく気はない。

 

「珍しくお前のやりたい事が【シャドウガーデン】のためになりそうだからな。やる分には勝手にしろ。俺も色々と忙しいし、無関係を貫くさ」

「忙しい? 何かするの?」

「お前に言うつもりはない。俺はお前の邪魔をしないんだ、お前も俺の邪魔をするなよ。お互い無関係でいくぞ」

 

 右腕という立場も、今回ばかりは休みだ。その方がお互いにとって都合が良い。

 

「暗躍する謎の男をライと一緒にやりたかったんだけどなぁ〜」

「お前だけじゃなく、俺まで裏切ってみろ。もし正体がバレでもしたら、アルファ達がどんだけ悲しむと思ってんだ」

「うぐっ、それは……まあ、そうだね」

 

 俺達のことになると命すら懸け出すんだぞ。万が一のフォローをするためにも、俺は味方で居てやらなきゃな。

 

「分かったよ。僕一人でやる」

「ん、そうしてくれ。……ところで、お前が用心棒ってことはウチの子達とやり合う可能性が高いってことだよな?」

「だろうね。偽札が流通し出せば、出所を特定しようと動くはず。それを妨害するのが、僕の役割な訳だし」

 

 心配だ。色んな意味で心配だ。

 

「お前……ちゃんと手加減しろよ?」

「分かってるって。僕をなんだと思ってるのさ」

「王女相手でも顎に膝蹴りかまそうとするバカ」

「……ほ、ほら! こうして武器も新調したんだよ?」

 

 得意気に見せてきたのは手に装備した『糸』。五本の指それぞれに巻かれており、グローブと合わせて凝った作りになっている。俺を攻撃した糸もここから操っていたらしい。

 

「ふーん。デザインは悪くないけど、作り自体は簡単なもんだな」

「まあ、ぶっちゃけ糸を結んであるだけだしね。魔力を通して操作するから、それだけで十分なんだ。実戦的な糸の動きもライで試せたし、傷付けずに優しく追い返す準備は万全だよ」

「おいコラ、今俺で試したって言ったよな? あれか? ここに呼び出した理由って糸の動きを俺で試すためか?」

「そ、そそそっ、そんな訳……少ししかないよ?」

 

 目を泳がせまくりながら割と正直に白状したシド。誤魔化しはしなかったので、鉄拳制裁は勘弁してやろう。もう既に一発殴ってるしな。

 

「……はぁ。まあ、あれだ。上手くいくことを祈るよ」

「ライもね。なんか忙しそうだし、一緒にやるのは次の機会のお楽しみにしておくよ」

 

 そんな機会やって来て欲しくない。そう心で強く思い続けていても強制的にやってくるのだから不思議だ。

 

「じゃあ、そろそろ帰ろっか」

「ああ、そうだな。寒くなってきたし」

「また報告するよ。じゃね、ライ」

「派手に暴れ過ぎんなよ。シド」

 

 はーいっ、と軽い返事をしてからシドは自分の宿へと帰って行った。

 息を吐いてみれば白く変わる、どうやら寒さはどんどん増しているようだ。しかし悲しいことに、俺は人を待つためにまだここに居なければならない。シドに呼び出されたついでだと、待ち合わせを約束したが失敗だったかもしれない。雪が降りそうな寒さだ。はよ来てくれ。

 

「──お待たせ。ライト」

 

 剣でも振って身体を温めようかと思い始めた瞬間、待ち人がやって来た。見るだけで暖かそうなふわふわの毛を揺らしながら現れたのはゼータ。力試しで大口叩いたくせに負けたゼータだ。

 

「今失礼なこと考えなかった?」

「いや、全く」

「なら、良いんだけど。……はいこれ。頼まれてたやつね。大量の資料をまとめるの大変だったんだから、感謝してよね」

 

 妙な鋭さを見せるゼータの直感を躱し、俺は頼んでいた資料を受け取った。まとめたと言う割には分厚く、大きめの小説ぐらいあった。

 

「これまでに収集してきた情報と『紅の塔』に眠っていた情報。捕虜にしてる『教団』関係者から引き出した証言とも照らし合わせてあるから、正当性は保証するよ」

「裏は取れたか?」

「それはこれからだね。『ミツゴシ商会』に戻って部下の一人を連れてから行くつもり」

「そうか。悪いな、面倒かけて」

「いいよ、別に。ライトに頼られるってのも、悪くないからね」

 

 普段が生意気な分、素直にそう言われると気恥ずかしいな。また今度一緒に魚釣りにでも行くとしよう。

 

「報告はそれだけ。それじゃあ早速行ってくるよ」

「おう、頼む。……あっ、そうだ。ゼータ、アルファに伝言良いか?」

「良いよ。ついでだからね」

 

 シドの計画を知ったばかりなので、アルファとは顔を合わせにくい。なにせアルファはめちゃくちゃ鋭いので、今の状態で話せばボロを出してしまう自信しかなかった。

 

 俺は数秒内容を考えてから、ゼータに向かって慎重に伝言を託した。

 

 

「──〝しばらく何も手伝えない、悪いな〟。で頼む」

 

 

 さて、俺もやるべき事をやっておくとしよう。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 現在、『ミドガル王国』でその名を知らぬ者は居ない程の認知度を持つ騎士団があった。

 

 その名を──『紅の騎士団』。

 

 第一王女にして、国家最強の魔剣士との呼び声も高いアイリス・ミドガルが団長を務める騎士団だ。メンバーは全てアイリスが直々にスカウトした者ばかりであり、平均年齢こそ低いが才能の原石が多く在籍している。

 

 そんな騎士団の本部。団長室では、アイリスがどこか悲しそうな顔をして椅子に腰掛けていた。目の前に立っている若き天才──ライ・トーアムへ視線を向けながら。

 

「……ライ君。申し訳ありませんが、もう一度言って頂けますか?」

 

 聞き間違いであってくれ。そんな願望を顔に出しながらの言葉だったが、訊ねられたライは表情を変えることなく、言葉そのままに再度口を開いた。

 

「それでは失礼ながら。……このライ・トーアム、『紅の騎士団』を──」

 

 

 

 

 

 

 

「──退団させて頂きます」

 

 

 

 




 アニメのアルファ可愛かったですね!特に列車から叩き落とされるところなんて何度も見返して……。
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