陰の右腕になりまして。   作:スイートズッキー

45 / 55
45話 分からんやつもあるけどな

 

 

 

 

 

「急げ急げっ! 早く銀行に行くぞ!」

「偽札なんて掴まされるか!」

「金貨の方が安心だぜっ!」

 

 慌てた様子で俺の前を走り去っていった三人組。耳に届いた会話から察するに、中々の死活問題に直面しているらしい。無事に換金出来ることを祈るよ。

 

(おーおー、派手になり始めたな)

 

 最近の『ミドガル王国』は偽札の噂で溢れている。つまり、シドが本格的に動き出したということだ。身内のせいなので迷惑をかけている人達には申し訳なく思う。特に民衆とその対応に追われている銀行職員達には。

 

(それにしても、噂が流れるのが早いな。シドの協力者のユキメってのはやっぱ随分とやり手らしい)

 

 順調過ぎる経過を直接目にしたことで、その手腕に思わず感心してしまう。シドが発端の計画だったが、案外上手くいくかもしれないな。

 

「……はぁ。寒い」

 

 本日、クレアの負け犬根性を叩き直してから三日。

 俺は持っている荷物をまとめたり、住んでいた宿を解約したり、ゼータと一緒に『ベガルタ帝国』へ()()()()に行ったりと、それなりに忙しい日々を送っていた。

 これでやり残したことはほぼ片付けたと言ってもよく、『最後の仕上げ』だけとなった。

 

(まあ、時間が無いなりに良くやった方か)

 

 決闘の際に見せた魔力に関しては固く口止めしたし、流石のクレアも他の誰かに話すなんてことはしないだろう。多分。いつかちゃんと説明しなさいよと、しつこく繰り返されはしたけど。

 

「……えーっと、ここを右に曲がって、突き当たりを左ね」

 

 そして現在、俺はメモを片手に王都の路地裏を歩いていた。

 目的地は【シャドウガーデン】が管理している研究施設。そこに居るはずのイータに用があるため、こうして向かっているという訳だ。

 組織的にも重要な物が多く置かれている施設なだけあり、辿り着くだけでも一苦労。前にイータから貰ったメモがなければ、探し出すことはほぼ不可能だっただろう。

 

「……着いた。ここだな」

 

 細い道を何本も通り、やっと到着。地下へと続く長い階段を降りると、ゴツい扉が目の前に現れた。

 

(今日行くぞって話はしてあるし、勝手に入っても良いよな? ……てか、扉重てぇぇ)

 

 研究施設の入口である扉を押し開け、中に入る。すると視界が一変、暗闇で辺りがよく見えなかった路地裏から清潔感の溢れる白い壁が目に飛び込んできた。照明も美しく配置されており、光源には全く困らない。イータが任されてる場所にしてはめちゃくちゃ片付いてるな。

 

 と、思ったのだが。

 

「……まあ、だよな。入口付近の整理整頓なんて研究するのに関係ないもんな」

 

 部屋に入った瞬間、足になんか当たった。床には簡易食料のゴミが散乱し、研究資料であろう書類も多く見受けられる。足の踏み場はギリギリあると言った具合で、無惨過ぎるほどにぐっちゃぐちゃ。一目で分かる、汚部屋だ。

 

 そしてそんな汚部屋の奥にあるデカい机、その上に顔を乗せてすやすや眠っている女に俺は用がある。やはり何か一つを突き詰めていくと他の部分がダメになりやすいんだろうか。絶対シドのせいだな、ウチの子の教育に悪い。

 

「おーい、イータ。来たぞ、起きろ〜」

「んん……眠いぃ」

 

 床に転がっている様々な障害物を避けながら、どうにかイータに接近。肩を揺すって起こしにかかるが眠り姫は強情だ。どうせまた徹夜で研究していたんだろうな。好きな物があるのは良いことだが、ここまでくると考え物だ。

 

「……あれ? ライト? なんで居るの?」

「おい、今日行くぞって言っただろ? 頼んでたやつ出来てるか?」

「……そう、だっけ。出来てるよ。……その辺にある、はず」

「お前なぁ……ん? なんだこれ」

 

 ふわぁっと欠伸をするイータの頭を撫でながら、机に置いてあった一枚の紙を手に取る。よく見ればその紙には、どこか見覚えのある文字が記されていた。というかこれって──。

 

「それ、マスターからの暗号。ベータが解析してくれって。面白かったけど……つかれた」

「面白かったってお前、これは……」

 

 マスターから、つまりはシドから渡された暗号ということだ。まあ、それはそうだろう。何故なら使用されている文字が──俺とアイツ(転生者)しか知るはずのない文字なのだから。

 

 

『悪いけど僕は裏切ることにするよ。ある計画のために、これまでの名を捨て協力者と偽札を作ることとなった。回収した金貨は、昔みんなで姉さんを救出したあの施設に貯めている。君たちは恨むかもしれないけど、僕はこの選択が最善だったと思っているよ』

 

 

 ……といった内容なのだが、アイツ何してんの? 

 

「バカだとは思ってたけど、ここまでだったか……」

「……どうしたの? ライト」

「なあ、イータ。お前って、この暗号解いちゃったんだよな?」

「うん。……三日は寝てない。だから、眠い」

 

 ははっ、三日でこれ解けるんだ。すっげぇ。流石は【シャドウガーデン】の頭脳派担当。()()()()()()を三日で解読ですかそうですか。

 

「ひらがな、カタカタ、漢字にローマ字……後一つは分からんな」

 

 多分だが、五種類の文字を使用してこの暗号文は構成されている。俺が分かったのはその内の四種類。最後の一種類に関してはマジで分からんが、他が読み取れるので文章自体は間違っていないと思う。

 

「どうせカッコいいとかそんな狙いで渡したんだろうな……あのアホ」

「ライト。もしかして……読めるの?」

「えっ? あ、ああ。……分からんやつもあるけどな」

 

 まあ、ほとんど母国語だし。

 

「……むぅ。私は三日もかかったのに……悔しい」

「いや、普通は三日で解けないから。天才かお前」

 

 ボサボサの髪を整えてやりながら、イータの頭脳に恐怖。これで前世の文字っていうアドバンテージは消えた訳だ。また一つ、言い訳の材料が消えた。シドの野郎、本当に余計なことしかしねぇ。

 

「……まあ、それはいいか。頼んでたやつくれ。イータ」

「これも、大変だった。……えーっと、確かこの辺に置いたはず」

 

 騒がしく床に転がっている散乱物を掻き分け、イータが一つのケースを探し出した。鍵でもかかっていたようで、ガチャッという開錠音が響いた。

 

「はい。これ」

「おお、サンキュー」

 

 イータから手渡された代物、それは【シャドウガーデン】のメンバーであるなら誰もが使用している『スライム』だ。魔力伝導率はほぼ100%のぶっ壊れモンスターであり、汎用性は死ぬほど高い。

 ただし、俺が今受け取ったスライムは他のみんなとは違い、黒色ではなく白色をしていた。

 

「名付けて……『ホワイトスライム』」

「まんまだな」

「魔力伝導率はそのままに、耐久性を格段に向上。ライトが本気で魔力を込めても……耐えられる」

「悪かったな、忙しい時に頼み事して」

「いーよ。研究することが多いのは、悪くない。……シェリーにも手伝ってもらったし」

 

 なるほど。混ぜるな危険コンビは相変わらず優秀だな。ありがたく受け取らせてもらおう。本気で魔力を込めても大丈夫なのはマジで助かる。

 

「……? なあイータ、なんか入口の方からガンガン音が鳴ってるぞ」

「んー? ……あー、誰か来た。ロック、解除」

「ロック?」

 

 え、あの扉そんなのかかってたのか。俺普通に開けちゃったんだけど。

 

「だからさっき、ライトが居たのに驚いた。私まだ、ロック解除してないのに。……不法侵入。どうやって入った?」

「あー、手で押して?」

「……セキュリティの改良が、必要」

 

 ごめんて。なんか扉重いなぁとは思ったんだよ。普通に考えてロックされてるよね、寒かったから早く中に入りたくて気が回らんかったわ。

 謝りながらイータの頭を撫でていると、扉をガンガンしていた人物が登場。荒い呼吸を繰り返しているので、よっぽど急いで来たらしい。

 

 俺はそんな〝銀髪で青目で泣きぼくろの可愛いエルフ〟へ声をかけた。

 

「よう、ベータ。久しぶりだな」

「ライト様っ!? どうしてここにっ!?」

「い、いやー、ちょっとな。それよりお前はどうした? なんか急いでるみたいだけど」

「はっ! そうでした! イータ! 暗号の解読が終わったのよねっ!?」

「うん。終わった。つかれた」

 

 イータが無気力にだらんと差し出した解読メモを受け取るベータ。瞬時に内容を理解すると涙目になり、喜びを隠せないように笑った。

 

「ああっ……! やっぱりシャドウ様は流石です!」

(よし、いつも通りだ)

 

 最早恒例行事と言っても良い勘違い。ごっこ遊びしたいだけの行為がどうしてここまで良い結果に繋がるのか、これに関してはいつまでたっても分からんな。

 

「デルタも、きっと無事です」

「ん? デルタに何かあったのか?」

 

 下手に関わるとボロが出ると思って関係を絶ってたからな。最近組織で何があったとか全然把握出来てない。

 

「謎の男、ジョン・スミス。彼を始末するため、私たちはデルタを向かわせました。……しかし、結果はデルタが消息不明。私たちは死亡したものと考えていました」

(……うわぁ。マジか)

「シャドウ様に報告したところ〝少し遠い所へ行っただけだ〟とのお言葉を賜り、現実を受け入れようとしていたのですが……きっとデルタは生きていますねっ!」

(……多分、本当に少し遠い所に行かせたんだろうな。匂いで正体でもバレたか?)

 

 付き合いの長さによって、ライは当時の状況を瞬時に理解した。

 

「こうしてはいられません! 早くアルファ様たちにも伝えなくては!」

「そうだな。そうしてやってくれ」

 

 シャドウがどう裏切ったのかは知らんけど、みんなが裏切られたと感じているのは間違いない。その勘違いだけは早く解いてやらないとな。

 

 そんな風に他人事でいた俺に、ベータが呼びかけた。

 

「ライト様も来てくださいっ!」

「えっ? 俺も?」

「当たり前じゃないですかっ! 今こっちは大変なんですからねっ! アルファ様に顔を見せて、安心させてあげてくださいっ!!」

「あー、いや、でも」

 

 顔を合わせ辛い部分はある。手伝えないなんて伝言を残した手前、俺とシャドウが繋がっていたこともアルファにはお見通しだろう。怒られはしないと思うが、気まずさはある。

 

「申し訳ありませんが拒否はさせませんっ! お手を失礼しますっ!」

「ちょっ、ベータ! 待てって!!」

 

 ハッキリしない態度の俺に我慢出来なかったのか、ベータに手を掴まれる。これあれだ、強制的に連行されるやつだ。

 

「じゃあイータ! ありがとう! ゆっくり休んでね!」

「そうするー」

「行きますよっ! ライト様!!」

 

 抵抗する気になんてなれるはずもなく、俺はベータに引きずられながら研究所を後にした。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 現在、『ミドガル王国』を騒がせている信用崩壊。

 その渦中にありながら、どうにか耐えの姿勢を崩さずにいる商会があった。そう、『ミツゴシ商会』である。

 

 しかし、いくら『ミツゴシ商会』が大規模とはいえ、国中を巻き込んだ信用崩壊に耐え切るだけの資金などは無い。金庫が空になるのも時間の問題だった。

 何か手を打たなければ商会が潰される。そんな危機的状況にも関わらず、【シャドウガーデン】の実質的統治者──アルファは行動を起こさないでいた。

 

「…………」

 

 普段はバリバリの仕事場として活用されているこの部屋も、今は全くその様子を見せていない。

 クールな顔で書類を捌く〝アルファ〟ではなく、暖炉の前で小さく膝を抱える〝少女〟しか居なかった。

 

「……アルファ様」

 

 そんな傷心の少女を心配そうに見つめるガンマ。自身も冷静ではいれられない状況だからこそ、気丈に振る舞おうと努めていた。

 

「……大商会連合の崩壊は止まりません。市民達の不安は頂点に達し、各銀行では暴動まで起き始めています。我々の銀行にも換金を求める客たちが押し寄せており、対応に追われていますが……」

「……耐えられそう?」

「この状況が続けば数日もしない内に金庫が空になります。国内外の資金を全て集約させても……信用崩壊には耐えられません」

「…………そう」

 

 適切なガンマの説明にも、アルファは顔を上げることもしない。否、出来なかった。

 

「で、ですが大丈夫ですっ! 何か市場に安心感を与える材料さえあれば! ……そう! たとえば民衆の前に山のような金貨を大量に積んで見せるとか!」

「──いいのよ。もう、いいの」

 

 ガンマの必死な訴えを受けても、アルファの心は変わらない。ただゆらゆらと揺らめく炎に視線を落とし、絶望し切った目をしているだけだ。

 

「……この信用崩壊を引き起こしたのは、シャドウ。この状況は、彼の望み。……彼は私たちを切り捨てたのよ」

「そんなっ! ありえませんっ!」

 

 細々と告げられた言葉に対して、ガンマが叫ぶ。信頼などという次元に留まらない忠誠を誓っている主人に切り捨てられたなど、素直に信じられるはずがなかった。

 

「彼……だけじゃないわね。……()()、と言った方が正しいわね」

「ま、まさか……」

 

 力が抜けたように膝から崩れ落ちるガンマ。

 アルファが言おうとしている言葉の意味を、優秀な頭脳が先読みしてしまった結果だった。

 

「……ライトも、()()()()()()()()()()()()()()()

「そんな訳ありませんっ! ライト様が! ……ライト様が」

 

 兄のように慕っているライトから切り捨てられた。ガンマはいつも向けられていた優しい顔を思い浮かべ、耳を塞ぐように頭を抱えた。

 

「私は昨日……シャドウと戦った。その際、こう訊ねたわ。──ライトもなの? って。彼は……こう答えたわ」

 

 赤く腫らした目を見せながら、アルファが昨夜のことを語り出す。信じていた主に見限られた、思い出したくもない最悪な夜を。

 

 

『──()()()()()

 

 

「それが、彼の答えだった」

「それは……つまり」

「ええ、()()()()()()()()()()。答える必要もないほどの愚問だったってことね。……ライトも、シャドウの考えに賛成していたのよ」

「で、でも! それでも信じられませんっ! シャドウ様が! ライト様が! ……私たちを……!」

「今思えば……彼からの伝言はそういう意味だったのかもしれないわね。〝しばらく手伝えない〟。あれは今回のことを私たちに気付かせないためだった」

「うっ……ううっ、そんな」

 

 ついには泣き出したガンマ。精神的支えとなっていた二本の柱が同時に折れかけているのだ。まだ十七歳の少女にとって、この状況はあまりにも残酷だった。

 

「確かに、まだそうと決まった訳じゃないかもしれない。私程度の頭脳では、彼らの考えを理解することなんて出来ないんだから。……そうね、もしこの状況が変わらないまま、()()()()()()()()()()姿()()()()()()。……その時が本当の──終わりでしょうね」

 

 こんなにも顔を見たくないことなど初めてだと、アルファは自虐するように笑った。どんな時でも見たかった顔を見ることが決め手など、最早笑うしかなかった。

 

「私たちは彼らの期待に応えられなかった。……最高の『環境』と最高の『知識』を与えてもらいながら、私たちは()()()()()()()辿()()()()()()()()。自業自得よね」

「ア、アルファ様……」

「〝貴方達がそれを望むと言うなら、私はこの命を懸けましょう〟。……それが、約束だものね。彼らが望むなら、私はそれを受け入れて……姿を消すわ」

 

 そんなアルファの言葉を最後に、部屋は静寂に包まれた。

 僅かに聞こえてくるのは二人の少女の押し殺すような泣き声。醜い肉塊だった頃を思い出し、涙が止められなくなっていた。

 

 

「──アルファ様っ! ガンマっ!」

 

 

 しかし、そんな絶体絶命とも言えるこの空間に、とある変化が走り込んだ。バタンッと勢いよく開けられたドアから顔を覗かせたのはベータ。顔に汗が流れていることから、よほど急いできたのだと分かる。

 

 いきなりの大声に、アルファとガンマが少しばかり顔を上げた。自分たちの希望となる変化であることを、僅かに願いながら。

 

 ──だが、現実はそう優しくなかった。

 

「シャドウ様から渡された暗号を研究所のイータが解読しました! やはり私たちは見捨てられていませんでした!」

「ア、アルファ様っ! 聞きましたかっ!? ……アルファ様?」

 

 アルファの耳に、ベータの言葉は届いていなかった。

 アルファの耳に、ガンマの言葉も届いていなかった。

 アルファの耳には、何も聞こえていなかった。

 

 視線はある人物に固定され、呼吸も忘れて目を揺らす。

 

 登場したベータの後ろから疲労を隠せていない顔を出した──タイミング最悪の人物(ライ・トーアム)

 

「あ、ああ……」

 

 あっという間に血の気が引き、アルファの肌が白く染まる。健康的な美しさは全く感じさせず、病的なまでの白さだった。

 

「よう、アルファ。久しぶり、元気だったか?」

 

 ライの声さえもアルファの耳には届かない。しかし、朗らかな笑みを向けられながら挨拶されていることは分かった。何故そんなことをするか、悪い方にしか考えることは出来なかったが。

 

「……ごめんなさい

 

 アルファは自分でも分からずに、小さな声で謝罪していた。

 

「……ごめんなさい。……ごめんなさい

 

 バクバクと異常な鼓動を繰り返す心臓を無視しながら、アルファが放心状態のまま謝罪を続ける。誰に届いている訳でもない、意味の無い謝罪を。

 

「アルファ? どうした? なんか変だぞ?」

 

 やはりと言うべきか、アルファの様子が可笑しいことに最初に気付いたのはライであった。アルファからすれば何言ってんだコイツ案件だが、ライからすれば本当に彼女を心配して言った台詞だ。

 

「……ッ!」

 

 近寄ってくるライに対して、アルファが後退り。怯えた表情と荒れる呼吸、アルファの頭は完全にパニックを起こしていた。

 

「アルファ……?」

 

 初めて拒否とも呼べる反応をされたことで、ライも本格的に異変に気付いた。アルファの手を掴むと、落ち着かせるように声をかけた。

 

「大丈夫だ。落ち着け。なっ?」

 

 細心の注意を払ったつもりだが、その行為自体が逆効果であった。

 

「……い、嫌。……嫌だ」

 

 ポロポロと大粒の涙がアルファの目から溢れる。凛々しく、美しく、気高い彼女からは想像出来ない弱い姿であった。

 ライだけでなくベータも、事情を正確に把握して冷静さを取り戻したガンマも、その場に居た全員が衝撃を受ける。まるでアルファが、幼い子供のように泣きながらライの懐へ飛び付いたことに。

 

「弱くてごめんなさい。頭が悪くてごめんなさい。役に立たなくてごめんなさい。……嫌だ、嫌だ、嫌だ。……私の前から、()()()()()()()()

「何言ってる!? しっかりしろ! アルファ!」

 

 アルファを強く抱き締め、安心させるように声をかけるライ。

 

「大丈夫だ! 俺はここに居る、どこにも行かない」

「嘘。嘘よ……シャドウも、ライトも、居なくなってしまう。私が、役に立たないから。貴方たちの期待に、応えられなかったから」

 

 弱々しく告げられるアルファの言葉がライには何も理解出来ない。だからこそ、どうすればこの状況が改善されるのかも、分からなかった。

 

「…………ごめんなさい」

 

 ライが固まっていると、精神の限界を迎えたのかアルファが気絶。ライの身体に寄りかかったまま、静かに意識を手放した。

 

「……ガンマ。アルファに何があったんだ?」

 

 アルファを抱き止めたまま、ライはガンマに事情の説明を求めた。一緒に居たはずのガンマならば、理由を知っているはずだと期待したからであった。

 

「アルファ様は昨夜……ジョン・スミスに姿を変えたシャドウ様と交戦しました。デルタが帰って来ない件も重なり、精神には相当なダメージを受けていたことでしょう。……精神が追い詰められていたからこそ、ライト様にもシャドウ様と同様に見放されたと、アルファ様は思い込んでしまったのです」

「マジ……か」

「ライト様からの伝言も、悪い方に考えてしまったものかと」

「…………」

 

 ガンマの補足に、ライは言葉を失った。

 思考停止寸前にまで追いやられるが、どうにか踏ん張る。やるべきことがあると自分へ言い聞かせ、副リーダーとしての顔を無理矢理作った。

 

「──ベータ。お前はこれからシャドウが集めた金貨を回収しに行ってくれ。一人じゃ無理だろうから、何人か連れてな」

「は、はい! 分かりました!」

「ガンマ。お前はベータが回収してきた金貨を受け入れる準備だ。大量の金貨があれば、お前なら信用崩壊をどうにか出来るだろ?」

「も、もちろんです! お任せください!」

 

 短くまとめた指示を飛ばし、ライが気絶したアルファを抱え上げる。その顔には申し訳なさが滲み出ており、後悔の感情が一目で分かる。

 

「アルファは俺がベッドに運んでおく。ベータ、俺も後から追いかけるから、焦らず慎重に事を運んでくれ。悪いけど、頼むな」

「いえ! そんな! さ、先に行ってますね!」

 

 慌ただしく部屋を飛び出したベータを見送り、ガンマに一声かけた後、ライはアルファを抱えたまま部屋を出た。

 

 誰にも聞こえない小さな声で、二人の人物に謝りながら。

 

 

 

「……アルファ。……シド。……悪い」

 

 

 

 




 2023年最後の更新です!(前言撤回)。
 いや、いけると思ったんだ。すまねぇ……。キリの良いところまで書きたかったんですが、無理だった。

 来年には完結させる予定なので、応援よろしくお願いします!
 今年は本当に多くの方に読んで頂き、多くの感想を貰えて嬉しかったです!

 それでは、良いお年を。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。